1970年、ロック史に燦然と輝く一枚の名盤が誕生した。元トラフィック(Traffic)のメンバーであり、稀代のメロディメーカーであるデイヴ・メイソン(Dave Mason)が放ったファースト・ソロ・アルバム『Alone Together』である。
音楽評論家の萩原健太氏が「ジョージ・ハリスンの『オール・シングス・マスト・パス』と背中合わせに存在する一枚として記憶されるべき名盤」と評したことでも知られるこの作品は、今なお多くのルーツ・ロック・ファンを魅了し続けている。
そして2020年、この偉大な足跡をデイヴ自らが「再想像(Re-imagined)」し、現代に蘇らせたアルバムが本作『Alone Together Again』である。オリジナル盤のリリースから50年という半世紀の節目を経て、なぜ彼はこの名盤を再び録音し直したのか。その背景と、本作が持つ音楽的魅力に迫る。

デイヴ・メイソンと「スワンプ・ロック」の蜜月
デイヴ・メイソンを語る上で欠かせないのが、1970年前後にアメリカ西海岸を中心に吹き荒れた「スワンプ・ロック」のムーブメントである。英国出身のデイヴはトラフィックのアメリカ遠征などを経て西海岸へと渡り、デラニー&ボニーやレオン・ラッセルといった、当時の泥臭くもアーシーなアメリカン・ルーツ・ミュージックを体現する強力な人脈と合流した。
オリジナル盤『Alone Together』は、まさにその瑞々しい化学反応が凝縮された、広大なスワンプ沼の中でもとびっきりの名盤となったのである。
なぜいま、録り直しなのか?『Alone Together Again』の音楽的特徴
本作『Alone Together Again』における最大の聴きどころは、デイヴ本人がこだわった「ボーカルの深み」にある。
オリジナル盤で見せた20代の若々しくエネルギッシュな歌唱も色褪せることはないが、70代を迎えたデイヴが全曲を歌い直した本作には、半世紀の人生の重みと年輪を感じさせる圧倒的な説得力が宿っている。サウンド面においても、単なる過去の再現(リレコーディング)にとどまらず、楽曲の核心を突くような熟練のアプローチが随所に光る。
また、本作の特筆すべき点として、アナログ盤(LP)の美しさが挙げられる。オリジナル盤でも当時話題を呼んだマーブル柄のカラー・ヴァイナル仕様が踏襲されており、ターンテーブルの上で回り続ける美しい盤面と、その上を泳ぐカートリッジの姿は、視覚的にもいつまでも見ていられる不思議な高揚感を与えてくれる。
主要楽曲の分析とオリジナル盤との対比
「Only You Know and I Know」
オリジナル盤ではデラニー&ボニーらによるゴスペルライクなコーラスと、デイヴのハツラツとしたカッティングが印象的だった代表曲。本作では、テンポやアレンジにベテランならではの絶妙な「タメ」とファンキーなグルーヴが加わり、よりレイドバックした大人のスワンプ・ロックへと昇華されている。
「Shouldn't Have Took More Than You Gave」
デイヴの卓越したギター・ワークが堪能できるエモーショナルな楽曲。オリジナル盤のシャープなアコースティック・ギターとエレキ・ギターの絡み合いに対し、本作ではよりアーシーで骨太なトーンが強調され、ボーカルの渋みと相まって楽曲の持つ哀愁がより一層深まっている。
「Look at You Look at Me」
ジム・キャパルディとの共作であり、ドラマチックな展開を見せる名曲。ここでのデイヴの歌唱には、オリジナル盤の張り詰めた緊張感とは異なる、包容力とどこか達観したような穏やかさが漂う。メロディの美しさが、現代の洗練された録音技術によってさらに際立っている。
総評:50年の時を超えて響く、もう一つのマスターピース
萩原健太氏の言葉通り、ジョージ・ハリスンの歴史的名盤と並び称されるべき『Alone Together』。
その遺伝子を継いだ『Alone Together Again』は、かつてスワンプ・ロックの熱気に胸を躍らせた往年のファンはもちろん、これからルーツ・ミュージックに触れようとする若い世代にとっても、デイヴ・メイソンという偉大な音楽家の「現在地」を知る上で必聴の一枚である。
ターンテーブルにマーブル盤を載せ、針を落とした瞬間、深みの増したスワンプの沼へ再び心地よく引きずり込まれるに違いない。

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