【名盤解説】マウンテン『Nantucket Sleighride』が刻んだ、ヘヴィ・ロックの叙情美と巨漢ギタリストの咆哮
巨漢レスリー・ウェストとマウンテンの足跡:ハード・ロックの夜明け
1970年代初頭、レッド・ツェッペリンやディープ・パープルがイギリスから世界を席巻する中、アメリカ国内において「最強のヘヴィ・ロック・バンド」として鳴り響いたのがマウンテン(Mountain)である。
バンドの中心人物は、巨漢の天才ギタリストであり圧倒的なボーカルの咆哮を放つレスリー・ウェスト(Leslie West)と、元クリームのプロデューサーとしてロック界に君臨していたベーシストのフェリックス・パパラルディ(Felix Pappalardi)の二人である。
デビュー作『勝利への登攀(Mountain Climbing!)』と名曲「ミシシッピー・クイーン」の大ヒットによって一躍スターダムにのし上がった彼らが、その音楽性を極限まで高めて1971年に発表したセカンド・アルバムが、最高傑作と名高い『ナンタケット・スレイライド(Nantucket Sleighride)』である。
なお、セカンド・アルバムであるにもかかわらず所有盤のライナーノーツには『Mountain 3』との表記があり、パパラルディのプロデュースでリリースした、レスリーのソロアルバムのタイトルが『マウンテン』であったことから、取り違えが起きたようだ。再発時に、タイトルは原題の『ナンタケット・スレイライド』に改められたとの経緯がある。
音楽的特徴:圧倒的なヘヴィネスとクラシカルな叙情美の奇跡的な融合
本作の最大の魅力は、前作までのアメリカン・ハード・ロックの枠組みを越え、クラシカルな構築美とドラマチックな「静と動」のコントラストを手に入れた点にある。
レスリー・ウェストの放つレスポールとマーシャル・アンプによる地鳴りのようなディストーション・サウンドは、ハード・ロック界において唯一無二のヘヴィネスを誇る。しかし、それと対をなすように、フェリックス・パパラルディのプロデューサーとしての緻密な計算と、メロトロンや鍵盤を駆使したアレンジが楽曲に豊かなグラデーションを与えている。
激しく荒々しいギター・リフの裏で、美しく切ない旋律が流れるこの独特の二面性こそが、本作を単なるハード・ロックのアルバムから、ロック史に輝くタイムレスな名盤へと押し上げた理由である。
主要楽曲の分析:荒波に消えた捕鯨船のドラマと魂のインタープレイ
1. 「Don't Look Around(ドント・ルック・アラウンド)」
アルバムの幕開けを飾る、地を這うようなヘヴィ・リフが炸裂するアップテンポなハード・ロック・ナンバーである。レスリー・ウェストの野獣のようなボーカルと、一音一音に凄まじいビブラートが効いたチョーキング・ギターが聴き手を圧倒する。アルバム全体の熱量を瞬時に引き上げる、完璧なオープニング・トラックである。
2. 「Nantucket Sleighride (For Owen Coffin)(ナンタケット・スレイライド)」
19世紀のナンタケット島における捕鯨船の過酷な航海をモチーフにした、本作のハイライトとなるタイトル曲である。「ナンタケット・スレイライド」とは、仕留めたクジラにボートが猛スピードで引きずられる決死の瞬間を指す言葉であり、楽曲はそのドラマ性を見事に表現している。
--「For Owen Coffin」という副題について。--
オーウェン・コフィンは、ナンタケットの捕鯨船エセックス号に乗っていた10代の少年で、巨大な鯨に襲われ捕鯨船が沈没した際、数ヶ月に及ぶ小舟での漂流の果てに、船乗りの古い掟に従って、くじ引きで自死し自分の肉体を食料として提供したらしい。同乗した一等航海士が書き残した事故のあらましが、その一等航海士の息子の手によって若き船乗りハーマン・メルヴィルに手渡され、あの名作「白鯨」の創作の起点となったんだそうだ。
歌詞に直接この下りが書かれていないところもこの楽曲のカッコいいところだと思う。

3. 「The Animal Trainer and the Toad(調教師とヒキガエル)」
ヘヴィな楽曲群の中で絶妙なアクセントとなっている、軽快なスワンプ・ロック調のナンバーである。レスリーのルーツであるアーシーなブルース・ロックのフィーリングが色濃く出ており、アコースティックな手触りとレイドバックしたグルーヴが、アルバム全体に一本の映画のようなストーリー性と「静と動」の心地よいコントラストをもたらしている。
結論:アメリカン・ヘヴィ・ロックが到達した至高の頂点
『Nantucket Sleighride』は、レスリー・ウェストという野生の天才と、フェリックス・パパラルディという緻密な知性が火花を散らして作り上げた、奇跡的なシナジーの結晶である。
商業的なハード・ロックの枠組みに留まらず、プログレッシブ・ロックにも通じる壮大な叙情美を内包した本作は、ストリーミングやアナログ・レコードの時代となった現代においても、その音溝に刻まれた熱量と輝きを一切失っていない。70年代ロックを語る上で決して避けては通れない、時代を越えたマスターピースである。


コメント
コメントを投稿