1980年代のプログレッシブ・ロックの変遷を語る上で外せない重要作が、1986年にリリースされたGTRの唯一のセルフタイトル・アルバム『GTR』である。
イエスやエイジアで活躍したスティーブ・ハウと、ジェネシスの元ギタリストであるスティーブ・ハケットという、プログレ界を代表する2人のギタリストがタッグを組んだことで大きな話題を呼んだ。
本作のメンバー構成、結成のエピソード、そして当時のミュージックシーンにおける客観的な位置付けについて詳しく解説する。
1. GTRのメンバー構成と結成のエピソード
メンバー構成
GTRは、単なるギタリストのソロプロジェクトではなく、実力派のミュージシャンを集めた5人編成のバンドとしてスタートした。
- スティーブ・ハウ(Steve Howe):ギター、バッキングボーカル(元イエス、エイジア)
- スティーブ・ハケット(Steve Hackett):ギター、バッキングボーカル(元ジェネシス)
- マックス・ベーコン(Max Bacon):リードボーカル(元ナイトウィング、ブロンズ)
- フィル・スポルディング(Phil Spalding):ベース、バッキングボーカル
- ジョナサン・ムーバー(Jonathan Mover):ドラムス、パーカッション(元マリルリオン)
結成のエピソード
1980年代半ば、エイジアを脱退したスティーブ・ハウと、ソロ活動を行っていたスティーブ・ハケットが意気投合したことでプロジェクトが始動する。バンド名はギターの略称である「GTR」から取られ、その名の通り「ギター・シンセサイザーを駆使し、キーボードを一切使わないロック」という明確なコンセプトのもとに結成された。
実力派でありながら当時はまだ広く知られていなかったマックス・ベーコンがシンガーとして抜擢され、彼のクリアで温かみのあるハイトーンボイスがバンドの看板となった。
2. 当時のミュージックシーンにおける客観的な位置付け
1980年代中頃の音楽シーンは、70年代の複雑なプログレッシブ・ロックが衰退し、MTVの普及とともに、よりキャッチーで洗練されたポップ・ロックや、シンセサイザーを多用したニューウェーヴが主流となっていた。また、イエスの『90125』(1983年)やエイジアの成功により、プログレの巨匠たちがポップス路線へとシフトしていく過渡期でもあった。
このような時代背景において、GTRのアルバム『GTR』は以下のような位置付けを持つ。
- 商業的成功とチャート実績:アルバムは全米チャート(Billboard 200)で最高11位を記録し、ゴールドディスクを獲得。当時のシーンにおいて商業的に大成功を収めた。
- プログレ・ファンとポップス市場の架け橋:往年のプログレファンからは「商業主義的すぎる」との批判もあったが、エイジアの流れを汲む高品質なスタジアム・ロックとして、一般の音楽ファンから熱狂的に受け入れられた。
- 短命に終わったスーパーバンド:セールス的には成功したものの、ハウとハケットという2人の巨頭の音楽性の違いや人間関係の摩耗により、バンドは本作わずか1枚を残して解散。そのため、「80年代を駆け抜けた幻のスーパーバンド」として記憶されている。
3. 音楽的特徴:キーボードレスの構築美
アルバム『GTR』の最大の音楽的特徴は、「キーボード(シンセサイザー)の不使用」という制約の中に極限のポップネスを詰め込んだ点にある。
当時主流だったシンセサイザーの壮大な壁のようなサウンドを、ハウとハケットは「ギター・シンセサイザー」を用いることで再現した。これにより、80年代特有のきらびやかな音像を保ちつつも、全編にわたってギタリストならではのピッキングのアタック感やストリングスのニュアンスが活きた、独特の硬質で重厚なアンサンブルが構築されている。
これにマックス・ベーコンの圧倒的な歌唱力が加わることで、テクニカルでありながらも非常に聴きやすい、キャッチーなメロディアス・ハードロックへと昇華されている。
4. 主要な楽曲の分析
『ハート・マインド(When the Heart Rules the Mind)』
アルバムのリードシングルであり、全米シングルチャートで14位を記録したバンドの代表曲。エイジアを彷彿とさせるキャッチーなフックと爽快なメロディが特徴である。イントロのツインギターの美しい絡みから、マックス・ベーコンの伸びやかなハイトーンボイスへと繋がる構成は、80年代スタジアム・ロックの完成形の一つと言える。
『ザ・ハンター(The Hunter)』
著名なシンガーソングライターであるプロダクション・チーム(主にジー getz やマックス・ベーコンとも縁のあるアーティスト)周辺から提供された楽曲(名匠 Geoff Downes らの関与も指摘される)。非常にポップでドラマチックな展開を魅せる楽曲であり、哀愁を帯びたメロディラインと、後半に向けて熱量を増していくマックス・ベーコンのボーカルパフォーマンスが光る名曲である。
後世に残るロックの名盤
GTRの『GTR』は、プロレグレッシブ・ロックの巨匠たちが80年代というポップ・カルチャーの全盛期に、自らのプライドと新しい技術(ギターシンセ)を賭けて挑んだ野心作である。
中心人物たちのスタンスの違いからバンド自体は長続きせず、名ボーカリストであるマックス・ベーコンもその後はソロ活動(1996年のアルバム発表など)や他アーティスト(マイク・オールドフィールド等)への参加を経て第一線を退くこととなったが、本作に刻まれた彼の「ステキボイス」と2人のギタリストによる構築美は、今なお80年代ロックの隠れた名盤として高く評価されている。

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