ソニー・ロリンズが逝去した。
豪快で芯のあるトーン、あふれ出るアイデアをそのまま形にしたような自由闊達な即興演奏。10代でマイルス・デイヴィスやセロニアス・モンクに見出されて以来、半世紀以上にわたり常にジャズの最前線を走り続けた人。
ロリンズを「巨人」たらしめたのは、誰もが絶頂期だと思っていた時期に、突如シーンから姿を消してウィリアムズバーグ・ブリッジの上で黙々とサックスを吹き続けたという「伝説の失踪」に代表される、飽くなき求道精神なんだと思う。
晩年は肺の病(肺線維症)により楽器を置くこととなったが、彼の指は最期までサックスのキーを動かすように震えていたという。
時代を彩ったソニー・ロリンズの代表作
ロリンズのディスコグラフィは名盤の宝庫だが、まず歴史を語る上で外せない名作たちを振り返る。
『Saxophone Colossus』(1956年) 「サキソフォン・コロッサス(サックスの巨人)」という彼の代名詞となった不滅の最高傑作。名演「St. Thomas」でのカリプソのリズムに乗せた陽気なブロウや、「Moritat」での知的な即興は、モダンジャズの一つの到達点。
Saxophone Colossus
『Way Out West』(1957年) ステレオ録音の草分けとしても知られる、ピアノレス・トリオによる意欲作。カウボーイハットをかぶりサックスを銃のように構えたジャケットも有名で、西海岸の乾いた空気感の中で自由奔放に吹きまくるロリンズが堪能できる。
ウェイ・アウト・ウエスト +3 (UHQCD)
『The Bridge』(1962年) 最初の「失踪」から復帰した彼が、橋の上での修練を経て放った記念碑的作品。より深みを増し、時代の変化(フリージャズの台頭など)を吸収しつつも、自らの軸をより強固にした傑作。
Bridge
ロリンズ私的偏愛アルバム|『コンテンポラリー・リーダーズ 』
数あるロリンズの名盤の中で、極めて個人的に偏愛している大名盤。それが、この『コンテンポラリー・リーダーズ(Contemporary Leaders)』(1958年録音)だ。
【パーソネル】
ソニー・ロリンズ (ts), バーニー・ケッセル (g), ヴィクター・フェルドマン (vib),
ハンプトン・ホーズ (p), リロイ・ヴィネガー (b), シェリー・マン (ds)
粋を極めたデザイン:静寂と情熱のジャケット
私が最も気に入っているのは、このジャケットデザイン。「ジャズ」という音楽を視覚化したような洒脱に満ちている。
派手な装飾を削ぎ落とし、深いコントラストの中でロリンズの佇まいだけを浮かび上がらせたこのビジュアルは、この音盤から紡がれる音楽の「知性」を表象しているかのようだ。
ウエストコーストの名手たちとの「他流試合」と、心地よいリラクゼーション
本作の面白さは、普段ニューヨーク(東海岸)を拠点にガチンコのハードバップを演奏していたロリンズが、ロサンゼルス(西海岸)に乗り込み、当時のコンテンポラリー・レーベルを代表する白人・黒人のトップミュージシャンたちと相まみえた点にあると思う。
東海岸のスリリングな緊張感とは異なり、ここにあるのは「実力者たちが肩肘を張らずに極上のスウィングを楽しむ」という最高の贅沢なんだろう。ロリンズの豪快なテナーはそのままに、どこか鼻歌を歌うかのような優雅さとユーモアが漂っている。
「ハウ・ハイ・ザ・ムーン」の奇跡
ドラムのシェリー・マンとピアノのハンプトン・ホーズがスタジオに到着する前、待ちきれなくなったロリンズが、バーニー・ケッセル(ギター)とリロイ・ヴィネガー(ベース)の3人でウォーミングアップ代わりに吹き始めたセッション。それをエンジニアのロイ・デュナンが密かに録音していたという。ドラムもピアノもない空間だからこそ、3人の呼吸とロリンズのどこまでも自由なフレージングが、信じられないほどリラックスした形で耳に飛び込んでくる。
息をのむ「アローン・トゥゲザー」
ピアノトリオから始まり、ギターのケッセルが加わり……と、じわじわと楽器が増えていく。リスナーを手十分に焦らしたところで、“満を持して”悠然と登場するロリンズのテナー。この一連の流れのドラマチックさと、ケッセルのスリリングなギターとの絡みは鳥肌ものだ。
名盤を彩る「月影のチャペル」
ハンプトン・ホーズの情感豊かなピアノイントロから引き継がれるスタンダードナンバー「月影のチャペル」は、楽しいことばかりではない日常に彩りを添えてくれる。
最高です。
そしてソニー・ロリンズ様。
あなたの音楽は、これからも私たちの退屈な日常を特別な瞬間に変えてくれるでしょう。
今度こそゆっくりとお休みください。

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