【ジャケ買い日誌】纐纈歩美『Brooklyn Purple』〜美しきアートワークと、サックスに宿るコルトレーンの魂〜

日常のふとした瞬間に、ジャズのレコードを「ジャケ買い」したくなる。今回私のアンテナに引っかかったのは、日本のサックス奏者、纐纈(こうけつ)歩美のアルバム『ブルックリン・パープル Brooklyn Purple [Analog]』(THINK! RECORDS)だ。
今回は、この素晴らしいジャケットの魅力と、そこに針を落とした先に待っていた極上の音楽体験について綴りたい。

一目惚れしたパープルの世界観。これぞアートワークの勝利


メディアで見かける纐纈歩美というアーティストは、どちらかといえば地味で純朴な佇まいの印象が強い。しかし、このレコードを手にした瞬間、そのイメージは鮮やかに覆された。



紫を基調とした、モダンで洗練された非常に美しいジャケット。正直なところ、昔のオリジナル盤に比べて現代のレコードはジャケットの印刷クオリティが格段に向上している。この色彩の美しさとデザインの完成度は、まさにアートワークの勝利であり、所有欲をこれ以上ないほどに満たしてくれる。



ジャケットの先にある、古き良きモダンジャズの調べ

針を落とすと、ジャケットの洗練されたビジュアルとは裏腹に、どこか懐かしく骨太なジャズの音が部屋に広がる。
彼女のサックスは、往年のジャズメンを彷彿とさせる少し揺らいだビブラートを持っており、リズムに対してわずかに遅れ気味の隙を見せる。吹き姿こそ生真面目そのものだが、偉大な先輩たちが築いてきたジャズの「遊び」や「揺らぎ」を、一生懸命に、そして忠実に再現しようとしている意思が伝わってくる。



散りばめられた、ジョン・コルトレーンへのオマージュ


本作を語る上で外せないのが、モダンジャズの巨人ジョン・コルトレーン(John Coltrane)への強いリスペクトだ。アルバムの中盤、この繋がりが明確になる素晴らしい流れが存在する。

まずは、ケニー・バレルとコルトレーンの共演盤のオープニングを飾る「Freight Trane」のカバー。
原曲よりもあえて短く切り詰められたアレンジは、まるで「ここからコルトレーンを吹きます」という彼女なりの真摯な挨拶のようだ。

そして、この曲をイントロ代わりに、いよいよ本命のメロディへと美しく流れ込む。
コルトレーンの代名詞とも言える名盤『Ballads』に収録されている隠れた小品、「It's Easy To Remember」だ。
原曲ではどこか箸休め的な位置づけにも感じられるこの曲を、纐纈は本作の「A面ラスト」という極めて重要なポジションに配置。尺を拡大し、たっぷりと感情を乗せたエモーショナルなサックスでメロディを紡ぎ切る。これは文句なしの名演だ。

総評:ジャケ買いから始まる、モダンジャズの幸福な継承


音質重視のカッティングのため、外周部のカットがきつく針を落とすのには少し気合がいる。しかし、うまく針が溝に滑り込んだ瞬間、私たちは長い歴史を持つモダンジャズの正統なる末裔のサウンドに身を委ねることになる。
美しいジャケットに惹かれて手にした一枚だったが、その中に吹き込まれていたのは、コルトレーン・マナーを磨き上げ、自身の音楽を深化させようとする一人のサックス奏者の熱い意志だった。
これだから、ジャケ買いはやめられない。

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