2013年6月8日土曜日

ショルティの「ワルキューレ」をCDとLPで聴き較べる

ワーグナーの大作楽劇「ニーベルングの指環」は、「序夜と三日間のための舞台祝典劇」と副題が付いている通り、全編を演奏するのに計四日間かかるという桁外れの大作だ。

だから、たいてい全編通して聴こうという気にはならないし、四部構成のそれぞれの作品はもちろん単体としても売られている。

その第二夜が「ワルキューレ(Die Walküre)」だ。

第三幕の序奏である「ワルキューレの騎行」は、この長大な楽劇を観たことがなくても知っているはずだ。
これはフランシス・フォード・コッポラ監督による映画「地獄の黙示録」で、べトコンの拠点となっている村にヘリコプターで奇襲攻撃を掛ける際に、兵士の士気を高め、住民の恐怖心を煽る為に、大音量のテープで流れている音楽。
この映画で実際に使われた演奏が、ゲオルグ・ショルティ指揮のウィーン・フィルハーモニー管弦楽団のものである。

私はこのショルティの指揮したワーグナーオペラの全曲集を昨年CDで購入した。
36枚組み(!)でなんと8700円程度。
信じられないほど安い。

Wagner: The Operas
Wagner: The Operas
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Sir Georg Solti
Decca (2012-08-30)
売り上げランキング: 716

この盤にはもちろんレコードが存在する。
が、これを入手するには、中古市場からの調達ということになり、良い盤を見つけるには相当の努力とかなりの資金が必要だろう。

有難いことに僕にワーグナーを教えて下さった先輩が、ワルキューレのレコードを貸して下さった。
先輩のお家で音を聴かせていただく時、「あと、何か聴きたいのある?」と聞かれると、「じゃあ、ワーグナーを・・」とお願いして聴かせていただく盤だ。



もうジャケ、というより箱なのだがいきなりカッコいいのである。
しかもこれは、なんでもSuper Analog Discという特別な盤らしく、ワルキューレのみの五枚組で1万6000円もする。


さっそくターンテーブルにセットするが、せっかく同じ音源のCDを持っているのだから聴き較べをしてみてはどうだろうか、と思いついた。
私のプリアンプMcIntosh C2200は、真空管アンプのくせにリモコンがついていて、瞬時にCDとPHONOの音を切り替えて聴くことができる。

CDをプレーヤーにセットして、まずレコードの方に針を落とし、タイミングを見計らってCDもスタートさせる。別に厳密に同期している必要はない。

最初はレコードの方から聴き始める。

嵐を暗示する、不安を煽るような低音弦の力強いリズム。
ジークムントが逃走していく。

それを追いかけるようにトランペットが稲妻のようにきらめき、ティンパニの雷鳴が轟く。ダイナミックな幕開けにいきなり引き込まれる。

CDに切り替えてみて、ちょっと身を引いた。
ボリュームが違いすぎる。
目盛りを10%ほど落とさないと同じ音にならない。

同じような音圧感にしても、トランペットの耳を刺すような感じが残る。
CD単体で聴くと気にならないのに、レコードの同じ部分の後で聴くと軽度の「不快感」が残るのだ。
ティンパニの残響も柔らかさに欠け、インパクトの瞬間の音の鋭さが後の余韻を感じさせないようにしてしまっている。


幕があき、ジークムントとジークリンデの出会い。
声の繊細なニュアンスはCDの方からより立ち上ってくる感じがするが、レコードのほうがより全体のサウンドや舞台の(実際には舞台での録音ではないが)空気感を巻き込んで「音楽的」に聴こえる。
どちらが良い、というような明確な差ではないが、強いて言うなら、この場面において重要な人間の存在感のようなものはCDの方がよく表現できているような気がする。

その後も、音楽的な表現が場を引っ張る場面では、レコードの豊かに混ざり合う響きに好感を持ち、人間(または神)同士の緊張感の高い感情のぶつかり合いの表現にはCDの明快な音が、有効だと感じた。

この長大な楽劇の最初のハイライトとも言える「ワルキューレの騎行」は、圧倒的にレコード盤の表現が雄大で、会場に飲み込まれたような気分で聴くことができた。
CDでは細部の楽器の音がよく聴こえるが、逆にそれが耳に痛い。


もしかしたら、微弱な音溝の振動を細い針でピックアップして、増幅して増幅してスピーカーを駆動するアナログ再生は、アンプの能力を程よいところまで引き出して使うので、「オイシイ」音が出ているのかもしれない。
だからこのような比較聴取では、CDとアナログレコードというメディア間の音質差を較べたことにはならない。

このシステムとこの聴取環境では、このような差があった、というだけの話だ。

であれば、せっかく音楽を聴くのだから、こういうことにはアタマを使わずに聴きたい。
音楽を聴くという趣味には、音楽の細部に秘められた魔法まで感じ取るために、できるだけいい音で聴きたいという欲望はあっても「音質差そのものを楽しむ」という要素は無いと思う。

聴く前にレコードを綺麗に磨いて、丁寧にセットして、トーンアームを下ろす。
大きくて美しいジャケットを眺めたり、解説を読んだりする。
そういう行動も含めて、僕はアナログレコードが好きだ。

所有するものとしてのアナログレコードの「趣味性」もいいと思う。

価格も含めた入手のしやすさなどを考慮して、バランスよくCDやレコードを楽しんでいきたいと思う。

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