2022年12月30日金曜日

レコード棚を総浚い :『THE ORIGINAL ANIMALS / Before We Were So Rudely Interrupted(魂の復活)』

 77年のアニマルズ復活盤。故にレコード棚でも「A」の場所に入れてます。

United Artists Recordsレーベルですね。

アニマルズのオリジナルメンバーだったチャス・チャンドラーは、解散後ビジネス・マネジャーに転身し、ジミ・ヘンドリックスを世に送り出したわけだが、自身が39歳の時、出世のバンドであるアニマルズの復活を企てる。

そういう目で見ると、チャスの見事なビジネスセンスがこのアルバムには結晶している。
大ヒット曲の『朝日の当たる家』の再録音を避け、古いR&Bや知る人ぞ知るブルーズを採り上げることで、ヒット曲しか知らない大衆ではなく、アニマルズらしさの何たるかを知る古いファンに応えている。

そしてこの企画盤の「強度」を上げているのが、ディランの『It's All Over Now,Baby Blue』とジミー・クリフの『Many Rivers To Cross』の2曲で、エリック・バードンの唯一無二の声と相まって、時代の風化に耐えうる頑丈なカバーなっていると思う。

2022年12月29日木曜日

レコード棚を総浚い :『AMERICA / YOUR MOVE(渚のボーダー)』

イギリス駐留のアメリカ空軍の軍人を父にもつ結成メンバー3人が、ロンドンで結成したアメリカというグループの13枚目のアルバム。

8枚目のアルバム『ハーバー』完成後にメンバーが一人抜け、2名体制になっている。

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綺麗なブルーのカラーレコードだ。

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レコードに針を落として、最初に感じたのはBay City Rollersのようなメロディだな、ということだった。
イギリスのグループだからなのか、作曲の多くを手がけた(BCRにも楽曲提供している)ラス・バラードの影響か。

それにしてもこのラス・バラードという才人、リンダ・ロンシュタットでは一番好きな曲である『悪いあなた』の作者として認識していたが、レインボーの『アイ・サレンダー』や『シンス・ユー・ビー・ゴーン』も作っているというから、その音楽性の広さには驚かされる。

2022年12月28日水曜日

レコード棚を総浚い :『THE ALLMAN BROTHERS BAND / THE ROAD GOES ON FOREVER』

 オールマン・ブラザーズ・バンド初期のベスト盤が本盤『THE ROAD GOES ON FOREVER』である。

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こうしてベスト盤を聴いていると、実にカバーの上手いバンドであったことがわかる。
『AT FILLMORE EAST』の稿で採り上げたタジ・マハルの『Statesboro Blues』も本盤に収録されているが、なんと言ってもウィリー・ディクスンの『Hoochie Coochie Man』が必聴の名カバーだ。

レコーディング中に、中心メンバーであるデュアン・オールマンが、24歳の若さでバイクの事故で亡くなって、ディッキー・ベッツを中心に完成した『Eat A Peach』から本盤に収録された『Melissa』という楽曲は、数多の名曲を残したグレッグ・オールマンの作品の中でも一際美しい。

この名曲を日本のアーティストが見事にカバーしている。
ぜひ斎藤誠のこの名演を聴いてみて欲しい。

2022年12月27日火曜日

レコード棚を総浚い :『THE ALLMAN BROTHERS BAND / AT FILLMORE EAST』

説明不要のライブ盤の金字塔。
貴重なテイクが多数収録されたCDのDELUX Editionで聴いていた。

 とはいえ、一曲一曲が長いこのライブ盤では、適度な長さのアナログ盤が聴きやすい。

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我が家にはカプリコーン盤とポリドール盤があるが音質には大きな差はないようだ。

語り出すとキリがないアルバムだが、冒頭の『Statesboro Blues』のオリジナルは、「誰も彼のようにブルースを歌うことはできない」とボブ・ディランに言わしめたブラインド・ウィリー・マクテルのものだ。

そして、直接のカバー元となったタジ・マハルのバージョンは必聴で、スワンプロックの最重要盤となった1stソロアルバムに収録されている。

ジェシ・エド・デイヴィスのスライドギターが冴え渡るこの演奏を聴いていると、やはりギタリストを燃やす何かがこの曲にはあるんだろうと思う。

 

レコード棚を総浚い :『Albert Hammond / The Free Electric Band』

ジャケ買いで買ったこの一枚のおかげで、アルバート・ハモンドというシンガー・ソングライターを知った。
これがきっかけで彼のヒット曲『It Never Rains in Southern California(カリフォルニアの青い空)』(1972)を聴いてみると、堺正章さんのデビュー曲『さらば恋人』と同じモチーフが使われていたが、こちらは71年のリリース。時代の空気感を共有する曲なのだろう。

翌年リリースの本作『The Free Electric Band』は、畢生の名作『It Never Rains in Southern California』と較べれば、いささか地味な印象だが、その分
ソングライターの心情がストレートに伝わってくる誠実さを感じる。

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レコード棚を総浚い:『THE ALAN PARSONS PROJECT / VULTURE CULTURE』

ポップ路線を継承したアラン・パーソンズ・プロジェクトの8thアルバム。
凝ったスタジオワークではなく、端正で明快なシンセロックとなっている。

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日本盤ライナーノーツには天辰保文さんの充実した考察が寄せられている。
北海道新聞の夕刊に週一で掲載される天辰氏の洋楽紹介コラムは、どんなネットメディアの情報よりも僕の気持ちにしっくりくるもので、本盤のライナーノーツも非常に興味深く読んだ。(北海道新聞は天辰氏のコラムを書籍化すべきだと思う)

アラン・パーソンズと並べて、ピーター・ホーク、マルコム・マクラレン、トレヴァー・ホーン、ジョルジオ・モロダー、ブライアン・イーノ、ナイル・ロジャースなど、いわゆるプロデューサーのプロジェクトとは、レコード制作による表現の可能性の拡張であるという指摘は、実に腑に落ちる。

ポップ音楽の元々持っているクロスオーバー性が、多様化や複雑化を誘発させているとの考察は、ニュー・ウェイヴやビデオ・ミュージックの登場の背景としても時期的に符合するだろう。

職人的手腕というキーワードで括られることが多い、プロデューサー型ミュージシャンの作品から「ポップ音楽に対する新しいコンセプト」を感じ取れるかは聴き手次第であるとの天辰氏の警句は心に刻んでおこう。

 

 

 

2022年12月26日月曜日

村上春樹訳で、艶っぽく仕上がった文芸ミステリの傑作『「グレート・ギャツビー」を追え』

 村上春樹がジャン・グリシャムを訳した、ということで単行本発刊時に注目していた『「グレート・ギャツビー」を追え』が文庫化されたので、買ってみた。

 

文芸ミステリというジャンルは傑作の宝庫だが、作家こそが最強の愛書家なのだから至極当然だろう。

いつもはリーガル・サスペンス系のジョン・グリシャムの文芸ミステリはこちらも一級品でした。
 
書店経営者の羨ましすぎる生き方、才能はあるが運に恵まれない作家、書き割りの悪者たち、そして例によって無能ゆえに高飛車になる役人たち。すべての登場人物が正しく役割を果たして、物語は大団円へ。
 
翻訳を担当した村上春樹がポーランドでこの本に出会い読み出したら止まらなくなった、ということだが、確かにこれは途中でやめられませんわ。
 
蛇足ですが・・・
村上訳であることが、この作品の価値を高めていると思うポイントが、ファンの方ならご存知の彼の独特な性描写。
本作でもいい感じで機能してます。
 
 
 
 


2022年12月20日火曜日

レコード棚を総浚い:『THE ALAN PARSONS PROJECT / AMMONIA AVENUE』

アビイ・ロード・スタジオのエンジニアとしてビートルズやピンク・フロイドのアルバム制作に関わったアラン・パーソンズとシンガー・ソングライター、エリック・ウールフソンのレコーディング・プロジェクト『アラン・パーソンズ・プロジェクト』の代表作『アンモニア・アヴェニュー』。

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エドガー・アラン・ポーを題材にした共作『怪奇と幻想の物語 - エドガー・アラン・ポーの世界』が、このプロジェクトのスタート地点であり、その意味では『YOASOBI』というプロジェクトの遠い祖先と言えなくもない。

本作『アンモニア・アヴェニュー』もコンセプトアルバムだが、その手の作品にありがちな難解さを徹底的に排除したポップな音作りで、それが結実したのが『DON'T ANSWER ME』ではないか。
あれ?ビートルズ?と思わされる『SINCE THE LAST GOODBYE』に続き、フィル・スペクター風味のサウンドを纏って登場するこの曲は、ポップ史に残る名曲だろう。

2022年12月19日月曜日

レコード棚を総浚い 『AIR SUPPLY / AIR SUPPLY』

AIR SUPPLYの地元オーストラリアでのデビュー盤。

76年発表のアルバムだが、『LOST IN LOVE』のヒットでアメリカ進出して、80年に再発されたのがこの盤ということらしい。

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現在はCDの発売はないようだ。

あの『LOST IN LOVE』のAIR SUPPLYとは少し印象の違うディスコ的な曲もあり、現在も活躍中らしい中心人物Graham Russellの音楽にも興味が湧く一枚。

セルフタイトルのアルバムだが、邦題は『ストレンジャーズ・イン・ラブ』となっている。
ジャケにも『STRANGERS IN LOVE』の表記があり、この曲が推しなのかとも思うが、シングルカットは別曲の『LOVE AND OTHER BRUISES』(なかなかの佳曲でした!)となっている。

2022年12月18日日曜日

一筋縄でいかない恋の行方に翻弄されたい:『十二月の辞書 / 早瀬耕』

早瀬耕の新作『十二月の辞書』が出た。
 
 
『未必のマクベス』という作品が大好きで、SNSでベタ褒めしてたら、それがご縁で筆者と繋がり、同年代で予備校が一緒だとわかった。
それ以来追いかけるように著書を読んでいる。
 
本作はデビュー作『グリフォンズ・ガーデン』の世界の物語。
続編『プラネタリウムの外側』を読んでいた方が作中の人間関係が理解しやすいだろう。
 
 
 
早瀬作品の常だが、日常生活では滅多にお目にかからない難解な言葉が頻出するので、度々ネット検索しながら読むことになる。
 
そして、そのような読み方そのものが本書のメインギミックに直結していて、読者は筆者の掌で弄ばれるが、もちろんそれは主題ではない。
 
そんなことがまったく厭わしくないほど、一筋縄でいかない恋の行方に、おいおいと思ったり、こらこらと思ったりで翻弄される。
 
その翻弄がとても楽しい、不思議な読書体験だ。

『オメガ城の惨劇 SAIKAWA Sohei's Last Case / 森博嗣』

「F」の衝撃、再び。 の帯を見たら抗えないっしょ。


 

実際本作はS&MおよびVシリーズの関連作品ではあった。 

しかし<衝撃>の在処は「F」のそれとは無関係で、S&MとVシリーズの登場人物の人間関係について踏み込んだ情報を提示してくれているところにある。 

森ミステリの一つの魅力に、登場人物の意外な関係がある。

またこれが、露骨に明示しない形で其処此処にヒントが散りばめられているのだから始末に悪い。

気付いたマニアさんたちが、詳細に考察しているサイトがいくつかあるのだが、それを読んでさえ、どうしても作品に当たって確かめたくなる。

そして実際読み返してみると、面白さが変わってくるのである。

 

困ったもんだ・・

ここに来てこんなの読まされたらあの膨大なシリーズをもう一回読んじゃうじゃないか。 どうしてくれる。

 

 

レコード棚を総浚い: 『AEROSMITH / Draw The Line』

このアルバムが発売された1977年、僕は小学6年生で、クラスはAEROSMITH派とQUEEN派とBAY CITY ROLLERS派に分かれていた。


自分自身はゴリゴリのBCR派だったわけだが、エアロかクイーンかと問われればクイーンの方が好みだった。

そういうわけで『WALK THIS WAY』までエアロにはご縁がなかったが、こうして改めて聴いてみると、スティーブン・タイラーの存在感のあるシャウトがこのバンドを特別なものにしたのだろうという感慨が湧く。

 

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そして、B1の『KINGS AND QUEEN』はどうだ。


エアロのパブリックイメージを裏切るZEP、あるいはQUEENを思わせるハードロックの名曲ではないか。


ファンではない僕からみると、この曲の存在こそがエアロが凡百のロックンロールバンドではないことの証明なんだと思う。

 

 

2022年12月17日土曜日

レコード棚を総浚い:『Adrian Gurvitz / Sweet Vendetta(甘い復讐)』

エイドリアン・ガーヴィッツというギタリストのことは知らなかった。
 

湯川れい子先生が書かれたアルバムのライナーノーツによれば、『ベイカー・ガーヴィッツ・アーミー』というプログレ系ハードロックグループのメンバーであったそうだ。
この「ベイカー」はあのジンジャー・ベイカーである。

一転、このアルバムはディスコ寄りのAORである。


1978年リリースのローリング・ストーンズ『女たち』によって行われたロックバンドからのディスコミュージックへの<回答>とは少し肌触りの違う、ディスコとAORとの最大公約数を探ったようなサウンド、と私はみた。


本作でのエイドリアン・ガーヴィッツは、リードギターは数曲に控え、ファルセットも多用してディスコミュージックの歌い手として振舞っている。

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サウンドのコアになっているのは、TOTOのポーカロ兄弟とデヴィッド・ペイチ、デヴィッド・ハンゲイト、と言えば、だいたいどんな音か想像がつくのではないだろうか。

ライナーノーツで、さらりと「ジェフ・ポーカロと電話で話していた時」と書かれているように大物ミュージシャンたちとの親交の篤い湯川先生だが、私も一度湯川先生と仕事でロサンゼルス、ラスヴェガスと廻ったことがある。
ちょうどセリーヌ・ディオンがヴェガスのシーザーズ・パレス・コロシアムで専用劇場での定期公演を4年の間続けていた時期で、外界と接触のない日々を送っていたそうだが湯川先生は別格で、楽屋を訪問されていた。

エイドリアン・ガーヴィッツはこの後もソロ活動を続け、都合(編集盤を除いて)6枚のアルバムをリリースしている。

 

2022年12月16日金曜日

レコード棚を総浚い:『ABBA / ARRIVAL』

年末には買った順に棚に放り込まれたレコードを、洋楽はABC順に、邦楽は五十音順に並べ替える。

作業を終えてみると、買った時に聴いただけというレコードがたくさんあって、我ながら呆れる。

知人に、所有しているレコードとCDをすべてデータベース化している猛者がいる。彼には及ばないが、すべてのレコードをもう一度聴き直してみるくらいのことはしてもいいだろう。

「A」の最初はABBA。
あの『DANCING QUEEN』収録の3rd。大ヒットしたアルバムでご家庭にお持ちの方も多いだろう。私は先輩からの頂き物だ。
一緒に頂いたベスト盤も併せて聴く。

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やはり『DANCING QUEEN』は不思議な曲だ。
肝は構成にあると思う。

イントロはサビをそのまま演奏するが、Aメロに先駆けてドミナントコードに展開していくところから歌い始める。
曲中もっとも不安定なところから歌い始めるわけで、嫌が上にも強い安定が欲しくなる。
そこにあの『dig in the Dancing Queen』というキラーフレーズが来て、ホッと一息。

改めて、『Friday night and the lights are low』と物語が始まった時、すでに我々はこの曲の魔法に絡め取られているのだ。

 

 

2022年12月14日水曜日

経験と敬虔の差分:『シナモンとガンパウダー』

北海道新聞の書評論に背中を押されて『シナモンとガンパウダー』を読んでみた。



大英帝国の三角貿易を主題に採り、アヘン貿易を阻止しようと奮闘する女海賊と、彼女が拉致した貿易会社会長付きの料理人とのドラマには、最後までハラハラさせられ通しだった。
しかし、それだけではない。

2022年、大英帝国のコロニアリズムが生み出した様々な歪みは、またしても幾度目かの臨界を迎えつつあるように思われる。

そんな年の終わりに読んだ本作は、今我々が置かれている状況が、対症療法でなんとかなるようなものでないことを教えてくれた。
そしてこの歴史的悲劇を見事に描き切った本作の美点は、経験と本能に忠実な海賊と敬虔なキリスト教徒である料理人の「視点の差分」なのだろう。
その差分を超えていく「人間」という存在に愛おしさを感じずにはいられない。
大傑作。

2022年12月4日日曜日

高中正義のストラトとSG:『TAKANAKA SUPER LIVE 2022』

高中正義さんのライブに行ってきた。



 

81年の『虹伝説』は本当に素晴らしいプロダクトだと今でも思う。

 

当時何度も何度も繰り返し聴いた。

YAMAHAのSGというギターにも憧れた。

関心を持っていると頻繁に目に入るものだが、ボブ・マーリーが日本公演の際ヤマハから受け取ったSGを弾くモノクロ写真は、最も印象に残るSGの勇姿だ。

他にもカルロス・サンタナのブッダSGや、もちろん我らがイースタン・ユース吉野氏のSG-1000など、時々検索してはうっとりしている。

だから、今回は日本の代表的なSG奏者である高中氏の生SGを堪能するつもりで出かけた。

ところが、圧倒的な主役はブラウンサンバーストのストラトだった。

レコーディングのメイン器として知られる六文銭原茂から譲り受けた58年のストラトなのか、後に同仕様でカスタムメイドされたモデルなのかはわからなかったが、とにかくなんて凄い音!

これぞストラトという枯れたトーンが適切な歪みを伴って空間を切り裂いていく。

後半は写真にも掲げたSGの高中モデルが登場。この辺りから観客の熱狂もピークに達し、いつもの有名曲たちが登場すると、いいおっさんたちがタオルを振り回して会場に強い一体感を作り出していた。

バンドも最高で、生AMAZONSにも感激したし、生斉藤ノブ観れてよかった!

2022年11月27日日曜日

ジャケ買いレコード【番外編 】 『eyes / 渡辺美里』

大学一年生の時、レンタルレコード店でこのアルバムに出会った。
渡辺美里の名前は知らなかった。これがデビューアルバムだということも知らなかった。でもこの『eyes』というアルバムは、聴く前から良いに決まっている「顔」をしていた。

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レンタルして聴いてみると、果たしてそこにはその予想をはるかに超えた「時代を画す」歌唱が収録されていた。
白井貴子が切り開いた女性ロックシンガーの道を飛び越えて、可愛いとか上手いとかではない、新しい時代の「スタイル」のようなものがそこにはあった。
岡村靖幸の早すぎる時代感覚のようなものを、ポップソングの中に封じ込めた傑作だと思う。

そして驚くのは早かった。
翌年、セカンドアルバムにして2枚組の大作『Lovin' You』で、今度は小室哲哉までも取り込んで、堂々と王道を歩き始めるのである。

 



ジャケ買いレコード【番外編】 『HIPPIES / 小泉今日子』

純粋にこのジャケットが欲しいから買っているので、これは「ジャケ買い」なのである。
と、強弁しても、あらかじめキョンキョンが可愛いと知っていて買っているのでは純粋なるジャケ買いとは言えないのでは、との疑問が自分の中から拭えない。

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だから一応「番外編」としておいた。紙ジャケCDも出てますね。

 

1980年代半ば、村上龍さんは、ローマに住んでいた村上春樹を訪ねる際、「日本語の歌のカセットテープを」と頼まれて、それではと小泉今日子の『Ballad Classics』を持っていったという。
ほほう、と探してみると、これ。

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ジャケ買いだよなー、きっと。

 



2022年11月25日金曜日

ジャケ買いレコード『SHINING HOUR/Denny Zeitlin』

ダニー・ザイトリンなら『CATHEXIS(カセクシス)』という初リーダー作が一番という人が多いと思う。

 

確かにエヴァンスを彷彿とさせるリリカルなプレイが素晴らしい名盤だが、ジャケ買いレコードの観点からは、こちらの『SHINING HOUR』の方に軍配が上がるだろう。

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ライブで聴くザイトリンのピアノなら、エヴァンスと聴き間違うことはない。エヴァンスのピアノは、その静かな「狂気」にこそ本質があり、精神科医でもあるザイトリンの身上は、初リーダー作に冠した「カセクシス」の名の通り、対象にのめり込む熱狂にあるからだ。

ジャケ買いレコード『go man! it's "sonny criss" and modern jazz』

Sonny Rollins、Sonny Stittと来て、本日はSonny Crissでございます。
あくまでも偶然です。

なんと見事なジャケット!
ジャケ買いレコードに相応しい美女の登場だ。

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Sonny Stittと同時期に、やはりチャーリー・パーカーの亡霊に苦しめられたアルト奏者だが、やはりプレイもちゃんと似ていると思う。Sonny Crissのアルトに「哀愁」があるかないかで、Amazonのレビュー欄で論争があったが、僕も哀愁ではなく、軽妙な洒脱さが身上のプレイヤーと見た。
確かに必殺の『Memories Of You』(ベニー・グッドマン!)では哀愁たっぷりのプレイを見せてはいるが。

ピアノはSonny Clark(またSonnyだ!)で、この人の『COOL STRUTTIN'』こそはジャズにおける元祖ジャケ買いレコードだろう。

 

そして、このアルバムでのSonny Clarkのプレイは実に抑えめなのに、気がつくと耳はピアノを追っている。

ジャケ買いレコード『Sonny Stitt Plays Arrangements From The Pen Of Quincy Jones』

よく行く中古レコード店でいつものようにレコードを漁っていると、見知らぬジャケットにクインシー・ジョーンズの名前を見つけて手に取った。

 

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なんてことはないモノクロームのジャケットだが、なぜかサキソフォンを吹く顔にただならぬ迫力のようなものを感じて、連れ帰った。

クインシー・ジョーンズの完成度の高いスコアに乗せて、変幻自在に飛び回るサキソフォンには、そのスピードに似合わぬ安心感があった。
そのジェットコースターに乗っているのに、ちっとも怖くない感じがチャーリー・パーカーによく似ているな、と思った。

ソニー・スティットの名前は知らなかった。
調べてみると昔のジャズミュージシャンには珍しい事ではないものの、彼も壮絶な薬物との戦いをギリギリのところで潜り抜け、最後の最後までステージに立ち続けた人だった。
薬物使用の過去のために、なかなか入国できなかった日本で、旭川のファンで一曲だけ吹いたのが最後の演奏になったという。

ここまでの覚悟と気迫があってこその、あの演奏だったのだな、とレコードを聴きながら感じて、音楽というものの不思議さを思った。

 

2022年11月14日月曜日

ジャケ買いレコード『Sonny Rollins and the Contemporary Leaders』

 ソニー・ロリンズと言えば、『サキソフォン・コロッサス』でもちろん間違いないが、ことジャケットに関しては本盤に軍配を上げざるを得ない。
何と言っても凛々しいロリンズの表情と立ち姿に痺れるね。

 

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そして美ジャケが取り柄のこのアルバムには、なぜか別バージョンのジャケットがいくつか存在する。この盤が一番だと思うのだが・・

 

そしてコンテンポラリー盤は、何と言ってもレーベル面がカッコいいのである!

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まあ、とは言え、内容に関しては『サキソフォン・コロッサス』が一枚も二枚も上手ということで、(なにしろピアノがトミー・フラナガンで、ドラムスがマックス・ローチというんだから!)大方異論はないだろうが、本盤にも、Contemporary Leadersのタイトル通り、大物演奏家が揃っている。


殊にギタリストのバーニー・ケッセルが参加しているのが大きい。サキソフォンとギターが絡んで、どちらかと言うと緩やかだが芳醇な音空間が広がる。味わい深いのだ。




ジャケ買いレコード『A NEW CONCEPTION/Sam Rivers』

 純粋にジャケットに惹かれてレコードを買ってしまうことがある。
このサム・リヴァースのアルバムもそうだった。

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陰影だけで表現されたモノクロームの美しさ。
見事なタイポグラフィ。
BLUE NOTEレーベルらしいこのデザインが、音楽の確かさを保証しているような気がした。

サム・リヴァースといえばフリージャズの人で、少し敷居が高いが、このアルバムはスタンダード集なので、聴き覚えのあるメロディが、優しくリスナーを導入してくれる。
そしてそれがまったく異なる旋律に置換され続け、調性も破壊されかけているなと思うと、またもとのメロディに戻ってくる。
ここで調性は破壊されたのではなく、拡大されたのだ、と認識させられる。
よくできたアルバムだと思う。

しかし、このアルバム。サム・リヴァースの諸作の中では決して評価の高い作品ではなく、CD化は2014年までかかっている。

 

 

こんなにいいジャケットなのになあ。

冷たさと真摯さの物語:米澤穂信『王とサーカス』

妙なことだが、自分で自分のここが嫌いだと思っていることについて言及している小説に出会った時、僕はとても慰められる。

とても嫌なこの自分は、本当はこのように悩むべきだったのだ、と教えられたような気がするから。
米澤穂信の「王とサーカス」もそういう小説だった。
 

 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
自分の心のすごく奥の方に隠れていて、できるだけ意識しないようにしている「冷たさ」のようなものを、この小説はストレートに抉ってくる。
読んでいて、そのストレートさに何度も慌てて本を閉じた。
 
 
最後のページを読み、本を閉じた時、「真摯さ」がそれを救うのだと教わったような気がした。
 
 
簡単なことではないと思うけど、せめて明日一日だけでもできるだけ真摯に生きてみよう、と今は思っている。

2022年11月12日土曜日

或る<喪失>の物語:『すずめの戸締まり』

 2022年11月11日、『天気の子』と同じように封切りの日に『すずめの戸締まり』を観にいった。

本作では、封切り前にノベライズが発売されていた。僕は読まずに映画を観た方がいいだろうと判断したが、観終わった時、その判断は間違っていなかったと思った。

この物語は一言でいうなら<喪失>についての物語だ。その<喪失>の要因が、物語後半に明かされる。その時自分自身の中に生じた深い喪失感で、僕はこの映画の中に飲み込まれた。映画の一部になって駆け抜けた。そして映画は自身の<経験>となった。

その「要因」こそが、新海監督にこの映画を作らせたものであるから、 この映画を語るときに避けることはできないのだろう。家に帰って広げた夕刊に掲載された新海監督のインタビューに、その「要因」がデカデカと見出しになっていたから、本当に封切り日に観て良かったと思う。

そして何より、この映画は音楽が素晴らしい。

『君の名は。』で始まったRADWINPSとのコラボレーションも、最初はミュージカル的不自然さを感じることもあったが、陣内一真氏の参戦で極めて完成度の高い劇伴になっているし、主題歌を歌う十明(とあか)さんの声が本当に素晴らしい。

2022年10月27日木曜日

俺とMcIntosh

1975年、私が小学四年生の時、学校にローラー・ハリケーンが吹き荒れた、と言っても今の人たちにはわからないだろうが、スコットランドのBay City Rollersというロックバンドが大人気だったのだ。

友達の家で聴いたBay City Rollersの音楽も素晴らしかったが、レコードがくるくる回って音楽を奏でる、まるで魔法のような佇まいにヤラレた。

家にはレコードを聴くための環境がそもそもなかったのだが、ある日父は、息子の願いに応えて東芝のモジュラー・ステレオを買って帰ってきた。

友達から借りたレコードをモジュラーステレオで再生し、スピーカーの真前にラジカセを置いて、その上に毛布を被せて録音しては何度も聴いた。

そのように私のオーディオ遍歴は始まって、ONKYO、パイオニア、DENONといくつかのアンプを使ってきたが、 こいつとは一生添い遂げたいと思うのは2006年に購入したMcIntoshのアンプたちだ。



プリアンプのC2200とパワーアンプのMC275。ともに真空管アンプである。 

ヒューズが飛んだり、真空管が飛んだり、いろいろあったが、今でも良い音を鳴らしている。最近換えた『PSVAN』という中国製の真空管も絶好調だ。以前は中国製なんて、と思っていたが、いろいろと認識を改めるべき時期に来ているようだ。



原音再生ではないのかもしれない。でもなぜかコンサート会場で聴く、ある種の「熱さ」を帯びた音が、このアンプからは出てくる。

何より、ルックスがいい。

たぶんこのアンプのルックスのせいで、音の印象も狂っているのかもしれないが、それで構わないと思う。


2022年10月15日土曜日

一切の事前情報をシャットアウトしてただ読むべし!『プロジェクト・ヘイル・メアリー』

 TBSラジオの『アフター6ジャンクション』は圧倒的に火曜日がおもしろい。

宇垣美里自身の熱量がライムスター宇多丸を加速するのだろう。

その日も、宇多丸はアツかった。とにかく『プロジェクト・ヘイル・メアリー』は面白い、と連呼するのだが、内容については一言も言いたくない、と繰り返す頑なさが、それ絶対面白いやろ、という気分にさせた。


 

翌日街の大きな書店に行ってみたらもう在庫がなくなる寸前で、慌てて購入して、そのまま読んだ。

読み終わるまで置きたくない本、というのが本当にごく稀にあるが、これがそうだった。

宇多丸師匠の言に倣い、本稿でも『プロジェクト・ヘイル・メアリー』の内容には一切触れない。 

代わりに写真の帯の情報で我慢してほしい。読んだらわかるから。

ただ、感想の代わりに、下巻の後半マジで声を上げて泣いてしまったことだけを告白しておく。

2022年10月14日金曜日

こんな硬派な文体でもスイスイ読めるならジャケ買いも悪くない:『女には向かない職業』P.D.ジェイムズ

あまりにも有名なタイトルだが、文体の好みが分かれるのかレヴューが二分しているP.D.ジェイムズ『女には向かない職業』。

この新装版の表紙に抗えず購入してみた。

『名探偵コナン』の重要キャラクター灰原哀の名は、この『女には向かない職業』のコーデリア・グレイと、サラ・パレツキーの女性探偵V.I.ウォーショースキーから取られている。

そして僕は、サラ・パレツキーのV.I.ウォーショースキー・シリーズもまきおさんイラストの新版になってから購入したのだった。(だからイラストレーターが変わった『フォール・アウト』以降は買ってない)



 

 

 

 

 

 

 

二人の女性探偵ものをジャケ買いで揃えた僕に眉を顰めるミステリファンは多いだろうが、世評通り超硬派な文体のP.D.ジェイムズでさえ、ジャケが良ければそれなりに読めてしまう不思議な体質のおかげで没入して読めるのだから、バカにしたもんじゃないと思う。

いやこれ相当面白かったですよ。


数ある新本格の中でも屈指の魅力キャラ:『魔眼の匣の殺人』今村昌弘

『魔眼の匣の殺人』がついに文庫化された!


『屍人荘の殺人』も本格推理としての完成度も高く、伏線がビシビシと小気味よく回収されていく快作であった。

それにしても探偵剣崎と葉村の新コンビは、数ある新本格の中でも屈指の魅力キャラと思う。

「マダラメ機関」と言う敵役の設定で、物語のスケールを充分に担保し、続きを楽しみにさせるところもニクい。

それにしても文庫化まで3年半・・

文庫派の私にとっては、待ち遠しくて待ち遠しくて何回創元さんのホームページを検索したかわからんくらい。

その期待ゆえに過大評価になっているかもしれないが、ただただ面白かった。そしてここから『兇人邸』の文庫化を待つ日々。

いや、待ってるのも楽しいのよ。ホントに。


2022年10月13日木曜日

松崎レオナを追いかけて:島田荘司再読の旅

『暗闇坂の人喰いの木』で島田荘司作品の講談社文庫改訂完全版は、5作品目になる。



再読の良い機会だが、『暗闇坂』はすでに4回目の再読となる。

犯人がわかっているのに、ミステリを再読する意味はない、という人もいるだろう。しかし自分にとっての『暗闇坂』は、人生が思わぬことで行き詰まり、自分を見失ってしまいそうになる時、何度も本棚から取り出して読み返す、そういう物語なのだ。



『暗闇坂』を読んでしまうと、どうしても『水晶のピラミッド』に手が伸びるのは、松崎レオナに逢いたいからだと告白しよう。

その意味では『アトポス』が重版されず入手不能状態なのは困ってしまう。ぜひ改訂完全版で復刊を。

で、本作。大仕掛けで知られる島田作品の中でもかなりの仕掛けっぷり。

張り巡らせる合理の網に、読者である我々を見事な手法で絡めとるが、並行して描かれるギザとタイタニックの物語が、この合理の網に豊かな詩情を添えるのだ。「巻を措く能わず」とはこの本のためにある言葉で、こちらも4回目の再読になるが734ページを2日で駆け抜けた。




そして『眩暈』

例の大仕掛けだけは、どうやっても頭から消えるはずもなく、流石に驚けないだろ、と思ってた訳だが、わかって読んでいるからこそ別の細部に驚きまくりで、ページが止まらず一気読みとなった。

今は無性に次作『アトポス』が読みたいが、絶版で入手困難。これを好機と捉えて、御手洗再読祭りを一旦収めようと思う。 


慎ましく穏やかな老後に強い憧れを持つあなたへ:『三千円の使い方』原田ひ香

若い頃から野心はなかった。

なにかで一番になったこともないし、どうしてもこの道でなければ、という強い思いも抱いたことはない。 

だからずっと、慎ましく穏やかな老後に強い憧れを抱いていた。 

でも実際に近づいてみると、ただ穏やかに生きていくことはとんでもなく難しいのだと気付かされることはいくらでもあって、不安は大きくなるばかり。 

そんな気持ちで街を歩いていたら、書店の平積み台からこの本が僕を呼んでいるのに気がついた。 



その声に従って家に連れ帰り、一気に読んだ。 

心に巣食っていた不安は、不思議なことに消えていた。 


2022年5月1日日曜日

俺と甲斐バンド : 甲斐よしひろのソロ活動35周年記念盤『FLASH BACK』

 甲斐よしひろのソロ活動35周年記念盤『FLASH BACK』が届いた。


一曲目の『電光石火BABY』から、あの唯一無二の声にヤられる。

この声と最初に出会ったのは、『HERO(ヒーローになる時、それは今)』だったが、決定的だったのは、NHK-FMで放送された甲斐バンド・ライブだった。

素っ裸のエイトビートに、Gmの歪んだパワーコードが重なって、甲斐さんが「あなたに抱かれるのは・・」と振り絞るように歌し出して、そのライブは始まった。『きんぽうげ』というその曲に完全に心を持っていかれた。

その日から、僕の心は常に甲斐よしひろと共にある。

そのライブを録音したテープを繰り返し繰り返し何度も聴いた。

まだレコードになっていなかった新曲『安奈』が気に入って、自分でも歌ってみたくてアコースティック・ギターを買ってもらった。

甲斐バンドの曲を何曲も弾いて歌っているうち、作曲の方法が何となくわかってきて、自分の曲を作るようになった。

甲斐さんがDJをやっていた、NHK-FM『サウンド・ストリート』は毎週欠かさず聴いていた。この番組でハウンドドッグの『嵐の金曜日』や、もんた&ブラザーズ『ダンシング・オールナイト』を知り、何より佐野元春を教えてもらった。

アルバムが出るたび、熱狂した。『黄金/GOLD』というレコードがあまりに傑作すぎて、テストの前日だというのに勉強もせず、こっそりヘッドフォンで聴いていたのを母親に見つかり、レコードを割られたこともある。

1986年に甲斐バンドは解散してしまったが、翌年ソロアルバム『ストレート・ライフ』が出て、その後期甲斐バンドらしさを継承したサウンドが本当に嬉しかったんだ。

ソロキャリアのスタートである、『ストレート・ライフ』のツアーには札幌で参戦した。

最初に生甲斐バンドを観たのは、アルバム『MY GENERATION』の頃だから79年か80年、釧路の市民会館だったと思う。時々手を振り上げ、腰を捻りながらステージ上を歩く甲斐よしひろは、まだ中学生だった僕には鮮烈そのものだった。

1987年の『ストレート・ライフ』ツアーでもそのアクションは健在で、ただただカッコよくて熱狂した。その頃、僕はもう大学生だったから、それがミック・ジャガーにそっくりなステージアクトであることを知っていたが、そんなことはどうでもよかった。

その頃には、甲斐バンドの名曲たちにそっくりな先行洋楽曲があることにも気づいてはいたが、それでも甲斐さんの声で歌われる楽曲の魅力はいささかも色褪せなかった。

だから僕はきっと、甲斐バンドの「ファン」なんだと思う。なんの前提も言い訳も必要なく、ファンだといえる対象があるのだから、僕はとても幸せな男なんだと思う。



2022年4月13日水曜日

思い出のレコード『清水健太郎:KENTARO FIRST』

 小学4年生のとき、友だちの家で聴いたBay City Rollersにすっかりやられて、音楽が好きになった、と思っていたが、もしかしたらその時に好きになったのは「レコード」だったのかもしれない。

お小遣いで、最初に買ったレコードは沢田研二さんの『勝手にしやがれ』で2枚目は清水健太郎さんの『失恋レストラン』だったが、どちらもいつの間にか失くしてしまった。

ジュリーには『ロイヤル・ストレート・フラッシュ』というジャストなベスト盤があり、音源も入手していた。

その後、いろいろあった清水健太郎さんの音源は手に取る機会がなかったが、『失恋レストラン』に続いて2曲目のヒットとなった『帰らない』もテレビやラジオでよく聴いて、冒頭の印象的なフレーズは長い間記憶に残っていた。

ふとそのことを思い出し、メルカリでこのアルバムを見つけた。


故ナンシー関さんが「無人島に持っていく一枚」に選んだという名盤だが、その名盤たる所以は、ひとえに収録曲の充実にあると思う。

文句なしの名曲『失恋レストラン』『帰らない』をはじめとするつのだひろ楽曲たちに加、清水健太郎さんご自身も作詞作曲を手がけている。

中でも『両切りのキャメル』は、彼のレパートリーの中では異色作といえるアーバン・ポップで、パブリック・イメージとは異なる、彼の広い音楽趣味を窺わせる名曲だ。

そして、ダウンタウンブギウギバンドの名曲『知らず知らずのうち』も泣ける。このカバーが、宇崎竜童作詞作曲による『遠慮するなよ』という3rdシングルに繋がっていくのだろう。


『失恋レストラン』を除く全曲で馬飼野康二さんの名アレンジが炸裂して、特にちょっとフェイズシフトのかかった歪み系ギターが縦横無尽に暴れる感じがとても素敵なんだが、演奏者のクレジット記載がなく、誰が弾いているのかわからない。

それだけがとても残念だ。