2017年5月18日木曜日

ピンク・フロイド『おせっかい』:プログレをあんまり聴かない僕がピンク・フロイドを聴いたら

プログレはあまり聴かないほうだと思う。
ジェネシスは好きでけっこう持っているが、イエスとキング・クリムゾンは代表作をいくつか、EL&Pに至っては『展覧会の絵』しか持っていない。
そんな僕に、大学時代の先輩がたくさんの洋楽レコードをくださって、その中にけっこうな数のプログレが含まれていた。
ピンク・フロイドの『おせっかい』が入っていたので聴いてみる。
ピンクフロイドは今まで『狂気』(SACD Multi-ch)と、活動再開後に出した『ザ・ウォール』のライブしか持っていなくて、この『おせっかい』については、実は今までジャケットすら見たことがなかった。

ヒプノシスが手がけたジャケットは幻想的で、アルバムタイトルが入っていないが、原題は『MEDDLE』という。「やっかいもの」くらいの意味か。


開くと大きな耳になる、というデザインらしいが、水に棲むラクダにしか見えない。
どうしたヒプノシス。何があった。



本作は有名曲『吹けよ風、呼べよ嵐』で幕をあける。
知ってる。知ってる。アブドラ・ザ・ブッチャーの登場曲よね。

こうしてあらためて音源だけで聴いてみると、ブルーザー・ブロディが使っていたZEPの『移民の歌』に較べるといくぶん地味で、わかりやすい盛り上がりには欠ける。
きっと較べちゃいけないんだろうけど、しかしそのぶん、サウンドが多彩で特に後半の折り重なるギターのフレーズには聴き飽きない魅力がある。
さすがにロックバンドのインスト曲として異例のシングルヒットとなっただけのことはある。

そして穏やかな曲想の『ピロウ・オブ・ウィンズ』 に続く。


A面ラストの『シーマスのブルース』まで、プログレッシブ・ロックのパブリック・イメージである変拍子も長尺の曲もない。
歌声もどちらかと言えば優しく、メランコリック。
ここだけ取り出して聴けばナイーヴな英国フォーク・ロックのバンドと言っても不思議ではない。
普通によく出来たロック・アルバム。
だがB面にひっくり返してみると、一曲しか入っていないではないか。
長尺キタ━(゚∀゚)━!
と、慣れない顔文字など使ってみますた。


B面すべてを使った23分超えの大曲『エコーズ』
しかし導入部はA面からの流れを引き継いで、穏やかでメランコリック。
コード進行に近親長調への部分転調を含んで、あくまでもロック・イディオムの中で起伏をつけていくスタンス。
だが徐々にドラムスが激しさを増し、ギターの印象的なインスト部が続く。

ふとリズムが止まり、不穏な和音が奏でられる。
ドラマティックな展開を予感させるコード進行に乗ったミュート・ギター。
そして延々続いたこのブリッジは、また静かな歌唱部に戻っていった後、クロマティックなフレーズで上下する歪んだギターと激しいドラミングで、待ちに待ったカタルシスに到達するのであった。

終わってみると、歌だけはどこまでも穏やかであったことに思い至る。
そしてギルモアのギターの音色がとにかく艷やかで素晴らしい。
結局このアルバムには変拍子はなかった。
これはロック・アルバムの名盤。
プログレッシブという但し書きはこのアルバムには必要ないだろう。

おせっかい
おせっかい
posted with amazlet at 17.05.18
ピンク・フロイド
ワーナーミュージック・ジャパン (2014-01-29)
売り上げランキング: 136,280

2017年5月17日水曜日

だからLA LA LANDはまだ観ない

ここ10年、映画館で観た映画を思い出していて、なるべく劇場に行ったら買うことにしているパンフレットを取り出してみた。

二流小説家、華麗なるギャツビー、風立ちぬ、25年目の弦楽四重奏、黄金のメロディ〜マッスル・ショールズ〜。

あとは、山下達郎、中島みゆきさん、佐野元春のライブ・ビューイングと、『フィガロの結婚』と『トリスタンとイゾルデ』といった音楽関係の映画を。
今年はBABYMETALのフィルム・フェスのチケットを取ってある。
昨年は『君の名は。』と『シン・ゴジラ』を観た。

まあ、映画はあんまり観ない人、ということだ。
観た作品はすべて、特定のアーティストや文学作品、映像作家に個人的に強い関心があって観たものばかりで、言ってみれば<映画>そのものには大きな関心がないと言ってもいいかもしれない。

そしてラインナップからすぐに想像がつくように<音楽>そのものには大きな関心がある。
だからなんだろう。音楽を扱う映画では強く好き嫌いが出てしまう。

特にラストあたりで、主人公がすっげえ演奏をして、その魔法で周囲の人たちの気持ちが変わってしまう、みたいな筋立てをよく見るが、そういう映画がたいていダメだ。

最近だと『チョコレート・ドーナッツ』っていうやつが代表格かな。

チョコレートドーナツ [DVD]
ポニーキャニオン (2014-12-02)
売り上げランキング: 2,454

ラストに主人公が歌うディランの『I Shall Be Released』の熱唱で、みんなの気持ちが変わっていくというあのシーン。
僕は彼の歌声に、まったく1mmも心が動かなくて、逆に物語から気持ちが離れていくのを感じてしまった。
感動的な筋立てを用意したと思うんだけど、頭で分かっても心が動かなくなれば、やはり感動はできない。
日本映画の『音楽人』なんかも桐谷美玲ちゃんは素晴らしかったが、佐藤和真くんの歌では、物語が想定している感動は起きんと思うよ。

音楽人 特別版 2枚組仕様 [DVD]
ポニーキャニオン (2011-03-16)
売り上げランキング: 164,294

対して80年代のブルース・ブラザースなんかは、豪華すぎる出演アーティストたちのパフォーマンスが素晴らしすぎるわけだが、これだけ凄まじいクオリティの音楽を散りばめながら、映画は物語の進行を音楽の魔法に委ねていないのだ。
僕はそこがすごいと思う。

ブルース・ブラザース [DVD]
ジェネオン・ユニバーサル (2012-04-13)
売り上げランキング: 1,649

90年代にも忘れられない音楽映画があって、それが『コミットメンツ』
なにしろアンドリュー・ストロングの声がスゴい。
この時なんと10代だったっていうんだからもうホントにスゴい。
これこそが歌の説得力は声が担っているということの証明なんだ。
そしてこの映画の筋立ても、この声の説得力に寄りかかっていない。

ザ・コミットメンツ [DVD]
ザ・コミットメンツ [DVD]
posted with amazlet at 17.05.17
20世紀フォックス・ホーム・エンターテイメント・ジャパン (2002-11-08)
売り上げランキング: 6,685

音楽の魔法をきっちり映画的に表現しきった作品もある。
『オーケストラ!(原題:Concert)』
メラニー・ロラン演ずる美人ヴァイオリニストのチャイコフスキーは、その熱演で寄せ集めオーケストラの公演に奇跡を起こすが、観ている者にとってそのシーンそのものが奇跡の熱演なんだとはっきりとわかるから、破綻せずに感動をもたらす。

音楽という魔法をもった芸術を、映画という表現の中に取り込むのだからことは簡単ではない。
うまくいくことが奇跡なのだ。

オーケストラ! [Blu-ray]
オーケストラ! [Blu-ray]
posted with amazlet at 17.05.17
Happinet(SB)(D) (2010-11-04)
売り上げランキング: 7,906

その意味で、話題になったディミアン・チャゼルの『セッション』にも、僕は入り込むことが出来なかった。

セッション コレクターズ・エディション [Blu-ray]
ギャガ (2015-10-21)
売り上げランキング: 1,908

最後のシーンは確かにスゴかった。
あの10分間では音楽の奇跡が確かに起きていた。
ただ、そこに至る道筋があまりにもあり得ず、そこが素直な感動を遠ざけるのだ。

監督のディミアン・チャゼルは高校時代にジャズ・ドラムをやっていて、その時に受けた厳格な指導をヒントにこの映画を作ったというが、もしあんな指導を本当に受けていたとしたら悲劇だ。
問題は、その指導に<音楽>が含まれていないということだ。

アメリカの音楽大学で、『ピアニッシモ」を教える特別な授業の話を聞いたことがある。
12時ちょうどに、窓を開け放ち、遠くにある教会の鐘を聴く、という授業だ。
鐘の近くでは朗々とした響きが、遠く離れたここでは幽かな、しかしはっきりと実体を持った音として聞こえる。これこそが、みんなが奏でるべきピアニッシモの音だ、という授業。
ここには音色と演奏技術についての深い洞察がある。
楽器を持って音を奏でる時必要な、イメージの源泉がある。

ニーマンのシンバルには、入学時から退学に至るまで、一貫して音楽的な響きがなかった。
リズムにも音楽的な躍動がなかった。
そしてフレッチャーの指導にも、そこを改善させるヒントはヒトコトも含まれていなかった。
なのに退学後の演奏に、突然あのような音楽性が生まれるなんてことがあるだろうか。
僕にはどうしてもその道筋がイメージできなかったし、音楽を根性で現出させる演出は少々不愉快ですらあった。

チャゼル監督の第二作『ララ・ランド』は、世界中から大絶賛を浴びているが、大絶賛を浴びているということ自体は、僕が劇場に足を運ぶ理由にはならない。
例によって少し落ち着いてから観せてもらうことにしよう。

スティーリー・ダン『エイジャ』:ドナルド・フェイゲンがもう褒めるな、と言うくらい褒められすぎな名盤の話

冒頭から「説明不要の名盤」などと書くと、じゃあなんで書くんだという話になりますが、それでも書かずにいられないほどの名盤っていうのもあると思うんです。
スティーリー・ダンの6thアルバム『エイジャ』もそういうレコードのひとつでしょう。

アナログ盤を入手したので、手持ちのCDと音質比較をしてみようと思います。


オリジナルの国内盤は、光沢のあるジャケット。
妖艶な東洋美女は、日本人モデルの山口小夜子さんです。
抗いがたい魅力を放つ被写体。
動いている彼女が見たくて、田原総一朗さん原作の『原子力戦争』という映画も観ました。

原子力戦争(新・死ぬまでにこれは観ろ! ) [DVD]
キングレコード (2016-08-03)
売り上げランキング: 29,554



映画でもジャケットのまんまの感じで、動いているのに動きのひとつひとつが写真みたいにバシッと決まる。そういう人でした。
撮影も日本人カメラマンで、藤井秀樹さん。日芸の写真科を出て秋山庄太郎さんに師事、後に広告写真家協会の会長になって、日本写真芸術専門学校の校長も歴任されたので、専門学校の募集広告を作っていた僕は、勝手にほんのり薄いご縁を感じたりして。


演奏に関しては、全編ハイライトなわけでとにかく聴くしかないです。
その全編ハイライト感が、最初に聴いた時ちょっとトゥーマッチな感じで、僕は7thアルバムの『ガウチョ』推しになるんですが、そんな僕に音楽に超詳しい友人が、とにかく表題曲『エイジャ』の後半、ウェイン・ショーターのサキソフォンとスティーブ・ガッドのモーレツな掛け合いを聴け、ボリューム上げて聴け、と言うんで聴いてみたら、なるほど、最高のミュージシャンを集めて最高の楽曲を作るというシンプルにして究極なこのアルバムのコンセプトを象徴的に表現していますね。

さて、私の所有するCDですが、2006年に勤めていた会社を辞めた時に同僚がお店に飾ってくださいと買ってくれた「でかジャケCD」というやつです。
LPサイズのジャケットにCDが入ってます。



これがとにかく音質がよく、それまで持っていた輸入盤CDは即売り払ってしまいました。
ジャケットはオリジナルとは違いマット仕上げ。
CDはLPサイズの厚紙にビニールのケースが貼り付けてあるという仕様で、簡単に取り出して、はい再生とはいかない。
アナログレコードも同様な手間がかかりますが、その作業はもうカラダが覚えていて、それ自体がすでに楽しいという域に達しているわけで、そういう意味ではでかジャケのほうが再生に至るまでの心理的なハードルが高いような気がします。

肝心な音ですが、特にドラムスの音質に関して、でかジャケの質感が圧倒的に優れています。スネアの音にリミッターがかかって得られるロックな感じがくっきりとした輪郭を持って迫ってきます。
初期のスティーリー・ダンが持っていたわずかにルーツよりな楽想ならレコードの質感がジャストフィットだったでしょうが、このアルバムの音楽はどこを切ってもスティーリー・ダンのオリジナリティが凝縮されていて、そのような『緩み」を許しません。

と、つい興奮気味になってしまうのはこの音楽があまりに素晴らしいからですが、このまま書き進めていくわけにはいかないのです。
だってこの「でかジャケ」リマスタ盤に寄せて、ドナルド・フェイゲンご自身が、この『エイジャ』についてはすでに百万語が費やされて過大評価ギリギリのところまで来ている、と述べて、これ以上の褒めすぎを厳に慎めと言っているのですから。
では、ここらで少しリラックスしたアナログの音を少し音量を下げて聴いてみましょう。

そうしたら、ドゥービー・ブラザーズに移籍したマイケル・マクドナルドとの声のブレンド具合が、以前のどのレコードより入念に調整されているのに気付いた。
いくらフェイゲン氏に褒め過ぎをたしなめられても、やはり聴く度に発見のあるアルバムですな。

※現在入手可能ななかで最高音質と思われるSACD盤。
廉価版です。
これは残っているうちに買うしかない。
彩(エイジャ)
彩(エイジャ)
posted with amazlet at 17.05.17
スティーリー・ダン
ユニバーサル ミュージック (2014-11-26)
売り上げランキング: 76,704

2017年5月13日土曜日

スティーリー・ダン『エクスタシー』:らしくないけど、ちらりとのぞく南部リスペクトがけっこうカッコいいんだ

スティーリー・ダンのセカンド・アルバム『エクスタシー(Countdown To Ecstasy)/1973』は、ライブツアーの合間を縫って、短時間で仕上げたアルバムだそうだが、それゆえのイキオイのようなものが感じられて、そこがいい。

このアルバムからボーカルのデイヴィッド・パーマー(前作のライナーではデヴィッド・パルマー表記)が脱退して、以降ほぼすべての楽曲をドナルド・フェイゲンが歌う(2003年の『エブリシング・マスト・ゴー』で1曲だけウォルター・ベッカーがリード・ボーカルをとっている)ことになる。

短時間のレコーディングとは言え、本作では豪華なゲストを迎えている。


前作でもパーカッションを叩いていたヴィクター・フェルドマンは、ジャズファンなら知らない人のないヴィブラフォンの名手で、本作では本職のヴァイブを叩いている。フェルドマンの紹介だろうか、大物ジャズベーシストのレイ・ブラウンがウッドベースを弾いている。
また、シングル曲『ショウ・ビズ・キッズ(Show Biz Kids)』ではリック・デリンジャーがギターを弾いている。
しかし、いずれも彼らの本領発揮とはいえないプレイで、どこにこんな大物たちを呼ぶ必要があったのかちょっとわからない。
むしろこのアルバムの聴きどころは楽曲そのものの出来の良さだと思う。


オープニングの『菩薩(Bodhisattova)』は、インド哲学科出身の自分には無視できないタイトルだが、当時のアメリカで多くの若者が神秘的な東洋思想にかぶれている様子を皮肉っている歌だ。ディランの歌詞をアルバムタイトルに戴いてシーンに出てきたバンドらしい楽曲じゃないか。
間奏部の掛け合いも楽しい。

フェイゲン/ベッカーが、「はじめてヒットを狙って書いた」と言う、シングルの『ショウ・ビズ・キッズ(Show Biz Kids)』は、B面曲『レイザー・ボーイ(Razor Boy)』も含めパッとしない。ヒットを狙ったという発言自体が彼ら一流のジョークだったんだろう。
続いて出したシングルの『マイ・オールド・スクール(My Old School)』が、スティーリー・ダンらしいヒット曲の公式に当てはまった佳曲だが、カップリングの『ヴレ・ヴ(Perl Of The Quarter)』こそが本作のハイライト。

西海岸に拠点を置きながら、東海岸の匂いをプンプンさせるこのバンドが、時々書く南部リスペクトの楽曲が僕は本当に好きだ。

エクスタシー(紙ジャケット仕様)
スティーリー・ダン
ユニバーサル ミュージック (2014-07-30)
売り上げランキング: 161,505

2017年5月12日金曜日

スティーリー・ダン『キャント・バイ・ア・スリル』:デヴィッド・パルマーの歌、意外にイイじゃん

先輩からスティーリー・ダンのアルバムを一揃い戴いたので、この機会に聴き直しをしてみようと思ってファーストの『キャント・バイ・ア・スリル』を朝から磨きました。
タイトルの『Can't Buy A Thrill』はボブ・ディランの『悲しみは果てしなく(It Takes A Lot To Laugh, It Takes A Train To Cry』の歌詞の一行目、
Well, I ride on a mailtrain, baby, Can't buy a thrill
から来ているそうです(wiki)
CDのブックレットに掲載されている片桐ユヅルさんの翻訳では、
おれは郵便車にのるんだ、ベーブ いいことに金がはらえない
となっていますが、普通に「スリルは金で買えないからね」くらいの意味なんだと思うんですがどうなんでしょうか。


このジャケは卑猥であるということで、発売当時スペインではバンドの写真に差し替えられたそうです。

スティーリー・ダンの音源はもちろんCDですべて持っているわけですが、1985年の最初のCD化は中音域にコンプレッサーっぽい癖があって、ちょっと不自然に聴こえますが、それはそれでこの時代のCDの音ッて感じでした。


うん、やはりレコードの音は素直でいいですね。
音質比較は、リマスタを持っている『AJA』とSACD盤を持っている『GAUCHO』の時にでもやります。



ファーストのスティーリー・ダンは6人編成のバンドで、メンバーにはボーカル専業のデヴィッド・パルマーという人がいますが、専業なのに、単独でリード・ボーカルを取っている曲が二曲しかない。そのせいか、パルマーはこのアルバムだけで脱退しています。

スティーリー・ダンより先に、ドナルド・フェイゲンのソロアルバム『ナイトフライ』に出会ったから、00年代に聴き始めた頃フェイゲン以外の曲はあまり真剣に聴いていなかったけど、こうしてあらためて聴いてみるとフェイゲンが歌っていない曲もなかなかいいですね。
A2の『汚い手口(Dirty Work)』とB3『ブルックリン』がパルマーのボーカル曲ですが、どちらも繊細で綺麗な声で素朴なメロディが歌われる佳曲です。
A4の『真夜中の放浪者(Midnight Cruiser)』に至っては、ドラマーのジム・ホッダーが歌ってますが、シングルでもよかったんじゃないかと思うほどのイイ曲。

パルマーの歌ってる曲には、スティーリー・ダンの持つ「都会的」というパブリック・イメージよりも、ザ・バンドやイーグルスのようなルーツっぽい伸びやかさのようなものも感じるんですね。
その意味で、この『キャント・バイ・ア・スリル』は、ザ・バンドやイーグルスのように全員歌える、という特性を持っていた最初期のスティーリー・ダンの多様性を楽しめる一枚きりのアルバムといえるかもしれません。

キャント・バイ・ア・スリル
スティーリー・ダン
USMジャパン (2010-12-22)
売り上げランキング: 200,278

2017年5月11日木曜日

尾崎亜美『ストップモーション』:初セルフプロデュースの充実作に華を添えた寺尾聰がめっちゃシブい

尾崎亜美さんのファースト、セカンドと聴き進めてきました。
尾崎亜美のファーストアルバム『SHADY』には、すでに完成された尾崎亜美さんがいたよ
尾崎亜美『MIND DROPS』:雨のコンセプト・アルバム
そしていよいよサード・アルバム『ストップモーション』です。


本作からご本人のアレンジとプロデュースになりました。
佐野元春が、二作目まで伊藤銀次さんとアルバムを作って、次の『サムデイ』で大きく花開いたのと同じような感触がこのアルバムにはあります。
本人直筆のメッセージにも「赤ちゃんを産んだような気分」と記されていました。

 
ミュージシャンの起用は前二作の路線を踏襲していますが、ギターに松原正樹さんが加わって、参加曲三曲では、耳を奪われる存在感のあるオブリガードやソロが弾かれています。
コーラスには、まだ小田さんと鈴木さんの二人だけだったオフ・コースがクレジットされています。そして、後にそのオフ・コースに参加することになる松尾一彦が得意のハーモニカで参加して、名曲『生まれ来る子供たちのために』の原型とも言いたくなるプレイを聴かせてくれます。

楽曲的には、なんといってもハイライトは南沙織さんに提供して大ヒットした『春の予感〜I've been mellow』でしょうか。
しかし個人的には寺尾聴さんが参加した『来夢来人』を挙げたい。
クレジットにはAkira Terao : 「memories of wind」とあって、それだけでは何をしているのかわかりませんが、聴けば一目(耳?)瞭然。
間奏部で楽器のメロディの代わりに、喫茶店と思われる暗騒音の中、尾崎亜美さんの
「お砂糖、ひとつだったよね?」
という台詞に応えて、寺尾さんのあの優しい低音で一言、
「うん…」
と、三点リーダまで聞こえてくる余韻ある名演が聴けるではないですか!

どんなソロより印象的な間奏部ですが、これだけではありません。
もう一曲、『ジョーイの船出』という曲にもコーラスで参加しているのですが尾崎亜美さんの歌にコーラスをつけるのではなくて、こちらも間奏部でソロとしてのスキャットを披露しているのです。
スターですな。
アルバムの最後に、寺尾聴さんに特別な献辞を捧げているのもむべなるかなです。




STOP MOTION(紙ジャケット仕様)
尾崎亜美
EMI MUSIC JAPAN(TO)(M) (2009-04-22)
売り上げランキング: 320,546

2017年5月10日水曜日

尾崎亜美『MIND DROPS』:雨のコンセプト・アルバム

みんな大好き、尾崎亜美さんの『MIND DROPS』を聴いてみる。


三枚目のシングル『マイ・ピュア・レディ』がCMに使われてのヒットを受けて発表されたセカンド・アルバムですが、マイ・ピュア・レディは収録されていませんね。2009年の紙ジャケリマスタの時にB面のサンライト(こちらもアルバム未収録)と併せてボートラ収録されたようです。

帯にあるように、1977年はレコード発明100年記念だったんですね。
1877年に作られたレコードはエジソンの「フォノグラフ」という円筒式のもので、現在使っている水平円盤式のものは、その10年後エミール・ベルリナーが開発した「グラモフォン」まで待たなければなりません。
そしてこの年、東芝のエキスプレス・レーベルも10周年だったそうです。中学の頃、好きだったアーティストが甲斐バンドとオフ・コースだったので、想い出深いレーベルです。



さて、アルバムはボサノヴァの『太陽のひとりごと』から始まります。男性ボーカルとのユニゾンはリズム、音程、呼吸ともに完璧に同調していてスゴい!これぞユニゾン。
デュエットしているのはトワ・エ・モアの芥川澄夫さん。なるほど、という感じです。
歌がうまい、というのはこういうことなんでしょうなあ。

このアルバムには男性ボーカルとのデュエットがもう一曲入っていて、南佳孝さんと『うわさの男』という曲を歌っています。
ドラマ仕立てで聴いていて楽しい楽曲でした。

ユーミンが名付けたという「マインド・ドロップ」というタイトル通り、雨は本作のテーマになっていて、セカンドシングルのA面『旅』B面『初恋の通り雨』ともに雨が歌い込まれています。このB面曲は派手さはないが長く聴き続けられる佳曲と思います。
これみよがしでないコンセプト・アルバムという感じもとてもいいです。

演奏的にはベースに聴きどころが多く、クレジットを見ると高水健司さんと後藤次利さんで、こちらもなるほど、という感じ。
豪華なホーン・アレンジは松任谷正隆氏の手腕でしょう。
昔NHK-FMで正隆氏がDJをやっていた頃、僕はギターがあんまり好きじゃないんだとおっしゃっていたのを思いだしましたが、ファーストに続きギターには鈴木茂が起用されていて、抜群の裏方プレイを見せています。こういうギターの使い方が好きだということなんでしょうね。

MIND DROPS(紙ジャケット仕様)
尾崎亜美
EMI MUSIC JAPAN(TO)(M) (2009-04-22)
売り上げランキング: 90,357

2017年5月9日火曜日

尾崎亜美のファーストアルバム『SHADY』には、すでに完成された尾崎亜美さんがいたよ

今日は尾崎亜美さんのファーストアルバム『SHADY』を。



帯の「第3世代」が何を意味しているのか、ちょっとわかりませんでしたが、松任谷正隆氏の全面プロデュースということでポスト・ユーミンと呼ばれるのは避けられないところだったでしょう。
 しかしそんなコマーシャルコピーはどうでもよくなる完成度の高い尾崎亜美ワールドがここにはありました。

そして豪華な演奏者たち!
帯には書かれていませんが、コーラスにはハイ・ファイ・セットや達郎さん、吉田美奈子さんが参加しています。

一曲目には『プロローグ』と題されたストリングスのアンサンブル曲が収録されています。作曲者の阿部雅士さんは、松任谷正隆氏の小学校時代の同級生だそうで。もしかすると冒頭でメロディを取ったクラリネットは松任谷正隆氏ご本人の演奏かもしれませんね。

B1にデビュー曲の『瞑想』が収録されています。王道の尾崎亜美ポップ。
A2のシングルB面曲『冬のポスター』も実に堂々としたバラードで、 この二曲だけでも尾崎亜美さんがすでにデビューから完成されたアーティストであったことを証明していますが、個人的にはA4の『届かない春』がツボ でした。

サビで繰り返される
私、春に取り残されてしまう
というフレーズの「されて」の「さ」のところで使われる♭5の音階が、たぶん四分の一音ほど微妙に低く歌われて、まさに何かに取り残されてしまう不安を聴いている僕の心に再現してしまう。
音楽的に言えば、ブルーノートという音なのでブルーズの常套句なわけですが、楽曲全体にはブルージーさは希薄。そしてこのフレージングはその後の尾崎亜美バラードで頻出する、もはや尾崎亜美イディオムと言っていい必殺技。
出揃ってますね。
素晴らしいです。


SHADY
SHADY
posted with amazlet at 17.05.09
尾崎亜美
EMIミュージック・ジャパン (1997-11-19)
売り上げランキング: 894,563

2017年5月8日月曜日

オールマン・ブラザーズ・バンド『フィルモア・イースト・ライブ』のポリドール盤、カプリコーン盤聴き比べ

オールマン・ブラザーズ・バンドの、というよりロック史上に残る名ライブ盤『フィルモア・イースト・ライブ』のポリドール盤が手に入った。


最初に聴いたのが、2003年発売のデラックス・エディションのCDで、アナログも欲しくなっていつもの狸小路Fresh Airで買ったのがカプリコーン盤。
ジャケの右上にレーベルマークが入っていて見分けが付くし、背のデザイン、ライナーノーツのデザイン(中身は一緒)も異なる。



もともとこの盤はカプリコーン・レコーズというレーベルから出ていて、日本ではVICTORが販売権を持っていた。
カプリコーン・レコーズは、あの南部レーベルの雄「スタックス」のマネージャーだったフィル・ウォルデンが、ウィルソン・ピケットの『ヘイ・ジュード』の録音でリード・ギターを弾いたデュアン・オールマンのプレイを聴いて惚れ込み、彼らのバンド「オールマン・ブラザーズ・バンド」のために作ったレーベル。
 で、このカプリコーン・レコーズが70年代末に倒産してしまい、販売権がポリドール(米ではカプリコーンの販売権はポリドールにあった)に移ったっため邦盤は二種類存在するというわけ。

この二枚は、どういうわけか音も少し違う。
後発のポリドール盤の方が少し中域に張りがあり、高域も少し伸びている感じで実体感がある。
逆に言うとカプリコーン盤は、同じ音圧を得るためにもう少しボリュームを上げられるので、大音量で楽しむ向きにはいいのかもしれない。
僕自身は小音量、小音像派なので、このポリドールの音作りは有り難い。


フィルモア・イースト・ライヴ
オールマン・ブラザーズ・バンド
ユニバーサル ミュージック (2017-05-17)
売り上げランキング: 117,135

【Anthologies #1】心に澱が積もる夜には|大貫妙子『ライブラリー』

 還暦を過ぎ、いつの間にか貪欲に新しい音楽を探すことはなくなった。 それでも、日々を生きていれば音楽に頼りたくなることはあるものだ。そんなとき聴きたくなるのは、アーティストたちの人生が垣間見える<アンソロジー>で、いくつか愛聴盤がある。 誰かの心無い言葉や、諍いに心に澱が募るよう...