2015年3月17日火曜日

朝のレコード特別編:マイク・ポーカロに捧ぐ

TOTOのベーシスト、マイク・ポーカロが亡くなった。
59歳。
早すぎるよね。

TOTOのアルバムでレコードで持っているのは2枚だけ。
ハイドラとファーレンハイト。


ハイドラの名盤っぷりにはもう言葉もなく降参する他ないが、それでもTOTOでどのアルバムが好きか、と訊かれたら少し迷って「アイソレーション」と答えよう。
ファーギー・フレデリクセンというボーカリストが参加した唯一のアルバムで、おそらく最もルカサー色の薄いアルバムというのがその理由だ。
そしてこのアルバムが、マイク・ポーカロがベーシストとしてフル参加した初のアルバムということになる。

アイソレーション
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たった一枚で脱退してしまったファーギーの後に加入したのがジョセフ・ウィリアムスで、このメンバーで作ったアルバムが「ファーレンハイト」ということになる。
ルカサーはまたバンドの支配力を取り戻し、彼らしいバラードを書いて先行シングルとした。
ジョセフは器用なシンガーで、まるでずっとTOTOのメンバーであったかのように溶け込んだ。
その柔らかいボーカルを聴いて、僕は、今までのTOTOのカラーに抗って叫ぶように歌ったファーギーに惹かれていたのだと気がついた。

だから、そういう「アイソレーション」を経て作られた「ファーレンハイト」にはTOTOらしさが一段先鋭化したカタチで表れている。
それを最後の最後、ゲスト参加したマイルズ・デイヴィスがぶっこわす。
「らしさ」ってのはこういうことだぜ、っていうマイルズのメッセージ。
これが「ファーレンハイト」のハイライトだと思う。

故ジェフ・ポーカロがマイルズのレコーディングに参加した時、TOTOのレコーディングにも来てくださいよ、とお願いして実現したのだというから、さほど深い意図はなかったのだろうが、常にルカサーらしさとTOTOらしさという曖昧さの間を揺蕩うバンドに、で、どうしたいのよ、という問いを彼のトランペットが突きつけている。


Fahrenheit
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ジョセフともう一枚アルバムを作った後、ルカサーをリードボーカルに立てたシンプルなハードロックアルバム「キングダム・オブ・デザイアー」を作ったことが彼らの答えだったのだと思う。
これはいいアルバムだった。
そしてこれはジェフ・ポーカロの最後のアルバムでもある。
バンドの背骨だった彼のリズムを喪ってはじめて、TOTOはTOTO自身のあるべき姿を感じたのではないか。


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そしてバンドは初代ボーカル、ボビー・キンボールを呼び戻し、「マインドフィールズ」を作るのだ。そして彼らは自由になった、と僕は思う。
ハイドラという初期の傑作を聴いて思うことは、演奏していて楽しい楽曲を作ろうと思ったんだろうなあということだ。
それこそがTOTOらしさだったということなんだろう。
そしてこのアルバムがマイク・ポーカロがフル参加した最後の作品になった。


マインド・フィールズ(紙ジャケット仕様)
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思えば、2008年に解散したバンドが再結集したのは、ALSと闘病するマイク・ポーカロを支援するための世界ツアーのためだった。
グラミーアルバムとなった「IV」の後、彼ららしさを見失って迷走する長い旅をベーシストとして支えたマイク・ポーカロを喪ったバンドは今度はどこへ向かうのだろう。
奇しくも「キングダム・オブ・デザイアー」を完成させて、発売直前に亡くなったジェフと同じように、マイクも新しいアルバム「XIV」のリリース直前に逝ってしまった。
マイクの旅の終わりを今は、名手ネイザン・イーストがマイクの代役を務めたこのアルバムを聴いて見届けるしかできることはない。

R.I.P Mike.


TOTO XIV~聖剣の絆
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2015年3月16日月曜日

朝のレコード:ミック・ジャガー「She's The Boss」

突然訪れる春の陽気に気持ちだけが追いつかないこんな朝には、商業的に洗練された彼のシャウトが聴きたい。
今朝のレコードはミック・ジャガーの(たぶん)ファースト・ソロ「シーズ・ザ・ボス」
「まったく、女にはかなわないぜ」くらいの意味でしょうか。

これも定期的に聴きたくなる一枚。
そんな人あんまりいないでしょうけど。



しかしこれはもう、ジェフ・ベックのギターをポップロックのフォーマットで堪能するためのベストなアルバムと言っていいんじゃないだろうか。
ミック・ジャガーの商売気たっぷりのポップサイドを全面に立てた楽曲と、唯一無二のジェフ・ベック・トーンのバランスが実に不真面目でいいと思う。

一曲目から炸裂するブルージーでフリー気味なリフもえらくカッコいいが、先行シングルになった「ジャスト・アナザー・ナイト」でのジェフ・ベックのプレイは、他のどの曲とも違う実験的なトーンやスクラッチ・ノイズ的なサウンドを奏でていて面白い。この奏法は後にレイジ・アゲインスト・ザ・マシーンのトム・モレロによって有名になるが、こんなメイン・ストリームのアルバムで、1985年にすでに披露されていたのである。

注目したいのはB-Side4曲目の「Secrets」
リズムギターがナイル・ロジャースで、ベースがバーナード・エドワーズということで、バックトラックは「シック」なわけです。
そこにジャガーの歌と、G.E.スミスのギターが乗ってくる。
G.E.スミスといえば、もうホール&オーツのウェイト・フォー・ミーのあの必殺のイントロなわけで、かっちりくっきりのシック風トラックに、あの丸っこい揺れる歪のG.E.スミス'sギターがいい感じで入ってくると、やっぱり80年代って何だかんだ言って結構よかったんじゃない、って気になってくる。

She's the Boss
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日本ではホール&オーツのバックでレスポールで太い音出すギタリストくらいの知名度のG.E.スミスだが、本国アメリカでの最も有名な仕事はたぶん、意外にもダン・ハートマンの78年のダンス・クラシック「Instant Replay」でのバッキングプレイで、現代最高のテレキャス・マスターと呼ばれているそうな。



ビデオでは、スミスさんベース弾いてますね。
スタジオ録音ではベースはダン・ハートマンご本人が弾いてます。
ちなみにこのInstant Replayという曲でリード・ギターを弾いていたのが、後にKISSに加入するヴィニー・ヴィンセント、ってこっちも意外すぎるだろ。


Instant Replay
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Dan Hartman
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80年代後半、アメリカの有名バラエティ「サタデーナイトライブ」の音楽監督を務めたほどのG.E.スミス。
日本ではあまり感じられなかった彼のルーツ・ミュージックへの傾倒が全面的に体感できるアルバムが、ビートルズのホワイト・アルバムをブルーズカバーで再構築した「ブルーズ・ホワイト・アルバム」
全曲でブルーズギター弾きまくりです。
マリア・アルダーのオブラディ・オブラダ以外はゴリゴリのブルーズで、ビートルズファンにはちょっとアレなアルバムですが、お好きならこちらも。



うん。マリア・アルダーのこれはいいんだよなあ。

Blues White Album
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2015年3月14日土曜日

朝のレコード:オフコース「We are」

どうしてもオフコースのレコードを聴きたくなる時がある。
例えば今朝のように、昔好きだった人の夢なんかを見た時には。

だから今日の朝のレコードはオフコースの「We are」を。



中学生の時、あれはきっと文化祭だったのだろう。どういうイベントだったのか忘れたが、中学校の体育館でみんなで音楽を聴いていて、オフコースの「Yes-No」がかかった。
隣に座っていた女の子が、「ねえ、男の子って“君を抱いていいの”なんて思うの?なんで?」と訊いてきて、そりゃ思うだろ、こんな俺でいいのか、って意味だよ、と答えると、ふーん、と言ったきり黙ってしまった。
本当は何と答えればよかったのか、今でも時々考えるが答えは出ない。

その「Yes-No」を収録したアルバム「We are」は、中学生の頃に買ってもらったレコードで、ジャケットにはカビの汚れがついているが、頻繁に聴くレコードなので盤面は綺麗だ。
ピクチャーレーベルも色あせていない。
もちろんサウンドも。

小田和正がボズ・スキャッグスの「ミドルマン」を聴いて、このサウンドを作ったエンジニアとやりたいと、西海岸に飛び、ミドルマンを録ったレコーディング・エンジニア、ビル・シュネーとともに作ったアルバム。
ビル・シュネーは、スティーリー・ダンのエイジャなんかを録った人で緩んだところのない硬質なサウンドを作る人だ。

オフコースとのサウンド・メイキングでも小田さんのエレピにそれまでにはないエッジがついて、ある種の緊張感のようなものが漂う。
そんな緊張感、あったか?と思われる方は、もしお持ちなら最終曲「きかせて」のイントロを聴いてみて欲しい。まるでスティーリー・ダンみたいだから。

今あらためて「Yes-No」を聴いているとこれがディスコミュージックのリズムで作られていることに気付くが、そう気付いたところで、これはやはりディスコミュージックではない。
それは歌詞とうらはらな小田さんの熱い歌唱によるところが大きいが、そのようなYes-Noの本質を見事に再構築したカバーを、あのCharaさんが演っている。必聴の名カバーなので、こちらも併せてご紹介しておく。

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他にも優れたカバーバージョンが目白押しです。JUJUさんもすごくいいんだよなあ。


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2015年3月11日水曜日

キャロル・キングの隠れた名盤『Fantasy(ファンタジー)』を紐解く|デヴィッド・T・ウォーカーがもたらしたニューソウルの煌めき

1971年の歴史的大名盤『Tapestry(つづれおり)』によって、シンガーソングライターの金字塔を打ち立てたキャロル・キング(Carole King)。
彼女が1973年に発表した5作目のアルバム『Fantasy(ファンタジー)』は、全米トップ5を記録しながらも、前作までのポップ/フォーク路線とは一線を画す実験的なアプローチから、時に「異色作」と評されているようだ。

しかし、本作はキャロル・キングのアーティスト史において最も瑞々しく、当時のブラックミュージックへの敬意に満ちた「隠れた最高傑作」である。本稿では、彼女のキャリアにおける本作の位置付け、ミュージックシーンへの影響、そして本作のサウンドを決定づけたギタリスト、デヴィッド・T・ウォーカーの貢献について深く掘り下げていく。




キャロル・キングのアーティスト史と『Fantasy』の背景


キャロル・キングのキャリアは、1960年代のブリル・ビルディングにおける稀代のヒットメイカー(作曲家)として始まった。その後、1970年代のシンガーソングライター・ブームの主役に躍り出た彼女は、内省的で親密なアコースティック・サウンドを確立する。

その頂点が『Tapestry』であったが、彼女は同じ路線の踏襲に甘んじなかった。
1973年当時、アメリカのミュージックシーンではマーヴィン・ゲイの『What's Going On』やスティーヴィー・ワンダーの諸作に代表される「ニューソウル・ムーヴメント」が吹き荒れていた。
この黒人音楽の地殻変動に敏感に反応し、自身の瑞々しいメロディセンスと融合させて生み出されたのが『Fantasy』である。

本作は、彼女のキャリアにおいて初のコンセプトアルバムという形態をとっている。
アルバムは弾き語りの『Fantasy Beginning』で幕を開け、様々な人生の情景を描きながら、最終曲『Fantasy End』へと回帰する。
全編を通して曲間が途切れることなく流れるように展開する構成は、当時のポップス界においても極めて野心的な試みであった。


ミュージックシーンへの影響:ポップスとソウルの架け橋


『Fantasy』が音楽史において重要なのは、白人女性シンガーソングライターが、単にソウルミュージックを「模倣」したのではなく、一流のクロスオーバー/ジャズ・ミュージシャンたちと対等にセッションを行い、「ブルーアイド・ソウル」の新たな地平を切り拓いた点にある。

本作のサウンドは、緻密にアレンジされたホーンセクションと、ファンキーでありながらも洗練されたリズム隊によって支えられている。このアプローチは、後のAOR(Adult Contemporary)の先駆けとなり、日本のシティポップ(City Pop)の源流の一つとしても多大な影響を与えることとなった。

サウンドの核:デヴィッド・T・ウォーカーという「星屑の煌めき」


本作の評価を決定づけている最大の要素が、名ギタリスト、デヴィッド・T・ウォーカー(David T. Walker)の参加である。当時、ODE RECORDSのレーベルメイトでもあった彼の存在は、アルバムに決定的な魔法をかけている。

特にその貢献度が顕著に現れているのが、2曲目の『道 (You've Been Around Too Long)』である。

楽曲

サウンドの特徴とデヴィッド・T・ウォーカーの貢献

Fantasy Beginning

キャロルのピアノ弾き語りによる内省的な導入部。

道


(You've Been Around Too Long)

イントロからデヴィッド・T・ウォーカーのギターが炸裂。 まさに「星屑が煌めくよう」と評される、特有の流麗なハープ風のチョーキングとオクターブ奏法が、ニューソウル的なグルーヴを極上のものへと昇華させている。


キャロル・キングの力強くもハスキーなボーカルと、デヴィッド・T・ウォーカーの甘くエモーショナルなギターフレーズとの対話は、本作のハイライトである。彼のギターがあるからこそ、本作は単なるポップスアルバムに留まらず、時代を超越したソウル・ジャズの薫り高い名盤として今なお愛され続けている。


総括:今こそ再発見されるべきコンセプトアルバム


オーディオファイルの視点からも、本作はハイクオリティな録音盤(SACDシングルレイヤー盤や高音質復刻紙ジャケット仕様など)として度々再評価されている。

『Tapestry』の素朴なキャロル・キングしか知らないリスナーにとって、本作『Fantasy』は新鮮な驚きに満ちているはずである。
デヴィッド・T・ウォーカーの至高のギタープレイ、そして70年代初頭の空気感を凝縮したニューソウル・サウンドを、ぜひじっくりと堪能していただきたいと思う。

ファンタジー(紙ジャケット仕様) - キャロル・キング
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2015年3月10日火曜日

扇動者と無私の言葉~キャプテン・フューチャー第二巻「暗黒星大接近!」

キャプテン・フューチャーの第二巻は「暗黒星大接近!」

あらゆる放送チャンネルに割り込んで、太陽系に迫る暗黒星の危機を警告した謎の怪人ザロ博士は、暗黒星の接近を防ぐ未知の力線を支配している自分に全太陽系の支配権を渡せと要求した!

天文学者たちは、暗黒星を調べ、そのあまりの質量の小ささに危険はないと保証し、政府はそれを発表し市民の動揺を抑えようとするが、天文学者たちが次々と失踪したため、彼らが逃げ出したものと見なした市民たちは政府への不信をつのらせ、暴動に発展。
太陽系政府首席はこの危機にキャプテン・フューチャーに出動を要請する。

失踪した天文学者を追っているうち、地球人のように見えていたザロ博士の手下の正体が毛むくじゃらの未知の人類と判明し、その姿を誤認させる未知のテクノロジーが冥王星由来のものであると突き止める。
舞台は冥王星に移り、ついに未知の文明を持つ種族を発見する。


前作と同様、今回も犯人は扇動者であった。
映像と錯覚を使って大衆をコントロールする犯罪はあまりに現代的で、予言的だ。
権威であるはずの科学者の言葉も簡単に無効化されてしまう。
思えば、僕らも水俣や石綿、放射能に至るまで「ただちに健康に影響はありません」という言説がひっくり返っていくのを目の当たりにしてきた。

もし現代にザロ博士が現れてとして、その煽動を一笑に付すことが出来ないどころか、政府発表につきまとう「騙されている」感への反発というカタチで自ら暴動に加わってしまうかもしれない。

本作でザロ博士に協力してしまう種族も、次々に惑星や衛星に植民していく地球という勢力への恐怖からのことだった。
文明の衝突は、いつも相手がこちらを誤解しているのだ、という「誤解」からはじまる。
この屈折した誤解は、自分自身への理解が足りていないことから生じるものだ。

だからいつも「無私」の境地にいるカーティスの言葉だけが、他者に届く。
残念ながら、どのような言葉で猜疑心に満ちたステュクスたちを太陽系連合に迎えられたのか、詳細は語られていないが、きっとそういうことなのだと思う。


本作には、宇宙時代を拓いたパイオニア、マーク・カルーが登場するが、次作で重要な設定が付加されて、単発の活劇だったキャプテン・フューチャーがその名の通りの「未来史」になるために重要な役割を果たすことを付記しておく。



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朝のレコード:クリストファー・クロス「南から来た男」

先日雑誌Penの「最後に聴く曲」特集でポール・スミス氏のカッコいい朝の習慣を知って以来、僕も仕事場に降りる前にレコードを一枚聴くことにしている。
→Girasole Records Blog「最後に聴く曲」

今朝のレコードは4月に札幌にも来てくれるクリストファー・クロスのファースト「南から来た男」



このアルバムはSide-Bがいい。
一曲目の「風立ちぬ」は、ローウェル・ジョージに捧げられた一曲だが、ゲストボーカルのマイケル・マクドナルドが参加している。わずかワンフレーズのコール&レスポンスでマイケル・マクドナルドらしさが伝わってくる声と歌唱が本当に素晴らしい。

ハイライトは次の二曲目「ライト・イズ・オン」で、ギター・ソロがラリー・カールトン。二箇所にソロが入っていてどちらもスムースだがだんだんヒートアップしていく構成力が冴える良いソロだ。
コーラスにはドン・ヘンリーとJ.D.サウザーが参加していて、通常のコーラス部分ではあくまでも目立たぬように厚みだけを加えるのだが、メロディがマイナー・キーになった時にぐっと感情が入っていくイーグルス的感触をこの曲に加えている。
あれはきっと理論とかではなく、彼らの身体が持っている音楽的資質なのだろうと思う。

ラストを飾る「ジゴロの芸人」はまるで6分間のドラマ。
いつもの淡々とした語り口から、人生の悲哀のようなものが零れ落ちてくる。
この曲に豊かなイマジネーションを付け加えているドラマティックなギターソロを弾いているのはなんとエリック・ジョンソンだ!
テクニカルなのによく歌う彼のギターは、トーマス・ラミレスのサキソフォンにスイッチしていく瞬間の繋ぎ目が一瞬わからなくなるほどだ。
このソロの間では終始冷静なハイトーンボイスを維持してきたクリストファー・クロスの声が少しだけ熱を帯びていく。
この傑作の幕を閉じるにふさわしい名唱と思う。


南から来た男
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2015年3月3日火曜日

1940年のナースコス~キャプテン・フューチャー第一巻「恐怖の宇宙帝王」

レナード・ニモイが亡くなった。
「宇宙大作戦」がなかったら、スペースオペラの楽しさに出会えたかどうかわからない。
生涯愛するであろう「キャプテン・フューチャー」にも。
ミスター・スポック、本当にありがとう。

そのキャプテン・フューチャーも、長い間絶版で、大学生の頃一所懸命古書店で探して全巻集めた。
だから東京創元社が、2004年から全巻の復刻を敢行してくれて本当に嬉しかった。

この機会に再通読して、各巻のレヴューを試みる。
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第一巻は「恐怖の宇宙帝王」。

木星でウラニウムの鉱床が発見されて栄える新開地(ブームタウン)。
そこに群がる地球人たちの間で「先祖返り」と呼ばれる恐ろしい奇病が蔓延する。
人間が数日で凶暴な猿のように変化してしまう奇病になすすべも無い太陽系政府首席のジェイムズ・カシューは、月に住む冒険家にして科学者のカーティス・ニュートン=キャプテン・フューチャーに事態の収拾を依頼する。

木星に飛んだカーティスは、木星人を煽動して地球人への叛乱を目論む「宇宙帝王」と出会う。
不思議な未知の科学技術で武装した「宇宙帝王」
伝説の木星古代文明との関係は。

というシンプルな活劇スタイルのプロットの本作には、しかし魅力的な言葉で木星人たちの中にある抑圧への反発を引き出す宇宙帝王と、その強さによって原住民たちの脅威を取り除くことで信頼を得るカーティス・ニュートンの違いはどこにあるのか、という問いが隠されている。

それは「動機」である、と誰もが答えるだろう。
しかし私欲のためとはいえ木星人を操って地球人への叛乱を起こさせることは、木星人を地球人のローマ的支配から解放するという実益があったはずだ。
カーティスの鉄拳は、一見正義に見えるが、その強すぎる刃はカーティスが敵だと「思う」側に向けられているだけで、例えば彼を襲ったことで命を奪われるディガーやクロウラーは、人間とコミュニケーションを取れないというだけで敵認定を受け、一方的に命を奪われているのである。
まるで、ヒトラーとナポレオン。

そういう意味で、勧善懲悪という名の思考停止が、この種の活劇の「面白さ」を支えているという逆説について、現代の読者である我々はもう少し自覚的であってもいいのかも知れない。

しかしもちろんそのような読み方は1940年に書かれたこの物語に対してフェアではないし、 キャプテン・フューチャーの冒険にドキドキしながら読んで、はあー、ジョオンとはどうなるのかなあ、などと想像して本を閉じるのが幸せな読み方だと思うし、基本的に自分自身もそのように読んだ。

そのように読めば、やはり本作において最も重要なシーンは、ジョオン・ランドールの登場であると言っていいだろう。
しかも惑星警察機構の女性諜報員ジョオン・ランドールは、調査のためナースに扮装して奇病「先祖返り」の患者が収容されている病院にもぐりこんでいるのである。
1940年のナースコス。
なんて歴史的な。

さらにラストシーン。
カーティスはコメットのコックピットで「あれは素晴らしい娘だね、サイモン」とつぶいたあと、あわてて「だから、どうだってことはないんだけどね」 と付け加えるのだ。
ツンデレかよ。

やはりエドモンド・ハミルトンはエンタメの天才なのである。

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2015年2月23日月曜日

定在波をはじめて体感したよ

オーディオチェックCDというものが世の中にあることは知っていた。
右の音が右から出ているか、左の音が左から出ているか、真ん中の音は真ん中から聴こえるか、というようなことをチェックするものだと思っていた。

僕はバンドマンだ。
ライブハウスによってはベースアンプが右にあるところもあるし、左にあるところもある。
ドラムスが中央にあったら、ボーカリストの真後ろになって多くのお客さんから見えないから、だいたいどちらかにオフセットされている。
だから最悪、右の音が左から出ていても大して問題はないと思っている。
コルトレーンのインパルス時代のアルバムには、主役のはずの自身のテナーさえ右に大きく寄せた定位を採用している盤もある。

どのみち現代のレコーディングはマルチマイク、マルチチャンネルで、マスターを作る時にステレオにミックスされているに過ぎない。音のカブりがないように定位されているだけだ。
だからこのようなチェックCDによる定位や位相のチェックには大きな意味はないと思っていた。

というわけでご縁が無かったオーディオチェックCDだが、今回2015年2月号のSTEREO誌に付録として収録されたオーディオチェックCDを人からお借りしたのではじめて試してみた。
その中に、正弦波スウィープという音源が入っていて、それが面白かった。

ステレオ2015年2月号
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音楽之友社 (2015-01-19)

正弦波=サインカーブはすべての音の基本になっている波形で、どんな音もこのサインカーブの変調によって作られている。一番素直な音、とでも言えばいいか。
その正弦波の非常に低い周波数から高い周波数までを一定の音量で滑らかに変調させていったのがスウィープ音源というやつだ。

これで何がわかるのか。
スピーカーから発振された音は、部屋の壁のあらゆる場所にぶつかって音波自体に戻っていく。ある帯域の音が強く戻っていけば、その部分が打ち消し合って減衰してしまう。
これを定在波という。
これは、部屋の形、天井の高さ、スピーカーの位置、聴取位置がわかれば計算で求められる。僕の部屋もシミュレーションソフトを使って聴取位置を決めている。
それでも実際に鳴らしてみると、低音部で2箇所、大きく減衰する場所があった。
なるほどこれが定在波かと、はじめて可視化(というのはおかしいが)してもらって、これは本当にいい勉強になった。


で、わかったところでどうするか。
シミュレーション上正確な位置に聴取位置を決めている場合には、電気的に音質補正をするしかない。
低域の場合はルームアコースティックによる対策はあまり効果的でない。
精密にやろうとすれば、相当に高価なイコライザーが必要になるのだ。
しかも僕は聴いた経験が無いが、知人の話によれば、そのような機器を使うと補正されてスムーズになった気はしても音が持っているエネルギー感のようなものが決定的に損なわれてしまうらしい。
ということは、理論値が正常に機能するスクエアな専用室を作るしか解決策はない。
仕事で必要ならそれもいいだろうが、まったく現実的な話ではないと言わざるをえない。
ある程度の補正はトーン・コントロールで可能だ。
しかし高価な機種ほどトーン・コントロールがついていなかったりする。

僕のアンプにはついている。そしてこのチェックCDを使う前から、少し低音の量感が多いほうがいいと感じてベースを2目盛ほど上げていた。
残りの細かいところは自分の脳で補正できる。それが出来るのが人間だ。
そしてそれが音楽を聴くということの意味でもある。


能動的に音の世界に飛び込んで、作曲家が構築した世界を読み取る。
演奏者や楽器に対するリスペクトを深める。
そして定在波を超えて、音楽を理解するのだ。
例えば「ジャコ・パストリアスの肖像」に針を落とした瞬間聴こえてくる人間技とは思えない正確で速いパッセージに、言葉を失うほどその作品世界に囚われることができないのなら、それは音質のせいではなく、それまでの音楽体験がそこまでの質ではなかったということなんだと僕は思う。

2015年2月22日日曜日

御手洗潔と進々堂珈琲:島田荘司

昨年の森博嗣「すべてがFになる」に続き、ついに御手洗潔がテレビドラマ化される!
→番組HP

ドラマ化されるのは「UFO大通り」収録の短編「傘を折る女」だそうだ。

UFO大通り (講談社文庫)
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「傘を折る女」はすでにコミカライズされている。「絵」になるストーリーに御手洗潔という名探偵の天才性を突き詰めて表現した、このタイプの代表作といえる。


島田荘司御大はいまだに旺盛に新作を書いており、御手洗ものの新作「星籠(せいろ)の海」で僕らを唸らせてくれたばかりだ。

その御手洗潔の大学生時代を描いた異色作が、新潮社から「進々堂世界一周〜カシュガルの追憶」というタイトルで出版されていたが、このたび文庫化された。
文庫化にあわせて「御手洗潔と進々堂珈琲」と改題された。

御手洗潔と進々堂珈琲 (新潮文庫nex)
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が、あろうことか新潮文庫に新設されたライトノベルレーベル「NEX」からのリリースと聞いて昔からのファンは驚いたのではないか。
角川から出ていた「ロシア幽霊軍艦事件」と同時刊行となった。

表紙はサカサマのパテマやNO.6のキャラデザをやったtoi8さんだが、落ち着いたイラストでいい感じである。
が、やはり小説としてはNEX読者とはちょっと相性が悪いのではないか。

案の定、読書メーターなんかを見ていると、「初御手洗です。ミステリじゃなかったです。がっかり」的な反応が多く、明らかに失敗している。

これは御手洗潔という探偵物語の奥深さを指し示すAnother Sideなのであって、ファンにこそ深く刺さる作品。決して初御手洗にふさわしいものではないのだ。


ここに収録された4つの短編には、どれも国を跨ぐ人と人の繋がりが描かれている。
どの物語も、読み終えた後にむしろ「自分の国」について自分が知っていたと思っていたことが幻想であったということを思い知らされる。

田舎町にある「外国」と言っていいバーを経営する女性を好きになった高校生。
小さな街ながら、学習障害があるために異邦人として生きる少年が、自分の限界を超えていこうとする時に立ちふさがる偏見。
太平洋戦争を舞台に、植民地化された朝鮮の志願兵が体験する「祖国」からの迫害。
シルクロードの交差点で大英帝国とウイグルとの間で板挟みになった知識人の悲劇。

筆者はこの短篇集で、一貫して「愛国」という言葉の危険な思考停止を描いている。
それは日常にもあり、弱者の視線を見失った時に凶器に変わることを示唆している。
自分の視線がすべてだと思い込んだ人たちの善意が、抗い得ない運命として弱者を襲うことを教えてくれている。

誰もが、今よりもいい生活を望んでいるという幻想がそのエンジンを廻している。
隣の人が自分と同じだと思い込むシステムが僕らの神経組織には、ミラーニューロンという形でインストールされているので、なかばやむを得ないことではある。
それでも、自分と違う人がいるということ、その人が望んでいることもまた自分とは違うということを想像する知性がなければ、この世界から争いは無くならない。
争いが無くなることを望む人を「お花畑」という人は、それを想像したことがないのだろう。

ミステリだと思って読んだのにそうでなかったので残念だ、という感想こそが残念だ。
この物語は、人間という知性はなぜ時に想像する力を失うのかという最大の謎について描かれたミステリの傑作なのである。

最後に聴く曲

いつものように近所の少し大きめの書店に寄り新書の新刊などをチェックしていると、平台にPenの新刊が見えた。
中島美嘉さんの表紙に「最後に聴きたい歌。」のコピー。
これは買わねばなるまい。

Pen(ペン) 2015年 3/1 号 [最後に聴きたい歌。]

CCCメディアハウス (2015-02-16)

特集の冒頭にある、ピーター・バラカン氏の「愛した歌の数だけ、人生は豊かになる。」という言葉にこの特集の真意が端的に表現されていると思う。
自分の人生の最後に聴きたい曲を考えるということは、いいことも悪いこともあったはずの人生の瞬間瞬間に想いを馳せていくことに他ならない。
ちなみにバラカン氏が選んだのはアニマルズの「朝日のない街」でした。いいですね。

誌面では、朝日のない街(We've Gotta Get Out Of This Place)の収録アルバムとして「アニマル・トラックス」が紹介されている。

アニマル・トラックス(紙ジャケット&SHM-CD)
ジ・アニマルズ
ワーナーミュージック・ジャパン (2013-12-18)
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実質アニマルズにはファーストの「アニマルズ」とこの「アニマル・トラックス」しかオリジナルアルバムはない。これは2013年にその二枚ともを愛情たっぷりにオリジナルLPの仕様ごと復元させた紙ジャケット盤で、今が絶好の購入のチャンスだと思う。

久保田利伸が選んだヒートウェイヴというバンドの「オールウェイズ・アンド・フォーエバー」という曲は聴いたことがなかった。

Too Hot to Handle
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Heatwave
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マイケル・ジャクソンの「スリラー」を書いたロッド・テンパートンはこのバンドのキーボーディストで、オールウェイズ・アンド・フォーエバー」も彼のペンによるものと聞いたが、Youtubeで聴いてみたが、僕にはちょっとピンと来なかった。

今はまだその時期が来ていないのだろう。
音楽を理解する、ということにはそういう側面がある。
吉本隆明が、この作品の素晴らしさは僕にしかわからないはずだ、という強い感銘こそが芸術の本質なのだというようなことを言っていた。
そういうことなんだろう。

JUJUさんは、自身の芸名をもらったウェイン・ショーターの「JUJU」を挙げていた。

ジュジュ
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ウェイン・ショーター
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通常最後の曲なんて言うと、ノスタルジックにさせてくれる美メロのバラードっぽい曲を想うもんだけど、この曲にはそういうセンチメンタルなところは欠片もない。
たぶんルートのコードも使ってないんじゃないかと思うような浮遊感。一瞬も聴き手を安心させない厳しい楽器同士のせめぎ合いが支配する曲。
これが、JUJUさんの音楽というものに対する基本的な姿勢なんでしょう。

各氏の選曲とも、概ねその人生の豊かさの反映になっていて素晴らしいのでぜひご覧頂きたいのですが、印象深かったファッションデザイナーのポール・スミス氏のページについて一言だけ。


ポール・スミス氏は毎朝6:00(!)にオフィスに出社すると、仕事場に置いてある3000枚のレコードコレクションからその日の気分のアナログレコードを聴くんだそうだ。
かっこいいなあ。
しかも使っている装置が、僕が小学生の時憧れて憧れて毎日カタログを眺めていたテクニクスのマットブラックに塗られたシステム・コンポじゃないか!!!





欲しかったなあ、これ。うーん、やっぱりかっこいい。
きっとこの装置からは、彼の人生がそこに凝集したような音が鳴るんだ。
他人が聞いたらちっともいい音じゃないかもしれないし、本当にすごい音なのかもしれないけど、そんなことどーでもいいんですよ。
もう文字通り、純然と自分の名前で勝負して生きてきた彼の生き方がどーんと伝わってくる。

もちろん音楽関係の知り合いも多い、彼のこと。CDを聴かないってわけにはいかないだろうけど、CDは部屋の隅に山積みなんだそうです。村上春樹さんと一緒ですね。


もちろん特集を読みながら、では自分の「最後に聴く曲」って何だろうと考えた。

僕を音楽に目覚めさせたベイ・シティ・ローラーズだろうか。
それとも自分で歌を書くことに向かわせた甲斐バンド?
その甲斐さんのラジオに教えてもらって、自分の作曲スタイルを決定づけた佐野元春かもしれない。
などと考えている間中、心の奥のどこかから、最後に聴くための自分の歌はまだ作れていないのかい?という声がずっと聞こえていた。

逃げられないものだ。
過去に書いた曲たちのリメイクをはじめてもうずいぶん経つが、あまりに昔書いた言葉が今の自分にフィットしなくて放り出しかけていたのだが、やるしかないね。

晩年、病気で記憶が曖昧になったモーリス・ラヴェルは、自分の作った「亡き王女のためのパヴァーヌ」を聴いて、「この曲は素晴らしい。誰が書いたんだ。自分もこんな曲を書きたかった」と言ったという。
そこまでのものは望まないが、僕にとっての最後の曲が、やはり自分の書いた曲でないというのも寂しいとは思うから頑張ってみる。

2015年2月3日火曜日

セプテンバー・ラプソディ:サラ・パレツキー

サラ・パレツキーのV.I.ウォーショースキー・シリーズ第16作「セプテンバー・ラプソディ」
絶好調なのである。

シリーズ最長にして、間違いなく最高傑作の登場と言いたい。


セプテンバー・ラプソディ (ハヤカワ・ミステリ文庫)
サラ パレツキー
早川書房
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不思議なことだが後半を読んでいて、なんとなくCDをバッハの無伴奏チェロにしなくては、と思った。
CDを換えると、まもなく物語の中でも同じ曲が流れ始めた。

Cello Suites
Cello Suites
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Harmonia Mundi Fr. (2007-10-09)
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この曲は、16世紀の繁栄の後、宗教的な対立がヨーロッパの歯車を狂わせていった時代に、そのような人間の欲得とは無縁のところにバッハが打ち立てた金字塔だ。


この物語にうずまく本当にいろんな形の「エゴ」と、純粋な学問への「愛」のどうしようもない交わらなさ、にその対比はよく似ている。

人間は理解し合うことが絶望的に難しいからこそ、超越したものに憧れるのだろうか。

【Anthologies #1】心に澱が積もる夜には|大貫妙子『ライブラリー』

 還暦を過ぎ、いつの間にか貪欲に新しい音楽を探すことはなくなった。 それでも、日々を生きていれば音楽に頼りたくなることはあるものだ。そんなとき聴きたくなるのは、アーティストたちの人生が垣間見える<アンソロジー>で、いくつか愛聴盤がある。 誰かの心無い言葉や、諍いに心に澱が募るよう...