2023年10月28日土曜日

スクリャービンのピアノが聴きたくて

 最近は真空管アンプに火を入れることも、めっきり少なくなってしまった。

それでも時々、いい音を聴きたいなあと思うことがあり、そんな時最近はスクリャービンに手が伸びることが多い。

それはこれを買ったからだ。

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 尾城杏奈さんのスクリャービン・リサイタル1&2で、SACDである。

スクリャービンのピアノ曲を聴くなら、第1候補はもちろんホロヴィッツだろう。だが、ピアノ曲を聴きたい時、音質の良さを楽しみたい気持ちが勝ってしまい、SACDを探して見つけたのが、この尾城さんのCDなのである。
美人だしね。

流石のTRITONレーベルで空間を感じさせる録音はお見事。
演奏は、見た目のイメージを裏切る情熱と狂気のコール&レスポンス。思わずスクリャービンの広大な音世界に引き込まれる。

惜しむらくはブックレットの写真が2点ほどで、しかもモノクロであることか。せっかくの美貌だからカラーでもう少し掲載して欲しかった・・って、やっぱり美人だから買ってたんかい!

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真実と喪失の対価 / ジェイムズ・ケストレル『真珠湾の冬』

 亡くなった原尞さんに導かれてポケミス版の『そして夜は蘇る』を読んだら、すっかりポケミスの装丁に夢中になってしまった。

幸い僕が住む街には、大きな書店があり、最近こんな書店も珍しいがそこにはいまだにポケミスのコーナーがあって、旧刊も含め割と充実した在庫がある。

行くたびに、眺めてニヤニヤしているだけというのもなんなので、ジャケ買いでこれを買った。

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真珠湾となれば、日本に生まれた自分にとってはまったく人ごとではない。
一度シンガポールに行った時、そうとは知らず入った博物館で、展示された大戦時の日本の所業に不意を打たれて、深く恥いったことは生涯忘れない教訓だ。

この物語からも同じような感慨を受けるが、それ以上に主人公の生き様が示す、自らを奉じた職業への、その身と分かち難いほど強い使命感に考えさせるものがある。
そして、だからこそ背負ってしまった重い喪失がどこまでもやるせない。

作者は、この重厚な物語に、これ以上ないほどふさわしいラストを用意した。
読み進めるにつれて、我がことのように救いを求めるようになった自分自身にも、それは福音だった。

心底この本に出会えてよかった、と思った。

逃げ場のない読書体験をもたらす本だが、この国に生きるすべての人に読んでほしい本だと思う。


2023年5月27日土曜日

追悼:原尞 ポケミス版『そして夜は甦る』

孤高のハードボイルド作家 原尞さんが亡くなった。

最初に読んだのは、直木賞を獲った『私が殺した少女』だった。
 
その「いかにも」なハードボイルドの語り口を理解できるほど、僕はレイモンド・チャンドラーを読めていなかった。
 
村上春樹がチャンドラーの全長編を翻訳してくれたことで、 僕はやっと『ロング・グッドバイ』の魅力にアクセスすることができたんだと思う。

今回の訃報を受けて、処女作の『そして夜は甦る』を再読した時、初読時にはわからなかったその文体の魅力に気づくことができた。

そして今回買った『そして夜は甦る』は、あの「ポケミス版」なんである。
黄色い小口に、あのビニールのカバー。
古風なイラストが添えられた表紙も、ポケミスの雰囲気にピッタリあっていて素晴らしい。
 
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それにしても寡作の人であった。
しかし残された作品はどれも再読に堪える魅力と底深さを備えている。
この素晴らしい作品たちを、チャンドラーのそれらと一緒に僕は何度も読み返していくだろう。
 
 原尞さん、お疲れ様でした。
どうぞ安らかにお休みください。
 
 

2023年4月12日水曜日

カフカ『掟の門前』とChatGPTが突きつけたもの

少し前に、北海道新聞のコラムでカフカの『掟の門前』が紹介されていた。

読んだことがなかったので、光文社古典新訳文庫で買ってみた。

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タイトルは『掟の前で』となっていた。

読めば、門前の方が内容に相応しい気がしたが、門自体が「思い込み」のメタファーであることを考えれば、『掟の前で』の翻訳意図も理解できる。

併録されている『アカデミーで報告する』も多様な解釈を許す短編で、『掟の前で』と併せて読むことで、カフカの人間あるいは社会に対しての基本的姿勢のようなものを、ぼんやりと形作っているように感じられた。

そしてその2篇を膠のように『変身』と繋ぎ止める『判決』。

この4篇でこの本は構成されている。

最も長い『変身』は何度も読んだ作品だが、今回もまた、以前とは全く異なる印象を残した。

 

直前、直後の読書、それまでの人生の経験。そういうもので本から感じ取る風景は全く異なるものになる。それが読書というものだと思う。

ところで、最近ニュースを騒がせているChatGPT。この優れたAIを使って読書感想文を書いた学生を処罰するというニュースが流れた。

カフカを読んで、しみじみとした人生の奥深さを覗き込んだ直後にこのようなニュースに接すると、まことにどうでも良いことに思える。

感想文に点数をつけて評価をすることが目的になっているからAIなんぞに書かれては困るのであって、教育の場での本当の目的は、読書感想文をクラスで共有して、人間の感性のしなやかさや、環境の違いによる考え方の相違を受け止める柔らかさを学ぶことだろう。

教育の世界にChatGPTが突きつけたのは、「評価」ができるような成果物はもうコンピュータで作れてしまう、ということだ。

そしてそのような「評価」を前提とした設問は、すでにビジネスの社会には存在せず、誰もみたことのない課題に、どんなものの力でも借りながら挑んでいくことが求められている。

そして、まさにその壁を、はるか1910年代に描いたのがカフカであった。本当に大切なことは、どのようにしてでも学べるものだ。初等・中等教育はそのための成功体験を人工的に体験できるシミュレーションの場として機能させて欲しいものだ。


2023年4月9日日曜日

ジョン・ディクスン・カー『火刑法廷』

これたぶん三回目の再読なんだけど、今回も今回もとっても新鮮な不思議さのまま、最後まで連れて行かれた。

ジョン・ディクスン・カーの『火刑法廷』 

謎解きも複雑で、簡単には飲み込めない。

作者もそう思ってるんだろう、嘘だと思うならXページを見ろ、との注釈まで入っている。そして読んでも、納得するにはよくよく考えなければならず、時間がかかる。

カーの頭の中は一体どうなってるんだろう。

そしてラスト数ページの大仕掛けも、巻末の豊崎さんの解説を読んで、あっと気づいて、読み直して、寒気が走って、前回読んだ時も同じステップ踏んだな、と思い出す始末。

俺の頭の中もどうなってんだよ。 

※ハヤカワの新訳版、表紙変わってますね。

2023年3月29日水曜日

俺とG&L #4

G&L ASAT Classicの改造記、第4回です!
 
最終回の今回は、回路周りです。
 










まずはプレートですが、よく見ていただくとピックアップの切り替えスイッチが斜めにスラントしているでしょう。

こんな小さな工夫で、ものすごく弾きやすくなるんです。おすすめの改造ですね!


いよいよ回路(サーキット)ですが、今回はフロントとリア、それぞれのシングルコイルを直列してハムバッカーのようなサウンドも出る4wayのサーキットを付けてみました。
 
エマーソンカスタムというブランドの配線キットで、レビューなども参考に250kΩの抵抗が入っているものをチョイスしました。
 
 
直列モードでは、確かに音圧が上がり歪みのノリが変わります。僕はテレキャスターしか持っていないので、もしかしたら使えるシーンがあるかもですが、ホンモノのハムバッカーとはちょっと違う気はします。
 
そしてそのピックアップを切り替える「ノブ」にもご注目ください。
 

 












通常のものより、かなり小ぶりで質感が高いモデルです。
HATAという工房のもので、ボリューム・トーンのノブも同じブランドでセットで販売されています。















このノブセット、通常はブラス製のところをアルミで作られていて、非常に軽いのです。
私にはこの軽さ、ちょうど良いのですが、好みが分かれるところかもしれません。

2023年3月28日火曜日

俺とG&L #3

G&Lギターの改造記第3回です。

今日は、ピックアップとブリッジ周りを。



G&LのASAT Classicにはオリジナル設計のMFDピックアップがついていて、ポールピースが各弦で調整できるようになっていました。

が、それゆえにテレキャスらしからぬナイーブなルックスになっていました。

今回の改造では、よりオリジナルに近い、FENDER社製 Pure Vintage '64 Telecaster Pickup Setをセレクトして、搭載しました。

 

お次はブリッジ。

テレキャスターの欠点として挙げられることが多い、3分割タイプのブリッジですが、逆に、それがテレキャスターらしいリジッドなサウンドを生み出していることもまた事実なわけで、今回各弦でオクターブ調整できる6分割タイプから、わざわざオリジナルに近い3分割タイプに戻しました。

信頼のGOTOH社製、BS-TC1 Chromeです。

なぜ GOTOHを選ぶかというと、もう一本のテレキャスターVanzandtのブリッジについていた芋ネジが長すぎて、弾くたびに右手の腹に引っかかって不快だったのです。

イライラに耐えかねて、自分でGOTOHのブリッジを買ってきて交換。スッキリ解決したため、今回もGOTOHさんを選びましたら。

そしたらなんと!G&Lはネックのジョイント位置がフェンダー系のテレキャスと少し違っていて、互換製品を使うと弦高調整との兼ね合いで、やっぱり芋ネジの頭が出てしまうのでした。

で、まあ芋ねじなんで探せばサイズはあるもので、Amazonでこれを見つけて、見事解決。

次回最終回は回路系です!

2023年3月16日木曜日

俺とG&L #2

G&Lギターの改造記の第2回です。第1回はこちらから→『俺とG&L #1』

まずはペグ。


GOTOH ( ゴトー ) 社製のマグナムロックのペグ。

型番はSGS510Z-MG-A07-L6-Chrome

ポストに弦をくるくる何度も巻かなくても良いという優れものである。 


裏面にはgotohを数字化した「510」の文字が。




弦交換は、作業としては楽になるが、弦のロックが甘いとチューニングが合わない。取説には書かれていないが、交換してくれた楽器屋の兄ちゃんが、コインで上のネジ締め込むと一発で合うよ、と教えてくれた。

お悩みの方、ぜひお試しを。

2023年3月15日水曜日

俺とG&L #1

G&Lギターとの出会いは、Mr.Childrenの1997年のシングル『Everything (it's you)』だった。

この曲では、レコーディングもライブでも田原くんと桜井和寿が掛け合いでギターソロを弾いている。

桜井はこのMVで印象的なシルバーラメのテレキャスターを弾いているが、よく見かけるフェンダーのそれではないことにはすぐに気がついた。

桜井和寿のギターソロは、スムースな田原のソロを受けて、不器用ながらも熱くてドラマティックに燃え上がっていく。そして何よりギター自体が、その熱さを受け止め得るクールさを持っていた。

まだインターネット黎明期のこと、ググればわかる時代はまだきていなかったが、雑誌などですぐにそれがG&Lのギターであることは調べがついた。

G&Lというブランドは、桑田佳祐氏がソロ活動で、やはりテレキャスタータイプの 『ジョージ・フラートン・モデル』を使用していたことで認知していた。

ジョージ・フラートンという人が、楽器を弾けないラジオ技術者のレオ・フェンダーと共にフェンダー・ギターの立ち上げを行った人だとは、その時に知った。

レオがミュージックマンをアーニーボールに売却した後に立ち上げたのがG&Lと知って、やはり一度は弾いてみたいものだと思っていた。

 そんなある日、営業をサボって渋谷をブラブラしていて、イケベ楽器で白いG&Lが吊るされているのを見つけた。

もう値段も忘れてしまったが、15〜20万くらいだったと思う。

衝動買いをするには高価なものだ。いったん落ち着こうと店を出たが、それが一目惚れであったことにはすぐに気がついた。

気がつくと店に戻り、スーツのまま試し弾きをさせてもらって、クレジットカードを差し出していた。 


長いこと、それをメインギターにして弾いていたが、2006年に会社を早期退職した時、今度は第4期ARBの内藤幸也が弾いていたフェンダーのテレキャスターが気になって、よく似た仕様のVan Vandtを買った。

このVan Vandtのテレキャスは、ネックが薄くて指板のRがほとんどないタイプで、これが非常に弾きやすく、しばらくこればかりを使っていた。

そんなわけで、しばらくケースの中で眠っていたG&Lがすっかりゴキゲンナナメになっているのに気づくのが2021年。

3年半ほどお世話になった職場を辞めて少し時間ができたので、本格的にメンテナンスに乗り出した次第だ。

結局ほとんどのパーツを入れ替えることになった。

その記録をここに残しておこうと思う。

これが改造を終えた姿だ。


次回以降、入れ替えたパーツを紹介していこうと思う。

2023年3月14日火曜日

zoomよ、お前もか

すごーく久しぶりにzoomでミーティング。

自分がホストなので、動作チェックしておくか、と思ったらアップデートに失敗しました、と言われて先に進まない。

いろいろ調べて、古いバージョンを先に削除しておく必要があるとわかったんだけどさー。

そんなバカな。

いや、あるよ。そういうこと。でもさー、zoomってそういうダッセー企業じゃないと思ってたからショックだわー。


 

まあ、やってみたらできた。

うん、新しいアイコン、かっこいいじゃん。

いやもしかしたらzoomだけのせいではないのかもしれん。OSとの関係もあるもんね。

使ってるのはMacだから、こっちもだいぶ怪しい。

MacOSもiOSも、勝手にインターフェイス変えて、情弱ユーザー戸惑わせるの得意だけどさー、創業者のジョブスさんは、ユーザーは信用できないからマウスのボタンは絶対一個じゃなきゃダメだっていう人だったんだよ。

だからこそ、アップルはComputer For Rest Of Usだったんだし、シンプルでビューティフルだったんだよ。

まあ、素人のオイラには、難しいことはわからんけどさ、時代を変えてきた皆さんには、いつまでもカッコいい企業でいて欲しいよな。

2023年3月13日月曜日

追悼、デヴィッド・リンドレー

2023.3.3、鬼才デヴィッド・リンドレー逝く。

それにしても今年は、世代のヒーローたちがどんどん逝ってしまうね。ジェフ・ベック、高橋幸宏、デヴィッド・クロスビー、鮎川誠、バート・バカラック・・

ジャクソン・ブラウンの名盤の影に必ずデヴィッド・リンドレーがいたよね。弾けるのがギターだけではなかったゆえに、ギターヒーローとは呼ばれなかったけど、明らかに弦楽器マスターの方が希少だと思う。

その稀有な才能を堪能できるライブアルバムを残してくれたことが、せめてもの僥倖かな。

ジャクソン・ブラウンの2006年スペインライブを収録したもの。リンドレー自身も歌ってますね。
 

2023年3月12日日曜日

異世界おじさん、ついに最終回

 最終回の放送が延期されるという、視聴者にとってはなんともツラい仕打ちをしてくれた『異世界おじさん』

待った甲斐のある素晴らしい最終回でしたねー。

 

17年間異世界にいて、現実世界に帰ってくるという設定の妙。それだけのことなら他にも同じ設定の作品はなくはないですが、帰ってきた現代の日本こそが「異世界」に感じられるというところがこの物語の凄さではないでしょうか。

今年58歳になる自分にとっても、まるで価値観の異なる父親世代と、これまたまったく違う価値観を持った子供世代との間にいて、「世界」とは何かと考えることがよくあります。

世界はたぶん、自分だけもので、情報のようなものにあまり振り回されない方がいいんだろうなー、と今は思います。

最後の出張

一年間やってきた高校訪問ツアーですが、いよいよ最後の出張となりました。

帯広です。

帯広生まれなんだけど、0歳の時に一年間いただけなんで、まったく思い出とかはないのです。

千歳あたりから高速に乗って、車で行くことが多いですが、アップダウンの大きな道東道では、時々絶景ポイントがあります。


おお!と思って写真を撮って、後で見ると「あれ、こんなだったかなあ」と思うことが多いです。

あと、今度こそ「インデアンカレー」に行こうと思うのですが、なんとなくああいう地元のソウルフードのお店って、お作法がありそうで腰が引けちゃうんですよね。

つい勝手知ったるチェーン店に入ってしまいます。

臆病者です。

2023年3月6日月曜日

オリオンビールみーつけた!

オリオンビールが好きだ。

いつもはサッポロの苦めのビールを愛飲しているが、どこか異国情緒のあるオリオンの佇まいを見つけると、つい買ってしまう。

昨日もスーパーで見かけて迷わず買った。


 エール系で、非常に複雑な味わいを持つビール。美味でした。

2023年3月5日日曜日

確定申告のDX

昨年度の確定申告を終えた。

『弥生』アプリケーションを導入してからの確定申告は毎年この上なくスムーズだが、e-Taxに移行してからは苦難の道のりだった。

特に昨年は、e-Taxの利用申し込みとマイナンバーカードの折り合いが悪く、何度も何度も申請をやり直しさせられた。

ネットリテラシーが低いせいといえばその通りで一言もないが、今年のシステムでは実にスムーズ。『弥生』でほとんどの操作ができたことが大きいと思う。

スマートフォンでのマイナンバーカードの読み取りと弥生の専用アプリの組み合わせで、あっという間にデータの送信が完了。あっけないくらいだった。


 

昨年のことを思い起こすと、弥生の専用アプリが果たしていた役割をマイナポータルでやろうとして、ぐるぐると堂々巡りになった記憶がある。

そういえば、現在メインバンクで使っている北洋銀行が、最近、ATMの振り込みシークエンスを変更し、これが大変煩雑で、ATMの列が伸び、月末なんかだと1時間近く店内にすら入れない事態となっている。 


なぜシステム開発は「すべりがち」なのか。

きっと客の言うことを聞きすぎるんだろう。

素人さんにプロのサービスを提供しているからお金がもらえるのであって、素人さんの言う通りやるなら誰にだってできる。

ジョブスがマウスにボタンを一つしか設けなかったのは、ユーザーを信用していなかったからだ。そんな制約条件の中でMacOSのインターフェイスは洗練された。

ゲイツは、Windowsの開発に際して、「DOS/Vで動くMac」が欲しいんだ!と怒鳴ったという逸話があるが、当たり前の感性で新しい洗練は作れない。 

老舗の『弥生』さんの見事なDXには本当に感心した。願わくば、このような洗練がこの国に満ちますように。

2023年3月4日土曜日

山下達郎札幌公演に行ってきた。

2023年2月7日、札幌文化芸術劇場hitaruにて開催された山下達郎札幌公演に行ってきた。本来は昨年実施されるはずだったが、ご本人のコロナ感染で延期になっていたものだ。 

山下達郎は公式に映像作品を発売していない。コンサートに行きたくても、なかなか抽選には当たらなかった。

2012年に映画館で、シアターライブが公開された時には喜び勇んで観に行った。演奏巧者の猛者揃いのライブは素晴らしく、中でも達郎本人のギターに圧倒された。ラストシーンに選ばれた北海道のフェス。圧巻の『さよなら夏の日』にスクリーンの中の観客たちが涙を流していて、映画館の僕らももらい泣きした。

そんな公演を生で経験できるのだからと、とても楽しみにしていた。 

幕が開き、一曲目『スパークル』のあのイントロで、すでに僕の興奮はマックスだった。

しかし、演奏が終わった後、ラジオ『サンデーソングブック』と同じトーンで、達郎はこのように話し始めた。


「よかった。最初から総立ちになったりしたら帰るところだった。このコンサートには作法があるから初めての人は、お馴染みさんのやる通りやってください」と。

郷にいれば郷に従え。特に異論はない。

しかし、僕が長い間山下達郎の音楽から受け続けていた感銘と、完成されたエンタテインメントショーとしてのライブの間には、大きな溝があった。

最後まで、僕はそのライブの流れに乗り切れず、総立ちの会場の中で一人座って彼の歌を聴いていた。

佐野元春のコンサートで彼が叫ぶ「自由がなければ意味がないのさ、そうだろう」という言葉が僕の頭の中でずっと鳴っていた。

ぼくのポルシェ

小学4年生のとき、おばあちゃんにおねだりしてタミヤ製のプラモデル『PORSCHE 934RSR』を買ってもらった。5000円くらいしたと思う。

当時の自分の技量ではうまく作れず、いろんなところを誤魔化してなんとか形にした。

それが気にかかって、高校生くらいまで手を入れ続けたが、そのことで却って傷は広がり、 長い時間をかけてそのプラモデルは僕に深くてリアルな教訓を与えた。

大学に行くため実家を出る時、諦めがついてそのプラモデルを捨てたが、その教訓は僕の中に残り続けた。ビジネスマン時代、周囲が焦れるほど完全な準備ができているかを見極め、慎重すぎるほど慎重にことを運び、時にはそれでチャンスを逃すこともあった。それでも対症療法を重ねて傷が残り続けるよりはマシだと思い続けた。

そして僕は『PORSCHE 934RSR』自体のことも忘れていなかった。

会社を辞めてセミリタイア時代に入る時、僕が真っ先に手に入れたのは、あの『PORSCHE 934RSR』だった。時を経てその商品は12,000円ほどになっていた。

長い時間をかけて、頭の中でシミュレーションし続けたプラモ製作。生来の不器用さゆえ、今回も完璧とはいかなかったが、2回目の製作は、その後の修正を要求しなかった。

 

完成させてから今年で16年になるが、今でも机の真横に鎮座している。時々磨いてあげるが、色褪せない魅力がある。

フェルディナンド・ポルシェ博士が、ヒトラーのために作った国民車をルーツに持ち、現在のラインナップにも面影を残す永遠のデザイン。

おそらく実車を入手する機会は一生あるまいが、僕の心をデザインした大切な一部として、一生残り続けるだろう。

2023年2月21日火曜日

寒い夜だから、パトリシア・バーバーの『NIGHTCLUB』で

夜に聴くジャズは、落ち着いた曲想のものでも心ざわつかせるものだ。
寒い日が続いて、家にこもっていると何もなくてもソワソワしてしまう。
こんな夜はパトリシア・バーバーに限る、とCDをかけたら、中盤に『アルフィー』がかかって、ハッとした。
 

 バート・バカラックが亡くなってから、思い立っていったい家に幾つのバージョンの『アルフィー』があるのか探し始めて、キリがないからやめたところだったのだ。
 
パトリシア・バーバーが歌っていたのは思いつけなかったから、不意打ちを喰らったような気分だ。
そしてこの不思議な所在のなさが、彼女の歌の最大の魅力でもある。
心に勝手に入ってこない音楽って、意外と貴重だと思う。
 

2023年2月20日月曜日

扁桃腺で寝込んで、エラリイ・クイーン『靴に棲む老婆』を読む

何年かぶりに、扁桃腺が腫れて高熱が出た。
一週間ほどベッドに寝たきりだったから、読書が捗る。
せっかくの機会を活かして、出版されて間もないエラリイ・クイーン『靴に棲む老婆』を読む。
 
まったく知らない作品だったが、とても面白かった。
最近、『災厄の町』以降の作品が、越前敏弥による新訳で再発されているが、これはその中でも群を抜いて面白かったなー。

2023年2月6日月曜日

DIANA KRALLとCOPLANDの夜

先週、昔の仲間が札幌を訪れて来た。
懐かしいなと二日続けて痛いほど飲んだ。 
 
夢があったから、定年まで勤め上げるような生き方が出来なかった。
それなりに面白い人生だったが、ここにきて少し疲れを感じる日もある。

そいつもまあ、色々あった奴だ。
気がつけば、お互い自分の話ばかりしてうまく噛み合わない会話が続いた。

なんとなく疲れが取れないまま、無為な週末を過ごして月曜日が来た。
そんな僕のために妻がトンカツを揚げてくれた。
ビールとトンカツの後、部屋に戻ってCDラックのダイアナ・クラールが呼んでいるような気がして、『Night and Day』の入ったこのアルバムを選んだ。
 

 
プリアンプが不調で、COPLANDの真空管プリメインで鳴らしているからか、いつもより少し音像が小さく、ステージからではなく、この部屋で歌っているような音がする。
 
 
そんなこともあるさ、とやっと思えるようになった。
音楽に救われるなんてしょっちゅうだが、 歳をとると有り難みが増すね。


2023年2月1日水曜日

『レコード棚を総浚い』企画のアップ先を変更させていただきます。

 雑誌『PEN』2015年3/1号に掲載された「最後に聴きたい歌。」という企画で、ファッションデザイナーのポール・スミス氏が、毎朝6時に出社し、まずオフィスでLPレコードを聴く、というエピソードに触れた。

朝6時に出社とか、オフィスでレコードとか、いろいろびっくり仰天して、それ以来、なるべく朝にレコードを聴けるような心の余裕を持ちたいものだ、と心掛けてきた。

村上春樹氏も、インタヴューに応えて、「僕は翌朝聴くレコードを夜のうちに選んでおくんですよ」と言っていたのを聞いて、ますますこれは自分でもやらねば、と心に決めた。

5~600枚くらいのささやかなコレクションだが、枚数を数えたこともないし、全部を飽きるほど聴いたかと言われると心許ない。

一念発起して、まずはアルファベット順に洋楽LPを全て聴いてやろうというので始めたのが『レコード棚を総浚い』 という企画です。

実験のため、noteという比較的新しいサービスと、昔からずっとやっているこのBloggerに同じ記事をアップし続けてきた。

結果は歴然としていて、noteの方が圧倒的にアクセスが多く、また記事作成も非常に洗練されていて扱いやすい。なにしろリンクの処理が見事なのには感心した。

長年書いてきた愛着あるプラットホームなので簡単には捨てられないが、新しい使い道を考える時が来たのかもしれません。

今後『レコード棚を総浚い』は下記のnoteにアップして参りますので、よろしければご贔屓に。

Girasole Records | note

 

2023年1月31日火曜日

レコード棚を総浚い :『Billy Joel / SONGS IN THE ATTIC』

1981年リリースのライヴアルバム『ソングズ・イン・ジ・アティック』は、80年のアメリカツアーを収録したものだが、いわゆるライブ実況盤とはいささか趣を異にしている。

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ここには、彼のキャリアのターニング・ポイントとなった大ヒットアルバム『ストレンジャー』以降の曲は一つも収録されていない。
このアルバムコンセプトについて、その転回点を作り出した張本人であるプロデューサー、フィル・ラモーンがライナーに寄せた一言を引用しておく。

いくつかの曲は時の流れを超え、常に変わらぬ美しさとインパクトを持ち続ける。一夜にしてスターになることをまだ夢見る人たちへ、これが「ストレンジャー」が私達のレコードコレクションに加わる遥か昔に書かれたビリーのソングライターそしてミュージシャンとしての力量を示すサンプルなのだ。

Billy Joel / Songs in the Attic ライナーノーツより

フィル・ラモーンが書いた通り、このアルバムはもっと広範な人にとっての「サンプル」となり、埋もれた名曲であった『シーズ・ガット・ア・ウェイ』をラジオに乗せ、幻となっていたフォースト・アルバムの再リリースに結びつけた。

また『Say Goodbye to Hollywood』も、このライブアルバムをきっかけに再度シングルカットされ、今度はヒットしている。

ビリー・ジョエルのライブをテレビで観た事がある。
弦も切れよとばかりに鍵盤を叩き、ピアノの上に乗ってハンドマイクで熱唱するビリーの姿は「吟遊詩人」のイメージを覆す、ロックンロール・エンターテイナーそのものだった。
そんな彼を支えるバンドとの信頼関係がそのステージを作り上げていたことは疑いようがなく、このバンドを篤く遇した事がフィル・ラモーンプロデュースの第一の功績であったことがよくわかる。



2023年1月30日月曜日

レコード棚を総浚い :『Billy Joel / GLASS HOUSES』

1980年発表の7th『GRASS HOUSES』は、ロック寄りのアプローチで、とてもよく売れたアルバムとなった。

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タイトルの『グラス・ハウス』は、「People who live in glass houses should not throw stones.」という慣用句から発想されたそうだが、この警句は、「自分が完璧でない(完全な人間などいない)なら、他人を批判すべきでない」という意味。
ビリー自身を取り巻く環境に対しての何らかの異議申し立てではないかと推察されるが、具体的な事案はわからない。

この寓意を表現した、ジャケットのガラスの家に石を投げつける過激なヴィジュアルは、自身初の全米シングルチャート1位となった『ロックン・ロールが最高さ』の楽曲イメージと合わせて、タフなロックアルバムの佇まいを纏っている。

とはいえ、本来のスタイルである吟遊詩人的アプローチも健在で『ドント・アスク・ミー・ホワイ』などの佳曲も収録しているし、スケールの大きな『レイナ』は個人的には愛聴の一曲だ。

そして名曲『ガラスのニューヨーク(YOU MAY BE RIGHT)』は、『SAY GOODBYE TO HOLLYWOOD』とともに、桑田佳祐が嘉門雄三名義で発表した『嘉門雄三 & VICTOR WHEELS LIVE!』でカバーされている。

2023年1月28日土曜日

レコード棚を総浚い :『Billy Joel / 52ND STREET』

大ヒットとなった『THE STRANGER』に続き、フィル・ラモーンとタッグを組んだ78年の6thアルバム。

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昔ボーカルスクールに通っていた頃、最初の課題曲が『オネスティ』だった。
自信たっぷりに派手な抑揚をつけて「If you search for tenderness・・・」と歌いだした僕を制して先生は、「優しさを探しているような人に向けて歌っていることを意識して」と言った。
<歌う>ということを根本的に問われた衝撃。
生涯忘れることない教訓だ。

そういう意味でも自分にとってこの『52ND STREET』は完全に『オネスティ』のアルバムで、日本のヒットチャートでもそのように受け止められていると思うが、本国アメリカでは『マイ・ライフ』の評価の方が圧倒的に高いようだ。
アルバム『THE STRANGER』における『素顔のままで』とシングル『ストレンジャー』のような逆転現象が、このアルバムでも起こっていて興味深い。


本稿を起こすにあたって、再度聴いてみて驚いたのが、当時はまったく気づかなかったフレディ・ハバート(tp)の存在感だ。
なんと言ってもジャズ入門のために何度聴いたかわからないオリヴァー・ネルソン『Blues & The Abstract Truth』収録の名曲『Stolen Moments』におけるハバートの劇的に空気感を変えてしまうソロプレイ(そしてそれに続くエリック・ドルフィーのフルートったら!)は心に深く刻まれている。
そしてその空気感は本アルバムの参加曲『ザンジバル』でも再現されている。

レコード棚を総浚い :『Billy Joel / THE STRANGER』

フィル・ラモーンをプロデューサーに迎えて制作された5thアルバム『ストレンジャー』
知らぬもののない大名盤の登場だ。

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友人から譲り受けたこの盤はCBSソニーの高音質規格「マスターサウンド」盤であった。
複数の規格を持つマスターサウンドだが、この盤はマスターテープとカッティング・ターンテーブルのスピードを半分に落としてカッティングする「ハーフ・スピード・カッティング」規格のもの。
高音域の再現に有利だという。

それにしてもこの印象的なジャケットはどうだ。
ベッドで見つめる仮面は、タイトルトラック『ストレンジャー』に言及される「もうひとつの顔」、そして仮面を取り去ってありのままの君でいてくれと歌われる『素顔のままで』のメタファーだろう。
そして壁にかかったグローブで彼は何と戦っているのか。
リリースの前年公開の『ロッキー』を連想させるのは、家系にビリーと同じ、アシュケナジム系の血を持つスタローンへのシンパシーを感じるからだろうか。

このアルバムからは『素顔のままで』が、本国で大ヒットし、日本では『ストレンジャー』が大ヒット。
『素顔のままで』はつんくさんや杉山清貴さん、変わったところでは高中正義さんなんかがカバーしているが、『ストレンジャー』のカバーには聞き覚えがない。
サウンド、口笛、あの歌唱。
『ストレンジャー』には、この曲はこの演奏でなくてはという、カバーを寄せ付けない完成度があるのだと思う。

2023年1月25日水曜日

レコード棚を総浚い :『Billy Joel / TURNSTILES』

ビリー・ジョエル、1976年の4thアルバム『ニューヨーク物語』。
邦題の通り、ロスからニュー・ヨークに拠点を移しての制作となった。

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原題のTurntstilesは改札などに使われる回転式のゲートのことで、ジャケットにも写っている。
ジャケットの人々はアルバム収録曲の登場人物で、ビリーの吟遊詩人趣味が反映されている。

ビリー自身も『Say Goodbye to Hollywood』がロネッツの『ビー・マイ・ベイビー』の影響下にあることに言及しているが、フィル・スペクターも自身のバンドで『Say Goodbye to Hollywood』のカバーをしている。
日本でも嘉門雄三(桑田佳祐)がカバーしており、誰もが認める名曲と思うし、事実二度もシングルカットされているが、これが不思議なほどに売れない。

 

この曲が正当に評価されたのは、ライブ盤で紹介されてからで、ファーストアルバムの『シーズ・ガット・ア・ウェイ』もそうだった。

吟遊詩人的に良いアルバムを作ることを指向していて、演奏活動はどちらかというと活動の原資や生活のためと考えていたと、ビリー自身もインタビューに応えて語っていたが、皮肉なことにそのライブが掛け値なしに良かったのだろう。
何度か映像作品でビリーのライブを観た事があるが、ピアノに登って熱唱するビリーは実に熱く、説得力があった。

そしていよいよビリー・ジョエル真の出世作『ストレンジャー』が作られる。

レコード棚を総浚い :『Billy Joel / Streetlife Serenade』

974年のビリー・ジョエルのサード・アルバム、と言って今回も迷いが生じる。
今回聴いている日本盤は、『ストレンジャー』の大成功を受けて1978年に発売されたものだからだ。

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『ピアノマン』程度の成功では、日本のレコード会社には確信が持てなかったということなのだろうか。

本国ではこのアルバムから『エンターテイナー』がヒットしている。
印象的なシンセの音から始まる一聴陽気なこの曲は、「僕のレコードなんて、豆の缶詰みたいに、すぐディスカウントの棚に入っちまうさ」と歌って、売れてナンボのミュージシャン稼業の悲哀を歌っている。
それがなんとも皮肉だ。

ビリー・ジョエルのアルバム制作は、いつもコンセプチュアルだが、このアルバムには2曲のインストゥルメンタル曲が含まれ、その色がいっそう濃い。
長くライブを締めくくる曲に使われた『スーベニア』からインストゥルメンタルの『メキシカン・コネクション』で幕を下ろす流れは、このアルバムを聴くという体験を特別なものにしている。

ヒット曲がナンボのもんじゃいと言わんばかりのビリーのフラストレーションが、活動の場をロスから移すきっかけになったのだろうか。
次作からビリーのニューヨーク時代が始まる。

 

2023年1月19日木曜日

レコード棚を総浚い :『Billy Joel / Piano Man』

デビュー作『コールド・スプリング・ハーバー』はセールス的には振るわず、ツアーも打ち切り。ビリーは、また弾き語りで糊口を凌ぐ日々となった。

しかし、やはり世界は彼の才能を放っておかなかった。
フィラデルフィアで演奏した『キャプテン・ジャック』という曲のライブ録音が地元のFMで放送され、それがきっかけで再デビューのチャンスを得る。
コロンビアレコードと契約し、ラリー・カールトンを招いて録音したのが、本盤『ピアノ・マン』となる。

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苦しかった弾き語りの日々を描いたタイトルトラック『ピアノ・マン』は大ヒットとなり、快進撃は始まった。

ところで、再デビューのきっかけとなった『キャプテン・ジャック』だが、思わぬ偶然からアメリカの政治論争に巻き込まれ、注目を集めることとなった。
2000年のアメリカ上院議員選挙で、ヒラリー・クリントンのスピーチ中に『キャプテン・ジャック』が誤って(本当は『ニューヨークの想い』をかけるはずだったらしい)流れ、その歌詞「今夜キャプテンジャックとハイになろう」を採って、対立候補が、「あなたはドラッグを肯定するのか」と批判したのだそうだ。
ドラッグにでも頼りたくなるようなクソッタレの世界を作り上げた政治の責任には目を背けて、それでも誰かのせいにするのはやめて、こんな生活にはおさらばしようぜと歌うこの歌を「ドラッグの肯定」と言った候補の見識を疑わざるを得ないが、政治の世界に特有のキリトリ案件のまことに見事な事例として、ビリーの歌と共に長く記憶に残るだろう。

 

2023年1月18日水曜日

レコード棚を総浚い :『Billy Joel / Cold Spring Harbor』

これを書き始めた今この瞬間も、ビリー・ジョエルのデビュー盤を最初に紹介していいのか迷う。
手元にあるレコードは'83年にコロンビアから再発売された物だからだ。

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'81年発表のライブ盤『ソングズ・イン・ジ・アティック』からシングルカットされた『シーズ・ゴット・ア・ウェイ』が全米23位のヒットとなり、絶盤になっていた『コールド・スプリング・ハーバー』を'83年に再発したという経緯がある。
その際、テープの回転数を上げてマスタリングされたものをオリジナルのピッチに戻したり、バックトラックの編集、曲の長さの変更など、ビリーが元々意図していたイメージに沿う大きな改変が施されている。

それでも、いやだからこそビリー・ジョエルという才能が、あるべき姿で世に出た証という意味で、やはりこの盤はデビュー盤として扱うべきなのだろう。

そしてこの盤と最初に出会ったのはミュージックテープだった。
1984年、親元を離れて予備校に通う僕に、母が持たせてくれた何本かのミュージックテープの中に、この『コールド・スプリング・ハーバー』はあった。

住み慣れた故郷や、家族の愛情に守られて過ごした日々から、少しづつ大人になっていく節目の一年間に、毎夜僕を慰めてくれたこのアルバムのすべての曲が、今でも僕の中に染み付いている。

2023年1月17日火曜日

レコード棚を総浚い :『Bertie Higgins / Just Another Day in Paradice(カサブランカ)』

郷ひろみがカバーした『哀愁のカサブランカ』のオリジナルが収録されたアルバム。

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『カサブランカ』はハンフリー・ボガートの映画『カサブランカ('42)』を題材としたもの。A4収録の『キー・ラーゴ〜遙かなる青い海』もボギー主演の映画『キー・ラーゴ('48)』から着想された曲。

郷ひろみのカバーは82年発売で、このアルバムが発売されてすぐのことだった。3年前の79年、沢田研二の『カサブランカ・ダンディ』(阿久悠、大野克夫!)で「ボギー、あんたの時代はよかった」と歌われ、地ならしはできていた。
wikiによれば、本盤のラフテスト盤でヒットを確信したプロデューサが、ラジオの企画で、訳詞と誰に歌って欲しいかを募集して郷ひろみが選ばれたという。

2023年1月16日月曜日

レコード棚を総浚い :『The Beatles / LET IT BE』

Bay City Rollersに夢中だった小学生の頃、友だちの一人が「ローラーズもいいが、これもなかなかいいんだ」と、お姉さんのレコード棚で見つけたというシングルをかけてくれたのが、ビートルズの『LET IT BE』だった。
ラジオでもビートルズの曲はたびたびかかっていたから、『イエスタデイ』ぐらいは知っていた。

中学に入ると、甲斐バンドに出会い、オフコースに出会い、自分で歌を作るようになっていった。この時期、洋楽はディープ・パープルとレッド・ツェッペリンだった。

ビートルズをあまり深く体験せずに大人になってしまった僕は、それがコンプレックスだった。
その頃にはビートルズの中古レコードは総じて高価だったし、権利の問題などがあったのか、CDはリマスターされないままで、再入門の機会もなかった。

転機は、2009年に訪れた。
22年ぶりのリマスターで発売された全アルバムを網羅したボックス・セット。
愛情のこもった装丁のボックスを僕は購入し、『Please Please Me』から順に繰り返し聴いていった。

相変わらず高価なままのビートルズのレコードには手が出なかったが、知人からレコードが集まるようになって、その中にこの『LET IT BE』と赤盤、青盤があった。

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『LET IT BE』の中では、B面トップの『I've Got A Feeling』が好きだ。
ジョンとポールが作った別々の曲を繋いで一曲に仕立てた曲は他にもあるが、後半に挿入されたジョン作の『Everybody had a hard year』にポールの『I've Got A Feeling』のメロディがそのまま重なっていく作為のなさに、音楽を演奏することの原初的な楽しさを感じるからだ。

その意味でも、作為によって音楽の素晴らしさを追求したフィル・スペクターの影響を剥ぎ取ろうとした『LET IT BE…Naked』の存在には相応の意味がある、と僕は思う。

哀悼、高橋幸宏:サラヴァ!ユキヒロ!

高橋幸宏の訃報が流れてきた。
闘病中とは聞いていたが、70歳とは早すぎる。残念でならない。

彼の名を初めて聞いたのはサディスティック・ミカ・バンドではなくイエロー・マジック・オーケストラであった。
中学で仲良くしていた友人がこのアルバムを貸してくれた。

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そして修学旅行の余興で、彼と一緒にB-2収録の『DAY TRIPPER』を歌った。本家The Beatlesのそれとは随分違う、高橋幸宏のオシャレな歌唱がとても新鮮だった。
アツさ以外の音楽の魅力を知った瞬間だったと思う。

その後、鈴木慶一とのユニット、ザ・ビートニクスで高橋幸宏のボーカルに再度痺れることになる。
2ndアルバム『EXITENTIALIST A GO GO ビートで行こう』だった。

高橋幸宏作のジャジーな佳曲『初夏の日の弔い』を、冬の日に逝ったユキヒロに捧げる。