1. シンガーソングライターとしてのゲイリー・ベンソン(Gary Benson)
ゲイリー・ベンソンは、1970年代から1980年代にかけて活動したイギリス出身のシンガーソングライター(SSW)である。その極めて緻密でメロディアスな楽曲制作のスタイルから、一部では「イギリスのジミー・ウェブ」とも評されている。
自身のアーティスト活動のみならず、卓越したソングライティング能力で他アーティストへの楽曲提供も多数行ってきた。代表例としては、オリビア・ニュートン・ジョンの1976年のアルバム『水のなかの妖精(原題:Come on Over)』に収録され、シングルカットもされた名バラード『Don't Throw It All Away(邦題:恋にさようなら)』が挙げられる。哀愁を帯びた美しいメロディラインを構築する手腕において、非常に高い評価を得ている職人気質のミュージシャンである。
2. アルバム『Moonlight Walking』のイノセントなポップサウンド
1980年にリリースされたアルバム『Moonlight Walking(邦題:ムーンライト・ウォーキング)』は、彼が残した作品群の中でも「英国産メロウAOR」の隠れた名盤として語り継がれる1枚である。
本作の最大の音楽的特徴は、70年代のソフトロックやライトメロウのエッセンスを引き継ぎつつも、過度に派手な装飾を排したマイルドでイノセントなポップ・サウンドにある。アレンジ面では、スティーヴ・ルカサーやリー・スクラー、ラス・カンケルといったアメリカの著名なセッションミュージシャンが一部参加しているものの、全体を支配するのは英国SSW特有のどこか陰影のある、あるいはノスタルジックで上品な空気感である。
洗練された都会的なAORというよりは、陽だまりのような温かさと繊細さを兼ね備えた「美しいメロディのポップバラード」がアルバムの核を成している。
3. 収録楽曲
本作の音楽的志向を象徴する重要な楽曲として、以下のトラックが挙げられる。
『Dying To Live With You』 アルバムの冒頭を飾るにふさわしい、フックのあるメロディを持ったミディアムテンポのナンバーである。ソングライターとしての彼の構成力の高さが伺え、耳馴染みの良いポップスとしての完成度を示している。
『Counting The Days Away』 切なさを帯びたコード進行とマイルドなボーカルが絶妙に絡み合うトラックである。オリビア・ニュートン・ジョンに提供した楽曲に通じるような、胸を締め付ける美しい旋律のバラード表現が際立っている。
『Moonlight Walking』 本作のタイトル曲である。60年代のブライトなポップスへのオマージュとも受け取れるような懐かしさと、少し甘めのシロップを溶かしたような浮遊感のあるメロディが特徴である。派手な展開はないものの、リスナーを穏やかな多幸感で包み込むような魔法的なアレンジが施されている。

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