2026年5月27日水曜日

リンダ・ロンシュタット|『Living in the USA』に聴く、新時代へのタイト・エッジ

『Simple Dreams』の熱狂を超えて

前作『Simple Dreams』がイーグルスをチャートの首位から引きずり下ろすという快挙を成し遂げ、名実ともにポップス/ロック界の頂点に立ったリンダ・ロンシュタット。その興奮も冷めやらぬ翌1978年にリリースされたのが本作『Living in the USA』。



 前作に続きビルボードのアルバム・チャートで1位を獲得した本作は、スケートを履いて鮮やかなピンクのスーツに身を包んだリンダのジャケット写真も相まって、70年代アメリカのポップ・カルチャーを象徴する一枚となった。


ピーター・アッシャーが仕掛ける、ニューウェイヴ前夜のタイト・エッジ

プロデュースはもちろん、リンダの魅力を知り尽くした黄金の相棒、ピーター・アッシャー。本作での彼は、前作までのウエストコースト・ロックらしいオーガニックな響きをベースにしつつも、来るべき80年代を見据えたかのような、よりタイトでコンテンポラリーな音作りに挑んでいる。 脇を固めるのは、お馴染みのダン・ダグモア、ワディ・ワクテル、ドン・グロルニックに、名手ラッセル・カンケル(ドラムス)らが加わった鉄壁の布陣。洗練されたLAの空気感の中に、少し尖った都会的なエッジを忍ばせるアレンジの手腕は、まさに職人技。


圧倒的な解釈力で彩られた名曲たちの音楽的深み

「Back in the U.S.A.」 アルバムの幕開けを飾るチャック・ベリーのカバー。前作の「It's So Easy」を彷彿とさせるストレートなロックンロールだが、ここでのワディ・ワクテルのギターはさらにドライヴ感を増し、リンダのボーカルも小気味よく弾けている。アメリカの豊かさとロックの初期衝動を、70年代末の洗練されたポップ・ロックへと見事にアップデートした快演だ。

「Love Me Tender」 エルヴィス・プレスリーでお馴染みの超有名スタンダード。シンプルだからこそ歌い手の実力が剥き出しになるこの曲を、リンダは過度な装飾を排し、息づかい一つにまで感情を宿らせて歌い上げる。あの「Blue Bayou」で見せた「声の説得力」が、ここではより深い親密さを伴って聴き手の胸に迫ってくる。

「Mohammed's Radio」 前作の「Poor Poor Pitiful Me」に続き、再びウォーレン・ジヴォンの作品をピックアップ。ジヴォン特有のシニカルでどこか退廃的な世界観を、リンダは持ち前のパワフルな歌声で、どこか救いのある、それでいて切ないメインストリーム・ロックへと昇華させている。この選曲眼と、それを自分の歌にしてしまう解釈ヂカラが素敵すぎる。

「Just One Look」 ドリス・トロイの60年代R&Bヒットのカバー。ストーンズ・ナンバーで見せたような黒っぽいグルーヴ感を、本作ではよりキャッチーで弾けるようなポップ・ソウルへと仕立て直している。重厚なリズムセクションとリンダのソウルフルなボーカル・ワークの絡み合いが実に心地よく、アルバム中盤の最高のアクセントになっている。

「Alison」 当時、ニューウェイヴの旗手と言われてたエルヴィス・コステロの、この美しい名曲の真の姿に気づいている人は、当時あまりいなかったようだ。オリジナルが持つヒリヒリとした焦燥感を、リンダは洗練されたLAロックのフィルターを通すことで、普遍的な愛のバラードへと美しく仕立て上げてみせた。彼女のおかげで、この名曲は多くの人に理解されるようになったのかもしれない。


「リンダ・ロンシュタットの音楽」として

『Living in the USA』というタイトル、そして星条旗をバックにしたジャケット。一見するとアメリカ万歳的なニュアンスを感じる。

しかし楽曲を聴けば、50年代のロックンロールからカントリー、R&B、そして最先端のニューウェイヴまでを貪欲に飲み込んだ、リンダの音楽的野心そのものではないか。

 その野心ゆえに彼女は、歌声と解釈と表現で、すべてのジャンルを「リンダ・ロンシュタットの音楽」として定義し続けていくこととなる。


ミス・アメリカ - リンダ・ロンシュタット
B0D4DR4V17

0 件のコメント:

コメントを投稿