2026年6月5日金曜日

AORの寵児が鳴らした渾身のロック|クリストファー・クロス『Every Turn of the World』再評価の理由

 伝説のデビューから一転、時代の荒波に挑んだ3作目

1980年、セルフタイトルのデビューアルバム『Christopher Cross(南から来た男)』でグラミー賞主要4部門を独占するという史上初の快挙を成し遂げたクリストファー・クロス。透き通るようなハイトーンボイスと、計算し尽くされた洗練されたAOR(アダルト・コンテンポラリー)サウンドは、当時の音楽シーンを席巻した。

しかし、1980年代中期を迎えると、音楽シーンの潮流は急激に変化する。MTVの台頭に伴うニューウェイヴの隆盛や、シンセサイザーを多用したエレクトロ・ポップの台頭により、それまでのアコースティックでオーガニックなAORブームは後退を余儀なくされていく。

このような時代の過渡期である1985年にリリースされたのが、彼の3作目となるスタジオアルバム『Every Turn of the World(ターン・オブ・ザ・ワールド)』である。

Every Turn of the World by Christopher Cross (1985-07-28)
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豪華ゲスト主義からの脱却と「TOTO」に迫る本格バンドサウンド


マイケル・オマーティアンをプロデューサーに迎えた本作は、前2作のスタイルから大きな転換を図っている。これまではマイク・マクドナルドやドン・ヘンリーをはじめとする豪華ゲストシンガーを招き、緻密に構築されたスタジオワークが特徴であった。しかし本作では、よりストレートなバンドサウンドによるロックアルバムへと舵を切っている。
特筆すべきは、そのダイナミックなアンサンブルである。前作以上にTOTOのサウンドを彷彿とさせるハードかつソリッドなアレンジが施されており、クリストファー・クロス特有の美しいメロディラインと、骨太なロックグルーヴが絶妙な融合を見せている。
往年の洗練されたバラードを期待したリスナーからは当時、賛否両論が巻き起こり、セールス的にも苦戦を強いられた。しかし、時代の音を貪欲に取り入れつつ、自身のルーツであるロックを表現しようとした彼の挑戦姿勢は、今聴き返しても非常に興味深い。

アルバムを彩る主要楽曲の分析


1. Every Turn of the World


アルバムの幕開けを飾るタイトル曲。従来の彼のイメージを覆すような、エッジの効いたギターカッティングとパワフルなドラムが印象的なロックチューンである。クリストファー・クロスが声を張り上げるような力強いシャウトを披露しており、新たな境地を切り開こうとする強い意志が感じられる。

2. Charm the Snake


シンセサイザーのシーケンスフレーズと、ハードなギターリフが絡み合う1980年代特有のハイエナジーな楽曲。ダンサブルでありながらも、楽曲の土台を支える緻密なコード進行にはAORの気品が残る。彼が得意とする流麗でテクニカルなギターソロも存分にフィーチャーされており、ギタリストとしての実力を再確認できる仕上がりである。

3. Love Is Crying


アルバムのなかで最も従来のAORファンを安堵させる、メロウで切ないミディアムナンバー。デジタルな音色に囲まれながらも、彼の最大の武器である「天使のハイトーンボイス」の美しさが際立つ。激しいロックサウンドとのコントラストによって、この曲の持つ繊細さがより一層際立つ構成となっている。

今こそ聴くべき、隠れた名盤としての価値


本作のあと、4枚目のアルバムを最後にワーナー・ブラザースとの契約が終了するなど、クリストファー・クロスにとって本作はキャリアのターニングポイントとなった。商業的な成功という物差しだけでは測れない、1980年代というエネルギッシュな時代が生んだ「隠れた名盤」と言える。

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