2013年6月16日日曜日

ジュデダイア・ベリー「探偵術マニュアル」:神秘的で、そして悲しき架空の魔法世界でハードボイルドする事務員の物語

雨が降り続ける名もない都市。
「探偵社」に勤める記録員アンウィンは、ある朝、前触れもなく探偵への昇格を命じられた。
記録員の仕事を心から愛するアンウィンは、抗議のため上司の部屋を訪れるが、そこで彼の死体を発見してしまう。
なりゆきで、そのまま探偵として捜査を開始するはめになるのだ。

時を同じくして都市随一の探偵シヴァートが失踪。
彼はアンウィンが記録を担当していた探偵だった。
謎の女が依頼に訪れ、アンウィンは事件の迷宮に足をとられる。

行方不明になったシヴァートのあとを追ううちに、シヴァートが昔手がけた事件が実はまだ進行中であることが明らかになってくる。

ジュデダイア・ベリーのハメット賞受賞の驚異のデビュー作。


探偵術マニュアル (創元推理文庫)
ジェデダイア・ベリー
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夢と現実、過去と現在、敵と味方が渾然一体で、これはもうどんでん返しですらない。
結局事件の解決は、夢の中で「行われる」(夢で見るのではない)。

さらに要所要所で鍵を握るのは、サーカスの魔術師。
神秘的で、そしてちょっと物悲しい架空の魔法の世界は、そのままこの物語世界のようだ。

ハードボイルドなはずの探偵物語は、本来事務を得意とするトホホホな主人公によって右往左往する。(なのに、この物語からはハードボイルドな薫りが色濃く立ち込めている。この筆力はただごとではない、と思う)

片手に拳銃、片手にランチバスケットの助手のエミリー・ドッペルがかわいい。かわいいが、ちっともあてにならない。

なんて素敵な道具立てを揃えたのだろう。
映画で観たい。ぜひ観たい。

夢と現実を行き来するだけでなく、夢の中の夢まで出てきて、本来論理的な道具である「言語」なんかを使って、よくここまでの不思議世界を表現できたものだと感心しきり。

アクロバティックな物語構成だが、それもこれもアンウィンという語り手の生真面目さが成立させているのだ。

だが普段のスピードで読むと必要な情報を読み飛ばしてしまうことがあるかもしれない。二行戻って、ああなるほど、というような読み方がいい。

心急かされない状況で無心に読みたい一冊。

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