1. ザ・ハニードリッパーズ(The Honey Drippers)の成り立ち
ザ・ハニードリッパーズは、伝説的ロックバンド「レッド・ツェッペリン」のボーカリストであるロバート・プラントが、1981年に結成したサイドプロジェクト(スペシャル・ユニット)である。 レッド・ツェッペリンの解散後、プラントは自身の音楽的ルーツである1950年代のR&B、ブルース、ロックンロールを再現・再解釈するための受け皿としてこのバンドを立ち上げた。当初はライブ活動を中心としていたが、1984年に初の音源としてミニアルバム『Volume 1』をリリースした。
2. セッションへの参加メンバー
本作『Volume 1』には、プラントの呼びかけにより、当時のロック・ポップス界を代表する極めて豪華なミュージシャンが集結している。
- ロバート・プラント(Robert Plant):ボーカル
- ジミー・ペイジ(Jimmy Page):ギター(レッド・ツェッペリン)
- ジェフ・ベック(Jeff Beck):ギター
- ナイル・ロジャース(Nile Rodgers):ギター(シック/音楽プロデューサー)
ツェッペリン時代の相棒であるジミー・ペイジと、世界最高峰のギタリストの一人であるジェフ・ベックの共演に加え、当時ダンスミュージック・シーンを席巻していたナイル・ロジャースが参加したことで、単なる懐古趣味に留まらない洗練されたサウンドが構築された。
3. 当時のミュージックシーンにおける客観的な位置付け
1980年代半ばのミュージックシーンは、シンセサイザーを多用したニュー・ウェイヴや、きらびやかなポップ・ロックが全盛期を迎えていた。その中にあって、1950年代のオールドディーズ・R&Bをストレートにカバーした本作は、一種の「異色作」として受け止められた。
しかし、結果としてアルバムは全米ビルボードチャートで最高5位を記録する大ヒットとなる。ハードロックのアイコンであったロバート・プラントが甘くロマンティックなボーカルを披露したギャップ、そしてレジェンド級ギタリストたちの参加という話題性も手伝い、リアルタイムのロックファンから大人のリスナーまで幅広い層に受け入れられた。
4. 音楽的特徴
本作の最大の特徴は、「徹底したルーツ・ミュージックへの敬意」と「80年代的な洗練されたプロダクション」の融合である。 荒々しいブルースロックではなく、3連符のロッカバラードや、軽快なジャンプ・ブルース、ドゥーワップといった、1950年代の古き良きアメリカン・ミュージックのエッセンスが丁寧に再現されている。プラントのボーカルも、ツェッペリン時代のハイトーンシャウトを封印し、中低音を生かしたスウィートでジェントルな歌唱に徹している。
5. 主要な楽曲の分析
『シー・オブ・ラブ(Sea of Love)』
フィル・フィリップスが1959年に発表した楽曲のカバー。本作からシングルカットされ、全米3位を記録する大ヒットとなった。 3連符の美しいロッカバラードであり、ストリングスを配したドリーミーなアレンジが施されている。ロバート・プラントの甘く艶やかな歌声が最大限に活かされており、ハードロッカーとしてのイメージを覆す、彼のキャリアにおける重要なターニングポイントとなった1曲である。
『ロックン・ロール・アット・ミッドナイト(Rockin' at Midnight)』
ロイ・ブラウンが1949年に発表したジャンプ・ブルースの名曲。 『シー・オブ・ラブ』とは対照的に、アップテンポで躍動感のあるホーンセクションと軽快なギターストロークが特徴である。ロバート・プラントのルーツにある、アーリー・ロックンロールへの深い愛情とリスペクトがストレートに表現された楽曲である。
長い時を経て繋がる音楽の系譜
この『Volume 1』で見せたロバート・プラントの「トラディショナルな音楽への深い愛着」と「ロマンティックな歌唱スタイル」は、単なる一過性の企画には終わらなかった。
のちに21世紀に入り、プラントがブルーグラスの歌姫アリソン・クラウスとタッグを組んで発表し、グラミー賞を獲得した名盤『レイジング・サンド(Raising Sand)』(2007年)へと続く。ハニードリッパーズで提示されたルーツ・ミュージックへの探求心は、長い時を経てさらに深化し、彼のソロキャリアを豊かに彩る重要な伏線となっていたのである。



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