2023年10月28日土曜日

スクリャービンを聴く夜 | ピアニスト尾城杏奈が描く、SACDで聴く美と熱の音世界

訳もなく「本当に良い音」に浸りたくなる夜がある。
そんな時手が伸びるのは、クラシック、それもピアノでなくてはならないが、スクリャービンとなるとちょっと敷居が高くなる。

1. 「現代のスクリャービン弾き」尾城杏奈という才能

そこで今回ご紹介するのは、新進気鋭のピアニスト、尾城杏奈さんによる『スクリャービン・リサイタル I & II & III 』(TRITONレーベル)です。





はい。ジャケ買いですね。

それが聴いてびっくり、なんとも新しいスクリャービンなんだなあ。

 スクリャービンの楽曲は、過去の巨匠の名演があるが故に、技巧的な難解さ、独特の「法悦感」や「神秘性」を求められますよね。

しかーし、尾城さんのアプローチは、曲の深淵にある「叫び」をも「美」に寄せていく現代の表現だったのです。

  • TRITONレーベルによる極上の録音

本作はSACD(Super Audio CD)としてリリースされており、空間の広がりや残響の消え際まで、鳥肌が立つほどのリアリティで収められています。

  • 「ジャケ買い」を裏切らない美学

ブックレットの写真がモノクロなのが唯一の心残り(!)と言えるほど、彼女自身の美しさと音楽性の対比が、このアルバムの価値をさらに高めています。

2. 没入を誘う作曲家、アレクサンドル・スクリャービンの魔力

スクリャービンはロシアの作曲家・ピアニストですが、その音楽はショパンの流れを汲む初期のロマンティックな作風から、後期の「神秘和音」を用いた独自の宗教的・宇宙的な世界観へもアプローチしていたようです。

  • ホロヴィッツとの対比で聴く楽しみ

スクリャービンのピアノ曲といえば、まず伝説的なホロヴィッツの名盤が思い浮かぶでしょう。しかし、あえて現代の録音、それも尾城さんのような次世代の解釈で聴くことで、スクリャービンが譜面に込めた「現代性」や「色彩感」が、ハイレゾの音像として鮮明に立ち上がります。

  • 「難解さと繊細さ」のコール&レスポンス 

スクリャービンの音楽には難解さ故の壁がありますが、尾城さんの指先から放たれる繊細な一音一音が、異世界にあるような世界観を引き寄せているようです。

3. オーディオファンこそ聴くべき「音」と「美」の融合

オーディオを趣味とする者にとって、良い演奏と良い録音の出会いは、まさに至福の瞬間です。

部屋の照明を落としてSACDを再生すれば、そこには美しきピアニストが紡ぐスクリャービンの情熱が現出しているはずです。

関連リンク

スクリャービン・リサイタルI〉 ピアノ・ソナタ全集 Vol.1 尾城 杏奈(ピアノ)

スクリャービン・リサイタルI〉 ピアノ・ソナタ全集 Vol.2 尾城 杏奈(ピアノ)

スクリャービン・リサイタルI〉 ピアノ・ソナタ全集 Vol.3 尾城 杏奈(ピアノ)


真実と喪失の対価 / ジェイムズ・ケストレル『真珠湾の冬』

 亡くなった原尞さんに導かれてポケミス版の『そして夜は蘇る』を読んだら、すっかりポケミスの装丁に夢中になってしまった。

幸い僕が住む街には、大きな書店があり、最近こんな書店も珍しいがそこにはいまだにポケミスのコーナーがあって、旧刊も含め割と充実した在庫がある。

行くたびに、眺めてニヤニヤしているだけというのもなんなので、ジャケ買いでこれを買った。

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真珠湾となれば、日本に生まれた自分にとってはまったく人ごとではない。
一度シンガポールに行った時、そうとは知らず入った博物館で、展示された大戦時の日本の所業に不意を打たれて、深く恥いったことは生涯忘れない教訓だ。

この物語からも同じような感慨を受けるが、それ以上に主人公の生き様が示す、自らを奉じた職業への、その身と分かち難いほど強い使命感に考えさせるものがある。
そして、だからこそ背負ってしまった重い喪失がどこまでもやるせない。

作者は、この重厚な物語に、これ以上ないほどふさわしいラストを用意した。
読み進めるにつれて、我がことのように救いを求めるようになった自分自身にも、それは福音だった。

心底この本に出会えてよかった、と思った。

逃げ場のない読書体験をもたらす本だが、この国に生きるすべての人に読んでほしい本だと思う。