現代アメリカSFの女王、コニー・ウィリス。
彼女の特集が組まれた『SFマガジン』2013年7月号に掲載された短編「エミリーの総て」が面白いと友人から聞いたのが、すべての始まりでした。
「でも『エミリーの総て』は、名画『イヴの総て』という映画を下敷きにしているから、できれば映画を観てから読んだほうがいいよ」
そうアドバイスをもらったものの、その映画を観るまでに、まずは一苦労することになります。
名作を求めて:ワンコイン版へのこだわりと、我が善き友
まずは近所のTSUTAYAに駆け込みましたが、結果は「お取り扱いありません」。
ならば名画だし買ってしまおうと調べるも、現在流通しているのはワンコイン(500円)の簡易版ばかり。
私はあのワンコイン版で映画を観ると、作品そのものがみすぼらしく思えてしまう質(たち)なのです。
すでに生産を終えた「スタジオ・クラシックス版」の在庫を求めてタワーレコードまで出かけましたが、そこにも在庫はなく、最後の手段であるワンコイン版すら大手書店で見当たらない始末。
困り果てていたところ、件の友人がスタジオ・クラシックス版を快く貸してくれました。ようやく鑑賞にこぎつけ、持つべきものは善き友だとしみじみ痛感したものです。
全盛期のベティ・デイヴィスが魅せる、圧倒的な演技力
さて、『イヴの総て』というタイトルですから、アン・バクスター演じるイヴ・ハリントンが策略を巡らせて演劇界をのし上がっていくサクセスストーリーかと思いきや、何よりもベティ・デイヴィスの存在感が凄まじい作品でした。
私がこれまで観たことのあるベティ・デイヴィス出演作といえば『八月の鯨』のみ。往年の名女優が実年齢で人生の黄昏を演じるというコンセプトでしたが、当時はその魅力を十全に味わいきれていませんでした。しかし、ここでついに「全盛期のベティ・デイヴィス」に出会えたのです。
作中で彼女が演じるマーゴ・チャニングは、現実の彼女に近い役どころ。全盛期だからこそ、この後に訪れる衰えを恐れています。
しかし、「愛や生というものは、その時々のものを慈しめば良いのだ」と気づいてからの彼女は、まるで別人のように変化します。その演技は本当に憑依したかのようで、劇中のマーゴは内側から光り輝いて見えました。彼女の鏡像のように印象を変えていくイヴの不気味さも、ベティの圧倒的な演技があってこそ引き立つものです。
視線を独占する、特別なマリリン・モンロー
そして、この映画でチャンスを掴んでブレイクしていくマリリン・モンローの、あの特別な空気感はいったい何でしょうか。
彼女はまだ脇役でありながら、そこに佇んでいるだけで、その場の空気をさっとすべて攫っていってしまう。その後の数々の主演作では逆に観ることができなくなってしまった、初々しくも圧倒的な「スペシャルなマリリン」がここにいます。彼女を観るためだけでも、この映画を再生する価値があります。
ハイセンスな台詞回しが紡ぐ、至高の「演劇賛歌」
この映画に用意された台詞は、どれもハイセンスなユーモア精神によって磨き抜かれたものばかり。耳にしているだけで「舞台芸術って、やっぱりいいものだなあ」と贅沢な気持ちにさせてくれます。演出家や脚本家が、時折興奮気味に語る演劇論も実に小気味いい。
人気商売ゆえのドロドロとした人間模様も描かれながらも、根底にあるのは「やっぱり舞台って最高だよね」という純粋な演劇賛歌。
コニー・ウィリスのSF短編を読むための予習のつもりでしたが、映画そのものの魅力にすっかり平伏してしまった、忘れられない一本です。


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