2012年10月16日火曜日

アナログレコード演奏者の流儀

今年の夏にCAVIN大阪屋の高級オーディオ試聴会なるイベントに参加した時、メーカーのみなさんがアナログレコードをかけるのを見ていてとても驚いた。
イベントの合間に展示されているターンテーブルを見ると、どれもずーっと回っていて、ああ展示の時も回して雰囲気出してるんだな、なんて思っていた。
いざイベントが始まってみると最初から最後までターンテーブルは回しっぱなしで、そのまま止めずにレコードを置いたり、レコードを外したりするのだ。ふーむ、そういうものなのか、と思ったが、自分ではおっかなくて出来ない。

レンタルレコード店なんかでバイトをしてたしアナログレコードの扱いは知っているつもりでいたが、やはり何事も極めようと思えば道は長く険しいのだと知った。


ここでは私の極めて個人的なアナログレコードの流儀について書き記しておこうと思う。各方面からのご批判が予想されるが、若造の戯言とお聞き流しください。

まず、演奏前にダストカバーを外す。これはもう外してしまう。演奏するときだけ外して、邪魔にならないところに置いておいて終わったらまた戻すのだ。
閉じたままにしていても開けた状態にしても、やはりアクリル製のカバーが振動しているような気がするからだ。昔の大型機でガラス製のダストカバーをつけている機種があったが、あれならいいなあと思う。
現在発売されているほとんどの高級プレーヤーには最初からダストカバーがついていない。しかし、それも厭なのだよなあ。あの精密な機構がむき出しになっている機械が、カバーもなく日常生活の場に放置されているというのは、どうにも抵抗がある。

というわけでダストカバーは必須だが、演奏時には外す。これが私の流儀だ。

これが

演奏時こうなります。


そして、レコードを載せる。
スピンドルでレーベル面を擦ってしまって「髭」を付けないようにするのがレコードを愛する者の礼儀だ。
そしてターンテーブルの上で埃を払う。
オーディオテクニカの湿・乾両式クリーナーを使うことが多い。

AT6018

この作業をターンテーブルの上で行うことは一般にタブーとされている。で、皆さん古いターンテーブルを清掃用の台に使ったり、それ用のスペースを作ったりしていらっしゃる。
実は私もKENWOODの古い安価なプレーヤーをHARDOFFで捕獲して使っていたのだが、安価なものはターンテーブルそのものが小さく、手で押さえて固定することができず、充分なクリーニングができない。
もうそれなら、それほどの高級機でもないのだし、壊れたら壊れたで仕方ないと割りきってDENON DP-500M上で直接埃を払うことにした(スマン、500Mくん。でもどっかから出てたオーディオ入門のムックにターンテーブルを回してベルベットを当てれば楽に埃が取れるなどと書いてあったが、さすがにそれはマズイと思うぞ)。

しかし、汚れがひどいものは完全に湿式で汚れを取っておく必要があり、この盤に力がかかる作業ばかりはターンテーブルではできないのでテーブルにレコードを置いて行う。もっともこういう作業が必要なのは中古盤を買ったり、新盤でも安価なものなどは汚れていることが多いので、そういう時だけなのだが。

湿式の道具です。


さて、いよいよレコードに針を落とすが、針圧は大丈夫だろうか。
通常マニュアルに書いてある手順では、カートリッジをターンテーブルの上まで持ってきて、軽く手でアームを持って水平を保つ。ウエイト(重り)をくるくる回して手を離しても水平を保てる位置を探す。ウエイトが外に行くほどカートリッジ側が上に上がり、内に来るほど下に下る。ゆっくりと回してポイントを探れば良い。
ぴったりになったら一旦アームレストに戻して、今度は目盛りだけをまわして、ゼロに合わせる。
そして今度はウエイトの方を回せば目盛りも一緒についてくるから指定された針圧に合わせれば良い。

ちなみに私のカートリッジは2gの指定である。言っておくが、ここで好みの音質を探るためなどといって、少し重めとか少し軽め(という人はほとんどいないが)にするのはヤメておいたほうがいいと思う。
レコードには必ずいい音が入っている。そしてそれぞれの機械は適切に設計されている、と信じていないと自分に言い訳を与えるからだ。

レコードや針のコンディションは万全か。
水平はとれているか。
スピーカーの向きはズレていないか。
ユニットの固定は緩んでいないか。
ケーブルの端子は汚れていないか。
自分のやれることは山ほどあるのだ。

まずそれをやろう。何かを疑うのはそれからにしよう。


さて、針圧の設定だが、なんて面倒な、と思われただろうか。大丈夫。今はこの手順を大幅に簡略化する道具があるのだ。それが「針圧計」だ。


これは端的に言えば「精密な秤」だ。考えてみれば当たり前の話で、針圧は針がレコードにかけている重量なのだから、直接秤に載せてしまえばいいのだ。

手順は本当に簡単で、ターンテーブルの端に針圧計を置き、軽量ポイントに針をそのまま置いて、指定された針圧になるまでウェイトを回すだけだ。面倒な事は何もない。
しかし、この針圧計、中身は普通の秤で「精密秤」という製品名で売られているものはだいたい2000円くらいのものだが、これがオルトフォン・ブランドで針圧計として売られると突然1万円以上になったりするのだ。なんとなく納得はいかないが、それでもオルトフォンのが欲しいな、と思ってしまう自分が哀しい。

針圧の設定が終わったら、かけた針圧と同じだけの力をインサイドフォース・キャンセラーにかけて設定終了。


さて、めでたく良い音でレコードを聴き終わった後、大事な仕事が待っている。
レコードと針の掃除だ。これがこの一連の動作で最も大事なところだ。衣服の洗濯と同じで早ければ早いほど汚れは落としやすい。レコード盤は触ったりしていなければクリーナーでさっと埃を落とすだけでいいだろう。問題は針だ。
針は、クリーニングのためにレコード盤につけた薬液が乾いたものをこそげ取ったり、そのこそげ取った樹脂状のゴミに埃を貯めこんだりして一晩聴くとかなり汚れている。
アナログレコードの専門誌(なんてものもあるのだ)でのスタイラス・クリーニング(=針の掃除)の特集でも、かなりの紙幅を使いながら結局のところ究極のスタイラス・メンテナンスはレコードを正しくクリーニングすることである、と断言してしまっている。

しかし、現実的には針をまったく汚さないほどレコードを綺麗にするために必要な薬液は目玉が飛び出るほど高価だし、手洗いなので結構な手間がかかる。

だから僕はむしろ針を洗う。
なぜレコードクリーニングの方に重点を置くかというと、アルコールを含むクリーニング液で針を洗うと針を固定しているカンチレバーとそれを支えるダンパーが痛むからだ。
しかし、一年や二年でダメになってしまうほどの影響ではないのだ。
毎日欠かさずレコードを聴いて毎日欠かさず針をオーディオテクニカの600円のクリーニング液で洗ってた上、毎日宝石用の20倍ルーペで逐一目で確認している私が言うのだから間違いはない。
いやもちろん、一年か二年で必ず針を交換する私にしか言えないことでもあるのだが。

20Xルーペ

針を覗くとこんな感じ。


これが私のアナログレコードの流儀である。
すべての理由が合理的に帰結してDENON DP-500Mという中級プレーヤーを使うというスタイルを形作っているのを感じていただけただろうか。
そしてこの流儀に合致する商品は、かつて日本の市場のメインストリームで、パイオニア、ビクター、ケンウッドなど主要ブランドの数々の名機はどれもこのスタイルの支持者たちだった。
時が流れ再び来たアナログの小ブームの中では、選択肢がDENONのDP-1300Mk-IIとDP-500Mしかないという事態の異常さが今のオーディオ業界の裾野の狭さを窺わせてちょっと暗澹たる気分にもなるが、ともあれさすがはDENON。あなたがいなかったら僕は今頃どうしていたことか。


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