2023年10月28日土曜日

真実と喪失の対価 / ジェイムズ・ケストレル『真珠湾の冬』

 亡くなった原尞さんに導かれてポケミス版の『そして夜は蘇る』を読んだら、すっかりポケミスの装丁に夢中になってしまった。

幸い僕が住む街には、大きな書店があり、最近こんな書店も珍しいがそこにはいまだにポケミスのコーナーがあって、旧刊も含め割と充実した在庫がある。

行くたびに、眺めてニヤニヤしているだけというのもなんなので、ジャケ買いでこれを買った。

画像リンクでAmazon商品ページにリンクします

真珠湾となれば、日本に生まれた自分にとってはまったく人ごとではない。
一度シンガポールに行った時、そうとは知らず入った博物館で、展示された大戦時の日本の所業に不意を打たれて、深く恥いったことは生涯忘れない教訓だ。

この物語からも同じような感慨を受けるが、それ以上に主人公の生き様が示す、自らを奉じた職業への、その身と分かち難いほど強い使命感に考えさせるものがある。
そして、だからこそ背負ってしまった重い喪失がどこまでもやるせない。

作者は、この重厚な物語に、これ以上ないほどふさわしいラストを用意した。
読み進めるにつれて、我がことのように救いを求めるようになった自分自身にも、それは福音だった。

心底この本に出会えてよかった、と思った。

逃げ場のない読書体験をもたらす本だが、この国に生きるすべての人に読んでほしい本だと思う。


0 件のコメント:

コメントを投稿