1. 『Greatest Hits』の成功を経て到達した、絶対的ポップス・クイーンの最高峰
前作『Greatest Hits』が世界的な大ヒットを記録し、名実ともに「ウエストコースト・ロックの女王」としての地位を不動のものとしたリンダ・ロンシュタット。その絶頂期の中で1977年に発表されたのが、本作『Simple Dreams』。
本作はビルボードのアルバム・チャートで5週連続1位を獲得し、当時飛ぶ鳥を落とす勢いだったイーグルスの『Hotel California』をチャートの首位から引きずり下ろす、まさに飛ぶ<イーグルス>を落とす勢いだった。
2. ピーター・アッシャーとの黄金タッグが魅せる、さらに洗練されたロック風味
プロデュースは、リンダを新たなステージに導いてきたピーター・アッシャー。本作での彼は、当時の標準的なロックシーンの音像をカントリー的な楽曲にも違和感なく擦り合わせることに心を砕いているように思える。
バックを固めるのは、ダン・ダグモア(ペダル・スティール/ギター)、ワディ・ワクテル(ギター)、ドン・グロルニック(キーボード)、リック・マロッタ(ドラムス)といった、当時のLAのトップ・セッション。
バランスよく配置されたカントリー楽曲も含め、洗練された都会的なポップな音像と、骨太でエッジの効いたロック・サウンドをバランスさせている。
3. 圧倒的な解釈力で彩られた名曲たちの音楽的深み
「It's So Easy」 アルバムの幕開けを飾るバディ・ホリーのカバー。ワディ・ワクテルによる歪みの効いたギター・カッティングと、重厚なリズムセクションが、50年代のロックンロールをモダンなハード・ポップへのリメイクを成功させている。リンダのボーカルもノリノリでパワフル、小気味よいシャウトも含めてロック・シンガーになり切っての名演。
「Blue Bayou」 ロイ・オービソンのカバーであり、本作から生まれた最大のヒット曲。ダン・ダグモアの切なく美しいペダル・スティールと、どこかノスタルジックなマリンバの音色がなぜか切ない。リンダの歌声は、繊細な低音からサビでの圧倒的なハイトーンへと美しく伸びていき、「声の説得力」ってこういうことね、と納得させられる。
「Poor Poor Pitiful Me」 シンガーソングライター、ウォーレン・ジヴォンの作品。オリジナルが持つシニカルな世界観を、底抜けに明るくドライブ感溢れるロック・ナンバーに仕上げた。間違いなくこの曲のドライブ要素の大部分を担うワディのクランチギターと、カウベル込みの軽快なアレンジはともかく、小悪魔的なニュアンスを含んだボーカル・ワークにドキドキしたのは内緒だ。
「Tumbling Dice」 ザ・ローリング・ストーンズの人気ロック・ナンバーに挑戦した意欲作。黒っぽいグルーヴ感とルーズなロックンロールの質感を残しつつも、リンダの完璧なピッチと声量によって、見事なメインストリーム・ロックへと仕立て上げられている。それにしてもこのドラム、この曲順の流れからスネア一発でストーンズワールドを引き寄せて見せるとは、まったくもって只者ではない。
「I Never Will Marry」 ドリー・パートンをゲストに迎えた、伝統的なカントリー・トラディショナル。マイク・オルドリッジの弾くドブロ・ギターの響きに乗せて、実らぬ愛を凛として歌い上げる。あくまでも正統派の一曲。
4. シンプルで普遍的な、人間の感情への「愛おしさ」についての歌
『Simple Dreams』というタイトルが示す通り、本作に収められた楽曲の根底にあるのは、どれもシンプルで普遍的な人間の感情に対しての「愛おしさ」のようなものなんだろう。 しかし、それを表現するアレンジとボーカルのレイヤーは、極めて緻密で贅沢だ。ロック、カントリー、R&B、そして50年代ポップス。すべてのジャンルを超え、自らの歌声だけで一つの時代を定義してみせた。

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