『The Rolling Stones / Emotional Rescue』ディスコ狂騒の時代にストーンズが提示した、クールでポップな回答

70年代の喧騒をサヴァイヴした王者が見出した、80年代の新たな「POP」

ザ・ローリング・ストーンズ(The Rolling Stones)は、1960年代のブルース・ロックに根ざしながらも、各時代の音楽的流行をどん欲に吸収し、自らの肉体へと変換し続けてきたバンドである。前作『Some Girls』(1978年)でパンク・ロックの衝動とディスコ・ミュージックの洗練を見事に融合させ、見事な復活を遂げた彼らが、1980年代という新たな十年の幕開けにドロップしたのが本作『Emotional Rescue(エモーショナル・レスキュー)』である。

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本作が録音された1970年代末から1980年にかけては、キース・リチャーズのトロントでの逮捕劇とそこからの劇的な生還、そしてミック・ジャガーが傾倒したニューヨークのナイトクラブ「スタジオ54」に代表されるディスコ・カルチャーの全盛期であった。ロックンロールの代名詞たる彼らが、虚飾と享楽に満ちた時代の空気に冷徹にシンクロしつつ、よりポップでダンサブルな方向性へと舵を切った過渡期の意欲作として位置づけられる。

音楽的特徴:レゲエとディスコが交錯する、タイトでクールな音響空間

本作の最大の音楽的特徴は、前作で開花したディスコやニュー・ウェイヴへのアプローチをさらに推し進め、全編にわたってタイトで無駄のないグルーヴを徹底させている点にある。かつての泥臭いルーツ・ミュージックのダイナミズムから距離を置き、シンセサイザーの導入やベースラインの強調によって、都会的でクールな音響空間を構築している。
さらに、前々作から本格化したジャマイカ音楽(レゲエ、ダブ)へのアプローチが、本作ではより洗練された形で結実している。キース・リチャーズとロニー・ウッドによるギター・ワークは、派手なソロを排してカッティングやリフの絡み合いに終始しており、チャーリー・ワッツの正確なドラミングとともに、ミニマルで中毒性の高いファンクネスを生み出している。

主要楽曲の分析:ファルセットの妖艶とルーツへの回帰

エモーショナル・レスキュー(Emotional Rescue)

アルバムのタイトル・トラックであり、当時のバンドのモードを最も象徴するダンス・ナンバーである。ミック・ジャガーが全編にわたって披露する妖艶なファルセット・ボイスと、ビル・ワイマンによるうねるようなベースラインが強烈な印象を残す。ディスコ・ビートを採用しながらも、ストーンズ特有のルーズなニュアンスが絶妙に残されており、独自のポップ・ソングとして完成している。

氷のように(She's So Cold)

ストーンズが得意とするストレートで軽快なロックンロールの系譜に属する楽曲である。しかし、ここでのサウンドは70年代前半の重厚な質感とは異なり、ニュー・ウェイヴの影響を感じさせる非常にタイトで乾いた音像に仕上がっている。ミックの字余り気味でユーモラスなボーカルと、小気味よくドライヴするギター・リフが、アルバム後半のハイライトを鮮やかに彩っている。

オール・アバウト・ユー(All About You)

アルバムのラストを飾る、キース・リチャーズがボーカルをとる内省的なバラードである。ソウル・ミュージックの薫りが漂うメロウなメロディに乗せて、崩壊していく人間関係や疲弊した感情が淡々と歌われる。アルバム全体を覆う享楽的なディスコ・ムードから一転して、夜明け前の静けさのような孤独感を抱かせるこの曲の配置は、バンドの表現の奥深さを物語っている。

時代の空気を血肉化し、次なる黄金期へと繋いだ足跡

共同プロデューサーのクリス・キムジーとともにバンドが模索したこのクールでタイトなサウンドは、次作『Tattoo You』(1981年)という特大の成功へと結実していくことになる。
当時、ポール・マッカートニーが本作『Emotional Rescue』を指して、「この時代、まともな音楽を作ってるのはストーンズくらいなものだ」と言っていたのをラジオで聴いたが、確かにパンクやディスコという巨大な時代の波に呑まれることなく、それらを自らの血肉へと変えてみせた彼らのタフなバンド運営のセンスが生んだ、時代的にも極めて重要な作品と言えるだろう。


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