2024年3月10日日曜日

NHK-BS版『舟を編む』と『新明解国語辞典』の語釈について

NHK-BSで現在放送中の『舟を編む』がとても良い。
 
エライザ好きということもあるが、『舟を編む』原作が持つ「言語」と「世界」との関係への深い洞察が、今回の映像化にも貫かれているところに好感を持っている。
 
アニメ化、実写映画化と映像化が続いた作品だが、NHKドラマ版がもっとも原作改変度が大きいようだ。もっとも原作に忠実な映像化の(だと思う)アニメ版を再見してみると、改めてアニメ的文脈での巧みな表現に溢れていて、結局一気見してしまった。
今回改めて感じたのは香具矢役の声優坂本真綾さんの相変わらずの天才ぶりだ。
香具矢という人はある種の変人である馬締を実社会に繋ぎ止めるアンカーである。そのために必要な重心を維持しながら彼に好感を持っていく微妙な心風景を声の温度感だけで表現している。数々の名人芸を堪能してきた真綾様だが、本作でのそれも格別だ。

原作からの改変度をリードするのはどの映像化においても岸辺みどりが担う。
今回のNHK版でも副詞の「ーなんて」を素材に、繰り返し繰り返し言葉が先行して人の行動を制御する様を描いて、まさにこのシーンのためのエライザ起用だろう。
感心して、ふと思い立って家にある三省堂の 「新明解」で「ーなんて」を引いてみて、ドラマより一段突っ込んだ語形変化からの語釈にまた感心してしまった。
 
昨年亡くなった父も辞書には思い入れのある人だった。
中学生になる春に、学校推奨の英和辞典とは異なる三省堂の「コンサイス英和辞典」を買ってきた。僕は他の誰よりも父のことを信頼していたし、本革装のこの辞書の存在感が一目で気に入ったので、みんなと辞書が違うことはまったく気にならなかった。
 
だから自分の娘が中学に入るときには、国語辞典にその当時話題になっていた同じ三省堂の 「新明解」を買い与えたのだが、今になってその判断が間違っていなかったことを確認できた。
 
この二つの辞書は今も僕の書棚の端っこで、困ったときにインターネット検索とは異なる答えをくれる。 信頼とはこういうことを言うのだと思う。
 


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