2013年1月7日月曜日

LPレコードとCDの音

グレン・グールドの弾いたブラームスの間奏曲集がアナログレコードで復刻されたので買ってみた。

曲自体は、6年ほど前にNHK-BSプレミアムのクラシック倶楽部で、アファナシェフが弾いているのを聴いて素晴らしいと思ったので、彼の録音でCDを買った。

そのCDの解説に坂本龍一氏がグールドによる同曲の演奏を「水墨画のような」と評しているのがどんな音なのか興味があって、坂本龍一編集盤を買ってこちらも聴いていた。

今回買ったレコードは、その坂本編集盤と同じマスターからカットされたもののようで、全く同じ音がする。

同じでいいのである。いや同じでなくては困るのだ。



はて、レコードとCDが全く同じ音なら、何故わざわざ扱いの面倒なアナログレコードを買うのか。
これはいくつか理由があるが、数年前までは、その時点でまだレコード同等の音が出ているCDが少なかったから、というのがメインの理由だったと思う。
 
レコードで聴いた懐かしい音楽をCDで買い直すと、確かにノイズは無いし、扱いやすいのだが、持っていた普及クラスのCDプレーヤーでは音の実在感に乏しく、大好きな佐野元春のCafe BohemiaをCDで買い直した時には本当にがっくりきた。
毎晩夢中になってヘッドフォンをかけて、ボリューム上げて、居ても立ってもいられなくなって、鏡の前でギターを持って「エア・モトハル」をやらずにはいられなくなってしまうほどの情熱は、その12cmの音盤からは届いてこなかった。

その後、CDの世界にも経験が蓄積され、いい音のCDが作れるようになってきた。この10年ほどは名盤のリマスターが相次ぎ、ずいぶん散財させられた。
それでも最後の一歩、アナログ信号が変換されずにそのまま出力されるレコードの優れた「ココロを震わせるチカラ」に及ばないように思う。

もうひとつの理由は、アナログ再生の技術が「枯れた」技術であるということにある。
同じ音を再生するために必要な技術が、アナログレコードの場合は既に充分成熟している。
新しい機構を採用した機種も開発されていはいるが、既存の技術で充分優れた音が出ていると思う。
そういったトラディショナルな機種はしっかりと作られた中級機と細部に拘り抜いた高級機との間で価格差ほどの音質差が出なくなる。だから僕にとってアナログはコストパフォーマンスに非常に優れたオーディオ・デヴァイスなのだ。

デジタルデータの音楽化にはまだまだ進化の余地があり、かつどこまでいってもそれはアナログよりも複雑な技術にならざるを得ないということなのだと思う。
だからもしかすると、コストを限りなくかけていけば、満足のいく音像が得られるのかもしれない。
 
事実、オーディオ試聴会でエソテリック社の精密なマスタークロック機器をCDプレーヤーに接続した時の音の変化は目を(耳を?)見張らせる効果があり、あの世界にはまだ無限の可能性があるようにも感じられた。
しかし、数百万円から下手をすれば一千万円を超えてしまうそれらの装置は僕のような男には逆立ちしても手の届かないものだ。そこに何の意味がある?

幸い、市場にはLPレコード黄金時代の名盤たちが手頃な価格で流通しており、驚くほど多くの新譜がアナログレコードで発売されている。僕はまだもう少し、子供の頃から音楽の素晴らしさを教え続けてくれたアナログレコードというメディアを大切にして生きていこうと思っている。

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