はじめに:平成のエラリー・クイーンは伊達じゃない!
“平成のエラリー・クイーン”は、本家エラリーの代表作である『Yの悲劇』の極めて重要舞台設定である『館』を、後続の大ミステリ作家たちが、覇を競って独創的な『館』を産み続けてきた、その舞台装置を、こともあろうに『体育館』にしてしまったのです。
これだけですでに「只者じゃない」感たっぷりです。
それでも、デビュー作『体育館の殺人』を読んだ当初、頻繁に引用されるサブカルネタの多さに「賞味期限が短かくなっちゃうんじゃ?」と少し気になっていました。しかし、スピンオフ短編集『風ヶ丘五十円玉祭りの謎』を久しぶりに手に取ったことで、その認識は一変。キャラクター小説としての書き方の巧みさに惹かれ、そのまま『水族館の殺人』、最新刊の『図書館の殺人』まで一気読みしてしまいました。
実は、本家エラリー・クイーンの一分の隙もないが故に少しクドすぎる(?)推理描写が苦手な私。しかし、青崎有吾さんが描くロジックは驚くほどスマートで、ちっとも面倒な感じがありませんでした。
今回は、そんな裏染天馬シリーズの「館」を舞台にした初期3長編のあらすじと見どころを、ネタバレなしでご紹介します!
体育館の殺人 〈裏染天馬〉シリーズ (創元推理文庫)
1. 『体育館の殺人』:密室から始まるシリーズの原点
まずは、第22回鮎川哲也賞を受賞したシリーズ第1作目です。
あらすじ
雨が降りしきる放課後、風ヶ丘高校の旧体育館で放送部の男子生徒が刺殺される事件が発生。現場は完全な「密室」状態であり、警察は体育館内にいた唯一の人物、女子卓球部部長の犯行だと決めつけます。卓球部員の袴田柚乃(はかまだ ゆの)は部長を救うため、学内一の天才でありながら、校内の一室に住み着くアニメオタクの駄目人間・裏染天馬(うらぞめ てんま)に事件の解決を依頼することに……。
ここが見どころ!
「学校の体育館」という、誰もが馴染みのあるシンプルな空間を舞台にしたガチガチの本格密室ミステリです。
探偵役・裏染天馬のキャラクター設定(報酬がまさかの10万円!)などのコミカルさとは裏腹に、現場に残された手がかりから犯人を絞り込んでいくロジックは超一流。「読者への挑戦状」が挿入される、クラシカルでフェアな謎解きが堪能できます。
体育館の殺人 〈裏染天馬〉シリーズ (創元推理文庫)
2. 『水族館の殺人』:容疑者11人!怒涛のアリバイ崩し
前作の「密室」に続き、第2作目のテーマは「アリバイ」です。
あらすじ
夏休み真っ只中の8月。風ヶ丘高校新聞部の面々は、取材先の水族館で巨大なサメが飼育員に喰いついているという衝撃的な現場を目撃します。しかしそれは、サメを利用した巧妙な殺人事件でした。警察の捜査により浮上した容疑者は11人。しかも全員に強固なアリバイが。困り果てた袴田刑事は、妹の柚乃を通じて再びあの「オタク天才高校生」裏染天馬を呼び出します。
ここが見どころ!
帯に書かれた「容疑者は11人」という文字に、読む前は「本家クイーンのような面倒な消去法が続くのか?」と少し身構えました。
しかし、いざ読み始めると、膨大な可能性とアリバイの網の目を丁寧に、かつスピード感を持って解き明かしていく道筋が秀逸。まったくストレスを感じさせない、平成のクイーンらしい鮮やかな手腕に脱帽させられる一冊です。
水族館の殺人 (創元推理文庫)
3. 『図書館の殺人』:過去最大のボリュームで描く本格長編
「館」シリーズの現時点での集大成となる第3作目です。
あらすじ
期末テスト中の慌ただしい9月、風ヶ丘図書館の開架エリアで男子大学生の撲殺死体が発見されます。凶器はなんと、山田風太郎の『人間臨終図巻』。閉館後の図書館という静まり返った現場には、2つの奇妙なダイイングメッセージが残されていました。警察からアドバイザーとして呼ばれた裏染天馬は、1冊の本と1人の少女の存在にたどり着くのですが……。
ここが見どころ!
シリーズ過去最大のボリュームを費やした意欲作です。大掛かりな事件構成に対し、天馬が天才的な洞察を見せながらも、真相への道筋に悩み、発見していく「謎解きの過程」を読者もリアルに共有できる面白さがあります。
高校生らしいテスト期間の瑞々しい日常描写と、重厚な本格ミステリが見事に融合しています。
図書館の殺人 (創元推理文庫)
まとめ:進展する人間関係と、裏染の過去にも注目!
青崎有吾さんの裏染天馬シリーズは、1話完結のミステリとしての完成度はもちろん、「シリーズを通して描かれる人間関係」も大きな魅力です。
作中では、登場人物たちの過去に関する思わせぶりな記述があり、読み進めるうちに「あの過去のいきさつは何なのか?」「それに、あの二人の恋はどうなるの!?」と、キャラクターたちの行く末が非常に気になってきます。登場人物がしっかり描けているからこそ、シリーズを追いかけたくなるんですよね。
現在は別のシリーズも手掛けられている青崎さんですが、この風ヶ丘高校のメンバーたちの物語の続刊も、ヒッジョーに期待して待っております!
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