1985年に発表されたセルフタイトル・アルバム『The Beach Boys』は、初期のサーフ・サウンドでも、60年代後半のサイケデリックな実験でもなく、80年代という新しい時代に彼らがどう向き合ったのか、その軌跡が刻まれた作品だと思う。
1. 悲劇を乗り越えて:デニス・ウィルソン亡き後の再始動
本作を語る上で欠かせないのが、1983年のオリジナル・メンバー、デニス・ウィルソンの急逝。バンドの精神的支柱の一人を失い、存続すら危ぶまれる中で制作されたのがこのアルバムだった。
また、本作は彼らにとって「初のCDリリース作品」としても知られている。アナログからデジタルへ、メディアの変革期であったこともこの作品に影響を与えているのだろう。
2. 80年代サウンドとの融合:豪華プロデューサーとゲスト陣
アルバムのサウンド面を決定づけたのは、当時の最先端ポップ・シーンで活躍していたプロデューサー、スティーヴ・レヴィンの起用だった。
カルチャー・クラブなどを手掛けていた彼の采配により、伝統的なコーラスワークとエレクトリックなゲートリバーブ・ドラムが融合した「80年代流ビーチ・ボーイズ」が提示された。ゲストミュージシャンが参加していることも、今までのビーチボーイズのイメージを一新している。
- ゲイリー・ムーア
ハードなギター・ソロで楽曲にエッジを加味。
- スティーヴィー・ワンダー
楽曲提供(I Hope Love Has't Gone Away)に加え、演奏にも参加。
- ボーイ・ジョージ
ソングライティングに参加し、当時のニューロマンティックの香りを注入。
3. 「これぞビーチ・ボーイズ」という安心感と革新
冒頭の「Getcha Back」のイントロが「新しい」ビーチボーイズをサプライズとともに幕開けするが、一瞬の戸惑いの後には、あの唯一無二の極上ハーモニーが重なり、聴き手を「ビーチ・ボーイズの世界」へと一気に引き戻す。
特に「California Calling」では、リンゴ・スターのドラムが、オールドファンをも納得させる懐かしい空気感を見事に再現している。
4.『Pet Sounds』からの長い旅路
60年代に『Pet Sounds』でポピュラー音楽の頂点を極めた彼ら。その後、ブライアン・ウィルソンの不調やメンバー間の不和など、長い低迷期や混乱を経験した。
1985年の本作は、そんな彼らが「今一度、現代(当時)のポップ・バンドとして戦う」という意志を示した作品なんだと思う。
当時の最先端技術を使いながらも、届けてくれたのは少年時代にラジオから流れてきたようなワクワクするポップ・ミュージックの魔法だった。

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