2022年12月17日土曜日

レコード棚を総浚い:『Adrian Gurvitz / Sweet Vendetta(甘い復讐)』

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「このギタリストが、まさかこんな音を鳴らすなんて」

レコードをターンテーブルに乗せた瞬間、そんな心地よい裏切りに遭うことがある。今回棚から取り出したのは、エイドリアン・ガーヴィッツが1979年に放ったソロ名作、『Sweet Vendetta(甘い復讐)』だ。

 ハードロックの猛者が辿り着いた「洗練」

エイドリアン・ガーヴィッツの名を聞いて、伝説のドラマー、ジンジャー・ベイカー率いる「ベイカー・ガーヴィッツ・アーミー」を思い出す人は、筋金入りのロック・ファンだろう。

プログレ系ハードロックの荒波にいた彼が、一転してアーバンなAORの世界へ舵を切ったのが本作である。1978年にローリング・ストーンズが『女たち(Some Girls)』でディスコへの回答を示したが、本作はそれとはまた違う、「ディスコとAORの最大公約数」を鮮やかに射抜いたサウンドが特徴だ。

TOTOの精鋭たちが創り出した「鉄壁のグルーヴ」

このアルバムのクオリティを担保しているのは、バックを固める超豪華なミュージシャンたちだ。

  • ジェフ・ポーカロ / スティーヴ・ポーカロ(Drums / Keyboards)
  • デヴィッド・ペイチ(Keyboards)
  • デヴィッド・ハンゲイト(Bass)


まさに全盛期のTOTOの面々である。

エイドリアン自身も、ここでは技巧派リードギターをあえて封印気味にし、ファルセットを多用したボーカリストとして振る舞っている。彼らが生み出すタイトで粘り気のあるリズムは、今聴いても全く色褪せることがない。

舞台裏の記憶

余談だが、本作のライナーノーツを担当された湯川れい子先生とは、かつて仕事でロサンゼルスやラスベガスをご一緒したことがある。当時、外界との接触を絶っていたセリーヌ・ディオンの楽屋をさらりと訪問される先生の姿を見て、大物ミュージシャンたちとの絆の深さを肌で感じたものだ。そんな先生が「ジェフ・ポーカロと電話で話した」と記すライナーを読み返すと、当時のシーンの熱量が伝わってくる。

【音楽理論的考察】AOR的な「甘い罠」の構造

本作のタイトル曲やリード曲に見られるのは、緻密に計算されたコード・ヴォイシングだ。

  • テンション・コードの多用

ハードロック時代のストレートなパワーコード($1$度と$5$度)から脱却し、メジャーセブンス($M7$)やナインス($9th$)を多用することで、都会的な「翳り」と「余裕」を演出している。

  • 対旋律としてのベースライン

デヴィッド・ハンゲイトによるベースは、単にルートを支えるだけでなく、歌のメロディと対比させるような流麗なラインを描く。これが、ディスコ・ビートに上品な奥行きを与えている。 

終わりに

エイドリアンはこの後も計6枚のアルバムをリリースするが、本作で見せた「ロック・ギタリストによるディスコへの完璧な適応」は、AOR史においても特筆すべき瞬間だったと言える。

「甘い復讐」というタイトル通り、過去のパブリックイメージを鮮やかに塗り替えてみせた1枚。夜の静寂の中で、ポーカロのドラムとエイドリアンのファルセットに身を委ねる時間は、何物にも代えがたい贅沢だ。


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