還暦を過ぎ、いつの間にか貪欲に新しい音楽を探すことはなくなった。
それでも、日々を生きていれば音楽に頼りたくなることはあるものだ。そんなとき聴きたくなるのは、アーティストたちの人生が垣間見える<アンソロジー>で、いくつか愛聴盤がある。
誰かの心無い言葉や、諍いに心に澱が募るような日には、大貫妙子さんの『ライブラリー』をかけることが多い。
2枚組のDisc1には有名曲がずらりと並ぶが、音楽的な「意志」の強さや、精緻に組み上げられた坂本龍一アレンジが素晴らしすぎて、肝心な「演劇的」とさえ言いたくなる大貫妙子の歌唱に心が向き合いきれない時がある。
そういうわけで、だいたいDisc2をプレーヤーに入れて、彼女の声に耳を澄ますことになる。楽曲に素直に寄り添う小林武史アレンジも、大貫歌唱の演劇性に水を刺さない。
演劇性と言っているが、何かを演じているということではない。静寂に消えていく声の余韻が、その楽曲世界の輪郭を彩って、我々がいるこの世界の本当の美しさを象徴的に表現しているのだ。
<アンソロジー>は編年体で編まれることが多いが、本作のような音楽表現に依った編集は私のようなリスナーにはありがたいものだ。
