2019年12月29日日曜日

今年買ったブルーレイについて

今年、僕にとって重要なブルーレイが2本発売された。



1本はエリック・クラプトンのドキュメンタリー映画「LIFE IN 12BARS」。
映画館でも観たが、この映画には今まで観たことのなかったパティ・ボイドの映像がたっぷり収録されており、発売されたら必ず買おうと思っていた。

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ところが、この円盤にはとんでもない「おまけ」がついていたのだった。
英国での試写の際、監督とエリック本人が来てインタヴューを受けるという特別企画があったようで、その模様が収録されていた。
30分ほどのコーナーの終了間際、司会者が気まぐれに観客のひとりに質問をさせたところから、その奇跡のような時間が始まった。

質問者はアメリカのミュージシャンで、酒で兄を亡くしたこともあり、クラプトンの人生に倣って、自分は断酒したという。彼は自分の影響力を自覚していますか、と問うた。
クラプトンは、その質問に、「僕は、僕自身の禁酒を続けるために謙虚でい続けなければならない。自分がやっていることの影響力を考えたら、自分のやっていることの価値が損なわれてしまう」と答えた。
そして続けて、「質問をありがとう。僕はこういう話がしたかったんだ」と深い優しさに満ちた声で質問者にお礼を言った。

このやりとりを聞いていて、この映画の中で語られていたものは、エリック・クラプトンというミュージシャンの「誠実さ」であったのだと気付かされた。
ぜひ多くの音楽愛好家にこの映像を見て欲しいと思う。


もう1本は和田誠がメガフォンをとった「怪盗ルビイ」
和田さんの死を悼んでのリリースと思われるが、DVDが廃盤になって久しいので、これは買うしかないと予約して買ったもの。

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いやもう本当にキョンキョンがかわいいんだなあ。
ホントにそれだけの映画なんだけど、それでもいいのはこの映画が全編スタイリッシュだからなんだと思う。
思えば、ホイチョイの一連の映画作品のルーツはここらへんにあるのかもしれないな。

2019年、今年の私的小説ベスト3

2019年も長く愛着を持ち続けられそうな小説にたくさん出会った。
まずはなんといっても、アメリカSFの女王コニー・ウィリスの新刊「クロストーク」でしょう。

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まことに所有欲をくすぐる装丁がまず素晴らしい。
そのせいもあってか、もしかしたらウィリス作品で初めてラブ要素に萌えたかもしれない。それにしても電車でこの本を読んでいる間中、もしかして僕の考えていることを、周囲にいる乗客に本当に覗かれていたらどうしよう、という考えに取り憑かれ、落ち着いて読めないのは実に困った。

そして、S.J.モーデンの「火星無期懲役」。

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大ヒットしたアンディ・ウィアー「火星の人」の二匹目のどじょう狙いたちの中では出色の出来と言えるでしょう。
二匹目のどじょう呼ばわりは個人的偏見ではなくて、実際に「火星の人を意識した作品を」との出版社のオーダーを受けて書いた作品とのこと。本国ではすでに続編が出版されているとのことなので楽しみに待つ。

嬉しいことに今年も島田荘司先生の健筆は止まらなかった。
しかも久しぶりの吉敷竹史シリーズ!
「盲剣楼奇譚」です。

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吉敷竹史シリーズで通子さんが出てくると言うだけですでに涙ぐんでしまう。 たかが小説の登場人物と思っても、幸せそうな通子さんとの再会は、やはり心に温かい光と人生への信頼を取り戻してくれる。
そして物語は、禅の思想に導かれる謙虚さと満ち足りることの喜びがリードしていって、ラストで謎解きと謎の解明を上回る感銘をクロスさせる構成になっているんだなあ。
こんな陳腐な言葉は使いたくないが、他に言葉が見当たらない。
大傑作です。


2020年も、買っておいた佐藤亜紀先生の「黄金列車」が、すでにテーブルに置かれた状態で読まれるのを待っている。
楽しみでしょうがない。

黄金列車
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いやあ、小説って本当にいいもんですね。

2019年9月25日水曜日

橋本一子さんの美人ジャケに惹かれてレコードを買ったら、スピーカーのセッティングがバッチリ決まった件

今日街を歩いていたら、地下街で最近よく見かけるお店が中古レコードをワゴンに並べていた。
以前もここで、松原みきの「ポケットパーク」を見つけて衝動買いしたから、もしやと思いエサ箱を漁ってみた。
若くて自由になるお金がなかった頃、雑誌のレコード評を何度も何度も読んで、どんな音楽なんだろうと想像を巡らせたジャケットが出てくれば自然と手が止まる。
今回は橋本一子さんのモノクロームが印象的な『Beauty』のジャケに手が止まった。

いいよね。

お値段6,000円はあまりに高いとは思ったが仕方がない、と、その時は思った。

が、漁る手をその先に進めると、そこには同じ橋本一子さんの『Vivant』が。

なんて素敵なジャケなんでしょ。


そしてこれが4,500円・・・


そ、そうか、でもまあ今日は給料日(給料日・・なんて甘美な響きなんだ!)だしな、しょうがないかな・・



まあ、これ以上はな・・と思いつつ、一応最後まで手を進めていくと、細野さん、達郎、鈴木茂のインスト名盤『Pacific』が!


これ買わないわけにいかないよなあ。
そしてこれも4,500円・・・
でもまあこれで逆に吹っ切れたというか。
大漁だな!ぐらいに喜んで、もう全部いくか、と買ってきた。



しかし問題は家のオーディオが本調子でないこと。
機械に問題はないのだが、念願の横長配置を実現して以来、スピーカーをあれこれ動かしても、なんだか曖昧な音像でしか鳴ってくれないのだ。


それが『Beauty』をターンテーブルに載せて針を落とした途端、渡辺香津美プロデュースの先入観を裏切って飛び出してきた威勢の良いロックサウンドに目が覚めて、突然どうすればいいのかはっきりと理解できて、スピーカーの幅をギリギリまで狭め、少し開き気味にセッティングすると、以前のようなスピーカーが消えてしまう感覚が再現できた。


きっと本当に鳴らしたい音楽がなかったんだと思う。

強引に言い切れば、橋本一子さんの美ジャケに惹かれたという、ある意味不純であるからこそ強い動機が天啓をもたらしたのだ。
そうです、ワタクシ、ジャケ買い派でございます。

だから今日の出費も決して高いものではなかったということだと思う(というか思いたいだけかも)

2019年7月19日金曜日

『天気の子』と京アニの悲劇

京都アニメーションを襲った許されざる暴虐は、これからも長く人々の記憶に残り続けるだろう。
犠牲になった方々に、心からの哀悼を捧げます。

それにしてもこの凶行が、きっと彼らもその公開を楽しみにしていたであろう、新海誠監督の新作「天気の子」の全国一斉公開の前日に行われたことを思うと被害者の無念にやるせない気持ちになる。

そんな思いで、今日映画館に向かった。


新海誠は「モノローグ」の人である。
モノローグゆえに、彼の映画は「私小説」でもある。
この映画も彼らしいモノローグで幕を開けた。

デビュー作「ほしのこえ」から「秒速5センチメートル」までの初期3作品では、概ね登場人物たちは完全な幸せを得ることはなく、その「伸ばした手の先に夢があるのに、なぜか手を伸ばしきれないもどかしい感じ」に古いファンは強い共感を持っていたと思う。

前作「君の名は。」では、その表現は一歩先に進んで、ついに主人公たちの願いを成就させるに至った。
我々オールドファンは、ある種の寂しさを感じながらも主人公たちの幸せに喝采を送ったし、だからこそまるでこの理不尽な現実世界で自分自身が幸せになれたような気がして、心から嬉しかったんだ。
そして新作もこの路線上にあって、さらにその完成度を高めているように感じた。

一部、声優に起用された女優さんへの批判が公開前に話題になったが、観てみればむしろそこは出来がいいくらいで、逆に重要な役で起用された男性俳優陣の演技に違和感があった。

「君の名は。」では、「言の葉の庭」のユキちゃん先生が登場し、最高のファンサービスを見せてくれたが、本作でもとっておきのサービスが待っている。ぜひ劇場で確かめてほしい。
アクションシーンで涙が出てくる見事な演出に感動して、心地よい疲労のようなものを心に抱えて外に出たら、予報は曇りだったのに、映画で観たような雲から実際に雨が落ちてきて、ちょっと不思議な気持ちでした。


本作では、異常気象が大きなテーマとなっているが、長いスパンでみると地球の気候は非常に大きな変動を繰り返していて、決して現在の気候が地球にとっての常態という訳ではない。
そのことはブライアン・フェイガンの『歴史を変えた気候大変動』で学んだ。

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地球温暖化が「問題」であるとする態度は、それが人類にとって害があるからで、実際には「現象」に過ぎない。だからこそ、我々はそれが問題であると騒ぎ立てるのに、工場で物を作るのをやめようとはしないで、お金でCO2の排出権を売り買いしたりするのだ。

このような問題への態度を、アニメーション作品が思い起こさせてくれる。
現代においては、もともと文学が果たしてきた役割の一部を、明らかにこの分野の作品群が担っていて、そんなことを思うとまた、京都アニメーションを襲撃した彼への怒りがこみ上げてくるのだった。

2019年5月13日月曜日

法月綸太郎との再会

書店の文庫コーナーで、読もうと思って忘れていた本と出会うことってよくあるでしょう。
「ノックスマシン」との出会いもそのようなありふれた出来事のひとつだった。

作者の法月綸太郎は、どちらかというと苦手な作家の一人で、それは世評の高い代表作「頼子のために」がどうしても面白いと思えなかったから。
だから2014年に「このミス」で1位を獲得したこの作品に寄せられた、ある種微妙で、まったくの手放しでない賛辞に、逆に興味を惹かれていた。

まあそれでもその程度の興味だったので、結局単行本は買わずにいた。
その「ノックスマシン」の文庫をたまたま書店で見かけて、たまたま他に読みたい本がなくて、何気なく買ったそれが、もう完全にツボだったわけです。
この手のユーモアSFが僕は大好物で、まさか本格ミステリの旗手がここまで上手いの書いちゃうなんて思わないもんね。
マイッタ、マイッタ。

またユーモアSFのくせに、題材が本格ミステリそのものなので、なぜが読後本格ミステリへの飢えを感じるという奇妙な作品で、次に手が伸びたのが、同じ出版社の「生首に聞いてみろ」という作品。


これがまた本当に面白かった!

これが多分本来の法月綸太郎の作風なんだろう。エラリー・クイーン・マナーの本格推理。「頼子のために」一作の読み味で、この作者を判断してしまっていたことを後悔させる逸品でありました。

そしてまた今回の法月綸太郎体験で、飛び飛びにしか読んでいないエラリー・クイーンを全巻読んでみようか、という気持ちになっております。

カドカワの新訳で読んだドルリー・レーン四部作の印象が非常に良かったので、年代順に読み直してみるつもりです。


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2019年3月21日木曜日

アイルランドにご用心:コニー・ウィリス『クロストーク』

街に出れば必ず、大きな書店に寄るようにしている。
基本的に文庫の新刊をチェックするだけだが、その日はたまたま気まぐれに単行本のコーナーに立ち寄り、コニー・ウィリスの新刊が出ているのを見つけてしまった。


それでもいつもなら、文庫を待とうと立ち去るところだが、このポップな装丁がどうしてもそれを許さなかった。
まことに所有欲をくすぐる装丁で、もう読み始める前からワクワクしていた。
そのせいだろうか。
もしかしたらウィリス作品で初めてラブ要素に萌えたかもしれない。

それにしても電車でこの本を読んでいる間中、もしかして僕の考えていることを、周囲にいる乗客に本当に覗かれていたらどうしよう、という考えに取り憑かれ、落ち着いて読めないのは実に困った。アイルランドには近づかないことにしよう。



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2019年1月4日金曜日

こんなに捻ったのに正統派な大傑作:『カササギ殺人事件』の構成の妙

ミステリー評論家の友人が新聞のコラムで勧めていたアンソニー・ホロヴィッツの『カササギ殺人事件』を読了した。

まあ帯に書いてある通りの内容なんだが、これがよく出来てる。
クリスティのオマージュに関して言えば、作中作において平凡な村人たちそれぞれが抱える「事情」が次々と明かされ、それがまた別段突飛な事情でもないのに充分殺意の根元になり得るもので、それゆえ事件の様相がどんどん複雑なものになっていく過程にその特質が現れている。だからこそこの作中作は情報革命以前の田舎社会を舞台とする必要があった。

さて凡庸な作家ならば、本編であるイギリス出版業界ミステリの部分では、現代を舞台にしているがゆえの情報入手のスピード感を対比的に使うだろうと思うが、本作では編集者という素人探偵を謎解き役に配して、意図的にそのスピードを上げないようにしている。
この構成の妙が現代に起きている事件を軽くせず、ミステリ作品としての重厚さを担保しているのだろう。

構成といえばラストに配置された・・
いやこれは実際に読んでいただいた方がいいだろう。
どのみちミステリファンならばこの作品を避けて通ることはできないはずだから。

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2019年1月2日水曜日

エリック・クラプトン『12小節の人生』を観るべき本当の理由

エリック・クラプトンの映画「12小節の人生」を観てきた。


上映は、かつて若い頃よく通ったスガイビル。現在はライザップの所有となりディノスと、その名を変えたが、2年後にここも取り壊され、総合商業施設になるんだそうだ。
ちょっとセンチな気持ちで映画館に足を運んだ。


クイーンの「ボヘミアン・ラプソディ」と較べてしまえば、クラプトンファンの贔屓の引き倒しで言ったって、これは間違っても「面白い映画」とは言えないだろう。
しかし、それでいいのだ。

「ボヘミアン・ラプソディー」が映画という表現手法を通じて、音楽の素晴らしさを伝えた映画だとするなら、「12小節の人生」は、あくまでもドキュメンタリーの視点で、エリック・クラプトンという人間の「わからなさ」を描いたものだからだ。

育ての母である祖母からみたクラプトンの幼少期と、自身の見解の食い違い。
周囲の語るシャイという人物像と、実際の女性遍歴とのギャップ。
自伝に書かれたバンド漂流の経緯と関係者の語るエピソードの相違。
もう普通にわからないのである。


わからなさ、という視点で驚いたのはエリックの絵の上手さで、学校もアートスクールに進学している。
朝から晩までギターばかり弾いてたってみんな言ってるのに、絵も描いてたっていうね。
現在グラビアを追加して再販売されている自伝は、この学生時代のイラストレーションも追加収録されているので、ぜひ見てみて欲しい。

エリック・クラプトン自叙伝
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...と、もっともらしいことを書いてきたけど、本当に言いたかったのはこんな事じゃないんだ。
中学の頃からクラプトンの音楽が好きでずっと追いかけてきて、もちろんレイラも大好きで、だからそれがジョージ・ハリソンの妻パティ・ボイドへの横恋慕からできた歌だと知った。
そのジョージとパティの出会いが、ビートルズ映画への出演であることを知って、ほんの一瞬しか映っていない彼女を目を皿のようにして探したりしてるうちにすっかりパティ・ボイドに取り憑かれてしまった。



モデル出身のパティの写真は比較的簡単に手に入る(それでもポスターのようなものはほとんど入手できない)が、映像となると話は変わってくる。
それがこの映画では、クラプトンを狂わせた若き日の彼女の美貌が、最高の編集で拝めるのですよ!

それだけでこの映画は値千金。
需要があるかは知らんが、ファンは映画館に急ごう。