2026年10月15日木曜日

魂のルーツと邂逅する、沈黙のストーリーテラー|『How To Become Clairvoyant』に秘めたロビー・ロバートソンの記憶と美学

 1970年代のロック黄金期を築き上げた伝説のグループ「ザ・バンド」のメイン・ソングライターであり、ギタリストであったロビー・ロバートソン。彼が2011年に発表した5作目のソロ・アルバム『How To Become Clairvoyant(ハウ・トゥ・ビカム・クレアヴォヤント)』は、キャリアの中でも極めて異色であり、同時に最も内省的な傑作である。

前作から実に13年ぶりとなった本作は、自らの過去、そしてかつての仲間たちとの絆や決別を暗黙のうちに描き出した「私小説」のような手触りを持つ。比類なきストーリーテリングの才能が、現代的なエレクトロニカの質感とアーシーなルーツ・ロックの狭間で息づく、美しくも妖艶な名盤である。

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映像世界とルーツ・ロックの交差点:ロビー・ロバートソンという表現者の軌跡

ロビー・ロバートソンの音楽世界を理解する上で欠かせないのが、その卓越した「映画的リアリズム」である。ザ・バンド解散後、彼は巨匠マーティン・スコセッシ監督との強固なパートナーシップを結び、『レイジング・ブル』や『アイリッシュマン』をはじめとする数々の映画音楽を手がけてきた。
彼のソロ活動は、単なるシンガー・ソングライターの枠に収まらない。音響への執拗なこだわり、ネイティブ・アメリカンとしての自身のルーツへの探求、そして語りかけるような独自の「スポークン・ワード」スタイル。本作においても、長年培われたシネマティックな空間構成と、泥臭いスワンプ・ロックの精神が見事なコントラストを描き出している。

音楽的特徴:レジェンドたちとの共振が生んだ、深遠なるコラボレーション・サウンド

本作『How To Become Clairvoyant』の最大の音楽的特徴は、ギターの巨匠エリック・クラプトンとの全面的なコラボレーションにある。全12曲中7曲でクラプトンが共作・ギター・ボーカルで参加しており、2人のギタリストによる静かな火花がアルバム全編に心地よい緊張感をもたらしている。
さらに、スティーヴ・ウィンウッドの重厚なオルガン、トム・モレロ(レイジ・アゲインスト・ザ・マシーン)のエッジの効いたギター、そしてインダストリアル・ロックの旗手トレント・レズナーによる音響効果など、参加メンバーの顔ぶれは極めて多彩である。
サウンドの質感は、伝統的なスワンプ・ロックやブルースをベースにしながらも、現代的なシンセ・パッドやループ・ビートが巧みに配されている。ルーツ・ミュージックが持つ土臭さを、最新の音響設計によって洗練されたアート・ロックへと昇華させた緻密な仕上がりである。

主要楽曲の分析:過去への贖罪と、未来を見通す「千里眼(クレアヴォヤント)」

「How to Become Clairvoyant」

アルバムの表題曲であり、不穏でサイケデリックな空気感をまとったナンバーである。重々しいビートの上を、ロビー特有のスモーキーなボーカルが這うように進む。タイトルが示す「千里眼(未来を見通す力)になる方法」とは、ドラッグや狂気の時代をくぐり抜けて生き残った者だけが手に入れた、ある種の「諦念と達観」のメタファーである。間奏で響くクラプトンとロビーのギター・ソロは、言葉以上に多くを物語る。

「He Don't Live Here No More」

かつてドラッグや自己破壊的な生活に溺れていった「過去の自分」や、去っていった仲間たちを冷徹に見つめ直した楽曲である。軽快でありながらどこか哀愁を帯びたゴスペル風のバック・コーラスと、うねるようなブルース・ハープが印象的である。「彼はもうここには住んでいない」というリフレインは、狂乱の時代との決別を告げる静かな宣言として響く。

「The Right Mistake」

ロビー・ロバートソンのシネマティックな編曲センスが炸裂した、本作の芸術的ハイライトの一つである。重層的に重ねられたパーカッションと神秘的な女性コーラスが、霧深い夜の湿り気を醸し出す。スティーヴ・ウィンウッドによる味わい深いオルガンの音色が、かつてザ・バンドが提示した神秘的なアメリカの原風景を21世紀に再生させるかのように、深い余韻を残す。

語り部が残した、静かなる音楽の黙示録

シンセサイザーの冷たい響きが支配的になりがちな現代において、ロビー・ロバートソンが提示した『How To Become Clairvoyant』の温かくも張り詰めた音響空間は、まさに大人のためのロックの最高峰である。
商業主義的なヒットチャートに背を向け、自らの魂の記憶と真摯に向き合ったこのアルバムは、彼が2023年にこの世を去った今となっては、私たちに遺された極上のロードムービーのようでもある。

How To Become Clairvoyant
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変幻自在のスモーキー・ヴォイスが紡ぐハイブリッド・ポップ|『Pirates』が証明したリッキー・リー・ジョーンズの孤高の文学性

 1979年の鮮烈なデビュー・アルバム『浪漫(Rickie Lee Jones)』によって、グラミー賞最優秀新人賞を獲得し、一躍時代の寵児となったリッキー・リー・ジョーンズ。彼女がプレッシャーの極限の中で1981年に発表したセカンド・アルバムが、この『Pirates(パイレーツ)』である。

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前作の商業的成功とそれに伴う私生活の混迷、とりわけ当時の恋人であったトム・ウェイツとの破局という精神的な危機を乗り越えて制作された本作は、単なるポップ・アルバムの枠組みを遥かに超越している。前作で見せた瑞々しいシンガー・ソングライターとしての資質はそのままに、より深く、より暗く、そしてより壮大な音楽的野心が詰め込まれた、80年代初頭のポピュラー音楽における最高峰の一枚である。

時代に抗う早世の天才:リッキー・リー・ジョーンズという表現者の本質

リッキー・リー・ジョーンズの最大の魅力は、ジャズの即興性とフォークの叙情性をあわせ持つ、変幻自在のボーカル・スタイルにある。子どものような無垢さと、人生の酸いも甘いも噛み分けた大人の退廃的な響きが同居するその歌声は、しばしば聴き手を激しく揺さぶる。
彼女は単なる歌い手にとどまらず、作詞・作曲、そして編曲においても妥協を許さない完璧主義者であった。ビートニク文学からの影響を色濃く反映した文学的な歌詞と、複雑なコード進行を巧みに操るそのソングライティング能力は、当時の男性優位であったロサンゼルスの音楽シーンにおいても異彩を放っていた。本作においてもその作家性はさらに研ぎ澄まされ、聴き手を一瞬にして夜のLAの路上へと引きずり込む圧倒的な世界観を構築している。

音楽的特徴:ジャズ、フォーク、ロックの境界を融解させる緻密なハイブリッド・サウンド

本作『Pirates』の音楽的な核は、スティーリー・ダンなどの制作で知られるラス・カンケルやレニー・ワロンカーによる完璧なプロデュースワークと、超一流のミュージシャンたちによる緻密なアンサンブルの融合にある。
ドナルド・フェイゲン、チャック・レイニー、スティーヴ・ガッド、ランディ・ブレッカーといったジャズ/フュージョン界の巨匠たちがこぞって参加し、一音の狂いも許されない厳密な音響空間を作り上げている。しかし、サウンド全体は決してクールなフュージョンには陥らず、リッキーの情熱的で即興的なボーカルと激しく火花を散らしている。シンセサイザーが台頭し始めた80年代初頭において、生楽器のダイナミズムと洗練されたホーン・アレンジメントを極限まで突き詰めた、極めて贅沢で知的なサウンド・メイクが特徴である。

主要楽曲の分析:映画的なドラマツルギーと私小説的リアリズムの融合

「We Belong Together」

アルバムの幕開けを飾る、約5分半に及ぶ壮大なドラマである。静謐なピアノの弾き語りから始まり、楽曲の進行とともにドラムとベースが加わり、感情の奔流のように激しいキャタストロフィへと向かう。リッキーのボーカルは、ささやきから絶叫へとダイナミックに変化し、失われた愛への執着と絶望をリアルに描き出す。アルバム全体のトーンを決定づける傑作である。

「Living It Up」

前作の「恋するチャック(Chuck E.'s In Love)」を彷彿とさせる、軽快なシャッフル・ビートが心地よいナンバー。トム・ウェイツ、リッキー・リーの旧い友人であるチャック・エーデルワイスを歌った名曲を、デビュー・アルバムの1曲名に据えたことからも、日常を唄う歌を大切にしていることがわかる。本曲もその陽気なリズムの裏に、ストリートに生きる若者たちの日常と切なさが巧みに描写されている。ジャジーなカッティング・ギターと、リッキーのスキャットを交えた軽妙なボーカルが絶妙に絡み合い、洗練されたAORとしても高いクオリティを誇る。

「Pirates (So Long Lonely Avenue)」

アルバムのタイトル・トラックであり、本作の芸術的な到達点を示す楽曲である。まるで一本の映画を見ているかのような、劇的な展開を見せる組曲的な構成が特徴である。ランディ・ブレッカーによる哀愁を帯びたトランペットの旋律が、夜の帳が下りる都会の孤独を表現し、リッキーのボーカルはまるで詩を朗読するかのように自由に駆け巡る。

狂気と美の分水嶺:80年代の幕開けに刻まれたポップ・ミュージックの金字塔

本作でアーティストとしての表現力を極限まで高めたリッキー・リー・ジョーンズは、この後、時代の変化とともに内省的な世界へとさらに深く沈み込んでいくこととなる。
映画『ゴーストバスターズ』のヒットによってポップなスターダムへと駆け上がった次曲のレイ・パーカーJr.とは対照的に、リッキーは商業的な成功から距離を置き、自身の芸術性を守り抜く道を選んだ。時代の流行に一切迎合することなく、1981年という激動の時代に彼女が残した『Pirates』の張り詰めた美しさは、今なおレコード針を落とすたびに、当時のLAの夜気を鮮烈に蘇らせてくれる。

パイレーツ (特典なし)
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アーバン・メロウ・ファンクの隠れた名盤:『Woman Out Of Control(邦題:I・Still・愛してる)』が提示したレイ・パーカーJr.の卓越したポップ・センス

 映画『ゴーストバスターズ』の世界的メガヒットによって、ポップなファンク・スターとしてのイメージが定着しているレイ・パーカーJr.であるが、彼の真骨頂は洗練された都会的なメロウ・グルーヴと、ブラック・コンテンポラリーの潮流をいち早く捉えた先見性にこそある。レイディオ(Raydio)としてのバンド活動を経て、完全なソロ名義としては2枚目のスタジオ・アルバムとして1983年に発表されたのが『Woman Out Of Control(邦題:I・Still・愛してる)』である。

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前作『The Other Woman』でのロック色を帯びたアプローチから一転し、本作ではエレクトロニクスと生楽器を完璧に融合させた、当時の最先端をいくAOR/アーバン・ファンク・サウンドへと舵を切った。日本盤に付けられた『I・Still・愛してる』という極めてキャッチーな邦題とともに、熱心なブラック・ミュージック・ファンのみならず、当時のシティ・ポップやAORのリスナーをも虜にした、80年代を象徴する隠れた名盤である。

天才マルチ・マルチプレイヤーにして希代のヒットメイカー:レイ・パーカーJr.の本質

レイ・パーカーJr.の最大の強みは、卓越したギタリストでありながら、ボーカル、作詞・作曲、編曲、そしてプロデュースのすべてを一人で高次元にこなすマルチな才能にある。10代の頃からデトロイトのモータウン・シーンで腕を磨き、スティーヴィー・ワンダーの歴史的名盤『Talking Book』にギタリストとして参加した経歴を持つ彼は、ブラック・ミュージックの伝統的な熱量と、白人層のラジオ・ステーションにも受け入れられるポップな洗練さを同時に表現できる稀有な存在であった。
本作においてもそのコントロール・フリークぶりが遺憾なく発揮されており、大半の楽器を自ら演奏。ブラック・コンテンポラリーの黎明期において、洗練された「大人の夜のBGM」としてのポップ・ファンクを完全に定義してみせた。

音楽的特徴:エレクトロ・ファンクの導入とスマートなAORテイストの融合

本作『Woman Out Of Control』の音楽的な核は、80年代初頭に台頭したシンセサイザーやドラムマシン(リンドラムなど)の電子音を大胆に取り入れつつも、決して冷機なサウンドに陥らせない、絶妙なグルーヴのコントロールにある。
プロデュースはもちろんレイ自身が手掛け、クリアで空間の広がりを感じさせるモダンな音響空間を構築。甘くささやくような彼のボーカル・スタイル(スウィート・ボイス)を最大限に活かすため、重厚なファンク・ベースの裏で、きらびやかなキーボードの旋律とカッティング・ギターが精緻に編み込まれている。このスマートなサウンド・メイクは、のちのR&Bやアシッド・ジャズ、さらには現代のローファイ・ヒップホップやネオ・ソウルにも通じる普遍的な心地よさを備えている。

主要楽曲の分析:官能的なバラードとスマートなダンス・ナンバーの共存

「I Still Can't Get Over Loving You(邦題:I・Still・愛してる)」

アルバムのリード・シングルであり、全米ポップ・チャートで12位、R&Bチャートで1位を獲得した本作のハイライトである。切ないメロディ・ラインと、レイの甘く哀愁を帯びたボーカルが胸を打つ極上のミディアム・バラードに仕上がっている。シンセサイザーの静かなリフレインが楽曲のドラマ性を高めており、邦題のインパクトも相まって、日本のファンにとっても彼を代表する一曲として記憶されている。

「Woman Out Of Control」

アルバムのタイトル・トラックであり、エレクトロ・ファンクの鋭さが際立つアップテンポなナンバーである。タイトな打ち込みのビートに乗せて、レイの切れ味鋭いギター・カッティングと都会的なシンセ・ベースが激しく交差する。ダンス・フロアを意識したファンキーな高揚感がありながらも、全体のトーンはあくまでクールに抑えられており、彼のスマートなアレンジ能力が光る楽曲である。

「In the Heat of the Night」

アルバムの後半を彩る、アーバンな夜の情景が浮かぶような洗練されたミディアム・スロウ・ナンバーである。抑制されたリズム隊の上で、浮遊感のあるシンセ・パッドとレイのささやくようなボーカルが重なり合い、極上のAOR空間を作り出している。派手さこそないものの、アルバム全体のクオリティの高さと、当時のブラック・コンテンポラリーの洗練美を象徴する隠れた名曲である。

時代の寵児へ:『ゴーストバスターズ』前夜の職人的エレクトリック・ファンク

本作でエレクトロ・アーバン・ファンクの極致を極めたレイ・パーカーJr.は、この翌年(1984年)に映画『ゴーストバスターズ』の主題歌を手掛け、世界的な大ブレイクを果たすこととなる。しかし、その爆発的なヒットの影で、本作で見せたような繊細でメロウなソウル・ミュージックとしての側面は、やや大衆の記憶から薄れていくことになった。
メンバーの変遷が激しかったレインボーと同様、時代の変化とともにソロ・アーティストとしてのパブリック・イメージが激変していったレイであったが、この1983年に彼が残した『Woman Out Of Control』の洗練されたグルーヴは、80年代ブラック・ミュージックが到達した一つの美しい頂点として、今なおレコード棚の中で眩い光を放ち続けている。

Woman Out Of Control (bonus Tracks Edition)
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2026年10月14日水曜日

様式美からポップスへの完全なる昇華:『Difficult To Cure(アイ・サレンダー)』が証明したリッチー・ブラックモアの先見性

 商業的成功の頂点へ:ジョー・リン・ターナーの加入とバンドの世界的躍進

前作『Down To Earth』でグラハム・ボネットを擁し、ポップ路線への大胆なシフトチェンジを成功させたレインボーであったが、その新体制も長くは続かなかった。グラハムの脱退という新たな危機を迎えたリッチー・ブラックモアが、1981年に発表した5枚目のスタジオ・アルバムが『Difficult To Cure(邦題:アイ・サレンダー)』である。

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リッチーが次なる「声」として白羽の矢を立てたのは、元ファンダンゴのジョー・リン・ターナーであった。グラハムの圧倒的な声量とシャウトとは対象的に、ジョーの歌声は極めてメロディアスで、洗練された都会的なセンスを持ち合わせていた。このフロントマンの交代こそが、リッチーの求めていた「アメリカのラジオで流れる、洗練されたキャッチーなハード・ロック」という理想を完璧に具現化することとなる。アルバムは全英チャートで3位を記録し、バンドにとって商業的な全盛期を告げる決定的な一枚となった。

音楽的特徴:AORの洗練と様式美ハード・ロックの奇跡的な融合

『Difficult To Cure』の最大の音楽的特徴は、前作で芽生えたポップ路線が、ジョーの加入によって「AOR(アダルト・オリエンテッド・ロック)的な洗練」へと完全に開花した点にある。プロデュースは前作に引き続きロジャー・グローヴァーが担当し、よりクリアで、きらびやかなキーボードの旋律が際立つモダンなサウンドを作り上げた。
しかし、単なるポップ・ロックに終始しないのがリッチー・ブラックモアの真骨頂である。新加入のジョーによるキャッチーな歌メロの裏では、リッチーの切れ味鋭いギターリフと、ドン・エイリーによるクラシカルなキーボード・ワークが火花を散らしている。様式美ハード・ロックの骨格を残しながら、80年代という新しい時代の空気を存分に吸い込んだサウンドは、のちのメロディアス・ハード・ロック・シーンに計り知れない影響を与えることとなった。

主要楽曲の分析:ポップ・アンセムとクラシカルな大作の共存

「I Surrender(アイ・サレンダー)」

前作の「Since You Been Gone」に続き、ラス・バラードが手がけた楽曲のカバーである。ジョー・リン・ターナーの甘くエモーショナルなボーカルと、完璧に構築された美しいメロディラインが見事に融合し、全英シングルチャートで4位の大ヒットを記録した。リッチーのギターソロも曲のキャッチーさを一切邪魔せず、楽曲のドラマ性を高めることに徹しており、新生レインボーの方向性を決定づけた至高の名曲である。

「Spotlight Kid(スポットライト・キッド)」

アルバムの幕開けを飾る(※レコードではA面2曲目)、ライブでも定番となった超高速ハード・ロック・ナンバーである。コージー・パウエルの後任として加入したボビー・ロンディネリのタイトなドラミングに乗せて、リッチーのネオクラシカルなギターソロとドン・エイリーのシンセサイザーによる激しいソロ・バトルが炸裂する。往年の様式美ファンをも完全に納得させる、アルバム随一のスピード・チューンである。

「Difficult To Cure(ベートーベン第九:アイ・サレンダー)」

ベートーベンの「交響曲第9番(歓喜の歌)」をロック・インストゥルメンタルへと大胆にアレンジした、アルバムのハイライトとなるタイトル曲である。クラシック音楽への深い造詣を持つリッチーのギター・プレイが縦横無尽に駆け巡り、ドン・エイリーのモダンなキーボード・アレンジが楽曲を壮大に彩る。ユーモアと緊張感が同居したこの大作は、リッチー・ブラックモアというギタリストの孤高の天才性を改めて世に見せつける結果となった。

相次ぐ脱退劇とディープ・パープル再結成による終焉

本作でアメリカ市場を見据えたポップ・ハード路線を確立したレインボーであったが、その代償としてバンドの結束力は次第に脆くなっていった。リッチーの完璧主義と目まぐるしい方針転換は、皮肉にもこれ以降、さらなる相次ぐ脱退劇を引き起こす原因となる。
次作『Straight Between the Eyes(ストレート・ビトゥイーン・ザ・アイズ)』の制作を前に、サウンドの要であったドン・エイリーが脱退。さらにその後はボビー・ロンディネリもバンドを去るなど、アルバムをリリースするたびにメンバーが入れ替わる不安定な状況が続いた。ジョーの卓越したボーカルによって『Bent Out of Shape(ストリート・オブ・ドリームス)』などの佳作は生み出されたものの、かつての黄金期のようなバンドとしての爆発的な推進力は徐々に失速していった。
そして1984年、レインボーの歴史に決定的な終止符が打たれる。ロック界その年最大のトピックとなった「ディープ・パープル第2期メンバーによる再結成」の実現である。リッチーとロジャー・グローヴァーがパープルへの復帰を選択したことにより、レインボーはその活動を完全に停止。80年代のハード・ロック・シーンに多大な影響を与えた名バンドは、首謀者であるリッチーの古巣回帰という形で、そのドラマチックな歴史に幕を閉じたのである

アイ・サレンダー(SHM-CD) - レインボー
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【名盤考察】レインボー 『ダウン・トゥ・アース』

 商業的ブレイクとポップ路線の開花:グラハム・ボネットを迎えた、新生レインボーの一大転換点

1970年代の様式美ハード・ロック・スタイルを堅持するために欠かせないボーカリスト、ロニー・ジェイムス・ディオの脱退は、まさにレインボー最大の危機だった。そしてこの危機に瀕してリッチー・ブラックモアが選んだ道は、過去の幻想的な世界観の踏襲ではなく、よりストレートでキャッチーなアメリカン・ロックへの大胆な舵取りであったのだから、リッチー御大、やはりとんでもないお人であった。
1979年に発表された4枚目のスタジオ・アルバム『Down To Earth(邦題:ダウン・トゥ・アース)』は、新ボーカリストにグラハム・ボネット、ベースに元ディープ・パープルのロジャー・グローヴァー(プロデュース兼任)らを迎え、バンドの商業的ブレイクを決定づけた重要作である。

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孤高のギタリストが求めた、新しいアプローチ

前作『バビロンの城門』までに築き上げた「中世の騎士や魔法」といったファンタジー要素から脱却し、より現実的でモダンなロックを目指したリッチー・ブラックモアの意図は、アルバムのタイトル(「地に足の着いた」の意)にも明確に表れている。
ロニーの叙情的な歌唱に代わってバンドの顔となったグラハム・ボネットは、およそハード・ロックのシンガーとは思えない短髪にスーツ姿という異色のビジュアルでありながら、圧倒的な声量と強烈なハイトーン・シャウトを誇る実力派であった。彼のソウルフルでブルージーな歌声は、リッチーが求めていた「ラジオに映えるキャッチーなロック・サウンド」を具現化する最高のピースとなったのである。また、名ドラマーであるコージー・パウエルが本作まで残留していることも、アルバムの骨太な推進力を維持する上で決定的な役割を果たしている。

音楽的特徴:洗練されたポップ・センスと骨太なハード・ロックの共存

『Down To Earth』の最大の音楽的特徴は、リッチーのエッジの効いたリフとコージーのヘヴィなドラミングというレインボー本来の強みを活かしつつ、シングルヒットを意識した明快なメロディラインを大胆に取り入れた点にある。
ロジャー・グローヴァーによる緻密なプロデュースワークは、各楽器の分離を良くし、洗練されたモダンな音像を作り出すことに成功した。新加入のキーボーディスト、ドン・エイリーによるきらびやかなシンセサイザーの導入も、バンドのサウンドにカラフルな彩りを添えている。様式美の呪縛から解き放たれ、よりダイナミックでノリの良いロックンロールへと進化を遂げたサウンドには、リリース当時ずいぶん驚いたし、何度も繰り返し聴いた記憶がある。

主要楽曲の分析:時代を席巻した新生レインボーのアンセムたち

「Since You Been Gone(シンス・ユー・ビーン・ゴーン)」

ラス・バラードが手がけた楽曲のカバーであり、新生レインボーの方向性を決定づけた記念碑的シングルである。ポップで極めてキャッチーなサビと、リッチーの弾むようなギターリフが見事に融合している。グラハムのパワフルなボーカルが曲を単なるポップ・ソングに終わらせず、一級品のハード・ロック・アンセムへと昇華させており、全英シングルチャートで大ヒットを記録した。
ラス・バラード版も聴いてみたが、オリジナルのアレンジに忠実に、しかしハードロックの質感が感じられるように演奏されていて、これはまさに名演。特にコージー・パウエルが叩いているだけで、まるで別物になるのはまさにマジック。

「All Night Long(オール・ナイト・ロング)」

アルバムのオープニングを飾る、ストレートでアーバンなロック・ナンバー。リッチーの手によるシンプルながらも一度聴いたら忘れられない強力なリフが楽曲を牽引する。グラハムのワイルドなシャウトとフックの効いたコーラスは、ライブにおける新たな定番曲として観客を熱狂させた。

「Eyes Of The World(アイズ・オブ・ザ・ワールド)」

かつての大作主義の系譜を継ぐ、ドラマチックでヘヴィなミドルテンポの楽曲である。ドン・エイリーによる壮大なシンセサイザーのイントロから始まり、クラシカルな旋律を好むリッチーのギターソロが炸裂する。新路線へと移行しつつも、バンドの根底にある緊迫感と様式美が健在であることを示した、アルバム随一のディープな名曲である。

激動の時代を生き抜いたリッチー・ブラックモアのビジネス・センス

『Down To Earth』というアルバムは、パンク/ニュー・ウェイヴの台頭によって多くのオールド・ロック・バンドが淘汰されていく中、自らの音楽性を時代に適応させてみせたリッチー・ブラックモアの天才的なバランス感覚の産物である。
ロニー時代を至高とするファンからは賛否を呼んだものの、本作が提示した「ハードでありながらポップでキャッチー」というフォーマットは、1980年代に世界的な大ブームとなるLAメタルや商業的ハード・ロックの先駆的なモデルとなった。リッチー師匠のセルフプロデュースによる黒魔術的イメージにすっかり騙されるが、こんな絶妙なビジネス・センスを隠し持っていたとは・・・これはもう脱帽するしかない。

ダウン・トゥ・アース(SHM-CD) - レインボー
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魂のルーツと邂逅する、沈黙のストーリーテラー|『How To Become Clairvoyant』に秘めたロビー・ロバートソンの記憶と美学

  1970年代のロック黄金期を築き上げた伝説のグループ「ザ・バンド」のメイン・ソングライターであり、ギタリストであったロビー・ロバートソン。彼が2011年に発表した5作目のソロ・アルバム『How To Become Clairvoyant(ハウ・トゥ・ビカム・クレアヴォヤント)...