2021年12月26日日曜日

McIntosh MC275の故障とあっけない帰還

 ある日の朝、目を覚まして自室に入るとプリアンプ(McIntosh C2200)の電源が入ったままだった。

前日の夜、電源を切るのを忘れたのだと気がついたが、はて、ならばなぜパワーアンプの方は電源が切れているのだ?と思い、チェックするとスイッチは「ON」側に倒れている。

ははあ、ヒューズが飛んだな、と近くのホームセンターに走り、ヒューズを入れ替え、無防備にスイッチを入れたら、ボンッと嫌な音がして、4つあるKT88真空管のひとつから白煙が上がった。

替えたばかりのヒューズはまた溶けていた。

愛用のアンプから音が出なくなっても真空管アンプユーザーは慌てない。近くに信頼できる修理屋さんがいれば尚の事。

さっそくお預けして診ていただくと意外にも、うん、回路にも異常はないですね、とのこと。一本の真空管に異常があり、そのせいで回路に負担がかかってヒューズが飛ぶことがあるんだそうだ。

というわけで4本のKT88真空管を交換していただいて、バイアス調整して、飛んじゃった真空管のソケットも調整して、修理完了。しかもこの方どういうツテがあるのか、いつも相場よりずいぶん安く真空管を手配してくださる。

今回はPSVANE(プスヴァン)という中国製真空管を用意していただきました。







修理代も、え?というほど安くて本当に助かる。

マッキンはエレクトリに修理に出すと目ん玉飛び出るような見積が出てきますから・・










無事電源ON!













早速聴いてみる。

帰ってきたらまずこれを聴こうと用意していたのは、纐纈歩美がアート・ペッパーへのトリビュートとして制作した「Art」

修理に出している間に入手したものだが、修理明けに聴こうと思って開封していなかった。


サキソフォンの音が出た瞬間、これだ!と思う。

マッキンのジャズの表現はやはりこれでなくては、という太さとエネルギー感がある。代打ちで使っていたCOPLAND CTA401のEL34に較べると音像もグッと大きくなる。

もっと!という気分になってついついボリュームが上がる。

真空管の温度が上がると、演奏の温度も上がって・・・の無限ループ!

2021年12月21日火曜日

NO NUKESのBruce Springsteen

 スリーマイル島の原発事故を契機として、1979年に開催されたコンサート「NO NUKES」。その存在は知っていたし、映画化されたものを断片的には観ていた。

今回、Bruce Springsteenのステージが映像作品化されたということで購入してみた。

NO NUKES、そしてそれを先導し、今も活動を続けているMUSE(安全エネルギーのためのミュージシャン連合)の意義に関しては、爆発的なテクノロジー・イノベーションで先の見えにくく、多様なエネルギー政策の運用が必要と思われる世界の現状に鑑みて、本稿では触れない。


正方形のボックス入り。

当時のNO NUKESコンサートのチケットが復刻されて封入されている、
ブックレットはオリジナルと日本語版の2冊入り。
CD2枚、Blu-Ray1枚の3枚組。







スプリングスティーンのライブ映像なら、BORN TO RUNの30周年記念盤に収録された1975年のハマースミスオデオンLIVEをよく観ていた。











79年、THE RIVER発表直前のタイミングで行われたNO NUKES公演で完成度の高いRock'n Rollショウとして見事な構成を持つRosalita[Come Out Tonight]もDetroit Medleyも、75年、BORN TO RUN発表当時のこのLIVEで披露されているものとほぼ変わらないが、それが何度目であろうとも、観ている我々を否応なくロックンロールの夢の世界に引き込んでしまう。

この2演目が、佐野元春のライブ構成に極めて強い影響を与えているのはファンならば誰でも知っていることだろうが、あまりにも「血肉」になりすぎていて、スプリングスティーンのライブを観ると、いつも平静な気分ではいられないほどだ。

また、(おそらく)元祖「孕ませ」ソングであるThe Riverを聴くと、(音楽的にはそうでもないが)甲斐バンドのあの名曲「BLUE LETTER」を思い出させ、日本のロックシーンへの強い影響を改めて実感する。


あらゆる意味で、この時期ボスが作り上げたロックンロール・ショウの素晴らしさは、ロックの歴史の最重要エポックの一つだろう。しかしそれを措いてもこのライブ、クラレンス・クレモンズを喪った今観ると、涙なしでは観られない。

ドラムセットの後ろに左右に分かれて立つボスとビッグ・マンが、アイコンタクトでステージに駆け降りていくところは、それだけでまるで一編の映画のようだ。

ショウマン・シップなんて言葉では到底片付けられない尊い友情が、この奇跡のロックンロールライブの奇跡たる所以だと思う。

2021年12月18日土曜日

ハードケースでギターを収納するために - HERCULES STANDS GS525B導入 -

 限られたスペースに複数のギター類を収納するためにはいろいろ犠牲にしなくてはならないものがある。

これまでは、望ましいと言われる「ハードケースで」の収納を犠牲にして、スタンドに裸で立てて使用してきた。

今回部屋の模様替えをするに際して、いよいよハードケースでの収納を実現しようといろいろ調べてみた。

多くの人はDIYで収納スペースを作っていた。それができれば苦労しないが、自分には難しく、なるべく製品を買って済ませたいと思っていた。

そんな時、いつも真っ先に調べるのは「サウンドハウス」というサイトで、今回は「HERCULES STANDS  GS525B」という製品のコメント欄に「ハードケースごと収納できる」とのコメントを2件も見つけて、これでいいじゃん、と発注した。

届いたので早速ハードケースを立ててみる。













ベース1本、アコギ1本、エレキ2本という布陣が綺麗に収まった。

しかーし!

収まってはいるし、一見問題なさそうに見えるが、実際は非常に不安定で、とても「収納」できているとは言えない状態。

下部がうまくホールドされず、一点で接触している状態。

ネックとボディを支える構造になっているのだから、四角い箱がうまく収まるはずがないのだ。

多少のDIYが必要ということだろう。しかし、一から収納箱を作ることに較べたら随分と楽だろうから、これから少し考えてみたいと思う。

2021年12月17日金曜日

Quadraspire Q4Dを縦長に組み直してみた

オーディオ誌などで勉強すると、部屋の長辺を使って機材をセッティングした方が良い低音が聴ける、という言説によく当たる。

なるほどそうかと、何年か前に大幅な模様替えをした。

その際、使っていたオーディオラックQuadraspire Q4Dに棚板や脚などを買い足して、二列横置きのセッティングに変更した。スピーカーの間隔を広く取るためだった。

自然、アナログ、CD共にプレーヤの位置が低くなり、掛け替えのために腰を屈めるのがしんどくなってしまった。

狙いだった低音のクオリティ向上は、残念ながら実感できなかった。小さな音量で聴くことが多いからそりゃそうだろう。

メディア架け替えの負担ばかりが気になってしまっていた。


思い切ってラックを高くしたい!という欲求が自分の中で抑えきれなくなり、禁断の改造を施してしまった。











 

 

 

 

 

 

 

 

写真の最下段のポールだが、2本のポールを直結している。最下段には真空管のパワーアンプMcIntosh MC275が収まるため、放熱を考えて上部に充分なスペースが欲しかったのだ。

結果としてラック全体の高さが充分に担保され、メディアの掛け替えが画期的に楽になった!

おそらくメーカーも推奨しないやり方だろうし、地震も心配ではある。でも腰をかがめずにメディアの掛け替えができるこの環境は、もう手放せない。

しばらく自己責任でやってみようと思う。


2021年1月2日土曜日

スター・キングの復刊

東京創元社という出版社は、わりとけっこうな頻度で、せまーい需要を捕まえる復刊をやらかしてくれる。
一般的な出版社にくらべて値付けが高めでも読者の忠誠心が高いのは、それが理由だろう。
私も早川書房とこの会社には誠を誓っている。
昨年末はエドモンド・ハミルトンの「スター・キング」を復刊しよった。




もちろん旧版も持っているし、翻訳者も同じ。すこーし訳文がリファインされている程度だが、鈴木康士氏の新イラストが素晴らしいし、堺三保氏の新しい解説がついているとあれば迷うべくもない。
そして今日朝から夕方までかけて一気に読んだ。

何度目か忘れたけど、やっぱり面白い。

バローズが1912年に発表した「火星のプリンセス」へのオマージュも感じられる1947年発刊の本作は、いまではライトノベルの世界に溢れかえる異世界ものの伝統を伝える一冊といえる。

そしてまた本作は、マーク・トウェインの「王子と乞食」を嚆矢とする「瓜二つ」テーマの古典、アンソニー・ホープの「ゼンダ城の虜」を下敷きにしているのだ。

荒唐無稽なスペースオペラの作者というイメージがハミルトンにはあるかもしれないが、彼は15歳で大学に飛び級で進学した天才である。
アメリカ文学の歴史に深い理解を持ち、大衆文学を愛した才人だったのだと僕は思う。

「ゼンダ城」には「ヘンツォ伯爵」という続編があり、本作もそれに倣って「スター・キングへの帰還」との二部構成となっている。
どうも私には二部構成にするために無理に書いたように思えてならないのは、リアンナとゴードンのメロメロのハッピーエンドを期待していたせいなんだろう。


2020年8月1日土曜日

時間があるせいで、D7000を購入するハメになった件

外出を自粛しているから時間がある。
時間があると余計なことをしてしまいがちだ。

カメラの棚を整理していて、そういえば以前お師匠さんにお借りしたトキナーのレンズの風合いが良かったなあ、などと思い出してしまった。

特別な意気込みもなく、いつものMapCameraの中古市場を検索すると、NikonDXフォーマットのトキナーレンズがあった。

通しでf2.8という勝手の良い標準ズームレンズに加え、以前お借りしたのと同じAT-Xの銘。
手持ちの標準ズームがf3.5-5.6という暗めのものであったことから、下取りしてもらって購入することにした。

数日して届いたレンズを愛用のNikon D5100に装着するとオートフォーカスが効かない!
故障かと思ったら、なんとD5100のボディにはオートフォーカス用のモーターが搭載されていないとわかった。
Nikonの純正DXレンズにはもれなくAFモーターが載ってるんだそうだ。
モーターを積んでいないトキナーではAFが効かない・・

調べを進めると、同じAPSーCでも1ランク上のD7000シリーズならモーターが搭載されているとわかった。
MapCameraの下取り交換が非常に快適なのは、今回のレンズ購入でわかっていたので、迷わず最も安価なD7000を購入することとなった。



到着したD7000にトキナーレンズを装着してみたら、これがもう・・
あまりにも素敵なので、出かけたくなるじゃないか。
コロナに罹患したらどうするんだ。

本当に時間があるとろくなことがない。

2020年7月25日土曜日

現代の科学事情と矛盾はしないが、堅苦しくはない ハミルトン愛が感じられるキャプテン・フューチャー・リブート

みなさま、ご無沙汰しております。
私は元気です。

仕事一筋の日々で、読む本もビジネス書の類ばかりですが、気まぐれに(気晴らしに)文学の棚に立ち寄ると、なんとキャプテン・フューチャーのリブートものが!!


表紙も鶴田謙二だし、それだけでも買いなのに、ジョオンとカーティスの出会いのストーリーというんじゃ、こりゃ抗えない。
おかげさまで昨日今日明日とお休みをいただけたので、久しぶりの一気読みでした。

現代の科学事情と矛盾はしないが、堅苦しくはない。
イマドキのスペースオペラのような、びっくりするような大仕掛けはないが、まさに血湧き肉躍る冒険譚!
著者のハミルトン愛がしみじみと感じられる佳作でした。

触発されて、ハミルトンの「スターウルフ」とかムーアの「ノースウェスト・スミス」とかE.E.スミスの「レンズマン」とか、そしてもちろんバロウズの火星シリーズとか、本棚の前面に持ってくる(私の書棚は文庫は三列になっていて、奥の本を取り出すのは大変です・・)模様替えをいたしました。



背表紙見てるだけで幸せな気分になるから、僕はきっとスペースオペラが大好きなんだな。

2020年5月9日土曜日

やっぱフィジカルメディアはいいなあ CDで大散財の巻

ここのところ、またCDを買い漁っている。

タワレコが営業自粛中だからって、Amazonなんて見てたら、初回限定盤があと何枚とか出てるじゃない。
そうすると、あ、これは買っとかなきゃなんて、どんどんカートに入れて、いつの間にか大散財ですよ。

でもまあ、届いて見ればやっぱりフィジカルメディアはいい。
サブスクで聴いていると、なんとなく「ありがたみ」がない。
まあ、メインオーディオに、デジタルファイル用の機材を追加するほどの財力がないだけなんですけどね・・

今日は、今回届いたCDたちをご紹介しようかと。


上から、買いそびれていたデヴィッド・ボウイのベスト。そして次も買いそびれていた永ちゃんのオールタイムベストの2。そしてこれは、欲しかったが、オリジナルアルバム全部持ってるのに、ベスト盤買うのはどうかと迷っていたaikoさんのオールシングル&カップリングの企画盤。スカパラのベストと続いて、最後がJUJUさんのベスト。

そうです。
全部ベスト盤です。

それぞれ、紹介していきますね。
まずは、ボウイから。

ビートルズでよく知られるParlophoneレーベルが編んだベスト盤で、CD3枚組。
開くとこうなります。


そしてそれぞれのサイドにジュエルケースが入っているという。

ボリュームのあるブックレットはケースに収納できません。
CDラックに並べておくと傷がついたりするので、これはちょっと困っちゃいますね。


続いて永ちゃんのオールタイムベスト2です。

オールタイムベスト1の方は、発売時に買ってたんですが、肝心中の肝心曲「時間よ止まれ」がオリジナルバージョンじゃなくて、もう本当にガッカリしちゃったんですよね。
2の企画が発表された時、「時間よ止まれ」オリジナルバージョンで収録ってなったら、もう喜んで買ったんですけどね。

でもまあ、CD棚の背を見るたびに、1の隣に2がない、という不完全な感じが我慢できず、ついに買ってしまいました。(こんな気持ちわかるかなあ)


さてさて、今日の本題ですよ。
aikoさんですよ。

気になってはいたんですよ。設えの良さそうなボックス企画だし。
でもね。
僕はaikoというアーティストのルックス、ファッションのようなものの全体で気に入っているので、この子供時代のメインビジュアルがちょっと購入を躊躇わせていたんですよ。
でもそれは大きな間違いでした。

箱を開けたら・・

これだもの!!
もっと早く買っておけばよかった!

中面も・・
これですよ!!

ブックレットもちょっと見せちゃう。

これが80Pですよ!
安い・・安すぎる・・・

僕と同じように、オリジナルアルバム全部持ってるしなあ・・という人もファンならば買うべし。
間違いない。


いささか興奮してしまいました。
失礼。

続いてスカパラのベストです。

ジャケ絵が大友克洋ってのが嬉しいなあ。
関係ないけど、クラプトンのPILGRIMのジャケ絵が庵野さんだって知ったときも、なぜか嬉しかったな。

このベスト、主にゲストを迎えてのボーカル曲とインスト曲で盤が分かれているという好企画盤です。
そして1曲目のゲストボーカルがaikoさんなんですよ。
ふふふ(バカ)
まあ買うしかないですよね。


最後がJUJUさんの、なんと4枚組CD+DVDの5枚組ボックスです。
豪華だ。

CDとDVDのケースが分かれてます。

今回初めてJUJUさんのMVを観たんですが、「東京」がヤバイ。

地方の理容室で、男手ひとつで育てた娘に跡を継いで欲しくて、地元の美容学校のパンフレットを渡したら、娘は東京の美容学校(山野でした)に出願してしまうんですね。
その日から親子は口もきかなくなってしまう。
もうこの辺りで娘を持つ身の私の気持ちがざわつき始めるわけですが、どうやらお父さんが病気らしいと示唆されるあたりから悪い予感が急速に募って・・

もう最後はテレビ見ながら大号泣ですわ。
音楽面では、キャリアの全体を俯瞰することで、やはり川口大輔の貢献度を再度実感いたしました。
中島美嘉もそうですが、提供楽曲は多くないのにターニングポイントを作っちゃう人ですね。


2020年5月6日水曜日

【音楽エッセイ】ファーストアルバムの「魔法」|ノラ・ジョーンズが教えてくれた、エイモス・リー奇跡の一枚

音楽ファンの間で、ファーストアルバムには特別な魔法が宿っていると語られることが多い。世に出たいという切実な情熱、そしてそれを形にするための絶妙な抑制。そのコントラストが奇跡的なバランスで収められた名盤が、シンガロング系の楽曲が増えた後年の作品よりも瑞々しく輝き続けることは少なくない。
特大級の代表格と言えるのが、エイモス・リー(Amos Lee)が2005年に発表したセルフタイトルのデビューアルバム『Amos Lee』である。




エイモス・リーのキャリア:名門ブルーノートが認めた遅咲きの天才

日本の音楽ファンの多くは、ノラ・ジョーンズ(Norah Jones)経由、あるいはシンガーソングライター秦基博の推薦によってエイモス・リーの存在を知ったのではないだろうか。

1977年、アメリカ・ペンシルベニア州フィラデルフィアに出生したエイモス・リー(本名:ライアン・アンソニー・マッサーロ)の経歴は、ミュージシャンとしては少し異色である。
サウスカロライナ大学で英文学を学んだ後、一度は英語教師として教壇に立っていた。
しかし、音楽への情熱を断ち切れずに教職を辞し、本格的な音楽活動へと舵を切ることになる。
彼の才能はすぐに開花し、ジャズの名門レーベルであるブルーノート・レコード(Blue Note Records)との契約を勝ち取る。

2004年にはノラ・ジョーンズの欧米ツアー、翌2005年にはボブ・ディランの全米ツアーのオープニング・アクトに抜擢されるなど、デビュー前から大物アーティストたちにその実力を認められていた。

デビューアルバム『Amos Lee』に宿る情熱と抑制の美学

2005年3月にリリースされたファーストアルバム『Amos Lee』は、ノラ・ジョーンズがピアノとヴォーカルで参加したことでも大きな話題を呼んだ。

このアルバムの最大の魅力は、何よりも抑制の効いた、しかし他のどこにもない唯一無二の歌声と、耳元で語りかけるようなメロディにある。フォークやソウル、ジャズを絶妙にブレンドしたアコースティックなサウンドは、入手直後から自身の店で何度も繰り返し流し、誰彼問わずに勧めたくなるほどの完成度を誇っていた。

思えば、アデル(Adele)の静謐なファーストアルバム『19』が持っていた空気感と、エイモスのファーストアルバムは非常によく似ている。ここには、人生の後半期を迎えた大人の心に深く染み渡る「情熱と抑制のコントラスト」が確かにある。

セカンドアルバム『Supply and Demand』で見せた<POP>への目配り

ファーストアルバムの魔法に魅了された者としては、程なくリリースされたセカンドアルバム『Supply and Demand(サプライ・アンド・ディマンド)』(2006年)も迷わず入手した。しかし、そこにあったのは、<POP>への目配りとでも言うべき変化だった。

前作で最大の美点と感じていた「抑制」は、失われてしまったように感じた。
何しろ1曲目のタイトルが『Shout Out Loud(シャウト・アウト・ラウド)』であり、スタジアムで響くようなシンガロング系の「ラララコーラス」まで導入されていた。こちらとしては「あらら」と思わざるを得ない。

アーティストとしてのスケール感や大衆性は増したのかもしれないが、ファーストアルバムのあの密室的な静けさと切実さを愛した身としては、どうしても手が伸びにくくなり、結局そのCDは棚の奥に収まったままになってしまった。

ファーストアルバムにしか存在しない「奇跡」

エイモス・リーはその後、2011年のアルバム『Mission Bell』で、これまた手のひらを返したようなアコースティック回帰を見せ(これも名盤です!)、ビルボード100の1位を獲得したりした。



その後も順調に作品を発表し、アメリカを代表する本格派シンガーソングライターとしての地位を確固たるものにしていった。

しかし、洗練された後年の作品を聴けば聴くほど、あの2005年のファーストアルバムに閉じ込められていた「言葉にできない魔法」が愛おしくなる。
きっとそれは、教師を辞めて音楽に全てを賭けた一人の男の、最初で最後の純粋な衝動が記録されているからなんだろうな。


エイモス・リー
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2020年5月4日月曜日

【音楽エッセイ】「星屑の」ギタリストが紡ぐ極上のブルース。エイモス・ギャレットのボーカル名盤『Get Way Back』を聴く

音楽ファンの間で「ポピュラーソング史上、最も洗練されたギターソロの一つ」として語り継がれる名演がある。
スティーヴィー・ワンダーが「これまでに聴いた中で最高のギターソロ」と絶賛したとも言われる、マリア・マルダーの代表曲「真夜中のオアシス(Midnight at the Oasis)」の、あの流麗なソロだ。



そのソロを弾いているのが、今回紹介するギタリスト兼ボーカリスト、エイモス・ギャレット(Amos Garrett)である。




日本では決して誰もが知る大衆的スターとは言えないが、彼の生み出すトーンは、日本の音楽シーン(とりわけシティポップやルーツロック系ギタリスト)にも多大な影響を与えてきた。
今回は、彼の代名詞である「星屑のギター」の魅力に触れつつ、彼の渋い歌声が堪能できる隠れた名盤『Get Way Back』を紐解いていく。

唯一無二の職人、エイモス・ギャレットの足跡


エイモス・ギャレットのギタープレイは、よく「星屑の(Stardust)」と形容される。 滑らかなグリッサンド(弦を滑らせて音を連続的に変化させる技法)と、弦を巧みに引っ張るチョーキングを組み合わせた独特のベンディング技術。そして、一音一音が星のようにきらめき、歯切れよく飛び回るパッセージ。これらが緻密に絡み合うスタイルは、一聴しただけで彼だと分かる唯一無二のシグニチャーサウンドだ。

彼のキャリアは多岐にわたる。
イアン&シルヴィアの「グレート・スペックルド・バード」:1960年代末、カントリーロックの先駆けとなったバンドに参加。
ポール・バターフィールズ・ベター・デイズ:ブルースハーモニカの巨匠ポール・バターフィールド率いる伝説的グループに参加。アルバム『Better Days』などで、渋いルーツミュージックに華やかな彩りを添えた。
数々の名盤への客演:マリア・マルダーをはじめ、ジェフ・マルダー、エミルー・ハリス、ボニー・レイット、さらには日本の森山良子のアルバムにまで、その極上のギタープレイを提供している。

『Get Way Back』|ブルースの巨人、パーシー・メイフィールドについて


今回スポットを当てるアルバム『Get Way Back』は、エイモス・ギャレットがR&B/ブルース界の偉大なシンガーソングライター、パーシー・メイフィールド(Percy Mayfield)に捧げたトリビュートアルバムである。

パーシー・メイフィールドは、1950年代に「Please Send Me Someone to Love(愛してくれる人を誰か)」などの大ヒットを放ったブルースシンガーだ。
しかし、キャリアの絶頂期に凄惨な自動車事故に遭い、顔面に大怪我を負ってしまう。以降は表舞台に立つ回数を減らし、主にソングライターとしてその才能を発揮した。

彼の最大の功績の一つが、レイ・チャールズへの楽曲提供である。
レイの代表曲として誰もが知る「Hit the Road Jack(旅立てジャック)」は、パーシーが書いた作品だ。

彼の作る楽曲は、単なるブルースの枠に収まらない、都会的で洗練されたメロディと、深く詩的な歌詞(時に「ブルースの詩人」とも称される)を特徴としていた。

エイモス・ギャレットが所属していたポール・バターフィールズ・ベター・デイズでも、パーシーの「Please Send Me Someone to Love」をカバーしており、エイモスにとってパーシーの楽曲は、長年温め続けてきた特別なルーツだったと言える。

ギタリストの枠を超えた、ヴォーカリストとしての渋い魅力


アルバム『Get Way Back』の最大の聴きどころは、エイモスの「ギタリスト」としてだけでなく、「ヴォーカリスト」としての圧倒的な存在感にある。

アルバム『Get Way Back』の聴きどころ 

本作で聴けるエイモスの歌声は、お腹の底から響くような深い低音。非常に渋く、包容力のある喉を披露しており、パーシー・メイフィールドが持つ都会的で少し哀愁を帯びた楽曲の世界観に、これ以上ないほどマッチしている。

もちろん、ファンが期待する「星屑ギター」も随所で炸裂している。 特に4曲目に収録されている「NEVER SAY NAW」でのギターソロは必聴だ。あの「真夜中のオアシス」で世界を魅了したフレーズワークを彷彿とさせる、流れるような名演を堪能することができる。

ルーツミュージックの深淵に触れる一枚


エイモス・ギャレットの『Get Way Back』は、単なるカバーアルバムではない。
パーシー・メイフィールドという偉大な先達へのリスペクトと、エイモス自身の代名詞であるギター、そして渋み溢れるボーカルが見事に融合した、大人のためのグッドタイム・ミュージックである。

「真夜中のオアシス」のギターソロにハッとした経験がある音楽ファンなら、このアルバムに流れるレイドバックした心地よい空気感に、間違いなく魅了されるはずだ。

ゲット・ウェイ・バック:トリビュート・トゥ・パーシー・メイフィールド
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2020年2月23日日曜日

カントリーというジャンルには特別心を寄せていなかったと自分で思っていたのは大きな誤解だったと気付かせてくれた人 Artist Files #6 Alison Krauss

熱狂的なファンではないが、関連の音源が出れば購入する程度には、若い頃Led Zeppelinに影響を受けた。
だからロバート・プラントが2009年のグラミー賞で最優秀アルバム賞を取ったと聞いて、アリソン・クラウスとの連名アルバム「Raising Sand」を買った。


それまでアリソン・クラウスのことはまったく知らなかった。
このアルバムをきっかけに、ジョン・ウェイトがセルフカヴァーした「Missing You」に参加していることを知って、クラウス自身のベスト盤も購入した。

レイジング・サンド
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このベスト盤を聴いていると、小学生の時に聴いたオリビア・ニュートン・ジョンの「ジョリーン」に感じた衝撃がなぜか思い出され、カントリーというジャンルには特別心を寄せていなかったと自分で思っていたのは大きな誤解だったと気付かせてくれた。

そういえば、「ジョリーン」のオリジナルが聴きたくてドリー・パートンを買ったり、「カントリーロード」のオリジナルを聴こうとジョン・デンバーを買ったりしたんだったな。

【Anthologies #1】心に澱が積もる夜には|大貫妙子『ライブラリー』

 還暦を過ぎ、いつの間にか貪欲に新しい音楽を探すことはなくなった。 それでも、日々を生きていれば音楽に頼りたくなることはあるものだ。そんなとき聴きたくなるのは、アーティストたちの人生が垣間見える<アンソロジー>で、いくつか愛聴盤がある。 誰かの心無い言葉や、諍いに心に澱が募るよう...