2026年5月14日木曜日

バリー・マニロウの名盤『Even Now』再考:AOR?MOR?名曲「コパカバーナ」と隠れた佳曲の魅力




はじめに:AORブームの影に隠れた「MOR」の巨匠

近年のシティポップやAOR(アダルト・オリエンテッド・ロック)のリバイバルブームに伴い、過去の様々な名盤が再発されている。そのラインナップの中に、バリー・マニロウ(Barry Manilow)の名前を見かけることも少なくない。
しかし、彼の音楽を単純に「AOR」と括ることには些か違和感を覚える。むしろ、カーペンターズなどに代表されるイージーリスニング寄りの大人のポップス、すなわち「MOR(ミドル・オブ・ザ・ロード)」と呼ぶ方が、その音楽性の本質を的確に捉えているのではないだろうか。
今回は、彼が1978年に発表し、全米3位・トリプルプラチナムを記録した5枚目のスタジオ・アルバム『Even Now(邦題:愛と微笑の世界)』を通じて、その魅力に迫る。

バリー・マニロウの経歴と類稀なる音楽性

1943年、ニューヨークのブルックリンに生まれたバリー・マニロウは、ジリアード音楽院などで学んだアカデミックな背景を持つシンガーソングライターである。初期はCMソングの制作や、ベット・ミドラーのピアニスト兼音楽監督として頭角を現した。
彼の音楽の真骨頂は、キャッチーでありながらもドラマチックに展開するメロディラインと、ゴージャスなストリングスを配した洗練されたアレンジにある。後に「ポップス界の至宝」と称される彼だが、その洗練された都会的なポップス・センスが、現在のAORやシティポップの文脈でも再評価される理由となっている。

『Even Now』の核となる世界的ヒット曲「コパカバーナ」

本作『Even Now』において、抜群の知名度を誇るのが「Copacabana (At the Copa)(コパカバーナ)」である。
ディスコ・ビートとカリプソ風のラテン・サウンドが融合したこの楽曲は、それまでの彼のセンチメンタルなバラードのイメージを覆し、世界的な大ヒットを記録した。グラミー賞で最優秀男性ポップ・ボーカル・パフォーマンス賞をもたらした、文字通り彼のキャリアを代表するダンス・ナンバーである。

嫉妬を覚えるほどの美旋律「リンダに捧げるバラード」

アルバム全体が佳曲揃いである中、特に異彩を放つのが「A Linda Song(リンダに捧げるバラード)」である。聴き手の耳を捉えて離さない、嫉妬心すら覚えるほどの光るメロディがそこにはある。
この楽曲は、当時マニロウの恋人であった実在の女性、リンダ・アレン(Linda Allen)に捧げられたものだと言われている。歌詞の中の「彼」は一度もリンダに曲を捧げないが、現実のマニロウ自身は彼女に向けて何曲ものラブソングを書き上げている。歌には常にその人自身の人生や感情が鏡のように映し出されるものであり、だからこそ彼の作風はこれほどまでにロマンチックで説得力を持つのだろう。

AORの定義と『Even Now』が持つ時代性

本作がリリースされた1978年以降、時代はジャズ寄りのクロスオーバーとロックが融合した「AORの全盛期」へと本格的に突入していく。
かつて日本の音楽雑誌などでは、AORを「アダルト・オリエンテッド・ロック(大人志向)」ではなく、アルバムとしての完成度を重視する「アルバム・オリエンテッド・ロック」の略であるとする言説も見かけられた。しかし、近年ではその解釈を耳にすることはほとんどない。
真相はさておき、これらは日本独自の和製英語としての側面が強い。しかし、「アルバム全体で一つの世界観を表現している作品」が必ずしも多くない現状を鑑みると、やはり「アダルト(大人向けの上質なポップス)」という表現の方が、バリー・マニロウの音楽、そして『Even Now』というアルバムの実態を最もよく表していると言える。

まとめ:色褪せないMORの金字塔

単なる一過性のブームとして消費されるAORの枠に留まらず、MOR(ミドル・オブ・ザ・ロード)という王道のポップス街道を突き詰めたバリー・マニロウ。『Even Now』は、誰もが知る「コパカバーナ」の熱気と、「リンダに捧げるバラード」に代表される深い叙情性が同居した、今なお色褪せない大人の名盤である。

愛と微笑の世界(期間生産限定盤) - バリー・マニロウ
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