1960年代末のフォークロック界において、まさに「スーパーグループ」の名を欲しいままにしたクロスビー、スティルス&ナッシュ(Crosby, Stills & Nash / 以下、CSN)。彼らが1969年にリリースしたセルフタイトルのデビューアルバムは、その圧倒的なクオリティで世界を震撼させた。
その後、ニール・ヤングを巻き込んで制作されたCSNY名義の『デジャ・ヴ(Déjà Vu)』は大名盤として語り継がれているが、彼らの歴史はメンバー間の確執による「集合離散」の歴史でもあった。そんな彼らの激動のキャリアから、選び抜かれた名曲をコンパイルした隠れた重要作が、1980年発表の編集盤『REPLAY』である。
本記事では、CSNというグループの特異性と、このアルバムが持つ音楽的価値、そして収録された主要楽曲の魅力について深く掘り下げていく。
奇跡の集合体「クロスビー、スティルス&ナッシュ」とは
CSNを構成する3人は、いずれも1960年代の米西海岸ロックシーンを牽引した重要バンドの中心的音楽家たちであった。
デヴィッド・クロスビー:
ザ・バーズ(The Byrds)の元メンバー。変則チューニングを用いた独特のギターワークと、浮遊感のあるモダンなコーラスワークを得意とする。
スティーヴン・スティルス:
バッファロー・スプリングフィールド(Buffalo Springfield)の元メンバー。ブルースやラテンの要素を取り入れた卓越したギターテクニックと、力強いボーカルでバンドの音楽的支柱となった。
グラハム・ナッシュ:
英国のザ・ホリーズ(The Hollies)の元メンバー。キャッチーなメロディセンスと、美しい高音のハーモニーでサウンドに華やかさを添えた。
この3人が集まったことで生まれた最大の特徴が、「アコースティック・ギターの響き」と「緻密に計算された3声の美しいハーモニー(美しい三部合唱)」の融合である。彼らの登場は、それまでのラウドなロックとは一線を画す、洗練された「アコースティック・ロック」という新たな指標を音楽シーンに打ち立てた。
編集盤『REPLAY』の音楽的特徴と、ニール・ヤング不在の妙
本作『REPLAY』は、彼らが一時的に解散と再結成を繰り返していた集合離散期にリリースされた編集盤(ベストアルバム的立ち位置)である。
本作の最も興味深い音楽的特徴は、「ニール・ヤングの楽曲が1曲も含まれていない」という点にある。名盤『デジャ・ヴ』に見られるように、ニール・ヤングという強烈な個性が加わることで生じるエッジの効いた緊張感は、CSNYの大きな魅力であった。しかし同時に、主にスティルスとヤングの音楽的・個人的な確執がバンドを振り回したことも事実である。
ヤングという劇薬が入らない『REPLAY』を聴くと、驚くほど全体の音楽的バランスが良く、穏やかで美しい。それは決して退屈という意味ではない。むしろ、クロスビー、スティルス、ナッシュの3人が本来持っていた「純粋なフォークロックの美学」や「完璧に調和したボーカル・ハーモニー」が、濁りなくストレートに耳へ届くということである。ニール・ヤングの個性が際立っていたからこそ、彼が抜けた本作では、CSNというトライアングルが持つ本来の完成度の高さが逆説的に証明されている。
『REPLAY』を彩る主要楽曲の徹底分析
本作に収録された楽曲は、その後のアルバム・オリエンテッド・ロック(AOR)の発展にも多大な影響を与えた名曲ばかりである。その中でも特に重要な楽曲を分析する。
「組曲:青い目のジュディ(Suite: Judy Blue Eyes)」
スティーヴン・スティルスが作詞・作曲を手掛けた、初期CSNの最高傑作である。当時スティルスが交際していたフォークシンガー、ジュディ・コリンズとの別れを歌ったこの曲は、複数の異なる楽曲の断片をメドレーのようにつなぎ合わせた「組曲」形式を採用している。 スティルスの変則チューニングによるアコースティック・ギターの小気味よいカッティング、目まぐるしく変化する曲調、そしてクライマックスで炸裂する3人のスキャット・ハーモニーは圧巻の一言に尽きる。1曲の中にドラマチックな展開を凝縮した構成は、後のロックシーンにおける「アルバム全体の構成美」を重視する流れに大きな影響を与えた。
「泣くことはないよ(Marrakesh Express)」
グラハム・ナッシュがホリーズ在籍時に書き下ろしたものの、バンドに受け入れられず、CSNのデビュー作で日の目を見た楽曲である。 モロッコの都市マラケシュへ向かう列車の旅をモチーフにしており、軽快でポップなリズムが心地よい。ナッシュの持ち味である親しみやすいメロディラインと、それを包み込む豊かなハーモニーは、1970年代のウェストコースト・ロックやフォークロックが進むべきひとつの「指標」となった。聴く者を一瞬で爽快な旅情へと誘う名曲である。

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