1970年代のロックシーンに、ド派手な白黒のメイクアップと奇抜な衣装、そして炎を吐き血を流す過激なパフォーマンスで衝撃を与えたアメリカの伝説的バンド、KISS(キッス)。彼らを「イロモノ」的ロックバンドから、世界的なトップスターへと押し上げたのが、1976年に発表された4作目のスタジオアルバム『Destroyer(邦題:地獄の軍団)』。
前作のライブ盤『Alive!(地獄の狂獣)』の世界的ヒットで勢いに乗る中、名プロデューサーのボブ・エズリンを迎えて制作された本作の歴史的意義と、収録曲の魅力を解説する。
1. KISSの結成と『Destroyer』:キャラクターの確立と音楽的進化
KISSは1973年、ニューヨークでポール・スタンレー(Vo, G)とジーン・シモンズ(Vo, B)を中心に結成された。エース・フレーリー(G)、ピーター・クリス(Dr)を加えた4人は、それぞれが独自の「キャラクター(星、悪魔、宇宙人、猫)」を演じるという、当時のロック界でも類を見ないコンセプトを掲げてデビューを果たす。
ライブの熱狂からスタジオの洗練へ
初期の3枚のスタジオアルバムは、彼らの武器である「ライブの熱量」を十分に捉えきれず、セールス面で苦戦を強いられていた。しかし、1975年のライブ盤『Alive!』が大ヒットしたことで状況は一変する。
次なる一手として制作された『Destroyer』では、アリス・クーパーなどを手がけたボブ・エズリンを起用。従来の荒々しいハードロックに、効果音やストリングス、少年合唱団を取り入れるなど、緻密なスタジオワークを敢行した。この大胆なアプローチが功を奏し、彼らはスタジアム級のモンスターバンドへと変貌を遂げることとなる。
2. 『Destroyer』収録曲に見る名曲・小ネタ解説
本作は、バンドの代名詞となったハードなナンバーから、まさかの大ヒットを記録したバラードまで、KISSの多面的な魅力が詰まった傑作である。
Detroit Rock City(デトロイト・ロック・シティ)
アルバムのオープニングを飾る、KISS屈指のスピード感溢れるキラーチューンである。ポールとエースによるツインギターの美しいリフ、地を這うようなジーンのベースラインが完璧に融合している。 歌詞は、KISSのコンサートへ向かう途中に交通事故で亡くなった実在のファンへの追悼がモチーフとなっており、曲の冒頭と結末には車の走行音やクラッシュ音などのリアルなSE(効果音)が挿入されている。
💡 日本のポップカルチャーとの幸福なクロスオーバー
この曲のタイトルは、日本の大人気音楽ギャグ漫画、およびそれを実写化した映画『デトロイト・メタル・シティ(DMC)』の元ネタとしても有名である。 さらに、2008年に公開された同作の実写映画版には、ジーン・シモンズ本人が「世界を震撼させた伝説の魔界の王(ジャック・イル・ダーク役)」として出演。 主演の松山ケンイチと凄まじいギターバトルを繰り広げ、日本のファンを歓喜させた。
King of the Night Time World(夜の街の帝王)
「Detroit Rock City」の車のクラッシュ音からシームレスに繋がる、爽快感溢れるハードポップ。ポールのキャッチーなメロディセンスが光る1曲であり、ライブでも定番のアンセムとなった。
God of Thunder(雷神)
ジーン・シモンズの重厚なキャラクターを決定づけた、おどろおどろしくもヘヴィな名曲。ライブでは、ジーンがこの曲の演奏前に不気味なベースソロを披露し、口から大量の血を吐きながらステージ天井へとフライングするパフォーマンスが定番である。 (※実はポールが自分用に書いた曲だったが、プロデューサーの提案でジーンが歌うことになったという逸話がある)
Beth(ベス)
ドラマーのピーター・クリスがハスキーな声で歌い上げる、美しいピアノ・バラード。激しいロックを期待していた周囲からは当初B面扱いされていたが、ラジオから火が付き、結果的に全米7位というKISS史上最大のシングルヒットを記録した。バンドの音楽性の幅広さを証明した重要曲である。
3. 現在入手するならこの1枚
KISSの黄金期のマジックが詰まった『Destroyer』を今から聴くのであれば、以下のエディションがおすすめである。
『Destroyer: 45th Anniversary Edition』
結成およびアルバム発売から45周年を記念して近年リリースされた最新リマスター盤。オリジナルミックスの音質が飛躍的に向上しているだけでなく、当時の未発表デモ音源やライブ音源が追加された豪華仕様も存在し、現在の入門編としても最適である。

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