伝説のバンドを襲った不協和音:トム・フォガティの脱退
クリーデンス・クリアウォーター・リバイバル(CCR)は、1960年代末から70年代初頭にかけて、アメリカン・ロックの頂点に君臨した。しかし、1972年にリリースされた7作目のアルバム『マルディ・グラ(Mardi Gras)』は、彼らの輝かしいキャリアの「ラストアルバム」となってしまう。
MARDI GRAS
バンドに決定的な亀裂を生んだのは、ギタリストでありジョンの兄でもある、トム・フォガティの脱退であった。数々の世界的大ヒット曲を書き上げ、唯一無二の圧倒的なボーカルでバンドを牽引した弟、ジョン・フォガティ。その天才すぎる弟への嫉妬と、バンド内の民主的なパワーバランスの崩壊が、トムを脱退へと突き動かしたと言われている。
民主主義が生んだ「歪み」:アルバム『マルディ・グラ』の音楽的特徴
トムの脱退後、残されたジョン・フォガティ、スチュ・クック、ダグ・クリフォードの3人は、それまでの「ジョンのワンマン体制」を改める選択をした。それが本作『マルディ・グラ』の最大の特徴であり、同時に最大の議論を呼ぶ要素となった。
本作では、メンバー全員が平等にソングライティングを担当し、自らリードボーカルを分け合うという完全な「民主主義」スタイルが採用されている。
カントリー・ロックやスワンプ・ロックの素朴な味わいは健在であるものの、ジョン以外のメンバーが手掛けた楽曲は、これまでのCCRが持っていた強烈なグルーヴやポップセンスとは異なる、どこか散漫な印象を拭えない。結果として、アルバム全体がひとつのバンドとしてのトーン&マナーを失い、オムニバス作品のような歪さを内包することとなった。
主要楽曲の分析:ジョンの爆発する魅力と名曲『サムデイ・ネヴァー・カムズ』
アルバム全体の評価は賛否が分かれるものの、やはりジョン・フォガティが手掛けた楽曲のクオリティは突出している。
『サムデイ・ネヴァー・カムズ(Someday Never Comes)』
本作のA面ラストに配されたこの曲には、ジョン・フォガティのソングライター、そしてシンガーとしての魅力が凝縮されている。父親と息子の関係、そして人生のままならなさを描いた普遍的な歌詞は、当時のバンドの崩壊劇とも重なり、聴く者の胸を締め付ける。哀愁を帯びたメロディと、エモーショナルにハスキーな声を響かせるジョンのボーカルは圧巻であり、この1曲のためだけでも本作を聴く価値があると言える名曲である。
『スウィート・ヒッチ・ハイカー(Sweet Hitch-Hiker)』
アルバムから先行シングルとしてカットされた、疾走感あふれるロックンロール・ナンバー。ジョンのシャウトと、シンプルながらもドライブ感のあるギターリフは、黄金期のCCRを彷彿とさせる。バンドの終焉が近づいていることを忘れさせるほどのエネルギーに満ちている。
総評:やはりCCRは「ジョンのバンド」であった
『マルディ・グラ』を聴いて痛感させられるのは、皮肉にも「CCRの本質はジョン・フォガティそのものであった」という事実である。
メンバー間の平等を求めた結果、ジョンの圧倒的な存在感と普遍的なソングライティング、そして耀きに満ちた唯一無二の声こそが、CCRを特別なバンドにしていたことが証明されてしまった。本作はセールス的には成功を収めたものの、批評家からは酷評され、バンドは同年に解散を発表する。
しかし、崩壊の瀬戸際にあったからこそ生まれた『サムデイ・ネヴァー・カムズ』のような奇跡的な名曲も含め、ロック史における「偉大なるバンドの終焉の記録」として、今なお深い味わいを持つ一枚である。
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