シティ・ポップの源流、ボズ・スキャッグスとは
1970年代後半から1980年代にかけて、世界的なムーブメントとなった「AOR(Adult Contemporary / Album-Oriented Rock)」。その洗練された都会的サウンドの代名詞であり、今なお日本のシティ・ポップシーンに多大な影響を与え続けているアーティストが、ボズ・スキャッグスである。
ブルースやR&Bをルーツに持ちながらも、圧倒的なポップセンスと甘くハスキーな歌声で時代の最先端を走り続けた。1976年のメガヒットアルバム『Silk Degrees』で洗練されたコンテンポラリー・サウンドを確立した彼は、1980年代の幕開けとともに、さらなる音楽的進化を遂げた傑作を世に送り出す。それが、スタジオアルバム『MIDDLE MAN(ミドル・マン)』である。
Middle Man (Crystal Clear Vinyl) [Analog]
『ミドル・マン』の音楽的特徴と豪華な参加ミュージシャン
本作『ミドル・マン』の最大の魅力は、70年代のメロウなAOR路線を継承しつつも、80年代の到来を予感させるエッジの効いたロック・サウンドと、当時のトップクリエイターたちによる完璧なプロダクションが融合している点にある。
アルバムの屋台骨を支えるのは、すでに『宇宙の騎士』や『ハイドラ』を発表し、飛ぶ鳥を落とす勢いだったロックバンド「TOTO」の主要メンバーたちである。特にスティーブ・ルカサーのギターは、多くの楽曲でフューチャーされており、アイディアに満ちたシャープなバッキングがアルバム全体に心地よい緊張感をもたらしている。
さらに、楽曲制作のパートナーとして名匠デヴィッド・フォスターが深く関わっている点も見逃せない。前年の1979年にアース・ウィンド&ファイアー(EW&F)へ歴史的名曲『アフター・ザ・ラブ・ハズ・ゴーン』を提供し、まさに全盛期を迎えていたフォスターのポップ・マジックが、本作のメロディラインをより特別なものへと昇華させている。
主要楽曲の分析と聴きどころ
本作は、アップテンポなロック・ナンバーから極上のバラードまで、捨て曲なしの完成度を誇る。
アルバムの幕を開ける『Jojo(ジョジョ)』は、ボズの代名詞とも言える洗練されたアーバン・ファンクである。デヴィッド・フォスターによるスタイリッシュなアレンジと、うねるようなベースラインが絡み合い、夜の街を想起させる極上のグルーヴを生み出している。
そして、本作の中で最もエモーショナルな輝きを放つのが『トワイライト・ハイウェイ(You Can Have Me Anytime)』である。このロマンティックなバラードの終盤で披露されるのが、カルロス・サンタナによる必殺のギターソロだ。
南部志向に巧みな時代の音を織り込み、80年代のロックを見通して作られた洗練のアルバムにおいて、70年代の郷愁を滑り込ませるサンタナの哀愁を帯びたトーンは、聴くたびに耳を奪われる圧倒的な存在感を示している。
名匠ビル・シュネーの音響マジックと、日本の音楽シーンへの影響
本作のサウンドを語る上で、エンジニアリングを担ったビル・シュネーの存在に触れないわけにはいかない。スティーリー・ダンの名盤『Aja(彩)』などを手掛け、緩みのない硬質でクリアなサウンドメイキングに定評がある彼の手によって、本作は前作までとは明らかに異なる「新しさ」と「凄み」を纏うことに成功した。
この『ミドル・マン』の先鋭的なサウンドに衝撃を受けたのが、日本のポップス界の巨匠、小田和正である。
当時、このアルバムを聴いた小田和正は「このエンジニアとレコーディングがしたい」と強く熱望し、単身西海岸へと飛び立った。そうしてビル・シュネーを起用して録音されたのが、オフコース最盛期のアルバムの一つである『We are』である。
ビル・シュネーとの共同作業により、小田和正のエレクトリック・ピアノにはそれまでになかったシャープなエッジがつき、アルバム全体にある種の心地よい緊張感が漂うこととなった。もしその緊張感の正体を確かめたいのであれば、アルバム『We are』の最終曲『きかせて』のイントロを聴いてみてほしい。まるでスティーリー・ダンを彷彿とさせるような、研ぎ澄まされたエッセンスがそこには息づいている。
ボズ・スキャッグスの『ミドル・マン』は、最高峰のミュージシャンとエンジニアの技術が結晶した、音楽史に輝く音響芸術なのである。
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