2014年2月16日日曜日

レコード・バイヤーズ・ダイヤリー

レコード・バイヤーズ・ダイヤリーという本がむちゃくちゃ面白い。


皆さんは中古レコード店で売っているレコードが、どこから仕入れられているかご存知だろうか。
一般の方にも馴染みの深い、古書店は、自分たちも本を売りに行くこともあるから、中古レコード店と聞いて、それはみんなが聴かなくなったレコードを買い取って、それを販売しているのだろうと思うだろう。
もちろんそれもある。
しかしこの時代にそのような集め方で商売になるような品揃えはまず出来ない。

多くの中古レコード店では、アメリカやヨーロッパの中古レコード店に買い付けに行っているのである。
まあ、そこまでは知っていた。
しかし、その実態といえば、それこそやってみなければわからない世界でとても興味があった。

なぜなら、このブログにGirasole Recordsという名前を付けているように、僕は心の中に架空の中古レコード店を持っていて、いつもその夢の世界で遊んでいる人間だからだ。呼びたければどうぞDreamerと呼んで欲しい。
この程度のシステムでは、レコードバイヤーにはきっとなれない
DENON DP-500MにテクニカのAT-150LMX
コンパクトで飾り気のないキャビネットが気に入っている

その意味では、こんな本など読まないほうが、架空の中古レコード店を夢の中で経営するには楽しいのかも知れない。
でも一歩だけ、リアルな方向に足を進めてもいいかもな、と思いこの本を手にとった。

コレクションも現状300枚程度の微々たるもの
それでも聴ききれない。みんなどうしてるの?

この本は、レコードへの愛のみにて生きる店主が、無計画に海外で買い付けを行う際に発生するトラブルを楽しむ趣向になっているため、まず背景になる部分だけ補っておこう。


まず、レコード文化の全盛期、日本は高度経済成長期にあった。だから人は概ね一生懸命働いていて、音楽にうつつを抜かせる人はそんなに多くはなかった。
同じ頃文化の発祥の地である欧米では、レコードという複製文化が発達する前から演奏会などで音楽を楽しむ風土があった。
しかしそれはいかんせん金持ちの趣味であったから、その複製が安価に手に入るレコードの発売は、家庭が娯楽の中心であった一般市民たちにとって福音であり、市場に大量のレコードが溢れた。
レコードは、なぜか男の収集マインドをくすぐる性質がある。
世界にはジャズやクラシックのレコードを屋敷いっぱい収集するコレクターも現れた。
村上春樹の短編には、そういう(実在の)ジャズレコード・コレクターの家で留守番を頼まれる「レキシントンの幽霊」という話がある。


しかし、ディジタル技術の革新で、コンパクトディスク=CDが登場し、コレクターはレコードを保持してはいたが、彼らの子どもたちは最初からCDで音楽を聴いた。
そして時は流れ、レコードコレクターたちも老い、亡くなっていく。
海外のニュースを注意深く見ていると、著名人が亡くなって、屋敷から大量のレコードコレクションが発見され、遺族が処理に困って、どこそこのレコード店に査定させてみるとウン百万ドル分だった、みたいなニュースを見つけることができる。

一般の人たちだって多くのレコードを家に持っていた人は多いだろう。
昨今のインターネットで音楽ソフトが配信されてしまう時代になって、一気のそれらのコレクションも市場に出てきている。

そのようにして、アメリカには、ちょっと我々には想像もつかないような巨大な中古レコード店があるのだそうだ。
この本では、買い付けにとロサンゼルスに飛び、毎日毎日レコード店に通い一日300枚近いレコードを買って、日本から持ち込んだダンボールに梱包し何千枚というレコードを国際宅配便で送るという日々が綴られている。

驚いたのは、ポータブルのレコードプレーヤーを持ち込んで、勝手に試聴するんだそうで、アメリカっちゅうのはおおらかな国ですな。

なにしろアメリカの中古レコードは30円くらいのものから、だいたい100円くらいのものが多く、「アメリカでの」人気盤が2000円程度。
アメリカでは人気がなく、100円で買った盤が日本ではそのレア度から人気を博していて5000円以上で売れるというタイトルもあるのだそうだ。
そういうマジック・タイトルを知っているかどうかがこのビジネスの肝なんですね。

この著者とはまったく違うスタイルと採っている中古レコード店主も何人か知っている。
一枚10万円近くで売れる、評価の定まった盤というのがあるのだが、とにかくそれを10枚探すために出かける、というタイプの人だ。
この場合は、ドイツあたりの古くからあるレコード店との関係を構築して、日常的に自分のための良盤をキープしておいてもらうことがキーになる。

しかしまあ、一回に300枚のレコード持って、レジに並ぶってのも大変だろうなあ、と思う次第で、しかし、10万円のレコードしか売ってない店ってのも僕の趣味じゃないな、と思ったりもするわけで、やはり中古レコード店の経営は妄想の中に置いておいたほうがいいのかな、というのが正直なところです。

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