『 Roy Buchanan / A Street Called Straight』孤高のギタリストが残した魂の叫び、80年代への架け橋となる『メシアが再び』
それまでのブルースロックとは異なるベクトルでギターの可能性を極限まで追求した孤高のミュージシャン、ロイ・ブキャナン。1976年にアトランティック・レコード移籍第1弾として発表された『A Street Called Straight(邦題:メシアが再び)』は、彼が70年代後半の音楽シーンと対峙し、自身のブルースマインドをより洗練された形で提示した重要作である。

アーティスト詳細:テレキャスターの魔術師と呼ばれた男
ロイ・ブキャナンは、エリック・クラプトンやジェフ・ベックといった同世代のギタリストたちから「世界最高のギタリスト」と称賛されながらも、商業的な成功や華やかなスポットライトから一線を画し続けたブルース・ロック・ギタリストである。
彼の代名詞といえば、愛機であるフェンダー・テレキャスターから絞り出される、むき出しのトーンである。ピックを使わずに指先でピッキングするスタイルや、ボリューム・ノブとトーン・ノブを演奏中に細かくコントロールして生み出す独自の奏法や、感情をそのまま叩きつけるような独自のピッキング・ハーモニクスは、ジェフ・ベックをはじめとした後進のギタリストたちに多大な影響を与えた。インストゥルメンタル主体のプレイスタイルでありながら、そのギターは時に人間の歌声以上に雄弁であり、聴き手の心を激しく揺さぶる。
音楽的特徴:洗練されたスタジオ・ワークと内省的なギター・プレイ
本作の最大の音楽的特徴は、プロデューサーにアトランティックの名匠アリフ・マーディンを迎えたことによる、緻密で洗練されたサウンド・プロダクションにある。それまでのライブ感重視のエモーショナルな録音から一転し、キーボードやホーン・セクションを効果的に配した、当時の最先端を行くAORやクロスオーバーに通じるモダンな音像が構築されている。
この緻密なバックの演奏によって、ロイのギターが持つ独自の鋭さと内省的な情感が、かえって鮮明に浮き彫りになっている。ブルースという自身のルーツを核に据えながらも、カントリー、ソウル、そして当時台頭しつつあったモダンなロックの要素を柔軟に飲み込んだ、極めて音楽性の高い仕上がりである。
主要楽曲の分析:ギタリストとしての深みを示す名演
メシアが再び(The Messiah Will Come Again)
彼のキャリアにおける代表曲の再録音である。ポリドール時代のオリジナル版が持つ宗教的なまでの厳かさと張り詰めた緊張感に対し、本作のテイクはアリフ・マーディンの手によって、よりスケールの大きなドラマ性を持つ楽曲へと昇華されている。冒頭の語りから、感情が一気に決壊するような終盤のギター・ソロに至るまでのダイナミクスは圧倒的であり、ロイ・ブキャナンという表現者の神髄がここに凝縮されている。
マイ・フレンド・ジェフ(My Friend Jeff)
タイトルが示す通り、親交の深かったギタリスト、ジェフ・ベックに捧げられたインストゥルメンタル・ナンバーである。ジェフ・ベックがアルバム『Blow by Blow』で見せたフュージョン路線へのロイ側からの回答とも言える楽曲で、洗練されたファンキーなリズムに乗せて、流麗かつトリッキーなフレーズを次々と繰り出していく。二人の天才ギタリストの無言の対話を感じさせるトラックである。
ランニング・アウト(Running Out)
アルバムの持つロック的側面を牽引する、疾走感のあるナンバーである。タイトなドラムとベースが刻むビートの上を、ロイのギターが切り裂くように疾走する。スタジオ・ワークとしての完成度を保ちながらも、ライブ・パフォーマンスさながらの熱量とエッジの効いたカッティングを堪能できる、アルバムの構成上重要な役割を果たす楽曲である。
時代と対峙しながら貫いたギターへの執念
『A Street Called Straight』は、商業的な洗練を求めるレコード会社側の意向と、自身の牙を研ぎ澄まし続けるロイ・ブキャナンの音楽的良心が奇跡的なバランスで融合した作品と言えるだろう。
伝統的なブルースを重んじるギタリストが都会的なスタジオ・ワークと出会ったことで生まれたこの乾いた叙情性は、次なる80年代のフュージョン/ロック・シーンの到来を予見させる質感を持っており、今なお独特の存在感を放ち続けている。
傑作。
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