2017年4月26日水曜日

『虹の女神~Rainbow Song』:ありのままの上野樹里、あるいはフィルムの匂いとエンドロール

いろいろあってこれ買っちゃいました。
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『サマータイムマシンブルース』で上野樹里ってこんなに可愛かったっけ、と驚いて『陽だまりの彼女』で完全に恋に落ちた顛末は少し前に書いた。
→映画「陽だまりの彼女」:ビーチボーイズと上野樹里に恋するための最上の方法


そう簡単に熱は冷めず、いくつか主演作を追いかけているが、こと上野樹里の可愛さを楽しむという意味では上記の二作品に及ぶものはなかった。
映画としての、というなら『亀は意外と速く泳ぐ』がとてもよかった。
コメディ路線の最高傑作と言っていいくらいだけど、残念ながら衣装がよくない。

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冴えない主婦の設定だから当然なんだが、僕のニーズには合致しないわけだ。
『サマータイムマシンブルース』と『陽だまりの彼女』での衣装は、とてもよく彼女のスタイルを引き立てていた。


と、アホなことを考えているうちに、僕はついに決定的な映画に出会ってしまった。
それが表題の『虹の女神~Rainbow Song』だ。


この映画は、まだ最後まで観ていないうちから、 何度も観たくなる予感がした。
ここには、飾らない、ありのままの上野樹里の日常が写し込まれているような気がしたからだ。
追いかけて、追いかけて、ようやく追いついた。
そんな気がした。

でもそれだけではない。
映画の評価は、だいたい脚本と役者の演技で決まるが、僕の場合、何度も観たい映画というのは不思議とそういうことでは決まらない。
僕が実際何度も観てしまう映画のリストの何番目かに岩井俊二の『ラブレター』がある。
すぐに『ラブレター』を連想したのは『虹の女神~Rainbow Song』と共通点があるからで、考えてみるとそれはたぶん「画質」だった。
そして『虹の女神』にも岩井俊二はプロデューサーとして参加しているのだった。

綺麗な画質というのではない。
古いフィルムカメラの質感がある画質が好きなのだ。


甘いピントを多用するカメラワークにも惹かれる。

岩井俊二はプロデューサーとしての参加だが、彼の作品に共通するカメラワークの「匂い」を感じる。

撮影にも脚本にも関わっていないはずだが、絵面にそういうものが染み出してくる、ということがあるのだろう。

マイルス・デイヴィスに「ソーサラー」という作品がある。

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このアルバムではマイルズは一曲も作曲をせず、二曲目に収録された「Pee Wee」という曲に至っては、トランペットも吹いていない。
それでもこの曲からでさえ、やはりマイルズ・デイヴィスの「匂い」がする。
アーティストが作品に「関わる」という時、我々一般人には計り知れない何かがあるのかもしれない。


クリント・イーストウッドの『トゥルー・クライム』もまた、僕のヘビロテリストに入っている映画だ。
彼の代表作と言われることはない作品だが、なぜかふいに観たくなることがある。
この映画を今連想したのは、やはりエンドロールで流れる楽曲がもたらす「余韻」が、『虹の女神』のそれによく似ていたからかもしれない。

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『トゥルー・クライム』のエンドロールに流れるのは、ダイアナ・クラールの『Why Should I Care』で、やり遂げた大きなことと、ありえた違う未来への想いをそっと包んで物語の余韻を深めていく。

そして虹の女神のラストの曲は種ともこさんの『The Rainbow Song〜虹の女神』
ありえた違う未来への想いは、ここでも音楽で表現されていてエンドロールの映像と相まって涙を誘う。



それにしてもなんと奥行きのある歌唱か。
この曲はもともと1990年のアニメ映画『リトル・ポーラベア〜しろくまくん、どこへ』の主題歌だったんだそうで、それを聴いた岩井俊二がオファーして、この映画のために再レコーディングされた。
同年、この曲を含むセルフカバーアルバム『ウタイツガレルウタ』(2006年10月)がリリースされている。

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2017年4月24日月曜日

マウンテンの『ナンタケット・スレイライド』から紐解く『白鯨』の真相

マウンテンの「ナンタケット・スレイライド」というアルバムを入手したので聴いてみた。



古いロックアルバムを入手するとまず、湯浅学さんが編まれた「洋楽ロック&ポップスアルバム名鑑」で調べてみるが、このアルバムはvol.2の三枚目に紹介されていた。


表題曲が対位法を活かした英国風サウンドや構成美が評価され、ライブでは長尺で演奏されたとある。 (なぜか本書では間違ってファーストアルバムの「勝利への登攀」の写真が掲載されている)
アメリカン・ハード・ロックの始祖のひとつとされるマウンテンだが、なにしろクリームのプロデューサーが立ち上げたバンド。英国風味が隠し味というところだろうか。

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確かにこの表題曲、非常に印象的で、ちょっとバタバタするドラムが気になるが、長調に展開していくところのメロディがノスタルジックで記憶に残る。繰り返して聴きたくなる。
そして気になるこのタイトルだ。



調べてみると、ナンタケットは19世紀に捕鯨業で栄えたアメリカの町で、鯨に銛を打ち込み、獲物が弱るまで小舟が海上を引きずり回される様子をソリ遊び(スレイライド)に例えた言葉だそうだ。

表題曲には「For Owen Coffin」という副題がついている。
このオーウェン・コフィンというのは、ナンタケットの捕鯨船エセックス号が、巨大な鯨に襲われ沈没した事故に関係がある。

この話、詳しくは「白鯨との闘い」(ナサニエル・フィルブリック著、集英社文庫)という本になっている。2015年に映画化もされているが、こちらは少し脚色されているようだ。(でも面白かったです)

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こちらのサイトに実際の事故の概要がまとめられている。

実際にエセックス号に乗っていた一等航海士が書き残した事故のあらましが、その一等航海士の息子の手によって若き船乗りハーマン・メルヴィルに手渡され、あの名作「白鯨」の創作の起点となったんだそうだ。



オーウェン・コフィンのことだけ言えば、鯨に襲われ母船を沈められた後、数ヶ月に及ぶ小舟での漂流の果てに、船乗りの古い掟に従って、くじ引きで自死し自分の肉体を食料として提供した10代の少年らしい。
とはいえ歌詞には直接エセックス号の事件は描かれていない。
捕鯨の町ナンタケットのでの日常が描かれているだけである。

メルヴィルの「白鯨」と同様、マウンテンの「ナンタケット・スレイライド」もエセックス号事件からインスパイアを受けた作品ということなんだろう。

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歌詞はマウンテンのベーシストで、クリームのプロデューサーとしても有名なフィーリックス・パパラルディと彼の妻ゲイル・コリンズの共作で、ジャケットやブックレットのイラストも全面的にゲイル・コリンズが描いている。


ところで、このアルバムブックレットには「マウンテン3」とタイトル表記がある。


再発時に原題の「ナンタケット・スレイライド」に改められたが、それにしてもこのアルバムはファーストの「勝利への登攀」に続く、マウンテンのセカンド・アルバムなのである。

実は「勝利への登攀」の発表前にフィーリックス・パパラルディのプロデュースで作られたレスリー・ウェストのソロアルバム「マウンテン」が、バンドとしてのマウンテン結成のきっかけとなっているので、このような混同が起きたようだ。

アルバムにはバンドのポートレイトも付いていた。


写真の大きい男がレスリー・ウェスト。まさにマウンテンですな。

2017年4月19日水曜日

映画「陽だまりの彼女」:ビーチボーイズと上野樹里に恋するための最上の方法

サマータイムマシンブルースという映画を観て、SWING GIRLSまでまったく興味を持てなかった上野樹里が、たった一年でいきなり花開いた感じで、なにこれ可愛いじゃんと思ったので、何かもうひとつと思って借りてきたのが「陽だまりの彼女」でした。


そしたらこれはもうまさに、最上の上野樹里ファン・ムービー。






いいですなあ。
でも内容は、と言われたら正直ちょっと映画としてはキツいものがある。

伏線として置いたつもりのいくつかのエピソードが、伏線ではなくネタバレとして機能してしまっている。
このあたりが文学を、映像表現である映画に移し替えた時に起こるジレンマなわけだけど、まあ本作の場合には、肝心の原作がすごくよく出来ているのに、宣伝がネタバレを振り撒いて読書の楽しみをあらかじめ奪っていたという事情もあって、映画のせいだけとは言えないかな。

それにしても改変されたラストシーンも、原作小説のラストにあった深い余韻を著しく損なっていて、むしろ原作どおりのほうが映画的ではなかったかと思わせ、そこもまた残念なところ。


それでもこの映画には、上野樹里の可愛らしさを堪能する以外にも素敵な用途が残されている。
それはビーチ・ボーイズの、いや20世紀ポップミュージックにおける至高の一枚『PET SOUNDS』の冒頭を飾る佳曲『素敵じゃないか』を味わい尽くすガイドとしてだ。

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音楽的にみればサーフ・ミュージックのイメージが強い。
だから一聴、明るく能天気な歌に聴こえなくもない。

しかし、ブライアン・ウィルソンとトニー・アッシャーは、この曲に、夏の日の刹那を切り取るのではなく、人生を共に生きて、共に年老いていくことの素晴らしさを歌い込む歌詞を書いた。

老いやその先の死さえも予感させるその歌詞は、この明るいメロディと、天を浮遊するようなブリッジの不思議なコードで歌われるからこそ、当時ブライアンが抱えていた心の病への不安や、それでも人を愛さずにはいられない気持ちを強く訴えかけてくる。
そのあたりのアンビバレンツも、やはり英語を母国語としない僕らには感じにくいのだ。

たった二分半に凝縮された人生の讃歌を、この映画「陽だまりの彼女」は物語全体でオマージュしている。
映画はラストで、そのオマージュを全開にする。













もう、なんなら、この黒コマだけで泣けるわ。

【追記】このあと『虹の女神~Rainbow Song』を観てあまりに素晴らしくて、続編記事書いてます。

→『虹の女神~Rainbow Song』:ありのままの上野樹里、あるいはフィルムの匂いとエンドロール

2017年4月17日月曜日

ジャニス・ジョプリンからアール・クルーまでを繋いでしまうジョン・ホール(オーリアンズ)マジ恐るべし

気の利いたロックの名盤ガイドをひとつだけと言われたら、迷わずこれを挙げるだろう。
ピーター・バラカンの「ぼくが愛するロック名盤240」

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この本で知り、聴きたいと思いながら果たせずにいるアルバムはたくさんあるが、その中のひとつが「オーリアンズ・ファースト」

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オーリアンズの中心人物ジョン・ホールが、ボニー・レイットの「テイキン・マイ・タイム」のプロデュースをしているから、と書かれていたのがかなり気になっている。
もちろん「テイキン・マイ・タイム」が大好きなアルバムだからだ。

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先日、大学の先輩から大量のアナログ・レコードを貰い受けた際、そのコレクションにオーリアンズの「歌こそがすべて」が入っていた。




歌こそすべて
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解説に、ダンス・ウィズ・ミーという大ヒットが・・とあったが、聴き覚えがない。
さっそくかけてみると、やはり聴き覚えがないが、印象的なメロディを持つイイ曲だ。

そしてコレクションの中には、ジョン・ホールのソロアルバムも入っていた。




パワー+1
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表題曲の「パワー」はスリーマイル島原発事故を受けて書かれた曲らしい。
そういうテーマの曲とは思えないほど儚く美しいメロディが、ジェームス・テイラーとカーリー・サイモンのコーラスをバックに歌われる。
なんて贅沢なんだ。

さっきのオーリアンズのアルバムの解説にはジョン・ホールの代表的な仕事としてジャニス・ジョプリンの「ハーフ・ムーン」という曲が挙げられていたが、なんとこのソロアルバムでセルフ・カヴァーしてらっしゃる。
ジャニス・ジョプリンの方をまず聴いてみた。

いかにもジャニス的ブルーズ・ロックな一曲だが、ジョン・ホールのバージョンではブルーズ色が意識的に取り去られていて、まったく印象が違う。
そうだと思って聴かなければ同じ曲には聴こえなかっただろう。


アルバムのライナーノーツを読むと、オーリアンズのヒット曲「ダンス・ウィズ・ミー」がアール・クルーによって演奏されている、と書いてある。
そういえば、アール・クルーも別の友だちからずいぶん前にもらって聴いていないのがあったな、と思って引っ張りだしてみたら、そのアルバムに入ってたよ、「ダンス・ウィズ・ミー」



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ブルーノートって、こんなデザインのレーベルもあったんですね。
アール・クルー、まったく興味なくて聴いてなかったんだけど、こういう繋がりがあれば話は別。聴いてみるといいんだなあ、これが。

音楽って、そういうところがある。
自分の興味が向いていなければ、それがどんなにいい音楽でも心に届いてこない。
だからその時、つまんない音楽だなあ、と思っても、それは自分にまだ準備が出来ないだけなんだと思って、決めつけてしまわないほうがいい。
こういう二度目の出会い、みたいなのがあるから音楽は面白いんだから。