タイトルの『グラス・ハウス』は、「People
who live in glass houses should not throw
stones.」という慣用句から発想されたそうだが、この警句は、「自分が完璧でない(完全な人間などいない)なら、他人を批判すべきでない」という意味。 ビリー自身を取り巻く環境に対しての何らかの異議申し立てではないかと推察されるが、具体的な事案はわからない。
昔ボーカルスクールに通っていた頃、最初の課題曲が『オネスティ』だった。 自信たっぷりに派手な抑揚をつけて「If you search for tenderness・・・」と歌いだした僕を制して先生は、「優しさを探しているような人に向けて歌っていることを意識して」と言った。 <歌う>ということを根本的に問われた衝撃。 生涯忘れることない教訓だ。
ビリー自身も『Say Goodbye to Hollywood』がロネッツの『ビー・マイ・ベイビー』の影響下にあることに言及しているが、フィル・スペクターも自身のバンドで『Say Goodbye to Hollywood』のカバーをしている。 日本でも嘉門雄三(桑田佳祐)がカバーしており、誰もが認める名曲と思うし、事実二度もシングルカットされているが、これが不思議なほどに売れない。
Bay City Rollersに夢中だった小学生の頃、友だちの一人が「ローラーズもいいが、これもなかなかいいんだ」と、お姉さんのレコード棚で見つけたというシングルをかけてくれたのが、ビートルズの『LET IT BE』だった。 ラジオでもビートルズの曲はたびたびかかっていたから、『イエスタデイ』ぐらいは知っていた。
相変わらず高価なままのビートルズのレコードには手が出なかったが、知人からレコードが集まるようになって、その中にこの『LET IT BE』と赤盤、青盤があった。
『LET IT BE』の中では、B面トップの『I've Got A Feeling』が好きだ。 ジョンとポールが作った別々の曲を繋いで一曲に仕立てた曲は他にもあるが、後半に挿入されたジョン作の『Everybody
had a hard year』にポールの『I've Got A
Feeling』のメロディがそのまま重なっていく作為のなさに、音楽を演奏することの原初的な楽しさを感じるからだ。
その意味でも、作為によって音楽の素晴らしさを追求したフィル・スペクターの影響を剥ぎ取ろうとした『LET IT BE…Naked』の存在には相応の意味がある、と僕は思う。