ボズ・スキャッグスは、ブルースやR&Bをベースにした洗練された都会的サウンド、いわゆる「AOR」というジャンルを確立した代表的アーティストである。1976年の『Silk Degrees』で商業的・音楽的な頂点を極めた彼が、その翌年に満を持して放ったのが本作『Down Two Then Left』である。
前作の洗練された路線を踏襲しつつも、本作はさらに一歩AORの核心へと立ち位置を寄せており、よりメロウで硬質な都会の夜を思わせるグルーヴが特徴となっている。
TOTO結成へのカウントダウン、豪華な参加ミュージシャン
元記事でも触れられている通り、本作の最大の聴きどころの一つが、のちに伝説的バンド「TOTO」を結成する天才ギタリスト、スティーブ・ルカサーの参加である。
前作『Silk Degrees』ではデヴィッド・ペイチ(Key)やジェフ・ポーカロ(Dr)といった面々がボズを支え、それがTOTO結成の引き金となったことは有名だが、本作『Down Two Then Left』にルカサーが加わったことで、ついに「TOTOの原型」が完成を見ることになる。
また、前作で作曲とキーボードの要を担ったデヴィッド・ペイチに代わり、本作ではマイケル・オマーティアンが全面的にバックアップ。ボズとの共作を多く手掛け、アルバム全体に緻密で洗練されたアレンジを施している。
さらに、西海岸のトップギタリストであるジェイ・グレイドンや、ボズ・スキャッグス本人によるギターソロもフィーチャーされており、ギターファンにとっても非常に聴き応えのある作品に仕上がっている。
『Down Two Then Left』の音楽的特徴と主要楽曲分析
本作は、前作のポップさと比較して、よりファンキーかつフュージョン色を強めたサウンドが特徴である。緻密に構築されたリズムセクションと、都会的なコード進行が絶妙に融合している。
1. Still Falling For You
アルバムの幕開けを飾る、極上のミディアム・テンポ・ナンバー。マイケル・オマーティアンの洗練されたキーボードワークと、ボズの甘く哀愁を帯びたボーカルが完璧な調和を見せる。都会的な夜のドライブに最適な、本作の方向性を決定づける名曲である。
2. Hard Times
ブルージーでありながらも洗練された、ボズの真骨頂とも言える楽曲。切れ味の鋭いカッティングギターと重厚なベースラインが心地よいグルーヴを生み出している。中盤から後半にかけて展開されるエモーショナルなギターソロは、本作のハイライトの一つである。
3. Hollywood
ディスコ・フィジカルな要素を取り入れたファンキーなトラック。当時のクロスオーバー・シーンを反映したかのような軽快なカッティングと、タイトなドラムが楽曲を推進する。AORが持つ「洗練された踊れる音楽」としての側面を見事に体現している。
贅沢なギターの競演と、時代を超越するサウンド
本作の魅力をさらに高めているのが、個性豊かなギタリストたちの競演である。スティーブ・ルカサーの若き日の情熱的なプレイ、ジェイ・グレイドンの緻密で計算されたスタジオワーク、そしてボズ自身のブルースに根ざしたエモーショナルなギター。それぞれのソロやオブリガートが、楽曲に多彩な色彩を与えている。
『Silk Degrees』という巨大な成功作の直後というバイアスを外して聴けば、本作がいかに高水準なAORアルバムであるかが理解できるはずである。
TOTO前夜の熱気と、西海岸の一流ミュージシャンたちが織りなす極上のアンサンブルを、ぜひその耳で確かめてほしい。

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