2026年4月20日月曜日

【音楽エッセイ】Mr.Children『産声』レビュー:原点回帰のピアノと、過去の傷を癒やす「Glastonbury」

Mr.Children(ミスチル)の新譜がリリースされるたび、一度集中して全編を聴き込むのが私の長年の習慣である。もちろん、今回発表された『産声』も例外ではない。一通り耳を通した今、本作は往年のファンを唸らせる仕掛けと、今だからこそ響く深いメッセージ性に満ちた傑作であると確信している。



小林武史のピアノがもたらす推進力と「原点回帰」

本作における最大の聴きどころの一つは、やはり小林武史の手による卓越したピアノアレンジだろう。 象徴的なのが、収録曲『Again』である。ここで聴ける小林渾身のピアノは、楽曲に圧倒的な説得力を与えている。さらに、原点回帰的なアプローチが光る『Nowhere Man』でも、彼らしい推進力のあるピアノが全編を引っ張る。この瑞々しくも力強いサウンドは、初期からの古いファンにはたまらないプレゼントと言える。 また、今作では珍しい遊び心も散りばめられている。『Saturday』という楽曲のイントロに触れた時、思わずニヤリとしてしまった。シカゴの名曲『Saturday in the Park』を彷彿とさせるイントロを添えるという、実に洒落たオマージュが効いているのだ。こうした音楽的な仕掛けを見つけ出すのも、本作を聴く醍醐味である。

「Glastonbury」が描くクリス・マーティンと、古い心の傷跡

アルバムの5曲目に配された『Glastonbury』は、本作の中でも特に異彩を放ち、そして聴き手の心に深く刺さる一曲だ。 「2002年のグラストンベリー / YouTubeでチラ見 / クリスは絶好調」 なんとも好奇心をそそるこのフレーズで楽曲は幕を開ける。ここで歌われているのは、イギリスを代表するロックバンド・コールドプレイ(Coldplay)のフロントマン、クリス・マーティンのことである。 このフレーズを耳にした瞬間、私の中で個人的な記憶の蓋が開いた。
まだ東京で慌ただしく働いていた頃、私はコールドプレイの音楽に救われていた。彼らの楽曲を録音したMDをウォークマンに入れ、通勤電車の中で毎日のように聴いていたものである。 しかしその後、札幌へ移住して古い友人と再会した際、思いがけない言葉を投げかけられた。「コールドプレイが好きなんてセンス悪いな」――。 悪気のない一言だったのかもしれない。だが、当時の自分を支えていた音楽を否定されたその言葉は、私の心に深い傷跡を残した。
おそらくこの先も一生忘れることはないだろう。 だからこそ、ミスチルが新譜の中で「クリスは絶好調」と歌い、彼らの存在を肯定してくれたことに、私は言葉にできない救いを感じたのだ。

総評:誰かの傷に寄り添う、新たな名盤の誕生

Mr.Childrenの『産声』は、往年のファンを歓喜させる音楽的クオリティを担保しながらも、聴き手一人ひとりのパーソナルな記憶や傷跡にそっと触れてくる包容力を持ったアルバムである。 素晴らしいピアノサウンドに酔いしれたい人も、歌詞の世界観に深く浸りたい人も、まずは一度、じっくりと全編を通して聴いてみてほしい。そこにはきっと、あなた自身の物語と共鳴する瞬間が待っているはずだ。

産声 (通常盤) - Mr.Children (特典なし)
B0G6K6267Y

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