【あらすじ】
21世紀の巨大企業FUP社は、16世紀のスコットランド国境地帯へと繋がる〈タイムトンネル〉の開発に成功。過去の世界から資源を搾取しようと企む。
交渉役として送り込まれた人類学者の女性アンドリアは、現地を支配する無法者「スターカーム一族」の長の息子・ピーア(メイ)と恋に落ちる。しかし、21世紀の「資本の論理」と、16世紀の「略奪の論理」は激しく衝突し、やがて血みどろの戦争へと発展していく――。
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◆ 魅力1:「美化された過去」を全否定する、圧倒的な生々しさ
タイムトラベルものでありがちな「古き良き美しい過去の世界」という幻想を、著者は容赦なく踏みつぶします。
アンドリアが足を踏み入れた16世紀は、デザインも材質も奇妙な服、犬の匂いが染みついた人々、現代人には到底耐えられない強烈な悪臭とまずい食事に満ちています。
そして何より、16世紀の住人であるスターカーム一族は、決して「純朴な昔の人々」ではありません。「右手で握手をしながら、左手には短剣を握っている」と評されるほど狡猾で、自分たちの仲間を守るためには騙し討ちも略奪も平気で行う、獰猛で利己的な人間たちです。この「異文化・異時代」の生々しい描写が、物語に凄まじい説得力を与えています。
◆ 魅力2:コンプレックスを抱えるヒロインと、「エルフ」としての21世紀人
主人公のアンドリアは、21世紀社会では自分の容姿に強いコンプレックスを抱き、居心地の悪さを感じて生きている女性です。
しかし、16世紀の世界に行くと、彼女の「豊かな体つき」は健康と富の象徴として大絶賛され、スターカーム一族から熱烈に歓迎されます。さらに、21世紀の高度なテクノロジー(アスピリンなどの近代医薬品や衣服など)を持つアンドリアたちは、16世紀の人々から「エルフ(妖精族)」のようだと畏怖される存在になります。
自分の価値が時代によって180度変わるという皮肉と快感。これがアンドリアをこの時代、そして粗野だけれど生命力に満ちたピーアとの恋にのめり込ませる強力な推進力となっていきます。
◆ 魅力3:第2部『500年の恋人』で描かれる、タイムトラベルの最も残酷な真実
前作『500年のトンネル』の壮絶な結末を経て、物語は続編『500年の恋人』へと続きます。
プロジェクトが中止され、引き裂かれたはずのピーアがなぜか現代に現れたことで、アンドリアは再びFUP社の計画に加わり、16世紀へと向かいます。今度こそ最愛のピーアとやり直せる――そう期待したアンドリアを待っていたのは、「パラレルワールド(異なる時間軸)」というあまりにも残酷な壁でした。
新しく繋がった16世紀は、彼女が知る世界とよく似ているけれど、決定的に違う世界。そこにいるピーアや一族にとって、アンドリアは「初めて会う見知らぬ女」でしかないのです。
自分にとっては命がけで愛した記憶があるのに、相手にとってはゼロ。この「感情の非対称性」がもたらす切なさと泥沼の人間関係は、タイムトラベルSFのなかでも屈指の精神的サスペンスを生み出しています。
総評:私たちは「人間の本質」から逃れられない
ロマンスの皮をかぶったディストピアSFであり、「持てる者(21世紀の資本主義)」と「持たざる者(16世紀の略奪者)」の果てしないエゴの衝突を描いた社会派ドラマ
元々はイギリスで児童文学(ティーン向け)として発表され、J・K・ローリングの『ハリー・ポッター』を押さえてガーディアン賞を受賞した本作ですが、大人が読んでも(むしろ大人こそ)その容赦のなさに驚かされるはずです。
都合のいい理由をつけて自分たちの利益を守ろうとする21世紀の企業も、生き残るために平気で嘘をつく16世紀の戦士たちも、本質的には何も変わりません。500年の歳月を経ても変わらない「人間の利己主義と業」の深さに目眩を覚えつつも、ページをめくる手が止まらなくなる、タイムトラベルものの隠れた大傑作2部作です。



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