2012年7月10日火曜日

CAVIN大阪屋、高級オーディオ試聴会体験記 Part-3にして最終回

承前

試聴会では、機器の音色の違いを楽しむのに加えて、今まで知らなかった音楽を知るというところも大きな楽しみのひとつだ。
今回の大発見はなんと「デューク・エイセス」。

ソナスのデモでドイツのドクトル・ファイキャルトという新進メーカーのターンテーブルを使ってかけてくれたデューク・エイセスのアナログレコードは、本当にびっくりするようなリアリティで彼らの名人芸的なボーカル技術を堪能することになった。

ことにベートーベンの田園をコーラスで再現した曲では、動物の鳴き真似などが入っているのだが、もう圧倒的なクオリティの録音でしかも聴いていて楽しい。
これぞオーディオの愉悦、という楽曲だった。


次のデモは日本のオーディオの歴史そのものと言っても良い「ラックスマン」。
今回聴いた中では唯一の真空管のセットでしたので期待していたのだが、部屋に入った途端厭な予感が。
組み合わせたスピーカーがJBLのS4700だった。
最近僕はこのJBLというブランドの音と相性が悪い。

セッティングのため軽く流されている音がやはり濁っている。
この日は最初のセッションで聴いた高級機S9900もこのS4700も不調だった。
どうも現代のJBLは肌に合わないという印象。

昔、中野ブロードウェイのフォーク喫茶で聴いた小さなJBL、すごくいい音してたのになあ。


そして、今日一番聴いてみたかったアンプ、ダン・ダゴスティーノのデモに向かう。

組み合わせたスピーカーはウィルソン・オーディオのSophia3という中堅機。

ウィルソンは1989年作のWatt/Puppyという名作スピーカーで、なんとスピーカーの置かれた位置のむしろ後ろ側に大きく音像が広がっていくのを志向した、音像表現に革命をもたらしたといわれたスピーカー開発者だ。

その後、多くの開発者がこの方向性を突き詰めて行き、現在ではスピーカーの後ろにサウンドステージがあるのはむしろ一般的。
最近ではむしろこのウィルソン・オーディオの方が、オーソドックスなスピーカーメーカーというイメージになっている。

そんなことで私はウィルソン初体験ではありましたが、スピーカーの方には大きな期待をしてはいませんでした。
マジコとソナスに盛大に驚かされた後だったしね。

でも音が出てきた瞬間、体が凍り付いてしまった
私は自分の不見識を恥じた。


音楽が躍動している。
他のハイエンド・スピーカーたちの音場が、固着化して精度を増していくのに対して、このスピーカーは音が飛び回って、その熱情を伝えようとしている。
ウィルソンは、自分が作った新しいスピーカーの潮流を軽々と乗り越えて、すでに別の場所に到達していたんだな。

この音にプリアンプのエアーKX-Rも、ダゴスティーニのパワーアンプも大きな貢献をしているはずだ。
人生最後の音はこれでいけよ、と言われた気分だった。


この後、ふらふらな頭で、さっきちらと聴いただけで、すごく良さそうだったので、きちんと聴いておきたくてLINNのデモをもう一回聴いた。

どこにも出っ張りや引っ込みのない、超ナチュラルな再生で、筐体もウルトラ・クール。大人のオーディオだなあ。
残念だったのはアナログ再生をやってくれなかったことで、なにしろ多分日本で一番ユーザーの多いハイエンド・ターンテーブルはLINN LP12なのだろうから、自分のDENONとどのくらい違うのかぜひ聴いてみたいものだった。

試聴会を後にした我々は食事もせずに一日中音楽ばかり聴いていたので、まあメシでも食おうと、家の近所の、パラゴンという伝説のスピーカーを置いているという「カフェイドラ」さんに。
まだ聴くんかい。

実はその数日前に、某ジャズ喫茶で、爆音パラゴンの音に100年の恋が醒めたばかりだったのだが、こちらのパラゴンは噂に聞く「西海岸の音」そのものの爽やかで弾むようなサウンド。
よかった。
マスターと話も弾んでジャズのレコード聴きながら和やかで楽しい時を過ごした。
スピーカーとにらめっこの一日だったので最後に楽しく音楽と向き合えて良かった。
やっぱこうじゃないとね。

2012年7月9日月曜日

CAVIN大阪屋、高級オーディオ試聴会体験記 Part-2

承前

さて、次が困った。お目当てのマジコQ3とソナス・ファベールAMATI FUTURAの時間帯が被っているのである。
一緒に行った先輩と相談して、15分で区切って両方聴こうと決めた。

まずはマジコQ3。
ドライブするアンプはパス・ラボのプリと、パス・ラボを主宰するネルソン・パスのプライベート・ブランドであるファースト・ワットのパワーアンプだ。

これは音が出た瞬間から先輩と微笑み合ってしまったぐらい文句のないいい音だった。
言葉で言うなら「安定」。

先輩はいみじくもスピーカーの重さが音に出てるって感じだな、と言っておられた。
言い得て妙。

ごく一般的なトールボーイサイズのこのスピーカーの重量は一台110kg。
一人ではとうてい持てない。
どんな信号を入れようとまったく揺るがない筐体なのだ。
聞き惚れているうちにあっという間に時間が。

後ろ髪を引かれながらも別室のソナス・ファベールのもとへ。
これまた、部屋に入ったとたんに魅了された。
いかにもこのスピーカーの得意そうなバイオリンの独奏。
しかしこれは自然な音ではない。
スピーカーによって上手に色付けされた魅惑的な音像。
綺麗な木目の筐体はおそらく入力された信号に沿って音楽的な振動で「鳴っている」はずだ。
意外なことだが、ジャズもかなりいい。そして最高だったのは次に鳴らされた手嶌葵だった。

曲はさきほどのものとは違い「アルフィー」。
こちらも名曲の名唱。
そして音像は完全に実物大だった。
まるでそこにいるのではないかというリアリティ。
このCDは自室で聴いていても息づかいが間近に聴こえて、ときどきぞくっとすることのある優良録音盤なのだが、ソナスの色まで加算されて届けられた歌声は、また格別な手触りだった。

ドライブしていたアンプはドイツのブルメスターのセパレートアンプであった。この見事な音に少なくない貢献をしているのだろうし、本当にカッコいいアンプで、こんなのを部屋に置けたらと思わなくもないが、とにかくデカイし、なにより非常識に高価なので、はなから考える必要もないのだが。


まったく動かない筐体で、あくまでも録音した音のすべてを伝えようとするマジコの音。そして、音楽的な箱鳴りを作り出して、録音メディアを再生することだって楽器を演奏するのと同じように音楽を作り出す行為なんだよ、と我々に教えてくれるソナス・ファベール。

マジコが450万円でソナスが380万円なわけで、もはや買うとしたらどちらなどという設問自体が意味を持たないが、もし答えようとしても今の自分には答えが出せないと思う。強いていうなら後傾していないマジコのデザインの方が好みではある。
だから、音で絞り込んでいって最後の最後迷ったら、もうデザインで選ぶという選択基準しか残っていないような気がする。まあ、そんな機会に恵まれる幸運が私にあれば、ということだが。

さらに続く

2012年7月8日日曜日

CAVIN大阪屋、高級オーディオ試聴会体験記 Part-1

本日7/8(日)、札幌ではたぶん一番大きいオーディオ店であるCAVIN大阪屋さんで、高級オーディオ試聴会なる企画があり、先輩オーディオファイルに連れて行っていただいた。

会場はチサンホテルの新館。
4つの部屋に分かれて各社のハイエンド機を聴くのだが、おそらく比較の便を図って課題曲が2曲設定されていた。

しかし、これがいけない。
ジャズボーカルでカサンドラ・ウィルソンの新譜から「オ・ソレ・ミオ」と、クラシックでシューベルトの交響曲第一番の四楽章が選ばれていたが、誰も聞いたことがない曲なんかかけてオーディオ機器の力を伝えることなんてできるのだろうか。
むしろそのシステムの力を最大限発揮できる曲をかけてもらったほうが聴く方も感動できるだろうし、プレゼン側も力が入るのではないだろうか。


まあ、文句はともかく最初はセオリー通りリファレンスっぽい音が出そうな「アキュフェーズ」社のデモから。

新発売のモノラルパワーアンプA200をフューチュアしたセットでスピーカーはJBL Pjt K2 S9900だった。
これがいきなり爆音系で、しかもなんだかくぐもった音だった。
あれあれなんか変だなと思いながら先輩と部屋を出た。

奥の部屋で同時に開催されていたLINNというスコットランドのブランドのデモの最後の一曲に滑り込んで聴いた。
このピアノ曲がもうなんとも言えず透明な音ですばらしかったな。

うんうん、こうでなくちゃね。
気を取り直して、次に開催されたエソテリックのデモに。

今度はスピーカーがアバンギャルド!
巨大なホーンの付いた個性的なルックスのスピーカーで、音を聴くのはこれが初めてだったが、見かけに似合わず繊細な音を出して音場の見通しがすごくいい。

で、このデモが面白かったのは、CDプレーヤーにクロックジェネレーターのオンオフで音がどのくらい変わるのかの実験をしてくれたことだ。
CDを再生するというのは、本来音波というアナログデータをデジタル信号に変換してCDに焼き付けて、それを読み取り、またアナログ信号に変換するという作業なのだが、この際1秒間を44,100回切り分けてその瞬間瞬間のデータを記録し、それを再生しているのだ。
この「1秒」を計っている時計がCDプレーヤーに内蔵されているわけだが、この水晶発振を使った時計、1年に1秒くらい狂う、という程度の精度なのだ。
で、これを500年に一秒しか狂わないという精度に高めるという機材がクロックジェネレーターというやつだ。

はて、そんなことでどの程度音が変わるのだろうと疑問に思われるだろう。
ワタクシもまったく懐疑的な態度でこの実験に臨んだわけだが、これはすごい。
劇的に音が変わる。
音がふんわりとやわらかくなって、質量を増したように感じる。

思わずこれなら買ってもいいかな、と思ったがこの機械140万円くらいする。
16万円のCDプレーヤーに繋いでいいものじゃない。まあ、専用の端子がついてないから繋げないんだけど。
いい体験をさせてもらったと同時に人間の耳ってすげえところまで聴き取ってるのね、と改めて感心した次第だ。

エソテリックのセパレートアンプと、こちらもセパレート構成のCDプレーヤーにクロックジェネレーターを加えたシステムでアバンギャルドのDuoを鳴らすデモ。
その見かけからは思いもよらなかった見通しの良いすっきりした音を聴いてびっくりした。

しかし、一曲だけ手嶌葵のThe Roseだけは、奇異なほど「口の大きな」手嶌葵の音像が出現し、強い違和感を覚えた。
クラシックや複雑な音像を持つ現代のジャズではさほど気にならなかったのだが、そう考え出すとどの曲も音像は極端に膨らんだものであったような気もする。

しかし、現代のポピュラー音楽のコンサートで聴いている音というのは、まさにここで聴いたような音像の大きな音なのだ。だから、それ自体は問題ではないという向きもあるだろうが、いずれにせよ、このアバンギャルドというスピーカーは音像再現に不器用なところのあるスピーカーであることは間違いない、と思う。

続く