1971年11月にリリースされたレッド・ツェッペリンの4枚目のアルバムは、全世界で3,700万枚以上のセールスを記録し、「Stairway to Heaven(天国への階段)」というロック史を代表する名曲を収録した怪物的一枚である。
しかし、このアルバムを語る上で避けて通れないのが、アルバムタイトルをめぐる騒動である。
ジャケット、背表紙、インナースリーブに至るまで、文字によるタイトルやバンド名すら一切クレジットされていない、というこの徹底した「無題」のスタンスと、そこに隠された深層を紐解いていく。
1. 「呼び名」の変遷:なぜこれほど多くの名前を持つのか
本作は公式なタイトルがないため、時代や文脈、メディアによって様々な呼称で呼ばれてきた。
『Led Zeppelin IV(レッド・ツェッペリン IV)』
前3作の流れから、レコード会社や一般のリスナーが最も自然に用いた便宜上のタイトル。現在、ストリーミングサービスやCDの表記でもこれが主流となっている。
『Four Symbols(フォー・シンボルズ)/ 4 Symbols』
内袋やレーベル面に印刷された「4つの奇妙な記号」に由来する呼び名。
『Untitled(アンタイトルド/無題)』
文字通り、タイトルが存在しないという事実そのものを指す呼称。
『Zoso(ゾソ)』
4つの記号のうち、ギタリストのジミー・ペイジが選んだとされる左端の記号が「Zoso」と読めることから、ファンの間で定着した愛称。
2. 「無題」に踏み切った「ご乱心」の背景:メディアへの強烈な反骨心
なぜ、人気絶頂にあったバンドが、商業的なリスクを冒してまでタイトルを排除したのか。その理由は、前作『Led Zeppelin III』(1970年)に対する音楽メディアからの酷評にあった。
アコースティックサウンドを大胆に取り入れた前作に対し、当時の批評家たちは「ツェッペリンの終焉」「単なる流行りのフォークの模倣」と冷酷な評価を下した。これに激怒したのが、バンドの頭脳であるジミー・ペイジである。
「俺たちの音楽は、バンド名やジャケットの能書きという『ブランド』で評価されているのではないか」
そう確信したペイジは、「一切の文字情報を排除し、音楽そのものだけで勝負してやる」という極端な実験を思いつく。
レコード会社(アトランティック)は「商業的自殺行為だ」と猛反対したが、バンド側は一歩も引かず、最終的にこの「完全なる無題」を押し通した。結果として、音楽が完璧であれば言葉など不要であることを、彼らはセールスと評価の両面で証明してみせたのである。
3. 4つの記号(フォー・シンボルズ)が意味する深層
文字の代わりに提示されたのが、メンバー4人がそれぞれ自身を表現するために選んだ「4つの記号」である。ここには、特にオカルトや神秘主義に傾倒していたジミー・ペイジの意図が強く反映されている。
4. 聴き手を選ぶジャケット:表面の「老人」と中面の「隠者」
アルバムのアートワーク自体も、この神秘性をさらに加速させている。
表ジャケットに描かれているのは、剥がれかけた壁紙と、薪を背負った一人の老人の絵画。これはジミー・ペイジがイギリスのレディングにある古物商で見つけた本物の絵である。そして見開き(ゲートフォールド)の中面には、タロットカードの「隠者(The Hermit)」をモチーフにした不気味な人物が、暗闇の中でランタンを掲げて立っている。
都会の荒廃したビル群(裏ジャケット)を背景に、自然の中に生きる老人や、真理の光を掲げる隠者を配置することで、彼らは「近代文明への批評」と「内省的な精神世界への旅」を視覚的に提示したのだ。
謎であること自体が、この音楽を永遠にした、のか?
もしこのアルバムに、普通に『Led Zeppelin IV』というタイトルが冠され、メンバーの顔写真が並んでいたら、ここまでの神話性は生まれなかったかもしれない。
タイトルを持たないということは、聴き手に対して「この音をどう定義するかは、お前たち次第だ」という強烈な問いかけでもある。針を落とした瞬間に鳴り響く「Black Dog」の野生味、そして「Stairway to Heaven」が紡ぐ神秘のレイヤーは、この名もなきジャケットという額縁に収められてこそ、完全なる芸術として成立する。
私たちは今もなお、彼らが仕掛けた「4つの記号」の迷宮の中で、その圧倒的な音響に狂わされ続けているのである。
レッド・ツェッペリンIV<2014> - レッド・ツェッペリン2014>


























