2015年11月15日日曜日

2015年、今年もCAVIN大阪屋のハイエンド試聴会に行ってみた

今日は、年に一度のハイエンド・オーディオ試聴会に出かけた。
毎年北海道最大のオーディオ専門店であるCAVIN大阪屋さんが主催する試聴会である。

出展される機器は数百万円から数千万円というレンジの商品で、こういう話をするとよく、「車が買えちゃうじゃないですか!」と驚かれたりするのだが、その比較がいつも僕にはもうひとつピンとこない。

僕は車を運転するのが苦痛だし、スピードが怖い。
だからなるべくサイズも出力も小さな車を好む。
新車を「馴らし」て乗るのが面倒だから中古車にしか乗ったことがない。

でも音楽を聴くなら、できるだけ演奏者の感情まで読み取れるような機械で聴きたいと思う。
まあ確かに1300万円のアンプって一体誰が買うんだろうとは思う。
でもそこにしかない価値があるということはわかる。
フェラーリを買う人の気持ちはわかる、というのと同程度に。

今店で鳴っているのが8万円のアンプで、修理中の真空管アンプが40万円、部屋で鳴っているマッキンがプリ+パワーで165万円。
それぞれにいい音が鳴る。いや、鳴らしている。
価格ではなく、それぞれの機器が持つ価値と自分のライフスタイルのすり合わせがこの趣味の中核だと思う。

ある種の人たちにとって、音楽とライフスタイルは密接に関連していて、時にライフスタイルに合った音楽をチョイスして聴くことを超えて、逆に音楽によってライフスタイルが規定されていくようなことがある。

そしてそこまで強力な音楽には必ずどこかに人の感情がこもっているはずで、それを最大限まで引き出せるツールにやはり関心がある。

それが買えもしないのに、ハイエンド機の試聴会に毎年いそいそと出かけていく理由(言い訳)だ。


さて今年の試聴会では例年評判の悪い課題曲制が廃止されたが、一出展者の持ち時間が30分に短縮された。出展者が増えたことが原因だからそれ自体はいいことだと思う。
しかしなぜか、多くの出展者のかける曲がクラシック曲と和太鼓に類型化してしまったことは残念なことだ。
かけたい曲が無いなら課題曲制に文句なんか言わなきゃいいのに。

そんな中でいつも抜群の選曲センスで僕をうならせるデモンストレータがいる。
今年も、エバ・キャサディのイエスタデイのカバーに心ごと持って行かれた。
(↓このアルバムに入っているそうです)

American Tune
American Tune
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Eva Cassidy
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そしてジプシー・キングスのギタリストのソロアルバムだと言ってかけたCDが滅法カッコよかったが、確か「デイヴィッド・ベッカムならぬ」と紹介していたので調べてみたがそれらしいメンバーはいない。誰か思い当たるフシはありませんか。

今年の試聴会で、最も高価なスピーカーは、このソナス・ファベール「LILIUM」だっただろうと思う。

お値段880万円也
音を聴いてみると、そのお値段に比例した実に雄大な音が出てきた。
たっぷりした低音がその広大な音場を作っているのだと思うが、困ったことにどんな音楽も大きなホールで聴いているような気分になってしまう。
ある意味不器用で一本気なスピーカーである。

一番心に残る音を奏でたのはVIVID AUDIOという南アフリカの会社が作ったG3 GIYAというスピーカーとそれを駆動したアインシュタインのアンプだった。


奇妙な形をしたスピーカーだが、鳴り出すと周囲全体の空気を震わせてスピーカーが発音しているようには聴こえない。まったくその存在を消してしまう。
不思議なスピーカーだ。

そのデモで最初にかかったレコードがこれ。

Sinatra-Basie - An Historic Musical First

Reprise Records
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とにかくこのレコードでのベイシー・オーケストラの威勢の良さには完全にやられた。
こういう素晴らしい音源に出会えるのも試聴会の楽しみのひとつだ。

いつものように、ウィルソン・オーディオのスピーカーも素晴らしかったし、マジコが今回持ってきたQ1という新作も素敵だった。マジコの持っている音の「色」が僕は本当に好きだ。

逆に言えば、たくさんのデモを聴いたが結局この、VIVID AUDIO、ウィルソン、マジコの三社のスピーカーに敵わなかった。

あるデモでは、スピーカーの逆起電圧を逃がす装置で使用前、使用後の聴き較べをやっていたが、はっきり言って元の音がそうでもないので、いくらも変わったようには聴こえない。
別のデモでは、デジタル音源の44.1khz、96khz、192khzの聴き較べをやっていたが、これもまた同じ理由で、別にどれでもいいよというくらいの違いしかなかった。
使っている楽曲も心に残らないものだった。

そしてこのようなデモをする人は、30分という時間のほとんどを使って自慢話をしゃべっていたっけ。
曰く、ブランド志向の強い日本では無名でも欧州では高い評価を得ているとか、大企業ではできない誠意ある製品作りと値付けをしているとか。
自慢話と音の心への浸透度は反比例するようだよ。

そういえば、VIVID AUDIO、ウィルソン、マジコのデモンストレータさんたちは、それぞれに実に素敵な楽曲をチョイスしていた。
音楽が好きでしょうがないって感じで仕事をしてて、その感じに強く共感した。
いつかご縁があればそういう人たちが売る製品と生活をしてみたいものだ。

また今日は特別枠でB&W社の800ラインの新製品発表会があったが、これこそまさに別格であったので、別枠でご紹介したいと思う。

2015年10月25日日曜日

国内盤と輸入盤の音質は違うのか、聴き較べてみたよ

レコード保護袋を買ったので、古くなってしまったものを選んで交換した。
ついでに、聴くたびに適当に戻して探しにくくなってしまったレコードを整理した。

うちには、もうレコードは聴かないからと友だちがくれたレコードがたくさんあって、だから同じレコードが何対かある。
友だちはレコードを輸入盤で買っていた。僕も輸入盤が多いが、中古店で買う時は手頃な国内盤を選ぶ。あまり聴かれていなくて綺麗な盤が多いからだ。
だからいくつかのレコードは国内盤と輸入盤というセットになる。

ここで思い出したのは、ウェザー・リポートのファーストに書かれていた[SX-68 Mark-II]の文字で、これはレコードの原盤を作るカッティングマシーンの機種の名前だ。
独ノイマン社の製品で、古いオーディオファンの間では、このマシン導入後日本のレコードの音が悪くなったとまことしやかに囁かれている。


その話の真贋は僕にはわからない。
聞けばこのマシンを導入したのもテイチクとSONYの二社だけとのこと。
昔から輸入盤の方が音がいいという話はよく聞いていたが、「洋行帰り」なんて言葉があったこの国にしつこく根付いた「ムコウにはカナワナイ」的自虐嗜好なんだろう、くらいに思っていた。

でもここに、恰好のサンプルがあるじゃないかと気付いてしまえば試さない理由もない。
棚から一組のライブ盤を取り出した。


ブルース・スプリングスティーンの5枚組のライブ盤である。
右側の右上はしに5LPsと表記のあるのが友人のくれた輸入盤。左側がデパートの中古レコード市で1000円で買った国内盤。

輸入盤のレーベルはこのように凹凸のある仕上げで、この盤以外では見たことがない仕様である。

国内盤はこのようなノーマルな仕様で、米コロンビア盤は輸入盤もこのようなデザインが一般的だったと思う。

肝心の音だが、これは明らかに違った。
レーベルのデザインが示唆していた、なんてのはただのこじつけだが、輸入盤の方が立体的で、楽器の持つ付帯音のニュアンスがよく伝わってくる。
ボスの掠れたシャウトの余韻に含まれる金属的なシャープさは断然輸入盤の方から伝わってきた。

ではこちらはどうかと、ボストンの「サード・ステージ」を聴き比べてみた。


ボストンのMCA盤でも、スプリングスティーンのライブとよく似た差異が聴き取れた。
特に入念に施されたドラムスへの硬いリヴァーブの質感の違いは顕著だった。

なるほど、どのレコードでもこれほどの差があるのなら輸入盤信仰が生まれるのも止むを得ないだろう。

思えば1989年に就職で東京に出てパイオニアのアンプとCDプレーヤを買って、それを機に、僕は本格的にCDに移行しはじめたのだった。
CDは棚に並べた時、背のデザインがはっきりと目に入るが、国内盤のアーティスト名のカタカナ表記が気になって輸入盤ばかりを買っていた。
LPでは海外のアーティストなら欧字表記だったはずで、今見直してみてもカタカナ表記のLPは見当たらない。あれは何だったんだろう。

そんなわけでCDの背デザインが気に入らないという瑣末な理由で輸入盤を買い続けていたわけだが、ある時、会社に入ってきた後輩がやたらと音楽に詳しいので訊いてみると、CDはできるだけ国内盤で買ってライナーを熟読するのだと言っていた。

そう言われて、子供の頃買ってもらったベイ・シティ・ローラーズのレコードのライナーノーツに鉛筆で印をつけて何度も何度も熱心に読んだことを思い出した。
少しカタカナ表記への嫌悪は薄れて、歌詞に重要性がある何人かのアーティストやライナーを書いている人などをチェックして選択するようになった。価格はやはり輸入盤が安かったから。

しかし、そんな話も今は昔で、アナログレコードのブームが来ているとはいうが生産の体制はお粗末という他なく、輸入盤の新譜がまともな状態で届くかは五分五分というところ。ギャンブルより少し確率がいいという程度だ。

高音質を謳う一部のレーベルのものは安心だが、安価なジャズの再発輸入盤はほとんどに爪の跡があったり、指の脂がべったりついている。
盤が歪んでいるものも少なくない。

そういうわけで、レコードはしばらく中古レコード店で探そうと思っている。
今回の輸入盤 vs 国内盤比較はそれなりに得るものはあったが、それでも僕はきっと国内盤を見かければそちらを買うだろう。
帯も楽しいし、ライナーノーツも読みたい。

何より丁寧に扱われた盤に出会う確率が高い。
90年代にアメリカから大量に仕入れられた、彼の地で消耗品として扱われ二束三文で売られていた中古輸入盤は、たいていジリジリパチパチ音がして、いかにも針が傷みそうだ。
丁寧に扱われたレコードは、それが古いものであっても驚くほどノイズが出ないものだ。

音質のことを言えば、較べれば違うということは、較べなければ違わないということだ。
もっといい音の盤があるかも知れないと思いながら音楽を聴くことは、僕にはできない。
音楽はもっと多くの大切なことを、一定のリズムに乗せて同時多発的に発声している。
聞き逃がせばすぐに消えてしまう。

時を超えて残ってきた音盤を、僕は大切に聴いていきたいと思っているのだ。

レコード保護袋のこと

近年アナログレコードの新譜発売もずいぶん増えてきたが、CDショップは世の中に少なくなったのでAmazonなどのネットショップに頼ることが多い。
この時問題になるのがレコードの保護袋で、あれはお店がサービスで付けてくれるものなので、ドライなネットショップではもちろんそのような心遣いはない。
で、それだってネットショップで買うことになるのだ。
やれやれ。

以前買った100枚のパックはすでに使いきってしまったので購入した。


田口化成さんのものだが、0.9m厚のタイプで充分な強度があり、とてもいい。
しかし、質量がありすぎて棚に立てるとふにゃりと下側に折りたたまれてしまう。よほど隙間のないところに押しこむか、水平に置くしかないだろう。
うちでは水平に置いて保管している。

厚いのも薄いのもそんなに価格が違うわけではないので、中古レコード店で付けてくれる袋がもう少し軽いタイプのものなのは、こういう保管との兼ね合いがあるからなのだろう。

LP保護袋(09)100枚
LP保護袋(09)100枚
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(有)田口化成
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2015年10月23日金曜日

クリエイションのロンリーハートを聴いたら、なぜかゾンビーズの最新情報に辿り着いた件

以前勤めていた会社の同僚に、カラオケに行くと必ずクリエイションの「ロンリー・ハート」を歌うやつがいた。

ロンリー・ハート+2
ロンリー・ハート+2
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クリエイション
ポリドール (1997-11-19)
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クリエイションといえば、竹田和夫率いる凄腕のブルース/ロックバンドというのがイメージで、僕が持っている唯一のアルバムは、マウンテンのフィリックス・パッパラルディと一緒に録ったアルバムだったから、ロンリー・ハートの売れ線なサウンドは、まあ一曲くらい狙ってヒット曲を作ったんだろうと思っていた。

クリエイション with フェリックス・パパラルディ
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それでもギターソロになると、突如凝ったサウンドになって、一聴どんなスケールを使っているのか判別できないメロディから複雑なユニゾンでイントロに戻るという構成になっていて、実際には聴き応えのある曲だし、なによりメロディやちょっと気弱そうなファルセットもいいから、B面に英語詞版の入ったシングル盤をよく聴いたものだ。

よくメンバーチェンジをするクリエイションは、僕の中では竹田和夫のソロ・プロジェクトのようなイメージで、特にロンリーハートを歌っているボーカリストについても、あれは誰なんだろうとも思わずにいた。


最近YouTubeを見ていたらロンリー・ハートの映像が出てきて、竹田和夫ほどの人がボーカリストに迎えたこの人はそういえば誰なんだろうと今頃気になってきて、気まぐれに検索してみると、アイ高野という人だとわかった。
さらに検索を進めると、アイ高野という人はカーナビーツのドラマーだという。
カーナビーツってどんなバンド?と思ってYouTubeに戻って検索すると、これか!

キャラ違いすぎでしょ。
でも確かに見れば同一人物とわかる。

この有名な「好きさ好きさ好きさ」はゾンビーズのカバーだ。
カーナビーツは他にもゾンビーズの曲をカバーしている。
好きなんだね。


ゾンビーズの中心人物の一人だったコリン・ブランストーンという人の「一年間」というソロアルバムが好きだった。
内省的で美しい、冬の夜によく似合う音楽。
好きさ好きさ好きさの原曲である「I Love You」なんかとは少し趣が違う。

一年間
一年間
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コリン・ブランストーン
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しかし、もうひとつの代表曲である「ふたりのシーズン」には片鱗があり、その曲を収録したオデッセイ・アンド・オラクルこそが、ゾンビーズの代表作と言えるだろう。

Odessey & Oracle
Odessey & Oracle
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THE ZOMBIES
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このアルバムを発表した後、ゾンビーズはコンサート・ドロップアウトを宣言することになる。

ピアニスト、グレン・グールドのコンサート・ドロップアウトが1964年。
同年、ビーチボーイズのブライアン・ウィルソンがバンドに在籍したままコンサート・ドロップアウトを宣言している。

ビートルズは、1966年に公演活動を停止し、ゾンビーズは傑作オデッセイ・アンド・オラクルのレコーディング中、バンド内の人間関係に亀裂が入り68年のアルバム完成後に公演活動を停止する。

wikiには、68年に解散して再結成はしていないと書いてあるが、90年と 2004年、2011年にアルバムを発表しており、実態としてはコンサート活動を停止し、ロッド・アージェントとコリン・ブランストーンのレコーディングプロジェクトとして存続した、というところだろう。
最近ではオデッセイ・アンド・オラクルの発表40年を記念して、2008年に全曲再現ライブをやったことを知った。
このライブはCD化されて発売されている。
さっそく購入した。

これいいなあ。
コリン・ブランストーンのソロ曲も入ってる。

オデッセイ&オラクル40周年コンサート
ザ・ゾンビーズ
ミュージック・シーン (2009-05-25)
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しかも、なんと今年新譜が出ていたらしい。
これも聴かなきゃだな。

Still Got That Hunger
Still Got That Hunger
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The End Records (2015-10-09)
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今回ロンリー・ハートの動画を見てふとボーカリストの検索をしたところから、ゾンビーズがゾンビ化するどころか、かなりアクティブに活動していることがわかった。
偶然、旧友の消息を聞いたような嬉しさを感じた。

2015年10月9日金曜日

合理の目は真実に近づかない~島田荘司「新しい十五匹のネズミのフライ」

島田荘司の新刊「新しい十五匹のネズミのフライ」は、シャーロック・ホームズ・パスティーシュの第二弾であった。

新しい十五匹のネズミのフライ: ジョン・H・ワトソンの冒険
島田 荘司
新潮社
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第一弾は「漱石と倫敦ミイラ殺人事件」で、ホームズの作品世界になんとロンドン留学中の夏目漱石を語り手として投入するという異色作であった。

漱石と倫敦ミイラ殺人事件 (光文社文庫)
島田 荘司
光文社
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この作品で印象的なのはホームズの女装についての見解だ。
聖典(ドイル作のホームズ作品群をこう呼びます)中では「マザリンの宝石」で老婆に女装して尾行した男に、正体を明かして驚かれるシーンがある。
しかし考えてみれば、長身で拳闘でも目覚ましい動きを見せるホームズの相貌で女装をすればこれは相当に目立つはずだ。
ワトソンではなく、夏目漱石を語り手とすることで、合理というフィルタを挟み込んだ結果、 ホームズの人物評も女装癖のあるコカイン中毒者、ということになる。


このように合理の目に晒してみれば、ホームズ譚には微妙なところがたくさんあるようで、「新しい十五匹のネズミのフライ」では、このあたりをワトソンによる作家的創作として処理している。
有名な「まだらの紐」では(未読の方は読み飛ばしてくださいね)、笛を合図に蛇をあやつって殺人が行われるが、蛇には耳がないのである。
本作では、「まだらの紐」は、コカイン中毒の治療中に見たホームズの悪夢を締め切りに追われた作家ワトソンの苦し紛れの創作として扱っている。
もはやSFファンタジーの域に達している科学的ナンセンス編「這う男」(本作中では「這う人」)も同様にワトソンによる純粋な創作としている。

これは、作中の語り手を作家にして、その架空の人物が書いた小説を今読者が読んでいるというホームズ譚の複層的なフィクションの構造を最大限に利用したパスティーシュと言えるだろう。
タイトルをわざわざ「ジョン・H・ワトソンの事件簿」にしているのも、複層構造に取り込まれ登場人物としての主体を喪失しているワトソン自身を描いていることを暗示しているのだ。

ホームズの作品世界を読み込んで、愛し抜いた筆者の最大の愛情表現なのだろうし、それは取りも直さず自身の御手洗シリーズの語り手石岡和巳に対する愛着なのだろう。
御手洗シリーズを熱心に支持する我々ファンの気持ちもまったく同じだと思う。

2015年10月2日金曜日

Booker T. & Priscilla または、いとしのレイラのバラードパートについて

ファッション・デザイナーのポール・スミスの真似をして、早朝にレコードを聴くのがここ一年の習慣になっている。
今日はBooker T. & Priscillaがセルフタイトルで出したA&M盤。


スワンプ・ロックにハマっていた頃、いとしのレイラの後半部の美しいバラードは、本当はリタ・クーリッジが作った「TIME」という曲だと聞いた。
リタと同棲していたジム・ゴードンがレコーディングセッション中になにげなく弾いていたフレーズを聴いたクラプトンが気に入って曲の後半につけ付け足したのだそうだ。
まだ駆け出しのシンガーソングライターのリタにクレジットは付かなかった。

怒ったのが、リタのお姉さんのプリシラと結婚していたブッカーT。
自分のアルバムで、このタイムという曲をカバーして「クロニクル」というアルバムに収録して、その話題性も含め義妹リタへの印税を確保してあげたという。

この曲を聴いてみたくて、クロニクルというアルバムを探してみたが廃盤だった。こういうワケあり曲なので中古市場は常時沸騰していて数万円の値がついていた。
で、目についたこちらのセルフタイトル盤の方を買ってみた。それでも1万円ちかくはしたと思う。僕にとってはそうとうに高価な盤だった。

しかし内容は価格に見合うもので本当に素晴らしい。
グラム・パーソンズの名曲sheが収録されているのも嬉しいところ。

現在(2015.10.2)での入手可能性をAmazonで検索すると、2009年にCDで二枚とも復刻されていたようだが、現在は廃盤でやはり高値がついています。

ブッカーT&プリシラ(紙ジャケット仕様)
ブッカー・T&プリシラ
USMジャパン (2009-09-23)
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クロニクルズ(紙ジャケット仕様)
ブッカー・T&プリシラ
USMジャパン (2009-09-23)
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ハイレゾ、ハイレゾは喧しい世の中ですが、こういう名盤を安定供給することにこそ役立てて欲しいですな。
僕はまだまだレコードでいきますよ。

そういえば、このレコード、ちょっと変わってて、1面の裏が4面、2面の裏が3面になってます。当時普及していたオートチェンジャー付きのレコードプレーヤーでかけるのに便利なんだそうです。

今新譜で出るアルバムは二枚組が多いから、こんなの作っても売れるかもですね。

2015年9月29日火曜日

真空管アンプの受難

朝、仕事で使っている真空管アンプ「COPLAND CTA401」が壊れた。
ジョー・パスのヴァーチュオーゾをかけていたら、バリバリバリと異音がして、すうっと音が消えてしまった。
直感的に過電流がどこかに流れたなと感じた。

急遽、デノンのPMA-1500RIIをピンチヒッターに送った。
購入して13年、一度も不調になったことのない孝行息子だ。

仕事が終わってCOPLANDを開けてみる。



異常発生時焦げ臭い匂いがしたので、焦げているところを探す、と出力管EL34のすぐ下に配置された抵抗のひとつが焦げていた。


おそらくこれが原因だろう。この抵抗に接続されていると思われる真空管の蒸着部が剥げている。



素人が判定できるのはここまで。
いつも修理をお願いしている方に今連絡をとっているところ。あとはプロに診ていただこう。

尖閣諸島は誰のものか、そして沖縄基地問題の根源はどこにあるのか~小説 琉球処分

だんだん世界が抜き差しならない状況に向かっているように感じる。
対症療法的な政治は、交渉相手の選択肢を奪い、結局どうしようもなくなって拳を振り上げさせるのではないか、という疑いが頭を離れない。

隣国の「挑発」に苛立って講じた「嫌がらせ」を「抑止力」と呼ぶ理屈は、はたして正鵠を射ているだろうか、などと考え始めればかえって、言葉を弄ぶことの虚しさばかりが募る。

未来、自分の子どもにどうしてこうなったの、と訊かれた時、何が答えられるだろうと考えたら、いてもたってもいられなくて、ここ数日目についた本を読み漁っていた。

その中に出てきた「琉球処分」という言葉がどうも気になって調べているうち、この本を見つけた。

小説 琉球処分(上) (講談社文庫)
大城 立裕
講談社 (2010-08-12)
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小説 琉球処分(下) (講談社文庫)
大城 立裕
講談社 (2010-08-12)
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芥川賞作家の大城立裕が、若い時に新聞に連載して途中で打ち切りになっていた作品だそうだ。
芥川賞を受賞した際、後半を書き足して出版された。

さほど売れず絶版となっていたが、菅直人首相が就任後の会見で、この本を読んで沖縄の歴史を理解しようとしている、と述べたことで中古市場が沸騰し、講談社が文庫化した、ということらしい。 読んでみると、そんな経緯は嘘じゃないのかと思えるほど面白い。



琉球処分を通じて、明治維新の実際を感じたような気がした。
そして教科書や新書などで知る明治維新と、それはずいぶん違う顔をしている。
やはり歴史は「人」が作っているのであって、どのような心持ち同士がぶつかり合ってそうなったのかを知ることは容易ではない、ということなのだろう。
政治的な立場の違いで起こる論争の中でよく聞かれる「もっと歴史を勉強しろよ」という言葉のなんと虚しいことか。
それが知り得ないものであるという謙虚さから先に進み、やがてお互いの意見を呑み込むことしかきっとできない。
読み終えた今は、そう思う。


この本を読むまで、沖縄の基地問題とは太平洋戦争の結果として生まれたものだと思い込んでいた。
書かれてあるとおり、明治政府の外交政策の犠牲となったことにそのルーツが求められるとすると、この問題の根源が足元にあったわけで実に根深い。
尖閣諸島も琉球王国に属するものだ。
明治以前、島津藩には相次ぐ増税に苦しめられ、柵封を続けていた明には貢物に倍する手土産を持たされて厚遇されてきた琉球の人たちが、それでも自分たちのルーツは日本にあるとの自覚を捨てずに生きてきた苦しみが、この問題を複雑にしている。
なにか慄然とする思いだ。



そして同じ過ちは今も繰り返されている。
松田処分官が遺した公文書としての「琉球処分」を作家大城が読み解いたことで、この本が書かれたあとの出来事の本質までも見通している。
これが小説というものの重要な役割だと思う。
せめて現代に生きる我々は、「文系大学処分」だけは阻止せねばなるまい。

2015年9月20日日曜日

マデリン・ペルーとウォーレン・ジヴォンとリンダ・ロンシュタットと

土曜の朝、NHK-FMでピーター・バラカンのラジオを聴いていた。
来日中のマデリン・ペルーのライブにバラカン氏自身も行かれたようで、関係するリクエストに応えていた。
アナログレコードに高音質盤を持つディスコグラフィーに惹かれて、僕も二枚ほど聴いたことがある女性シンガーだ。


ラジオではウォーレン・ジヴォンのカバー曲が流れて、とてもいい曲だと感じたがベスト盤にだけ収録されているものだそうで、さっそく取り寄せてみようとブラウザを起動し、ついでにウォーレン・ジヴォンについても調べてみた。

マデリン・ペルーもウォーレン・ジヴォンも国内のディストリビューターでは正規の扱いはなく、CD大国が聞いて呆れる。
対訳付きで聴いてみたかったがしかたがない。

Keep Me in Your Heart for a Wh
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Madeleine Peyroux
Imports (2014-10-14)
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Warren Zevon
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Warren Zevon
Elektra / Wea (1992-05-14)
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ウォーレン・ジヴォンについては、時々ラジオでかかる「ロンドンの狼男」くらいしか知らなかった。迷った時は一枚目から聴くに限るが、このファースト聴いたことがある曲があるなと思ったら、手持ちのリンダ・ロンシュタットのアルバム「Living In The USA」に入っているMohammed's Radioだった。
いい曲なんだよね。この曲を書いた人だったのか。


イスラムの預言者ムハマンドのラジオとはまた意味深なタイトル。
自分の英語力や歴史の知識ではこの歌詞の真意が掴めているとは思えず歯がゆい。
また、こういうバックボーンを持った曲を魔性の女的なイメージのリンダ・ロンシュタットが歌っているというところに、ポップという文化の本当の奥深さを感じる。

最近新聞のコラムで知ったビル・フェイというアーティストのPictures of Adolf Againも何か大切なことを歌っているような気がするのだが、字面だけを追いかけるのが精一杯。

そういえば、クリームの「カラフル・クリーム」の原題はDisraeli Gearsと言うが、このDisraeliとは、19世紀のイギリスの首相ベンジャミン・ディズレーリのことで、ローディーの言いまつがいを面白がって名付けたとされる。


しかし、このディズレーリという保守党の政治家は、スエズ運河の株式を買収しエジプトの植民地化への足がかりを作ったあと、インド帝国の成立に関与した人で、南アフリカ戦争を仕掛け、南部アフリカを植民地化したりした。
大英帝国の繁栄の礎を作ったとも言えるが、その後の世界戦争の最初の小さな火種を作った人とも言えるだろう。
この人の名前を、(自転車の)変速機=ディレイラー・ギアとの言い間違いに使ってマラプロピズム的効果を生み出そうとしているわけだから、当然ディズレーリの経歴に対して何かの感情を持っているだろう。

さらりとした時代へのアイロニー。
ポップソングの重要な役割だと思う。

2015年9月18日金曜日

チェット・ベイカーとエルヴィス・コステロの関係

まだまだジャズに関しては素人同然の僕に、ある日キャリアの長いジャズリスナーの先輩が10枚のCDを貸してくれた。
その中にチェット・ベイカーの東京ライブがあった。


僕は晩年のチェット・ベイカーが大好きで、だから1987年6月14日に昭和女子大学人見記念講堂で行われたというこのライヴを聴けて本当に嬉しかった。

One Night in Tokyo
One Night in Tokyo
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Chet Baker
Immortal Audio (2008-06-24)
売り上げランキング: 69,752
(写真のCDは廃盤で現在入手可能なのはこちらの盤)

アルバムの3曲目に「Almost Blue」とあって、エルヴィス・コステロのファンでもある僕は、彼が録ったカントリー・アルバムを思い出したが、まさかその曲のカバーとは思わなかった。

オールモスト・ブルー
オールモスト・ブルー
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エルヴィス・コステロ
ユニバーサル インターナショナル (2007-09-05)
売り上げランキング: 769,882

チェットは例の弱々しいのに瑞々しさを失わない不思議な声で、この名バラッドを歌い上げていた。
コステロの奥様のダイアナ・クラールもカバーしている。

Girl in the Other Room (Hybr)
Girl in the Other Room (Hybr)
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Diana Krall
Verve (2004-04-27)
売り上げランキング: 27,767

別に何かを調べようと思ったわけではないのだが、この取り合わせが不思議で、なんとなく検索エンジンに「チェット・ベイカー エルヴィス・コステロ」と入れてみると、意外にもこの二人の共演は古く、パンチ・ザ・クロック収録の名曲「シップ・ビルディング」にさかのぼるという。


パンチ・ザ・クロック
パンチ・ザ・クロック
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エルヴィス・コステロ
USMジャパン (2009-03-04)
売り上げランキング: 543,517
(びっくり。まさかの廃盤でした。新品の出品が13万円を越えててまたびっくり!)

気が付かなかったなあ。
さっそく聴いてみると、後半のソロから歌の伴奏にかけて、少しエフェクティブな音で録られたチェットのトランペットが流れてきた。

言われて聴いてもわからないなあ。
でもそれがチェット・ベイカーなんだろう。

大学時代、サークルのたまり場で誰かが持ち込んだTOTOの新譜「ファーレンハイト」を聴いていたジャズ系ベーシストの先輩が、
「おい、最後のトランペット、もしかしてマイルスじゃないか」
と言って、実際その通りだったのを見て当時はけっこう驚いたものだが、今ならわかる。
マイルスなら誰のアルバムで聴いてもそうとわかるだろう。

ファーレンハイト
ファーレンハイト
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TOTO
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歌なら聴けばそうとわかるけど、チェット・ベイカーのトランペットはそうじゃない。
でもダメかというとそうでもない。
スタイリッシュでクールで、どこにも「欠けている」ところのない音楽。
そんな気がする。

実際のチェットは欠けているところだらけだった。
ジャンキーで無鉄砲。いろいろとだらしない。
うまいことを言うつもりはないが、「歯」も欠けていた。

麻薬がらみでギャングにやられて前歯が無いんです。で、この「欠け」を利用してトランペットの新しい奏法を模索していたそうです。すげえ。

そんなところが、絶品B級ボイスのコステロと相性がいいのかもしれない。

2015年9月14日月曜日

ヒーローと立憲主義~キャプテン・フューチャー第九巻「輝く星々のかなたへ!」

キャプテン・フューチャー・シリーズ第九巻に突入致しました。

「輝く星々のかなたへ!」では、水星で大気や水を人工的に生成してきた鉱物資源が枯渇して、住民がガニメデへの移住を迫られるという事態が発生する。

カーティスは、水星人が生まれ故郷を離れなくてすむように、遥か彼方、宇宙の中心にまで赴き、万物生成のメカニズムを解き明かしに行くというかつてない遠大な冒険の旅に出る。

太陽系内の悪者をほとんどやっつけてしまったフューチャーメンにもう敵はいない。
勧善懲悪型のストーリーが成立しなくなったため、科学冒険小説にトライ!というところでしょうか。

宇宙にあるあらゆる物質が生まれる宇宙の中心では、やはりそのメカニズムそのものを「特権」として相争う勢力が存在した。
難しいのはどちらに味方するかということで、まるっきり地縁のないカーティスにとっては、結果的にはどちらに加勢しても勝てばいいわけなのだが、物語の性質上、そういうわけにもいかない。

一方は科学技術至上主義で、使えるものはなんでも使って富を生み出そうという考え方。
もう一方は、手に余る技術は人を不幸にする、という考え方。
で、まあ、利己的でない後者の方をカーティスは選ぶわけですが、やっぱり後者の陣営に美人のお姫様がいるんですね。
たまたま思想の合う側に美女がいたのか、美女がいたから味方したのか。
けっこう怪しい展開なんですが、 まあ、こういうのは詮索しないほうがいいですね。

で、勝利したカーティスは、この人ならば私利のためでなく、社会のために正しく使ってくれるだろうという信任を得て、そのメカニズムを借り受けるわけです。
カーティスが超人&イケメンだからこそ得られた信任なんですね。

現実の世界にはこのような超人は実在せず、しかし誰かにリーダーシップをあずけなければならない。
普通に考えれば、こんな人柄頼みのシステムは続かない。

だから<法>というものがあり、<立憲主義>という仕組みがあるんでございます。
しかしそれだって行き過ぎれば、為政者の自由を奪って本当に重要な政策が実現できなかったり、だからって緩めてしまえば権力に目がくらんだ人の暴走がはじまる。
みっともない事この上ない仕組みだけど、まだこれ以上のシステムは生まれていない。

こんな時代だからこそ、荒唐無稽な正義のヒーローの活躍を、立憲主義の「魂」として読んでおくっていうのもいいと思うんですよ。
いや、けっこうマジでそう思ってます。


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