”ギタリストには2種類しかない。ジェフ・ベックとそれ以外だ。”
という名言は、アニメ『けいおん!』で初めて触れたが、唯一無二なる存在を称賛する名構文であると思う。
発言元を探ろうとネットを漁ると「ポール・ロジャース説」と「ジョン・ポール・ジョーンズ説」が見つかった。
どちらにしても強い説得力を感じる。
また、所ジョージ氏による「世の中には大きく分けて2種類のクルマがある。一つはシトロエンというクルマと、もう一つはシトロエンではないクルマだ」というのも見つかり、応用が効きそうに思えたが、では「ミステリ作家」では・・・「漫画家」なら・・・と考えていくと、そう簡単には例示できず、やはりジェフ・ベックの唯一無二感には感嘆せざるを得ない。
そのジェフがロック史に刻んだ大名盤『Blow by Blow』に続いて、それに勝るとも劣らない『Wired』を発表するという黄金期にリリースしたライブ盤『With the Jan Hammer Group Live(ライブ・ワイヤー)』が本作である。
『ライブ・ワイヤー』の音楽的特徴
本作の最大の聴きどころは、精密に作り込まれたスタジオ盤の楽曲が、ライブという生の空間で「観客と呼応するダイナミズム」を伴って再構築されている点にある。
ジェフ・ベックのギタープレイは、スタジオテイクと比較してより歪みが強く、より攻撃的である。フレーズの端々にギタリストとしての衝動が剥き出しになっており、聴き手に対してエモーショナルな刺激をダイレクトに与えてくる。
そして、タイトルにもある通り、キーボード奏者ヤン・ハマー率いる「ヤン・ハマー・グループ」との強烈なコラボレーションが、このアルバムの屋台骨となっていて、単なるバックバンドではなく、対等なミュージシャンとしてのせめぎ合いが展開される。特にヤン・ハマーの操るシンセサイザーとジェフのギターが、互いにフレーズをぶつけ合い、融合していく様はスリリングの一言に尽きる。
また、本作のミックス(ステレオ音響構造)にも特筆すべき点がある。ステレオの音響空間が実際のステージ配置を忠実に再現するように配置されており、センター右寄りにギター、センター左寄りにキーボード、右側にヴァイオリン、そして中央にベースとドラムが定位している。これにより、リスナーはまるで客席の最前列で音の洪水を浴びているかのような、圧倒的な臨場感を追体験することができる。
1970年代後半のミュージックシーンとリスナーの受容
本作がリリースされた1977年前後は、音楽シーンの大きな転換期であった。
1970年代前半に隆盛を極めたプログレッシブ・ロックや、高度な技術を誇るジャズ・ロック(フュージョン)が成熟期を迎える一方で、パンク・ロックの台頭などにより、ロックはよりシンプルで初期衝動的なものへと回帰しつつあった。
そのような時代背景において、ジェフ・ベックとヤン・ハマー・グループによる演奏は、極めて高度なテクニックに裏打ちされながらも、パンクに負けないほどの生々しいエナジーとスピード感を放っていた。
当時のリスナーや評論家は、冷徹に構築されたフュージョンとは一線を画す、この「ロック度の高い熱量」を歓迎した。スタジオ盤での緻密な世界観を、ライブの場において良い意味で破壊し、奔放に弾きまくるジェフの姿に、多くのファンが「やはりベックはライブでこそ本領を発揮する」と確信したのである。
謎に包まれた収録場所と制作の舞台裏
本作のクレジットには、具体的な録音日や収録会場の詳細なデータは明記されていない。しかし、バンドの足跡を辿ることで、その背景が見えてくる。
音源のベースとなっているのは、1976年6月から1977年2月にかけて計117公演が行われた全米ツアーである。一説には、1976年8月31日にペンシルベニア州レディングのアスター・シアターで行われた公演が非常に優れたクオリティであり、アルバムの核を成しているとされている。
制作のプロセスにおいても、興味深いエピソードが残されている。当初、ジェフ・ベックはニューオーリンズにあるアラン・トゥーサンのスタジオなどでミックス作業を行っていた。しかし、最終的にはヤン・ハマー自身が主導権を握り、ロンドンのスコーピオ・サウンド・スタジオにてデニス・ワインライクと共に完成させたという。こうした徹底的な音へのこだわりが、あの緊迫感のあるサウンドステージを生み出す要因となった。
後年、ジェフはさらに多くのライブ盤や映像作品を世に送り出すことになるが、どの時代を切り取っても「どうやって弾いているのかわからない」ほどのオリジナリティに満ちていた。本作『ライブ・ワイヤー』は、その変幻自在なキャリアの中でも、特に熱く、尖っていた一瞬を閉じ込めた記念碑的なライブ盤といえる。



























