異色の天才二人が交わった奇跡の瞬間
1970年代初頭のロック・シーンにおいて、これほど意外でありながら美しい化学反応を起こしたコラボレーションは他にない。元トラフィック(Traffic)のソングライターであり、卓越したギタリストでもあるデイヴ・メイスン(Dave Mason)。そして、伝説のフォーク・ロック・グループ、ママス&パパス(The Mamas & the Papas)の看板シンガーとして愛された「ママ・キャス」ことキャス・エリオット(Cass Eliot)。
この二人が1971年に発表した唯一の連名アルバム『Dave Mason & Cass Eliot』は、それぞれのキャリアにおいても独特の輝きを放つ、隠れた傑作である。
グラム・パーソンズが繋いだ縁とネッド・ドヒニーの影
本作が誕生した背景には、当時の西海岸ミュージック・シーンの濃密な人間関係がある。まったく異なる音楽的バックグラウンドを持つ二人を引き合わせたのは、カントリー・ロックの先駆者であるグラム・パーソンズ(Gram Parsons)の手引きであった。トラフィック活動休止後にアメリカへ渡り、ソロファーストアルバム『Alone Together』(1970年)で一躍注目を集めていたデイヴと、ソロシンガーとしての新境地を模索していたキャス。二人の天才が出会ったことで、プロジェクトは動き出した。
また、アルバムの制作過程において、後にシティ・ポップ/AORの旗手となるネッド・ドヒニー(Ned Doheny)が途中まで参加していたことも見逃せない。彼が提供した楽曲は、1973年の彼のデビュー作で見られる洗練されたスタイルとは一味違い、ソングライターとしての初期の器用さと瑞々しさを覗かせている。
音楽的特徴:アコースティックの温もりと「フォーキー・スワンプ」の響き
デイヴ・メイスンのソロファーストアルバム『Alone Together』が、エッジの効いたロック・サウンドと緻密な多重録音で構成されていたのに対し、本作はよりアコースティックな要素が強く押し出されている。一言で表現するならば「フォーキー・スワンプ」とでも呼ぶべき、泥臭さと爽快さが同居したサウンドである。
アルバム全体を通じて印象的なのが、ハモンドオルガンの多用である。温かみのあるオルガンの音色が、デイヴのアーシーなギターワークと、キャスの包み込むようなボーカルを優しく結びつけている。アメリカのルーツミュージック(スワンプ・ロック)へのアプローチでありながら、キャスのキャッチーなポップ・センスが加わることで、重くなりすぎず心地よいポップ・ロックへと昇華されている。
主要楽曲の徹底分析
1. 『Here We Go Again』
キャス・エリオットが作曲に関わった僅か2曲のうちの1曲。キャスがリード・ボーカルを披露しており、彼女の伸びやかで豊かな歌声が全編を支配している。デイヴのアコースティック・ギターと絶妙に絡み合い、アルバム全体の温かなトーンを象徴する楽曲である。
2. 『Something to Make You Happy』
こちらもキャスが作曲・リードボーカルを手掛けたナンバー。タイトル通り、聴く者をハッピーにするようなポップなメロディラインが特徴である。彼女の持ち味である親しみやすさと、デイヴのスワンプ調のバッキングが見事なコントラストを描いている。
3. 『On and On』
前述のネッド・ドヒニーが書き下ろした楽曲。デイヴとキャスのツイン・ボーカルの掛け合いが見事であり、アルバムの中でも特にメロディアスな展開を見せる。洗練された西海岸の風を感じさせつつも、しっかりとこのアルバムのフォーキーな質感に馴染んでいる。
総評:時代に埋もれさせるには惜しい、アメリカン・ロックの至宝
アルバム制作時の二人の関係性の変化や、プロモーションの不足なども相まって、発売当時は正当な評価を受けづらかった側面もある。しかし、一曲一曲のクオリティ、そしてデイヴのギターとキャスの歌声が織りなすハーモニーは、今聴いても全く色褪せていない。
ブリティッシュ・ロックの薫り高いデイヴ・メイスンと、米国ポップスの象徴であるキャス・エリオット。二人の天才がロサンゼルスで交差した一瞬の煌めきを凝縮した本作は、ルーツ・ロックや70年代シンガーソングライター作品のファンであれば、絶対に耳を通しておくべき名盤だと思う。


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