2022年10月15日土曜日

一切の事前情報をシャットアウトしてただ読むべし!『プロジェクト・ヘイル・メアリー』

 TBSラジオの『アフター6ジャンクション』は圧倒的に火曜日がおもしろい。

宇垣美里自身の熱量がライムスター宇多丸を加速するのだろう。

その日も、宇多丸はアツかった。とにかく『プロジェクト・ヘイル・メアリー』は面白い、と連呼するのだが、内容については一言も言いたくない、と繰り返す頑なさが、それ絶対面白いやろ、という気分にさせた。




翌日街の大きな書店に行ってみたらもう在庫がなくなる寸前で、慌てて購入して、そのまま読んだ。

読み終わるまで置きたくない本、というのが本当にごく稀にあるが、これがそうだった。

宇多丸師匠の言に倣い、本稿でも『プロジェクト・ヘイル・メアリー』の内容には一切触れない。 


ただ、感想の代わりに、下巻の後半マジで声を上げて泣いてしまったことだけを告白しておく。


プロジェクト・ヘイル・メアリー 上 (ハヤカワ文庫SF)
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プロジェクト・ヘイル・メアリー 下 (ハヤカワ文庫SF)
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2022年10月14日金曜日

こんな硬派な文体でもスイスイ読めるならジャケ買いも悪くない:『女には向かない職業』P.D.ジェイムズ

あまりにも有名なタイトルだが、文体の好みが分かれるのかレヴューが二分しているP.D.ジェイムズ『女には向かない職業』。

この新装版の表紙に抗えず購入してみた。

『名探偵コナン』の重要キャラクター灰原哀の名は、この『女には向かない職業』のコーデリア・グレイと、サラ・パレツキーの女性探偵V.I.ウォーショースキーから取られている。

そして僕は、サラ・パレツキーのV.I.ウォーショースキー・シリーズもまきおさんイラストの新版になってから購入したのだった。(だからイラストレーターが変わった『フォール・アウト』以降は買ってない)



 

 

 

 

 

 

 

二人の女性探偵ものをジャケ買いで揃えた僕に眉を顰めるミステリファンは多いだろうが、世評通り超硬派な文体のP.D.ジェイムズでさえ、ジャケが良ければそれなりに読めてしまう不思議な体質のおかげで没入して読めるのだから、バカにしたもんじゃないと思う。

いやこれ相当面白かったですよ。

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数ある新本格の中でも屈指の魅力キャラ:『魔眼の匣の殺人』今村昌弘

『魔眼の匣の殺人』がついに文庫化された!


『屍人荘の殺人』も本格推理としての完成度も高く、伏線がビシビシと小気味よく回収されていく快作であった。

それにしても探偵剣崎と葉村の新コンビは、数ある新本格の中でも屈指の魅力キャラと思う。

「マダラメ機関」と言う敵役の設定で、物語のスケールを充分に担保し、続きを楽しみにさせるところもニクい。

それにしても文庫化まで3年半・・

文庫派の私にとっては、待ち遠しくて待ち遠しくて何回創元さんのホームページを検索したかわからんくらい。

その期待ゆえに過大評価になっているかもしれないが、ただただ面白かった。そしてここから『兇人邸』の文庫化を待つ日々。

いや、待ってるのも楽しいのよ。ホントに。


2022年10月13日木曜日

松崎レオナを追いかけて:島田荘司再読の旅

『暗闇坂の人喰いの木』で島田荘司作品の講談社文庫改訂完全版は、5作品目になる。



再読の良い機会だが、『暗闇坂』はすでに4回目の再読となる。

犯人がわかっているのに、ミステリを再読する意味はない、という人もいるだろう。しかし自分にとっての『暗闇坂』は、人生が思わぬことで行き詰まり、自分を見失ってしまいそうになる時、何度も本棚から取り出して読み返す、そういう物語なのだ。



『暗闇坂』を読んでしまうと、どうしても『水晶のピラミッド』に手が伸びるのは、松崎レオナに逢いたいからだと告白しよう。

その意味では『アトポス』が重版されず入手不能状態なのは困ってしまう。ぜひ改訂完全版で復刊を。

で、本作。大仕掛けで知られる島田作品の中でもかなりの仕掛けっぷり。

張り巡らせる合理の網に、読者である我々を見事な手法で絡めとるが、並行して描かれるギザとタイタニックの物語が、この合理の網に豊かな詩情を添えるのだ。「巻を措く能わず」とはこの本のためにある言葉で、こちらも4回目の再読になるが734ページを2日で駆け抜けた。




そして『眩暈』

例の大仕掛けだけは、どうやっても頭から消えるはずもなく、流石に驚けないだろ、と思ってた訳だが、わかって読んでいるからこそ別の細部に驚きまくりで、ページが止まらず一気読みとなった。

今は無性に次作『アトポス』が読みたいが、絶版で入手困難。これを好機と捉えて、御手洗再読祭りを一旦収めようと思う。 


慎ましく穏やかな老後に強い憧れを持つあなたへ:『三千円の使い方』原田ひ香

若い頃から野心はなかった。

なにかで一番になったこともないし、どうしてもこの道でなければ、という強い思いも抱いたことはない。 

だからずっと、慎ましく穏やかな老後に強い憧れを抱いていた。 

でも実際に近づいてみると、ただ穏やかに生きていくことはとんでもなく難しいのだと気付かされることはいくらでもあって、不安は大きくなるばかり。 

そんな気持ちで街を歩いていたら、書店の平積み台からこの本が僕を呼んでいるのに気がついた。 



その声に従って家に連れ帰り、一気に読んだ。 

心に巣食っていた不安は、不思議なことに消えていた。 


2022年5月1日日曜日

俺と甲斐バンド : 甲斐よしひろのソロ活動35周年記念盤『FLASH BACK』

 甲斐よしひろのソロ活動35周年記念盤『FLASH BACK』が届いた。


一曲目の『電光石火BABY』から、あの唯一無二の声にヤられる。

この声と最初に出会ったのは、『HERO(ヒーローになる時、それは今)』だったが、決定的だったのは、NHK-FMで放送された甲斐バンド・ライブだった。

素っ裸のエイトビートに、Gmの歪んだパワーコードが重なって、甲斐さんが「あなたに抱かれるのは・・」と振り絞るように歌し出して、そのライブは始まった。『きんぽうげ』というその曲に完全に心を持っていかれた。

その日から、僕の心は常に甲斐よしひろと共にある。

そのライブを録音したテープを繰り返し繰り返し何度も聴いた。

まだレコードになっていなかった新曲『安奈』が気に入って、自分でも歌ってみたくてアコースティック・ギターを買ってもらった。

甲斐バンドの曲を何曲も弾いて歌っているうち、作曲の方法が何となくわかってきて、自分の曲を作るようになった。

甲斐さんがDJをやっていた、NHK-FM『サウンド・ストリート』は毎週欠かさず聴いていた。この番組でハウンドドッグの『嵐の金曜日』や、もんた&ブラザーズ『ダンシング・オールナイト』を知り、何より佐野元春を教えてもらった。

アルバムが出るたび、熱狂した。『黄金/GOLD』というレコードがあまりに傑作すぎて、テストの前日だというのに勉強もせず、こっそりヘッドフォンで聴いていたのを母親に見つかり、レコードを割られたこともある。

1986年に甲斐バンドは解散してしまったが、翌年ソロアルバム『ストレート・ライフ』が出て、その後期甲斐バンドらしさを継承したサウンドが本当に嬉しかったんだ。

ソロキャリアのスタートである、『ストレート・ライフ』のツアーには札幌で参戦した。

最初に生甲斐バンドを観たのは、アルバム『MY GENERATION』の頃だから79年か80年、釧路の市民会館だったと思う。時々手を振り上げ、腰を捻りながらステージ上を歩く甲斐よしひろは、まだ中学生だった僕には鮮烈そのものだった。

1987年の『ストレート・ライフ』ツアーでもそのアクションは健在で、ただただカッコよくて熱狂した。その頃、僕はもう大学生だったから、それがミック・ジャガーにそっくりなステージアクトであることを知っていたが、そんなことはどうでもよかった。

その頃には、甲斐バンドの名曲たちにそっくりな先行洋楽曲があることにも気づいてはいたが、それでも甲斐さんの声で歌われる楽曲の魅力はいささかも色褪せなかった。

だから僕はきっと、甲斐バンドの「ファン」なんだと思う。なんの前提も言い訳も必要なく、ファンだといえる対象があるのだから、僕はとても幸せな男なんだと思う。



2022年4月13日水曜日

思い出のレコード『清水健太郎:KENTARO FIRST』

 小学4年生のとき、友だちの家で聴いたBay City Rollersにすっかりやられて、音楽が好きになった、と思っていたが、もしかしたらその時に好きになったのは「レコード」だったのかもしれない。

お小遣いで、最初に買ったレコードは沢田研二さんの『勝手にしやがれ』で2枚目は清水健太郎さんの『失恋レストラン』だったが、どちらもいつの間にか失くしてしまった。

ジュリーには『ロイヤル・ストレート・フラッシュ』というジャストなベスト盤があり、音源も入手していた。

その後、いろいろあった清水健太郎さんの音源は手に取る機会がなかったが、『失恋レストラン』に続いて2曲目のヒットとなった『帰らない』もテレビやラジオでよく聴いて、冒頭の印象的なフレーズは長い間記憶に残っていた。

ふとそのことを思い出し、メルカリでこのアルバムを見つけた。


故ナンシー関さんが「無人島に持っていく一枚」に選んだという名盤だが、その名盤たる所以は、ひとえに収録曲の充実にあると思う。

文句なしの名曲『失恋レストラン』『帰らない』をはじめとするつのだひろ楽曲たちに加、清水健太郎さんご自身も作詞作曲を手がけている。

中でも『両切りのキャメル』は、彼のレパートリーの中では異色作といえるアーバン・ポップで、パブリック・イメージとは異なる、彼の広い音楽趣味を窺わせる名曲だ。

そして、ダウンタウンブギウギバンドの名曲『知らず知らずのうち』も泣ける。このカバーが、宇崎竜童作詞作曲による『遠慮するなよ』という3rdシングルに繋がっていくのだろう。


『失恋レストラン』を除く全曲で馬飼野康二さんの名アレンジが炸裂して、特にちょっとフェイズシフトのかかった歪み系ギターが縦横無尽に暴れる感じがとても素敵なんだが、演奏者のクレジット記載がなく、誰が弾いているのかわからない。

それだけがとても残念だ。


2022年2月20日日曜日

『スノウ・クラッシュ』:(メタヴァースの元ネタというより)メタ文化人類史学サイバーパンク風味、かな

ベゾスやイーロン・マスクなど、テクノロジー系ベンチャーの創始者たちが牽引して、新しい世界への道筋が踏み固められつつあるが、そのヴィジョンの源泉としてスティーブンスンの名前をよく見かけるようになった。

ザッカーバーグが、Facebookの社名をMetaに変更してからこっち、メタヴァースという言葉の元ネタとしてあちらこちらで取り沙汰される『スノウ・クラッシュ』が復刊されたので読んでみたら、その理由が少しだけわかったような気がした。












国家というシステムも、資本主義というイデオロギーも、とっくに限界がきている。

でもその先が見えない中で、なんとなくコンピュータ・テクノロジーの行く末には光があるんじゃないか、というより、それ以外に頼りになりそうなものが見当たらないというところだろう。

確かに、なんらかの理由でお蔵入りにされた古い思考やイズムを掘り起こすよりはいいような気がする。


しかしチューリングマシンを嚆矢とするコンピュータそのものが、人間の思考を模倣したものであること(AIに対する本質的な不信感はそのあたりに深因があるのだろう)を考えれば、それを確かな道標とするために、そもそもこの遠大な人智の来し方の根源的なところに踏み込むほかない。

本書の主題はまさにそこにあるのだと思う。


古代シュメール史を遡行し、バベルの塔の神話を横目に見ながら、まるで現代のパンデミックを見透かしたようなウィルスと人類への言及。

そのすべてが、示唆に富んでいる。


古い権威主義をぶち壊すことが、本書が指し示す人類の未来に必須な前提条件であったのだろう。

それゆえに本書が纏ったサイバーパンク風味が、その種の隠語を頻発させ、ついつい読み飛ばし気味になるところがあって、せっかくの深い考察が勿体無い気もする。

せっかくこんなに魅力的に造形したキャラクターたちだからもう少し純粋に楽しめる形であってもいいかな、とは思う。 

映像化に際して多くの伝説を残した『砂の惑星』ですら、あんなに魅力的な映画になる現代である。 


動くヒロとY.Tが観たい! 

俳優さんは誰がいいだろう? 

Ngは?

レイヴンは?

エンゾは?

想像するだけで楽しい。

2022年2月6日日曜日

エラリー・クイーンの『冒険』と『新冒険』について

エラリー・クイーンの書評を書くのは難しい。

今回二作の短編集を読んで頭を抱えてしまった。











何かのインタビューで島田荘司先生が、一番好きなミステリは?と訊かれて、気恥ずかしいが『Yの悲劇』が、と答えておられたのを読んで、『Xの悲劇』から始まる「ドルリー・レーン四部作」を読んだのが、エラリー・クイーンとの出会いだった。だからこの4冊は、純粋に本格ミステリとして最高に面白かったと感じたが、島田バイアスがかかっていたかも知れない。

そう思ってしまったのは、『ローマ帽子の謎』から始まる「国名シリーズ」を続けて何作か読んでみたが、どれもピンと来なかったからだ。しかしそれも、全作品を読んだわけではなく、これから面白い作品に出会うのかもしれない。

映画『配達されない三通の手紙』の竹下景子さんに恋をして、勢いで読んだ原作の『災厄の町』。「国名シリーズ」とはまったく違うエラリーの佇まいに驚いて、「ライツヴィルシリーズ」を読破した。シリーズ全体に漂う、あの独特の雰囲気。深い人間描写。巻を進めるほどにミステリとしての話法が進化していく様子にとても感心した。


そして今回の短編集である。

二作目の『新冒険』には、あらゆるガイドブックでミステリ短編の代表的傑作と評される『神の灯』が収録されているが、僕にはこれがまったく駄目だった。

似たようなトリックを多くのミステリ作家が料理しているからだろうか。僕自身は島田センセ、そりゃ流石に大技すぎでは・・と思わせても、物語そのものが魅力的ならそれでいいと思うタイプだが、『神の灯』は「動機とトリックのバランス」が取れていないように思えてならなかった。

『冒険』の方は、物語そのものの魅力は充分で、楽しめるには楽しめたのだが、やはりエラリーの謎解きはあの怒涛の「傍点」がないと、あの「ぐうの音も出ない」感が味わえず、どうも気分が出ないのである。

ドルリー・レーン四部作ではそのような物足りなさを感じないところを見ると、やはりこれは探偵エラリーの人物造形に因るものだろう。

『新冒険』に至っては、多くの評論家さんも指摘しているように、物語の魅力そのものにも少し物足りないところがある。

そして『新冒険』には「異色なスポーツ連作」と題されたパートが収録されている。ポーラ・パリスなる女性記者とのアベック探偵もので、ここではエラリー・クイーンのキャラが少し軟派な方向に崩壊している。だからそれはそれで面白いのだが、ミステリとしてどうかと言われるとどうなんだろうというのが正直なところだ。

2022年2月1日火曜日

五輪真弓とキャロル・キング:五輪真弓『風のない世界』

 最近は、もっぱらジャケ買いで日本の古いレコードを買ってるわけだけど、こんなのを見つけて買ってみた。

五輪真弓『風のない世界』



僕が五輪真弓さんの音楽を知ったのは、もちろんあの『恋人よ』からで、当時はすでに落ち着いた実力派SSW的な雰囲気だったから、この『風のない世界』のジャケットに映る若き日の彼女からダダ漏れに溢れてくる気迫のようなものに驚き、抗い難く手に取った次第だ。

風のない世界 - 五輪真弓
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帯にあるようにキャロル・キングがA3『昨日までの想い出』とB3『家』にピアノで演奏に参加している。

ソニーが戦略的に『和製キャロル・キング』のセンを狙って、72年の五輪真弓のファーストアルバム『少女』からキャロル・キングに参加してもらっているわけだが、71年発表の『つづれおり』が大ヒットしている中でのサポートであることを考えると、これは非常に貴重なテイクと言える。

五輪真弓さんのこのセカンドアルバムでは全曲で、当時のキャロルのご主人チャールズ・ラーキーがベースを弾いている。

つづれおり(完全生産限定盤)(紙ジャケット仕様)(SACD HYBRID)
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『つづれおり』では、キャロルのピアノが強くフィーチャーされているからだろうか。五輪真弓さんのこのアルバムのサウンドからは、キャロル・キングの空気感よりも、チャールズ・ラーキーが参加したセッションの空気感を感じるのだ。

キャロル・キング、チャールズ・ラーキー夫妻は、当時オード・レコードの所属で、デヴィッド・T・ウォーカーのレコーディングの常連であった。

デヴィッド・Tがオード・レコードに残した黄金期の大傑作『David T,Walker(通称Real T)』『PRESS ON』『ON LOVE』が大好きすぎる僕は、つい五輪真弓さんのこのアルバムにも彼らの演奏の空気感を探してしまっている、ということなのかもしれないが。

プレス・オン(紙ジャケット仕様)
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2022年1月30日日曜日

高純度のジャケ買い:高田真樹子『MAKIKO first』

「思い出のレコード」的なものはだいたい入手できた今となっては、中古レコード漁りは、極めて純度の高い「ジャケ買い」になっている。

今回レーダーに引っ掛かったのは、これ。



 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

高田真樹子さんの『MAKIKO first』

実に雰囲気のあるジャケットだが、初見でした。

 

1973年のポプコンで認められ、翌74年デビュー。

このデビューアルバムには、ポプコン出場曲の『糸』も収録されているが、この曲のみ星勝さんの編曲で、その他は萩田光雄さんがアレンジしている。

『糸』は優秀曲賞で、その年のグランプリは小坂明子さんの『あなた』だった。

デビューシングルには、その『糸』ではなく、『屋根』という別の曲が選ばれたようだ。両曲ともこのアルバムに収録されている。

ドラムがポンタさんで、ギターが高中正義という、なかなか豪華なレコーディングメンバーが用意されているところを見れば、相当に期待されていたようで、朗らかなポップ歌謡から情念的なシャウトまで幅広い表現を持った歌い手とみました。

このアルバムでは全曲で作詞作曲を担当しており、楽曲のレベルも74年のポプコンでデビューする八神純子さんが、このアルバムの一曲目に収録されている『私の歌の心の世界』を後にカバーするほどのもの。

ところが、この人、Kittyに移籍して出した77年のセカンドアルバム『不機嫌な天使』では一転、林哲司さんをソングライターに起用した『しおどき』や小椋佳さんの『送り風』をカバーして、後にシティポップのメロウ系再評価の中で重要な役割を果たすんだからわからんもんです。





【Anthologies #1】心に澱が積もる夜には|大貫妙子『ライブラリー』

 還暦を過ぎ、いつの間にか貪欲に新しい音楽を探すことはなくなった。 それでも、日々を生きていれば音楽に頼りたくなることはあるものだ。そんなとき聴きたくなるのは、アーティストたちの人生が垣間見える<アンソロジー>で、いくつか愛聴盤がある。 誰かの心無い言葉や、諍いに心に澱が募るよう...