2026年5月31日日曜日

【名盤再考】『The Best Of Earth, Wind & Fire Vol.1』が示す70年代ファンクの到達点

 1. レコード棚に導かれた『The Best Of Earth, Wind & Fire Vol.1』との再会

音楽サークルの先輩から譲り受けた1枚のLPレコード、それが1978年にリリースされた『The Best Of Earth, Wind & Fire Vol.1』である。

学生時代、レンタルレコード店でのアルバイトやサークル仲間との夜通しの音楽談義を通じて、彼らの楽曲はすでに耳に馴染んでいた。しかし、改めてこのベスト盤に針を落とすと、単なるポップ・ミュージックの枠に収まらない、緻密に計算された音楽的構造が見えてくる。



2. Earth, Wind & Fireの音楽的背景とバンドの特異性

モーリス・ホワイト(Maurice White)を中心に結成されたEarth, Wind & Fire(以下、EW&F)は、1970年代のブラックミュージックにおいて、ファンク、ソウル、ジャズ、ポップスを高次元で融合させた先駆的グループである。

彼らの特異性は、重厚なホーン・セクション(フェニックス・ホーンズ)と、モーリスの端正なバリトン、そしてフィリップ・ベイリー(Philip Bailey)の圧倒的なファルセットによる「ツイン・ボーカル体制」にある。また、アフリカの伝統楽器であるカリンバの導入や、宇宙観・精神主義を反映したビジュアルなど、独自のアイデンティティを確立していた。


3. 本作における音楽的特徴の分析

本作『The Best Of Earth, Wind & Fire Vol.1』は、彼らの黄金期(1975年〜1978年)のヒット曲を網羅した、キャリア前半の集大成と言える作品である。

音楽的な最大の特徴は、洗練された「クロスオーバー・サウンド」にある。粗削りなファンク・グルーヴを基調としながらも、ポップスとしてのキャッチーなメロディラインと、ジャズ・フュージョン由来の高度なコード進行が同居している。結果として、ブラックミュージックのコアなリスナー層だけでなく、メインストリームの白人層やディスコ市場をも席巻する広範なポピュラー性を獲得することとなった。


4. 主要楽曲の分析

本作に収録された代表曲、および関連する重要な楽曲について分析する。

「Got to Get You into My Life」

ビートルズのカヴァー曲であるが、EW&Fのホーン・アレンジとファンク・ビートによって、完全に彼らのシグネチャー・サウンドへと昇華されている。原曲の持つポップなメロディにブラス・ロック的な躍動感を加えた、高度な編曲手腕の好例である。

「September」

本作のために書き下ろされた新曲であり、彼らの代表作。16ビートのシャッフル・グルーヴ、明快なリフレイン("Ba-de-ya")、そしてストリングスとホーンが完璧に噛み合ったアンサンブルが特徴である。執拗なまでに反復されるコード・ワークが、独特の多幸感とタイムレスなポップネスを生み出している。

「After the Love Has Gone」

厳密には本作の翌年に発表されたアルバム『I Am』(1979年)の収録楽曲であるが、EW&Fを語る上で外せない重要曲である。デヴィッド・フォスター、ジェイ・グレイドン、ビル・チャンプリンの共作によるこのバラードは、ブルー・アイド・ソウルやAOR(Adult Contemporary)へのアプローチを象徴している。

特にサビにおける複雑な転調とテンション・コードの多用は、当時のポップス界における洗練の極みであった。


【おまけ考察】エアプレイ版におけるタイトル表記の謎

この「After the Love Has Gone」は、作曲者であるデヴィッド・フォスターとジェイ・グレイドンが結成したユニット「エアプレイ(Airplay)」によって、1980年のアルバム『ロマンティック(Airplay)』にてセルフカバーされている。

興味深いのは、EW&F版のタイトルが過去形(Has Gone)であるのに対し、エアプレイ版では現在形(Is Gone)に変更されている点である。

この変遷の理由については諸説あるが、楽曲のプロトタイプ(デモ段階)のタイトルが元々『After the Love Is Gone』であり、エアプレイ側が本来のオリジナル・タイトルにこだわって録音したという説が有力である。言葉の響きや譜割りにおけるシンガー(ビル・チャンプリン)の歌いやすさを優先した結果とも推測でき、同一楽曲でありながらR&BのアプローチとAORのアプローチにおける微細な美意識の違いが垣間見える興味深いポイントである。


ベスト・オブ・EW&F(1)
B00005G9EW

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