音楽ファンの間で「ポピュラーソング史上、最も洗練されたギターソロの一つ」として語り継がれる名演がある。
スティーヴィー・ワンダーが「これまでに聴いた中で最高のギターソロ」と絶賛したとも言われる、マリア・マルダーの代表曲「真夜中のオアシス(Midnight at the Oasis)」の、あの流麗なソロだ。
そのソロを弾いているのが、今回紹介するギタリスト兼ボーカリスト、エイモス・ギャレット(Amos Garrett)である。
日本では決して誰もが知る大衆的スターとは言えないが、彼の生み出すトーンは、日本の音楽シーン(とりわけシティポップやルーツロック系ギタリスト)にも多大な影響を与えてきた。
今回は、彼の代名詞である「星屑のギター」の魅力に触れつつ、彼の渋い歌声が堪能できる隠れた名盤『Get Way Back』を紐解いていく。
唯一無二の職人、エイモス・ギャレットの足跡
エイモス・ギャレットのギタープレイは、よく「星屑の(Stardust)」と形容される。 滑らかなグリッサンド(弦を滑らせて音を連続的に変化させる技法)と、弦を巧みに引っ張るチョーキングを組み合わせた独特のベンディング技術。そして、一音一音が星のようにきらめき、歯切れよく飛び回るパッセージ。これらが緻密に絡み合うスタイルは、一聴しただけで彼だと分かる唯一無二のシグニチャーサウンドだ。
彼のキャリアは多岐にわたる。
イアン&シルヴィアの「グレート・スペックルド・バード」:1960年代末、カントリーロックの先駆けとなったバンドに参加。
ポール・バターフィールズ・ベター・デイズ:ブルースハーモニカの巨匠ポール・バターフィールド率いる伝説的グループに参加。アルバム『Better Days』などで、渋いルーツミュージックに華やかな彩りを添えた。
数々の名盤への客演:マリア・マルダーをはじめ、ジェフ・マルダー、エミルー・ハリス、ボニー・レイット、さらには日本の森山良子のアルバムにまで、その極上のギタープレイを提供している。
『Get Way Back』|ブルースの巨人、パーシー・メイフィールドについて
今回スポットを当てるアルバム『Get Way Back』は、エイモス・ギャレットがR&B/ブルース界の偉大なシンガーソングライター、パーシー・メイフィールド(Percy Mayfield)に捧げたトリビュートアルバムである。
パーシー・メイフィールドは、1950年代に「Please Send Me Someone to Love(愛してくれる人を誰か)」などの大ヒットを放ったブルースシンガーだ。
しかし、キャリアの絶頂期に凄惨な自動車事故に遭い、顔面に大怪我を負ってしまう。以降は表舞台に立つ回数を減らし、主にソングライターとしてその才能を発揮した。
彼の最大の功績の一つが、レイ・チャールズへの楽曲提供である。
レイの代表曲として誰もが知る「Hit the Road Jack(旅立てジャック)」は、パーシーが書いた作品だ。
彼の作る楽曲は、単なるブルースの枠に収まらない、都会的で洗練されたメロディと、深く詩的な歌詞(時に「ブルースの詩人」とも称される)を特徴としていた。
エイモス・ギャレットが所属していたポール・バターフィールズ・ベター・デイズでも、パーシーの「Please Send Me Someone to Love」をカバーしており、エイモスにとってパーシーの楽曲は、長年温め続けてきた特別なルーツだったと言える。
ギタリストの枠を超えた、ヴォーカリストとしての渋い魅力
アルバム『Get Way Back』の最大の聴きどころは、エイモスの「ギタリスト」としてだけでなく、「ヴォーカリスト」としての圧倒的な存在感にある。
アルバム『Get Way Back』の聴きどころ
本作で聴けるエイモスの歌声は、お腹の底から響くような深い低音。非常に渋く、包容力のある喉を披露しており、パーシー・メイフィールドが持つ都会的で少し哀愁を帯びた楽曲の世界観に、これ以上ないほどマッチしている。
もちろん、ファンが期待する「星屑ギター」も随所で炸裂している。 特に4曲目に収録されている「NEVER SAY NAW」でのギターソロは必聴だ。あの「真夜中のオアシス」で世界を魅了したフレーズワークを彷彿とさせる、流れるような名演を堪能することができる。
ルーツミュージックの深淵に触れる一枚
エイモス・ギャレットの『Get Way Back』は、単なるカバーアルバムではない。
パーシー・メイフィールドという偉大な先達へのリスペクトと、エイモス自身の代名詞であるギター、そして渋み溢れるボーカルが見事に融合した、大人のためのグッドタイム・ミュージックである。
「真夜中のオアシス」のギターソロにハッとした経験がある音楽ファンなら、このアルバムに流れるレイドバックした心地よい空気感に、間違いなく魅了されるはずだ。




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