2026年5月31日日曜日

エマーソン・レイク&パウエル唯一のアルバムが残したもの|コージー加入の背景と音楽的評価

 1. バンド「エマーソン、レイク&パウエル(EL&P)」結成の背景

1970年代のプログレッシブ・ロック(プログレ)界を牽引したエマーソン、レイク&パーマー(EL&P)だったが、1979年に解散。その後、1980年代半ばにキース・エマーソンとグレッグ・レイクは再始動を画策する。しかし、オリジナル・ドラマーのカール・パーマーは当時アジア(Asia)での活動で多忙を極めており、参加が不可能な状態であった。

そこで白羽の矢が立ったのが、同じく「P」のイニシャルを持つ高名なハードロック・ドラマー、コージー・パウエルである。ジェフ・ベック・グループ、レインボー、マイケル・シェンカー・グループなどを渡り歩いてきた渡り鳥ドラマーの加入により、新生「Emerson, Lake & Powell」が誕生した。

なお、便宜上「EL&P」の略称が使われることもあるが、カール・パーマー側からの法的な異議申し立てなどもあり、厳密には過去のEL&Pとは区別された独立したプロジェクトとして扱われる。結果としてバンドは、本作『Emerson, Lake & Powell』(1986年発表)の1枚とそれに伴うツアーのみで解散に至っている。

2. アルバム『Emerson, Lake & Powell』の音楽的特徴

本作は、1970年代のEL&Pが提示していた「緻密で長大なシンフォニック・プログレ」とは明確に一線を画している。時代背景である1980年代中期のサウンド・プロダクションが色濃く反映されており、以下のような特徴が挙げられる。



デジタル・シンセサイザーの全面的な導入 キース・エマーソンは、かつての代名詞であったモーグ・シンセサイザーのアナログ感のある有機的な音色から、当時最先端であったYAMAHA DX7をはじめとするデジタル・シンセサイザーやサンプラーを多用。エッジの効いた、硬質で煌びやかなサウンドスケープを構築している。

ストレートな4つ打ちのビートとハードロック色 コージー・パウエルのドラミングは、カール・パーマーのような変拍子を巧みに操るジャズ/クラシック下地の緻密なスタイルとは異なり、重戦車と形容されるストレートでパワフルな16ビート・4つ打ちが基本である。これがバンドにプログレというよりも「スタジアム・ロック(アリーナ・ロック)」のダイナミズムをもたらした。

ポップな楽曲構造とコンパクト化 全体としてキャッチーなメロディをもつ「歌もの」としての側面が強調されており、ラジオ受けを意識したコンパクトな楽曲構成(Aメロ→Bメロ→サビ)が目立つ。これは、同時代のエイジアや90125イエスの成功に追随したアプローチといえる。

3. 主要楽曲の分析

『The Score(ザ・スコア)』

アルバムの幕開けを飾る9分超のインストゥルメンタルを含む楽曲。過去の「悪の教典#9」を彷彿とさせるフレーズも交えつつ、デジタル・シンセの分厚い壁のようなリフから始まる。コージーの力強い頭打ちのビートが、グレッグ・レイクの朗々としたボーカルを支える。過去のEL&Pの壮大さを80年代風の派手なダイナミズムへ翻訳しようと試みた、本作の方向性を象徴するトラックである。

『Touch and Go(タッチ・アンド・ゴー)』

イングランド民謡『Lovely Joan』の旋律をキース・エマーソンが現代的にアレンジした、本作最大のヒットシングル。クラシカルなメロディを硬質なシンセサイザーのブラス・サウンドで演奏し、そこにコージーの重いバックビートが絡む。非常にキャッチーで明快な構造であり、ファンが求めていた「スリリングなインプロヴィゼーション(即興演奏)」や「複雑な展開」は排除され、記号化されたプログレ・ロックとして機能している。

『Mars, the Bringer of War(火星~戦いの神)』

ホルストの組曲『惑星』からのカバー。EL&Pの得意芸であるクラシックのロックアレンジだが、ここではコージー・パウエルのドラムが主役となっている。原曲の持つ禍々しさと緊迫感を、ハードロックの力技とエレクトロニック・サウンドで増幅させているが、繊細なダイナミクスやアンサンブルの妙よりも、一本調子な迫力に終始している嫌いもある。

4. 総括:なぜ本作は1枚で終わったのか

本作は、当時のビルボード・チャートでトップ30に入るなど一定の商業的成功を収めたものの、長続きはしなかった。

その要因は、「往年のプログレ・ファンが求めたスリリングな変拍子や芸術性」と「80年代のマーケットが求めた明快なポップ・ロック」の妥協点に、この3人の個性が完全に噛み合いきれなかった点にある。コージーのドラムはあまりに直線的であり、キースのキーボード・ワークの自由度を狭めてしまった側面は否めない。また、ポップ路線としてはエイジアほどの徹底ぶりには至らず、中途半端な立ち位置にとどまった。


エマーソン、レイク&パウエル+2
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