スペース・オペラの原点!『火星シリーズ』全体の概要
『火星シリーズ』は、地球人ジョン・カーターが、未知の生態系と高度な文明、そして荒々しい部族抗争が渦巻く赤き惑星「バルスーム(火星)」へと転移し、縦横無尽に駆け巡る壮大な惑星冒険ファンタジー(惑星ロマンス)です。
創元SF文庫からは、武部本一郎氏によるあまりにも美しい伝説的な挿絵とともに長年親しまれてきました。
SF少年たちの初恋はデジャー・ソリスかジョオン・ランドールかに相場が決まっていましたが、この挿絵のおかげでデジャー派が一歩リード、ジョオン派の私はちょっと悔しかったのを覚えています。その後鶴田謙二版のジョオンが創元SF文庫に現れ、互角の勝負になったことは、まことに嬉しい出来事でした。
本作の最大の魅力は、20世紀初頭に書かれたとは思えないほどの圧倒的な世界観の構築にあります。重力が地球より軽いため超人的な跳躍力を発揮する設定や、緑色人・赤色人といった多様な火星人類の生態、奇妙な火星生物たち。緻密でエキゾチックな設定が、読者を一瞬にして異世界へと引き込みます。
今回はシリーズの幕開けであり、ひとつの巨大な大河ドラマとして完結する「初期3部作」を1作ずつ紐解いていきましょう。
第1作:『火星のプリンセス』~運命の出会いと赤き惑星の衝撃~
【あらすじ】
南北戦争の退役軍人であるジョン・カーターは、アリゾナの洞窟で先住民に追われ、奇妙なガスに包まれて意識を失う。目が覚めると、そこは重力が地球の数分の一しかない、滅びかけの衰退した惑星・火星(バルスーム)だった。
並外れた身体能力を見初められ、好戦的な「緑色火星人」の捕虜となったカーターだったが、やがて高度な文明を持つ「赤色火星人」の都市国家ヘリウムの王女、デジャー・ソリスが捕らえられてくる。彼女の気高く美しい姿に心を奪われたカーターは、彼女を救うために命がけの脱出を試みるが――。
第2作:『火星の女神イサス』~偽りの宗教と地底世界の闇~
【あらすじ】
前作の衝撃的な結末から10年後、ふたたび火星へと戻ることに成功したジョン・カーター。しかし、彼が降り立ったのは、火星の人々から「天国」と信じられている、伝説のイサス川が流れ込む南極の「ドール谷」だった。
だが、そこは天国などではなく、謎の植物人間や「白黒の火星人」が支配し、巡礼に訪れた人々を奴隷として貪り食う恐るべき地獄だった。さらに、火星全土で全知全能の神として崇められている「女神イサス」の狂気と残酷な正体を暴いてしまったカーターは、火星の古い信仰そのものを敵に回す、あまりにも危険な戦いへと身を投じていく。
第3作:『火星の大元帥カーター』~宿敵との決戦、そして伝説の英雄へ~
【あらすじ】
偽りの神イサスを打倒したものの、最愛の妻デジャー・ソリスは、1年に1度しか開かない太陽寺院の暗黒の監獄へと閉じ込められてしまう。妻を救い出すため、カーターは火星に残された未知の領域、氷に閉ざされた「北極地方(黄色火星人の国)」へと追跡を開始する。
あらゆる部族の陰謀が渦巻き、絶体絶命の危機が連続するなか、カーターは火星の全種族を巻き込む未曽有の大決戦へと突き進む。愛する人を奪還し、火星に真の平和をもたらすため、地球人ジョン・カーターの最後の死闘が始まる!
ここが面白い!初期3部作の圧倒的な見どころ
1. 100年経っても色褪せない「ノンストップの躍動感」
バローズの筆致は、とにかくスピーディーでエネルギッシュです。1ページ先では包囲され、次のページでは決闘が始まり、その次には新たな怪物が襲いかかってくる。この過剰なまでのイベントの連続とテンポの良さは、現代のエンタメ小説やライトノベルの源流そのものです。
2. 「異文化交流」と友情のドラマ
単なる勧善退治の冒険譚にとどまらず、価値観の全く異なる種族との交流が深く描かれています。特に、冷酷な緑色火星人の戦士タルス・タルカスと、地球人であるジョン・カーターとの間に芽生える、種族を超えた熱い友情のドラマは、シリーズを通しての屈指の涙腺崩壊ポイントです。
3. メディアに影響を与え続ける「ビジュアルの美しさ」
繰り返しにはなりますが、創元SF文庫版を語る上で外せないのが、武部本一郎氏によるカバーイラストと挿絵です。バローズが描いたエキゾチックで少しエロティックな火星のコスチュームや、美しき王女デジャー・ソリスの姿を見事に具現化したそのビジュアルは、文字通り日本のSFファンに決定的なイメージを植え付けました。本を開くだけで、異郷への郷愁を誘うアートとしても一級品です。
総評:全SFファンが一度は通るべき、幸福な冒険の旅
現代のリアルな科学的知見から見れば、この『火星シリーズ』に描かれる火星は「あり得ないファンタジー」かもしれません。
しかし、ここにあるのは、かつて人類が夜空を見上げて抱いた「あそこには、誰も見たことがない壮大な文明と、命をかけるに足る冒険が待っているかもしれない」という、純粋無垢なロマンそのものです。
500年の時を超える切なさを描いた『500年の恋人』とはまた一味違う、100年の時を超えて語り継がれる「人間の勇気と愛」のストレートな熱量を、ぜひ創元SF文庫のページをめくって体感してみてください。赤き惑星バルスームは、いつでもあなたを待っています!

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